キリト・イン・ビーストテイマー R-18.ver 作:クジュラ・レイ
ごってりキリシノ。
□□□
「今日は良かったか、詩乃」
「うん。最高だった」
詩乃はいつもの通り道を抜けて、マンションの自分の部屋へと戻ってきていた。すぐ隣には和人の姿もあり、二人一緒になってドアを開けて部屋に転がり込む。
照明を点灯させて部屋に明かりを取り戻し、壁に掛けられている時計を見てみれば、針は午後九時を過ぎているのが見えた。
いつもはこんな時間まで外出している事などないから、今日は本当に特別な一日だったと言えるだろう。
いや、本当に今日は特別であり、素晴らしい一日だった。
和人と一緒にバイクでのドライブに出かけ、海沿いの公園に行ったというのは、詩乃にとって和人とのデートといういつもどおりのものだった。そしていつもどおり和人と一緒に昼食と夕食を済ませて戻ってくる。帰り道で詩乃はそう思いながら和人に掴まっていた。
けれど、その後が違った。用事があると言って和人がとある場所に連れて行ってくれたのだが、そこはエギルの経営する店だったのだ。
半信半疑で入ってみたところ、集まっていたのはVRMMOを共に楽しんでいる仲間達と友人達の姿があった。更に店の中にはたくさんの料理が所狭しと並べられており、如何にもパーティーを開催しようとしているように見えた。
こんな場所で一体何事かと思ってきょとんとする詩乃がやってきて間もなく、仲間達は一斉に歌を歌い始め、言ったのだ。
「詩乃、誕生日おめでとう」と。
エギルの店で仲間達が開催したのは、詩乃の誕生日パーティだった。あの事件があってからというもの、詩乃は忘却の彼方に追いやっていたが、その時ようやく思い出したのだ。詩乃は自身の誕生日が八月二十一日であった事を。
前日、詩乃は仲間達の前で醜態を晒してしまっていた。仲間達に見放されたとばかり思っていた。そのはずの仲間達と友人達が、自身の誕生日を祝ってくれている。
こんな事を予想できるはずがなく、詩乃は集う友人達と仲間達の姿と笑顔を目に居れるなり、泣きっぱなしになってしまった。
明日奈が代表して渡して来てくれた、色とりどりの光を放つプリズムのペンダントを受け取ってからも、中々涙を止める事が出来なかった。詩乃は結局泣きながら笑い、友人と仲間達と一緒に、何年ぶりになっているかわからない誕生日祝いの食事を楽しんだ。
出されていた料理のうちのほとんどが宅配のピザや、近くのファミリーレストランから
しかし、それでも詩乃は嬉しくてたまらなく、どんな料理もいつも以上に美味しく感じられた。きっと友人達と仲間達が祝ってくれている事のおかげだったのだろう。
男達も詩乃の誕生日という事で自重したらしく、酒を一切呑まず、誰もが最後まで
明日からまたよろしくね――友人達全員がそう言って手を振って去っていき、最後に詩乃が和人のバイクに跨り、その背中に掴まって店を後にし、他のSAO生還者達が住んでいるマンションの自室へ戻ってきたのだった。
「今日……まさか皆がお祝いしてくれるなんて……」
「決定したのは昨日だったからな。皆で色々急拵えだったんだぜ、本当に」
「私、自分の誕生日の事なんかすっかり忘れてた。皆が言ってくれなきゃ、思い出す事も出来なかったかもしれない」
いつも使っているベッドに腰を掛けて、詩乃は和人に目を向ける。和人は既に詩乃の右隣に座っている。
「あなたもよく隠し通してくれたものね。私に隠し事はしないって決めてたくせに」
「愛莉先生が「詩乃は
和人は少し申し訳なさそうな顔をしていた。以前から和人は詩乃には隠し事はしないと約束していた。その約束を破るという形になってしまっていたから、和人にとっても難しいところだったのだろう。詩乃もまた、胸の内に申し訳なさを感じていた。
「けれど、無事にパーティーを開催出来て……君の誕生日を祝えて本当に良かったよ。それでさ、詩乃」
「うん?」
詩乃が軽く首を傾げるなり、和人はベッドから立ち上がって、テーブルの近くに置かれているバッグの中身を漁り出した。何を探しているのだろう――ますます詩乃が首を傾げると、和人は「あった」と言ってバッグの中から何かを取り出し、詩乃の許へと歩み寄った。
和人の手に持たれていたのは、掌から少しはみ出るくらいの大きさで、白いリボンの装飾がされている、目に優しい緑色をした小箱だった。如何にも大切なものが入っているようにも見え、詩乃は一瞬だけ胸が高鳴ったのを感じ取る。
「それは?」
「皆とは別の、俺からの君への誕生日プレゼントだよ。受け取ってくれ」
和人もまたプレゼントを用意してくれていた――?
一瞬だけ詩乃は驚き、少しだけ恐る恐るしながら和人の掌に乗っている小箱を受け取った。それほど重いと思えるようなものではなかったが、どこかで感じた事のある重さでもある。確かなものが中に入っているのがわかった。
「……和人、これ」
「開けてみてくれ」
もう一度和人に頷いてから、詩乃は掌に乗っている小箱を開けた。薄緑色の小箱の上箱を取り外して中に、箱に守られるようにして入っていたのは――。
「これ……」
思わず詩乃は箱から和人の右手に目をやった。
そこにあるものは、植物を彷彿とさせる模様が刻み込まれた白銀色の腕輪。元々は詩乃の父が生前に詩乃に贈ったものであり、廻り巡って和人のお守りとなったものだ。
そのお守りとほとんど同じ大きさの白銀色の腕輪が、箱の中に入っていた。
「お守りと、同じ……?」
「ううん、同じものじゃないんだよ。よく見てごらん」
言われるまま詩乃は腕輪を手に取る。腕輪の色合いは和人の着けているものと同じように見えるが、模様は植物のようだけれども和人の腕輪とはまた違う形であった。
何より、丁度中心位置に黄緑色の小さな宝玉が
宝玉は光を浴びて、まるで昼間の太陽を思わせるように煌めいており、そこから詩乃は目を離す事が出来なかった。さぞかし綺麗になるように研磨を繰り返された宝石であろう。
「綺麗……この宝石みたいなのって、確か」
「ペリドットだよ。八月の誕生石。君の誕生石入りのブレスレットなんだけど……どうかな」
やっぱりそうか。詩乃はそう思った。
ルビー、サファイア、オパールなどは誕生月に対応する誕生石とされている事があり、自身の場合はこのペリドットが該当している。和人のプレゼントはなかなか的を得たものだと言えるだろう。
「けれど、どうしてブレスレットなの。私があなたにお守りをあげたから?」
和人は頷き、そっと掌の上のブレスレットを手に取り、詩乃の右手に填めさせた。大きさは大きすぎずきつすぎずの丁度いいものであり、和人に贈ったブレスレットが填まっている時と変わりがないように見える。まるで和人に贈ったお守りが戻って来たかのようだ。
「君がお守りとして使ってたのを、俺がもらっちゃったからな。だから、今度は俺から君にお守りをあげたかったんだよ。それにペリドットって、詩乃にプレゼントするのにちょうどいいって思ってたんだよ」
ペリドットは別名太陽の石と言われ、明るさと希望、安らぎを所有者に与えるという伝承が存在している。普段からマイナス感情に囚われやすい人がつけるにはこれ以上ないくらいに丁度良いからこそ、俺は君にこれを贈ったんだよ。それが和人からの説明だった。
話の終わりに差し掛かった頃だろうか、詩乃はすっかり右手に填まっているブレスレットの、中心に填め込まれたペリドットの宝玉から目を離す事が出来なくなった。
照明の光を浴びて、本当に太陽のように輝いているペリドットの煌めきを見ていると、胸の中に不思議な安堵間のようなものが込み上げてくる。皆がくれたプリズムのペンダントの光もそうだったが、こちらも負け時劣らずの力を有しているような気がしてならなかった。
それが和人からの贈り物であり、お守りを贈った和人から送られてきたお守りであるというのが、詩乃は嬉しくてたまらなく、喜びが胸の奥から突き上げてくるのをしっかりと感じていた。
あまりに喜びが大きすぎて涙が出てきそうだったが、ひとまずそれは堪えるようにして、和人に返事をする。
「今日、デートしてたのに……いつの間にこんなのを買ってたの」
「ショッピングモールに寄った時だったかな、その時にアクセサリーの店で買ったんだよ」
確かに今日、和人とのデートでショッピングモールに寄り、和人の提案で一度別行動をしていた。その時詩乃の方は本屋の方へ向かっており、たまたま目についた手ごろな本を立ち読みしていたが、その中でも和人の事は気にはしていた。
和人はあの時何をしていたのだろう。今の今までそう思っていたけれど、それがまさか、自身の誕生日プレゼントを買いに行っていたというのは、詩乃は全然想像できていなかった。
「あの時……そうだったのね。あなたらしいと言えば、あなたらしい」
「けど、それは本当にめぐり合わせのいい品物だったみたいだぞ。俺が買ったので最後みたいだったからな。もうちょっと遅れてたら、手に入れられなかったかもしれない」
もしそうだったならば、和人は遅れて誕生日プレゼントを渡していたのだろう。その時の事も想像できて、詩乃は思わず笑いそうになったが、同時に今日という日がもっと嬉しくなった。
皆も自身の誕生日を祝ってくれて、和人も昨日知ったばかりなのに色々良くしてくれて、誕生日プレゼントまでわざわざ送ってくれた。きっと今日は、これまで生きてきた中で最高の誕生日だと言える。
最早この日そのものが、皆から詩乃へ贈られてきた誕生日プレゼントだと、詩乃は思っていた。その誕生日の最後のプレゼントを贈ってきたのが、眼前にいる和人。
詩乃は全身の力を抜き去ると、そのままゆっくりと身体を動かし、和人に体重を預けるようにする。和人は
「……ありがとう、和人。私、今日を忘れる事が出来なさそう」
「あぁ。なんていったって、詩乃が忘れられない誕生日にしようっていう企画だったからな。無事に君に与えられて、俺も良かったよ……」
和人の腕が背中に廻ってくるのと同時に、詩乃は深呼吸をする。和人の身体だけにある不思議で温かい匂いが鼻に流れ込んできて、そのまま胸の中へ、心へと流れ込んでくる。流れてきた匂いは心の中で安らぎに代わり、溜まっていた不純物のような感情を浄化してくれた。
だが、今の詩乃にとってはそれだけでは足りなかった。SAOでも、ALOでも既に体験している感情が胸の中にある。目の前にいる彼がもっと欲しいという感情。もっともっと彼の事を感じたいという気持ちだ。
これまでは仮想世界でしか発生してこなかったけれど、今詩乃の胸の中には確かにある。ついに現実世界に居る時にまで出てくるようになったらしい。そして、消そうとしても消えていく気配がなかった。
「……和人」
「うん?」
和人の返事を耳に入れると、気持ちはより強いものとなった。やはり自分は求めている。和人だけが持つ暖かさ、今まで仮想世界でのみしてきた事を、求めているのだ。
少し口に出すのも
「……あなたは今日、私の誕生日をここまでのものにしてくれた。私にこんなに素敵な誕生日プレゼントをくれた。けど……まだ、足りないの」
「足りないって? まだ欲しいものがあるとか」
「……そうじゃないの。その、したい。あなたと、ここでしたいの」
一瞬にして顔が熱くなったのを詩乃は感じた。きっと鏡を見れば顔が赤くなってしまっている事だろう。自分は今、かなり恥ずかしい頼みごとを和人にしているのは間違いない。きっと和人も急なお願いをされて驚き、恥ずかしがっているのだろう。
和人から答えが来たのは、詩乃が言ってから十数秒後だった。
「……詩乃、もしかして……
「……そう。私達、
和人とはSAOの時、ALOの時に交わっていた。それがある種の日常の一部のようにもなってきているし、仮想世界での楽しみの一つのように感じられつつもある。しかしそれはあくまで仮想世界での出来事であり、現実世界では一度も和人と交わった事がない。
だからこそ今日をその最初の日にしてしまいたい――詩乃は自身の持つ願いを和人にしかと話した。
しかしどうした事か、詩乃が伝え終えて顔を上げた時、和人の顔はかなり険しいものとなっていた。とても重要な出来事を前にした時のような様子だから、目にした詩乃は思わずきょとんとしてしまった。
「……和人――」
「詩乃は」
「え」
「詩乃は、俺として……出されたいのか」
詩乃は首を傾げる。言っている意味はわかるが、その内容を承諾しているというのを、今和人に伝えたばかりだ。上手く伝わらなかったのだろうか。
「そう、よ。あなたとしたい。あなたのを……お腹に……」
「そうなったら何が起こるか、わかるよな」
「?」
和人の問いかけに応じるように、詩乃は少しだけ思考を巡らせる。和人の持つモノを自身の腹に受けた時に出来るもの。和人の
そして、そうなった場合の対処方法を知らない詩乃ではない。準備せずにできてしまったその時は――。
「勿論わかるわよ。けれどそうなったら、よくある中絶手術とかで
最後まで言うよりも先に、右手を掴まれるような感覚が走った。軽く驚きながら見てみれば、和人の腕輪の填まった右手が、同じく腕輪の填められた詩乃の右手首をがしりと掴んでいた。
和人――? 詩乃がもう一度声をかけようとしたそこで、和人は首を横に振った。
「俺も……そう思ってた部分があったんだ。けれど……その意味がわかったんだ」
「え?」
和人は詩乃の手を掴んだまま少し俯きながら、話し始めた。
◇◇◇
昨日から練り続けていた計画の成功を喜び、そして詩乃がパーティーを嬉しく思ってくれたというのを理解した者達によって、普段騒々しくはないであろう小さなカフェの中は喧騒に満ちていた。
やかましいとまではいかないけれども、かなりの音量に思える声を作り出しているのは主にここに集う女の子達で、その中に俺がここまで連れてきたパーティーの主役も混ざって、食事と会話と楽しそうにしている。
騒いでいるのは男達もそうで、女の子達から少しだけ離れたところで同じように会話と食事を楽しんでいるのだが、その中には普段カウンター席の向こうにいなければならないはずの、店のマスターであるエギルまでいる。
かつてSAOで苦楽を共にし、ALOでもまた苦楽を共にする事なった仲間達、友人達、家族。それらが集っている様子を、俺はマスターが席を外したカウンター席に腰を掛けながら見ていた。
今日この日、八月二十一日が、俺の恋人であり事実上もう家族の一人である詩乃の誕生日であるというのがわかったのは昨日だ。
けれど、昨日の時点で既にそれを祝わずにはいられない状況に立たされた俺達は、これまでにないくらいの急ピッチでパーティーを企画し、学芸会前夜と言わんばかりのてんやわんやで準備を進めた。
その結果がこの大成功だ。皆が喜ぶのもわかるし、何より詩乃が泣きながら笑んでくれている。俺達の伝えたかった事はちゃんと詩乃に伝わった。皆の様子を見ていると、そんな気がしてならなかった。
「和人君」
カフェ内の光景に見とれるようになっていたから、喧騒の中でもはっきりとわかる声が耳に届いてきたのには驚くしかなかった。これまで何回も聞いていて、昨日も聞いて話をした女性の声だ。直後に隣から椅子が動くような音がする。
向き直ってみたところ、白衣に似たコートのような服を着こなしていて、服の上からわかるくらいに大きめの胸を持っているのが特徴的な、黒髪の女性が俺の右隣に座っていた。
「愛莉先生」
女性はふふんと言って笑む。今日のために頑張って準備をしてくれた仲間の一人であり、詩乃の恩師である芹澤愛莉という女性。
話によればほぼ徹夜通しで来たそうだが、この話は本当であるというのを裏付けするように、普段は艶々しているその黒髪は若干ぼさぼさになっていた。
「和人君、お疲れ様。ここまで詩乃に気付かれないように来るのは大変だったろう」
「愛莉先生こそお疲れ様です。今日に間に合わせるために、ほぼ徹夜でユイとストレアを改造してくれて」
「なぁに、あんなのはどうって事ないよ。アーガスに勤めてた時なんか、ほぼ徹夜通しでプログラムを組むのなんか珍しくなかったからね。このくらいは慣れっこさ」
確かにアーガスほどの大企業でゲームを作る場合、それくらいの事はあったのだろう。しかし、最近は精神科医に転職した後でのAI研究者の復職だから、徹夜通しはきついものがあったに違いない。この人も随分と今日の事で疲れたはずだ。だが、苦笑いする俺を置いていくように愛莉は言った。
「それよりも和人君、君に訊きたい事があるんだけれど」
「はい?」
「君の事だから、今日は詩乃の家に泊まったりしているんじゃないかな」
俺は思わず背筋をびくりとさせてしまった。やはり詩乃との付き合いが俺よりも長いからか、愛莉は詩乃と俺の状況をぴたりと当ててきている。予想が当たった事を嬉しそうに、愛莉は少しだけその顔に笑みを浮かべた。
「その反応からするに、今の私の予想は当たったようだね」
「……はい。俺、今日から明後日まで詩乃の部屋に泊まってます。よくわかりましたね」
「君は来る時にバイクを使っていたし、何より昨日の詩乃があの様子だったからね。真っ先に君の傍に居たいと思ったんじゃないかと予想できたんだ。今日もデート帰りだろう?」
ぎこちなく頷くしか出来ない。愛莉はふむふむと言ってから、言葉を続ける。
「ならいいんだよ。ここに来るまでに君達に何かあったんじゃないかって、少し心配だったんだ。けれど、その様子なら
「え?」
「君と詩乃のお泊りデートは今日帰ってからも続くと思うけれど……聞こう和人君。もし今日の夜辺りに詩乃から頼まれたら、君はどうする」
少し意味が分からなかった。俺の様子が察する事が出来たのか、愛莉は少し俺の耳元に近寄り、小声で伝えてきた。
「君は、詩乃から性行為を頼まれたら、どうするつもりなんだい」
「なッ……」
思わず驚いて周りを見渡す。仲間達と女の子達は仲良く話して喧騒を起こしており、俺達の声を聞き取れていないどころか、気に留める事もしていないようだった。
「何を言い出すんですか、愛莉先生」
「君達は既にSAOでもALOでも結構やってるだろう。けど、君達が現実でやったという話はしてないじゃないか。その時が今日になりそうな気がしてたんだよ」
確かに、俺と詩乃は性行為を成し遂げている。それも結構な回数だ。だが、あくまで性行為をするのは仮想世界の中だけであり、現実世界ではしていない状態だった。
「君は詩乃からの頼みをあまり断らないし、性行為だっていつも彼女の方からアプローチしてきてるものだっただろう。そのアプローチを君が受け入れ、性行為に及んでいる。そうだろう」
「なんでわかるんですか」
「君より彼女の事を診ているからね。あの娘が君をどう思っているかも、君の事がどれ程好きなのか、よくわかっているつもりだよ。
あの娘は君の事が好きだ。誰よりも君の事が好きだからこそ、あの娘は君を求め、積極的に君と交わろうとする。精神的に辛くなった時とかは、特にその傾向が強くなる。君はいつも彼女からのアプローチに応える一方じゃなかったかな」
図星だった。確かに詩乃とする時は、いつも詩乃の方から頼んできて、俺がそれに応じる形だった。俺から詩乃に頼み込んだ事はなかったのかもしれない。
……いや、なかった。
「そのとおり、です」
「そうだろう。そして今、詩乃はまた君の事を求めている。君とのデートを楽しんでいたんだろうし、泊ってとさえ頼んだ。夜に二人きりになれば、きっとアプローチしようと思うはずだ」
詩乃は昨日の事もあって、精神的に脆い状態だった。彼女が俺としたがる時は辛い思いをした後だとか、精神的にきつかった時の後などが多かった。愛莉の言っているように、もしかしたら今日、詩乃が言い出すかもしれない。
そもそも詩乃はいつも仮想世界でばかりしているから、そろそろ現実でもしたいと考えていたのかもしれないのだ。
「彼女の事なら……多分……しようって言うかもしれません」
「そうだろう。彼女は君への欲がかなり強い。だから今夜君の事を求めたとしても不思議ではないんだ。だから……私は事前にこれを君に渡しておこう。バッグに入れておきなさい」
そう言って愛莉は肩から下げているバッグを開いて、中身を取り出した。丁度掌に乗るくらいの大きさの箱だったが、そこに書かれているものを見て声を上げそうになる。
愛莉が取り出してきたのは、
突然登場してきた、あまり公共の場で出していいようなものじゃないものを俺は隠そうとして、そのまま自身のバッグの中に詰め込んだ。
「愛莉先生、これって」
「見ての通りコンドームだよ。詩乃の気持ちに応えるつもりでいるなら、それをしっかり付けたうえで及びなさいな」
「なんでこんなものを……」
「こんなもの?」
その時愛莉の目つきが少し鋭くなったように見えた。その赤茶色の光に険しい光が宿る。
「……和人君。結局詩乃なんだよ。そして結局君なんだよ。全部ね」
「え?」
「君達が仮想世界でやってる事は、本来は生殖活動なんだよ。それがたまたま快感や快楽を
その言葉に俺はハッとする。意識がこれ以上ないくらいに
「君が詩乃の中で出せば、詩乃の中で受精が起こり……詩乃は妊娠するんだ。君との子供をその身体に宿すのさ」
頭の中に一つの映像が起こる。泡が浮かぶ白い空間に一つの球体が浮かんでおり、それはやがて格子状に形を変えていき、大きさと形を変化させ――一般的に胎児と言われるものになっていく。受精卵が人になっていく工程だった。
「……けれど考えてみて。あなたはあの娘を
俺は愛莉から視線をそらした。詩乃とも話し合っている将来の話。ユイとストレアの弟や妹に当たる子供を作るという話。それはまだ構想や将来図の段階であり、今すぐ求めているものではない。
何より、今できてしまったら、どうすればいいかなど想像も付かなかった。
「ないよね。けれどあなた達が一時の快楽だけを求めれば、そうなってしまうのよ。それでどうにもならなくなったら、妊娠中絶手術をする。堕胎をする。これが一般的に取られる措置だけど、その意味があなたはわかる?」
「……」
「妊娠中絶手術をして、堕胎するっていうのはね、生まれてくるはずの子供の命を奪う事と同じ。あなた達の間に出来た子供に対してそうするなら……あなた達は自分の子供を殺すのよ。詩乃のお腹を
生まれ来る子供を殺す。
そう聞いた途端、俺の意識は更に醒めた。血流が止まったように身体中が冷えてきて、指先に震えが生じる。
もし詩乃が孕んでしまった時には、妊娠中絶手術をするのだろうか――これは前から考えていたが、その意味については全然考えていなかった。
そうだ。妊娠中絶手術はその名の通り、妊娠を中断する。妊娠が中断されれば、胎児は死亡する。俺達の場合ならば、俺と詩乃の間に出来て、ユイとストレアの妹か弟になるはずの子供がその命を……妊娠中絶を認めた俺達によって奪われるのだ。
俺達が、自らの手で出来た愛しいはずの子供を、自らの手で殺す。
そんな事になれば、ユイとストレアが、何より詩乃がどんな思いをするかなんて、容易に想像が付いた。
「……」
「そうよ和人君。あなたが詩乃の中に出せば、結局そうなってしまうの。あの娘が望まない妊娠をして、産んで育てられないなら、あの娘はもう一度人を殺した事になってしまう。だから詩乃に何を言われたとしても、拒みなさい。
結局女性を孕ませるのは男性で、あなたは女性を孕ませる側だからこそ、この話をしたのよ。だからね和人君、詩乃に頼まれても絶対に拒否して……間違っても彼女の中に出さないようにしなさい」
俺は頷き、自分のバッグの中に意識をやった。同時に愛莉の伝えてきた事を改めて確認する。俺達は確かに性行為をしてきたが、その本来の意味まで理解していなかった。
仮想世界には妊娠なんてシステムはないから大丈夫だ。けれど現実世界には、仮想世界にはないうえに回避する事が出来ないシステムが存在している。そのシステムを発動させてしまうのは、何も対策しなかった場合の俺。
もし俺が言われるまま詩乃とやれば、その時詩乃にもう一度、いらぬ罪を被せる事となるのだろう。そんな事が、あっていいはずない。
「……わかり、ました。その時が来たら……」
「詩乃と、ちゃんと話をなさい。いいわね」
俺はもう一度頷き、カフェ内に目を向けた。俺達の声が掻き消されるくらいの喧騒の中で、詩乃は友人達と楽しそうにしていた。
□□□
和人の話は終わった時、詩乃は瞬きを繰り返すくらいしか出来なくなっていた。和人は胸の中に溜まっていた重いものを吐き出してもなお、それを残してしまっているような表情をしている。
「……そういう話を、愛莉先生からされてたんだよ。結局君に子供を妊娠させるのも俺だから……中絶とかで苦しい思いを君にさせるのも、俺だから……」
和人の話が途中から耳に入らなくなっていた。
脳裏に目の前の光景とは違う映像が流れて、視線を上書きしている。
何もない真っ暗な空間だ。その中に詩乃はいる。何も着ていない詩乃と――詩乃から少し離れた位置に、赤子が横たわっていた。
赤子の傍には剣が置かれており、詩乃の腹の奥底と赤子の
詩乃が赤子の存在に気付いて動き出した時だ。赤子の傍に置かれている場違いな剣がゆらりと浮き上がる。使用者が居ないはずなのに、剣は独りでに動いて宙を浮き――その穂先を真っ直ぐ赤子へ向けた。
声を出そうとしても出ず、上手く動く事さえ出来なかった。顔の見えない赤子は床に寝転がったまま動こうとしない。宙を浮く剣はしっかりと赤子に狙いを定める。
身体が震えてくる。まるで激甚な拒否反応を示しているかのようだ。そんな事をしている場合ではないのに、身体が震えて動かないうえに、声も上手く出せない。剣の穂先は赤子へ向けられ続けている。
剣は一瞬ひゅんと上へ上がった。そして勢いをつけて、赤子へ降った瞬間――
「だめえぇぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ」
「――――詩乃ッ」
ようやく叫んだその時、いきなり身体が前に引っ張られるような感覚がしたのと共に、耳元にすさまじい音量の叫び声が聞こえてきた。
居場所が元の場所に戻り、赤子も剣もなくなっている。自身の顔の下半分が和人の肩口に埋められ、身体が和人に抱きすくめられている事に気付いたところで、詩乃は我に返った。
「詩乃、落ち着いてくれ。大丈夫だよ……大丈夫だ……」
「あ……ぅ……」
か細い声を喉から漏らすと、和人の暖かい手が後頭部に添えられてきた。そのまま、ゆったりと優しい手つきで詩乃の髪を撫でてくる。荒々しかった呼吸が元に戻ってくると、詩乃はそのまま和人の胸の中に
間もなく、抑えが取れてしまったようにとめどなく涙が溢れてきた。
「いや……いやよ……そんなの……そんな事……いやだよ……」
「……ッ」
和人に髪を撫でられ、その心音を聞きながら、詩乃は首を何度も横に振った。
「だって……だってその子は……私と和人の子供……ユイの、妹か弟なの……なのに……その子の命を奪うなんて……その子を殺すなんて……できない……いやだ……よぉ……」
子供のように訴えかけながら、詩乃は首を横に振り、顔を和人の肩口に擦り付ける。その詩乃を落ち着かせるように、和人の手は詩乃を撫で続けてくれた。
「……そうだよ……俺も嫌だよ。そんな事になるなんて絶対に嫌だ。まだ子供を受け入れる覚悟も決意も出来てないんだよ。……ごめん」
詩乃は何も言い返さず、和人の胸からの鼓動の音を聞く事に集中した。何度も聞いている和人の心音が耳から身体へ流れ込んでいき、パニックに近しい衝動と恐怖感を無くしていってくれた。
それからどれくらいたった頃だろう。詩乃は和人と調子を合わせたように理性を取り戻しており、和人の胸から離れる事が出来た。
「……落ち着いたか」
「落ち着いた……ありがとう、和人」
詩乃は頷いた。しかしどうしてか、胸の中にある和人を求める気持ちの強さは増していた。落ち着かせてくれる温もりが、欲しくてたまらない。和人の事が欲しくてたまらなかった。
「けれど和人……私、やっぱり……」
「したいなら、俺はコンドームを付けてする。……それでいいか」
「……うん」
詩乃は頷いた後に、和人の唇へ自身の唇を重ね合わせた。
□□□
宥められた詩乃と唇を合わせると、すぐさま詩乃の唇が割れて舌が口の中へ入ってきた。仮想世界でやっている時と同様に迎え入れてやると、仮想世界では感じられなかった匂いと、不思議な暖かさが口の中で溢れてきた。
これが現実世界の詩乃の舌なのか。縦横無尽と言わんばかりに動き回ってくる詩乃の舌に応じるよう、和人もまた自身の舌を絡ませてやる。
「んっ、んぅっ、んんっ……」
互いの唾液が互いの口の中で混ざり合い、ぴちゃぴちゃという音と一緒に、詩乃の喘ぎに似た声が届いてくる。段々と詩乃の息に熱が混じり、舌と唾液もまた暖かくなっていく。
ある程度舌と唾液を味わってから離すと、詩乃は「ぷあは」と大きく息を吐いた。
仮想世界よりも長めにやっていたつもりはないが、やはり現実世界でするのが初めてであるためか、仮想世界の慣れが通じなかったのかもしれない。詩乃は少し息苦しそうにしながら顔をとろんとさせていた。その表情だけでも、和人の胸の中で高鳴るものがあった。
「かず……と……」
「詩乃、平気?」
「ちょっと、苦しかった……けど……全然平気……」
既に詩乃の両肩に手を置いていた和人は、ゆっくりと体重をかけて詩乃と共にベッドへ倒れ込んだ。仮想世界でする時と同様に、詩乃の身体に覆いかぶさるようになると、互いに目が合った。詩乃の黒色の瞳の中に自身が映し出されると、詩乃は苦笑いに似た顔をした。
「そういえば……全部手動で脱がなくちゃいけないわね」
「そうだな。
「だから……一緒に……」
一緒に肌を出させてほしい。詩乃の思いをくみ取った和人は、詩乃の上着に手を伸ばして捲り上げていく。同時に詩乃が両腕を上げて、首を服に通して脱いだ。
詩乃の下着は典型的なブラジャーではなく、黒い女性用タンクトップで、スポーツブラともいわれるものだった。きっと普段から着けているのだろう、随分と着慣れているように見える。
詩乃の上半身が下着だけになると、和人もまた着ている服を中の下着ごと捲り上げて脱ぎ、上半身裸になった。更に続けてズボンを脱ぎながら、詩乃の履いているズボンもまた下ろしていく。会話をほとんど交えずにやったためか、二人は瞬く間に下着を見せ合うようになった。
仮想世界では何度も見てきた詩乃の身体、その現実世界での形は仮想世界で見るものとほとんど同じくらいの身体つきで、贅肉などの余計なものが一切ない。まるで丹寧に磨き上げられた美術品のように美しかった。
その姿をまじまじと見つめていると、和人は自身の鼓動がどんどん大きくなってくるのを感じた。仮想世界で体験済みで、仮想世界でやった時の事を含めれば十回目くらいなのに、最初の時のような緊張感が胸の中に募っている。
詩乃もそうだったようで、これから起こる事にどきどきしているような顔をしていた。
きっと言葉を出すのも難しいのかもしれない――そう思いながら見つめていたその時、詩乃の口は開かれた。
「和人……緊張、してる?」
「緊張するよ。だってここは、いつもの仮想世界じゃない。これから仮想じゃない君と……するんだから……」
そう言うと、わずかに自分の身体が震えている事に和人は気付いた。これから接するのは現実世界の詩乃。仮想世界と違って、やり方を間違えれば本当に傷がつき、痛む。もしかしたら彼女に余計な痛みを与えてしまうかもしれないのだ。その思いが鎖のようになって、身体を縛り付けてきているようだった。
しかし直後、震える和人の頬にゆっくりと詩乃が手を伸ばし、当てた。
「大丈夫よ。あなたは優しいから……それに私だって、そんな簡単に傷付いたりしないから……だから、して……?」
いつものように優しげな声色で囁きかけられたその時に、和人を縛る鎖は解かれた。頬に当てられている詩乃の手の上に自身の手を重ね、伝わってくる温もりを身体の中に流しいれながら、
「……わかった」
そう言って頷き、和人は改めて詩乃の身体に近付いた。雪像に触るような手つきでゆっくりと詩乃の腹の辺りに手を添え、そのままゆっくりと上へ上げていく。
やがてその手を、詩乃の乳房の上に乗せた。下着の上からでもわかるくらいの柔らかいその質感は、仮想世界のものとは全く違う心地よさを感じさせた。
やはり仮想世界でのものは仮想のものでしかなく、現実のものとは遠いらしい。そして詩乃も、まだ下着の上からだというのに、既に甘さのある声を小さく出していた。
仮想世界でもそうだったけれど、現実世界の詩乃はもっと乳房周辺が感じやすいらしい。
「詩乃、大丈夫」
「だいじょ、ぶ……続けて」
一度詩乃の赤くなりつつある顔を見てから、いよいよ和人は詩乃の乳房を包むタンクトップを捲り上げ、上着の時と同じように脱がせた。
和人はごくりと唾を飲み込んだ。タンクトップに隠されていたのは、仮想世界でしか見た事の無かった詩乃の乳房だ。大きさは一般的に大きいと言えるものではなく、寧ろ小さいと言えるくらいだろうけれども、綺麗に整えられているように形が良い。
そしてその中央には、肌色にほんの少しだけ赤色を混ぜたような色合いの乳首が主張している。タンクトップを取る際に擦れてしまったのか、既に硬さを帯びているように見えていた。
男性ならば誰もが見とれてしまうその光景に和人も見とれてしまっていると、詩乃がぎこちなさそうに腰元に延ばした手でシーツを掴んだ。顔にはどこか恥ずかしそうな表情が浮かんでいる。
「やっぱり……大きく、ないでしょ……私の胸……」
「いや、十分だよ。すごく綺麗だ」
「綺麗?」
「うん。詩乃は全部綺麗なんだよ。現実でも、
耳元で囁くように言ってから、和人は
力の入れ方を間違えれば痛みを与えてしまう。和人は意識を少しだけ集中させ、詩乃を傷付けないように、痛みを感じさせないようにゆっくりと乳房を揉み込む。
これがうまい具合に伝わったのか、揉み込む度に詩乃はぴくぴくと反応を示した。
「ん……は……ぁ……」
詩乃の反応を
「ひゃっ、あぁっ」
「詩乃、ここ……」
「いい、よ。つづけ、て」
了解を得た和人は、詩乃の乳首の愛撫を始める。指先でくりくりと軽く弄繰り回し、時に押し込んだり、乳頭を摘まんだりして、きゅうと引っ張ってみたりすると、どんどん詩乃の乳首が硬さと弾力を帯びていき、ほとんど絶えず詩乃から声が漏れる。
「あぅ、ひぅっ、あぁっ、いぁ、ゃあ」
仮想世界で聞いているよりも胸を高鳴らせる、甘い詩乃の声。まだ本当の性器を刺激しているわけでもないのに、乳首の時点でかなりの声を上げている。
もっとこの声を聞きたい。欲求に駆られるまま和人は両手を詩乃の両方の乳首に使い始め、やがて右乳首の方を口に含んだ。
「ひゃああんぅッ」
その瞬間、勢いよく詩乃の身体が弾んだ。仮想世界でも思っていたけれども、詩乃は乳首が一番の性感帯となっているらしい。仮想世界では回数を重ねているけれども、現実世界ではまだだから、一際快感も強いのだろう。
その気持ちに悪戯するように、和人は口の中で詩乃の乳首を刺激する。舌先でころころと転がして唾液で包んでやって、力加減を変えながら乳頭を吸い上げたりすると、詩乃の身体は強く弾み、声が激しく漏らされる。
「ひゃあっ、やぁぁっ、んぅあ、んんぅッ」
良かった、大分感じてくれている。胸に一種の安堵を抱きながら詩乃の乳首を口に入れていると、和人はある事に気が付いた。
先程から、甘い。別に詩乃は妊娠していないから、母乳が出るわけでもないのだけれど、詩乃の乳首を口に入れていると不思議な甘さを感じる。詩乃自身が持っているものなのか、あるいは詩乃の身体が持つ匂いが由来のものなのか。
いずれにしても、この甘さのせいで和人は中々詩乃の乳首から口を離す事が出来なかった。
「かず、とっ、そこばっかり、だめ、ぇ」
詩乃から頼まれても受け入れる気にならず、和人は詩乃の右乳首から口を離して、今度は左乳首を口に含む。やはりそこでも同じ甘さが感じられた。その甘さを楽しむように吸い上げたり、舌で転がしてやり――ちょっと力を入れて前歯で噛んでやったその時。
「くふぅ、んんっ、あぅぅ――――ッ」
一際大きな声を上げた詩乃が身体をそらせ、やがてくたぁとベッドへ落ちた。同刻和人の口からちゅぽんと乳首が解放される。
荒い息を聞きながら詩乃の下半身に目をやると、タンクトップと同じ質感の黒い下着に大きな染みが出来ているのが見えた。今ので絶頂を迎えたようだ。仮想世界でしている時も詩乃は乳首の刺激だけで絶頂を迎えやすいのだが、それだけは現実世界でも変わっていないらしい。
「はっ、はぁ、はぁっ、はぁ、は……」
「詩乃ってば、胸だけでいっちゃったか」
「だって……和人のが……気持ちよすぎたから……」
「痛くなかった?」
「痛くないよ……気持ちいいって言ったでしょ……」
ちゃんと詩乃に痛みを与えたりしないで出来ている。和人は若干の自信を抱き、詩乃の下半身にもう一度目をやる。一度目の絶頂を迎えて愛液を零れさせている詩乃の秘部。けれど、挿入するとなるともっと必要だ。
それに何より、現実世界での詩乃の性器を、一刻も早く味わいたい。また欲求に駆られた和人は詩乃の乳首周辺から手を離し――詩乃の下半身の下着の中へ手を入れた。
下着と詩乃のスリットの間に液糸が出来ていたようで、入れただけで粘液のようなものが手に付くのがわかった。同刻、詩乃の足が立ち上がり、張り詰めたようになる。
「あぅっ、かず、とっ」
「詩乃、力抜いて」
「う……ん……」
詩乃は全身の力を抜くように深呼吸をし、脚を元に戻す。見計らった和人は詩乃のスリットの周辺をくにくにと指で押し込んでから、その中へ指を入れた。
くちゅぐちゅという粘っこくも淫らな音がするのと一緒に指先が詩乃の愛液に包み込まれ、膣壁がきゅうと締め付けてる。
「ふああぁッ、ひ、あぁぁぁッ」
詩乃は悲鳴を上げて和人の頭を掴んできた。拒否しているものではなく、快感が故に入れてしまっている力。和人は頭を掴む手を気にせずに、爪を立てないようにしながら、詩乃の膣内を探るように掻き回した。
やはり仮想世界で感じる詩乃の膣とは異なり、入れているだけで火傷するのではないかと錯覚するくらいに熱いし、比にならないくらいに愛液が溢れ出てくる。現実世界はこんなにも違う。
そう思いながら指を動かすと、その都度くちゅくちゅ、ぐちゃぐちゃと音が鳴って部屋の中に満ちていく。それに負けじと詩乃が声を上げていった。
「あううっ、はあぅっ、んああああっ」
指を奥に突っ込もうとする度にぎゅうぎゅうと詩乃の膣が締めてくる。まるで自身の性器を受け入れていると錯覚しているように。けれども、これだけでは足りないとわかっているのも和人だ。
一際大きな音を立てて詩乃の膣から指を引き抜くと、詩乃の下半身を包む下着をするりと脱がせる。詩乃のスリットと下着の間に透明な糸が複数伸びてベッドへ落ちる。乳首を刺激されただけだというのに絶頂し、詩乃のスリットは既に愛液に包まれていた。
「詩乃……もうこんなに……」
詩乃の女陰からするオスを興奮させるような匂いと、詩乃の身体全体から発せられる匂いが混ざって流れてきて、和人は腹の底から突き上げてくるものを感じた。既に自身の性器は詩乃の膣内に挿入してしまっても良いくらいにいきり立っている。
仮想世界でならばもう一つ手を加えてやるものだが、今の詩乃の性器はそれをした後のように愛液で溢れていた。もう挿入して……身体を一つにしてしまってもいい頃だろう。確認するように和人は詩乃へ声をかける。
「詩乃、挿入れるけど……」
「……うん、いい、わ……」
荒い息に混ぜながら熱っぽいような顔をしている詩乃を見ているだけで、和人は下半身に突き上げてくるものがあった。きっと次の前戯をしようものならば、詩乃を置いて達してしまう事だろう。ここはもうやってしまった方がいい。
和人は下着を脱ぎ去ると、ベッドの上に置いておいたコンドームを手に取って開け、時を待っているかのような自身の性器を包み込んだ。一体どこで大きさを把握したのか、愛莉から贈られてきたコンドームはすっぽりと和人の性器を包み込んでくれる大きさだった。
準備が整ったのを認めて、和人は静かに詩乃へ声をかける。
「詩乃、いくよ」
「来て、和人……」
詩乃に応じるように和人は頷き、ゆっくりとゴムに包まれた性器を詩乃の性器へ近付け、先端を付着させた。そのまま詩乃の
「――――ッ」
その時だ。ぶちゅぐちゅという詩乃の愛液が飛び散る音に混ざって、ぶちぶちという何かが裂けるような嫌な音がはっきりと耳元に届いてきた。同時に詩乃の目がかっと開き、すぐさま力強く瞑られ、歯を口の中で食い縛っているような表情に変わる。
「うっ、んっ、んんんんん――――――ッ」
「なっ……」
詩乃は口を両手で覆い、口を閉ざしながら悲鳴のような声を上げ、のたうち回るように身体を動かし始めた。嫌な予感を抱いた和人は下半身に目をやった。
詩乃の膣内から愛液に混ざって赤い血が流れ出ている。所謂
まさか、裂けてしまった?
詩乃の性器は俺の性器を受け入れられるものではなかった?
血の気がすぅと失せていくのを感じながら、和人は詩乃の顔を見る。詩乃は口を押えたまま声を出し続け、ぎゅうと目を固く瞑り、涙を零していた。自身の顔が青くなったのを理解しながら、和人は声を荒げる。
「や、やっぱりやめようッ」
「んぐ……?」
「詩乃、痛いだろ。そんな思いしてまでやる事じゃないよ。それに詩乃、こんなに血が出て……」
俺のせいで詩乃にいらない苦痛を――そう思おうとしたその時、急に和人の顔を包み込むものと、唇に付くものがあった。詩乃が和人と繋がったまま身体を起き上がらせ、唇を重ねてきていたのだ。
「むぐっ」
更に詩乃の唇からまた舌が出てきて、和人の口内へ入り込んでくる。急すぎる詩乃の動きについていけず、和人は舌を動かす事も出来ず、詩乃の舌に任せた。口の中を這い廻られる事数秒後、詩乃が顔を離して、涙で濡れた眼を向けてきた。
「大丈夫、だから……」
「え……?」
「確かに痛い……かなり痛いよ……裂けちゃうみたいで……けれど……我慢できる範囲だから……大丈夫……」
「だけどッ」
「お願い……やめないで和人……このままなら、きっと慣れれるから、だから、繋がったままで、一つになったままでいて……やめてほしくないの……」
詩乃は微笑みを浮かべているが、瞳からは涙が出てきている。無理をしているのは明白だったし、未だに痛みを堪え続けているのも見ているだけでわかった。出来ればこのまま中断してしまいたいところだった。
しかし和人がその事を口にしようとしたそこで、詩乃は微笑みを続けながら言った。
「それに……こんな事で止まってたら……
「……詩乃ッ……」
詩乃の言うこの先とは、きっと近い将来の本番の事だ。コンドームなしで詩乃の膣内に性器を挿入し、精を放出する。そして詩乃との子供を作り、妊娠し、出産する事。
それはまだ先の話だというのに、詩乃は今からそれを迎え入れる気でいる。詩乃は既に和人の先へ行こうとしているのだ。
詩乃が先を見ているのであれば、自分もそこを見ないわけにはいかないし、何より詩乃一人で行かせるわけにはいかない。
詩乃をそこまで行かせるのは、俺なのだから。
胸の中で固まるものを感じた和人は頷き、精一杯の微笑みを詩乃に返した。
「……わかった。このまま続ける。だけど苦しかったり、どうしても駄目だったら言ってくれよ」
「へい……き」
そう言った詩乃の唇を、今度は和人から自身の唇で塞いだ。すぐさま舌を詩乃の口の中に入れると、自身より遥かに多い唾液が舌全体を包み込まんとばかりに溢れてきた。その唾液を味わい尽くすように舌を詩乃の口内で動かし続ける。
「んっ、ぷふ、ふぅ、ふぁむ」
なるべく痛みを和らげてあげなければ。和人は詩乃から顔を遠ざけると、もう一度詩乃の乳房の方に顔を近付け、既に刺激を受けて赤くなっている乳首を口に含んだ。
「ひあぁ、やぁぁぁ」
すでに絶頂した後であるためなのか、口の中の乳首をもう一度舌や歯で軽く刺激してやるだけで詩乃から悲鳴に近しい喘ぎ声が発せられる。ただでさえ感じやすい乳首が、度重なる刺激で更にその感度を上げているようだ。
そして、やはり甘い味のようなものが感じられる。その味をもっと感じるべく、和人はちゅうと力を込めて詩乃の乳首を吸い上げた。
「ひぅっ、あああっ、くああああっ」
同時に残った乳首を手先で摘まんだり先端をくりくりと弄繰り回すと、ゴムの厚い膜に包まれた性器を締め付けられる感覚が起きた。仮想世界でやっている時にもあった締め付けが、同じように起こっている。
そして見る見るうちに、性器の根本の辺りが暖かい粘液に包まれたようになっていく。先程まで破瓜によって出てきていた血が薄くなるまで、詩乃の愛液は溢れ出てきていた。
「はぁ……かず、と……もう、だいじょうぶ」
「え?」
「もう、へいきだから、だから、動かして……うごいて、かず、と」
詩乃の顔には、辛さの抜けた笑みが浮かべられていた。いや、もしかしたらまだ辛いのかもしれない。けれど、先程と比べてはっきりと辛さの色が薄くなっているのは確かだった。それこそ女陰から流れていた血のように。
「そうなら動くけれど……本当にいいんだな」
「いいよ……うご、いて、いつもみたいに、突き上げ、て」
和人はこくりと頷くと、詩乃の湶の辺りをもう一度掴み、腰を前後に動かし始めた。ずちゅ、ぐちゅ、ぶちゅんという液体が迸る淫らな音が部屋中に木霊し、詩乃から激しくも甘ったるい声が上がる。
「くああっ、はぁっ、んぁっ、やぁっ、ひぁっ、ふあああっ」
互いの性器を互いの分泌液で満たし合い、飛び散らせるほどに強く突き上げを繰り返す。これが仮想世界でやっていた事だが、今の和人は性器をゴムに包んでいる。
ゴムの膜に邪魔をされているせいで、詩乃の愛液に塗れるあの感じがないが、それでも詩乃の膣壁から溢れる暖かさと匂いはしっかりと感じられていた。ゴムも思ったより強靭にできているようで、どんなに詩乃の締め付ける膣壁に擦り付けても破れる気配がない。
「かずっ、ああんっ、んああっ、とっ、あぁっ、ひゃあっ、かずとぉっ」
「詩乃っ、詩乃ぉ」
「かずとのぉっ、すごっ、いぃっ、こわれっ、そうっ、こわれちゃいっ、そうぅっ」
「俺もっ、おれもっ、詩乃のおかげでっ、こわれっ、そうだっ」
「かずとぉっ、すきっ、すきぃっ、だいすっ、きいッ」
「俺もっ、しのの事っ、だいすきっ、だぁッ」
痛みを感じて動けなかったのが嘘だったように、詩乃は大きな声を上げながら体勢を目まぐるしく変える。うつ伏せになったり、四つん這いになったり、横向きになったりを繰り返しては、和人の性器に異なる刺激と締め付けを与えてくる。
「はうっ、くあはっ、ひぅあっ、あぁんっ、あんっ、ひぁうっ」
そしてもう一度正面から向き合うになったその時に、和人は思わず詩乃の身体をぎゅうと抱き締めた。下半身に大きくて強いものが来ている。
「かずとっ、たしっ、わたしっ、もう、すごい、すごいの、きてっ、いき、いくぅっ」
「おれもっ、すごいのがきてっ、きてるっ」
「いっしょにっ、いっしょにぃっ」
「いっしょにっ、いこうッ」
和人が力強く詩乃の身体を抱き締めると、詩乃の足が和人の腰の辺りに回った。詩乃の身体から離れる事の出来なくなったその時に、ついにそれは来た。
「しのッ」
「くっ、うぅ、くぅあ、あああああああああああああああああッ」
絶叫に等しい詩乃の声が上がって、膣内から大量の愛液が迸ったのと同時に、和人の性器の先端から精液が勢いよく噴出した。
出された精液は全てゴム膜が受け止めたが、一秒で終わるものでもなくて、和人は詩乃の身体を抑え付けながら、ゴム膜の中に強く長く射精し続けた。
和人の射精が終わった時、詩乃はベッドに力尽きたように倒れ込んでおり、息を切らしていた。和人もまた同じで、息を切らしながらゆっくりと詩乃の女陰から性器を引き抜くと、大量の愛液が一緒に出てきて、精液を溜め込んだコンドームがぽとりと落ちた。
性器が解放されたような気になった瞬間、どっと疲れが押し寄せてきて、和人は詩乃の隣に倒れ込んだ。すぐに詩乃が横になって、微笑みの浮かぶ赤い顔を向けてきた。
「かず、と……」
「詩乃……頑張ったな……すごく痛い思いしたっていうのに……」
「あなたのおかげ……あなたがしてくれたから、優しくしてくれたから、出来たの……」
「無理……させちゃったな。ごめん」
「そんな事ないわ。寧ろ、すごく良かった……」
詩乃は少しだけ身体を動かし、和人に近付いた。うつ伏せになったまま、和人は詩乃の瞳を見続ける。
「私、絶対に今日を忘れたりしない。皆が祝ってくれて、あなたが祝ってくれて……あなたと繋がれた今日を……絶対に忘れない」
「俺も……今日を忘れないよ。君と初めて繋がった今日を、ね」
そこで和人はふと思い出した。そういえばまだ、詩乃に言うべき事を言っていなかった。一番言わなければならない言葉を胸の中から出し、和人は詩乃の頬に手を添えた。
「詩乃、言い忘れてた」
「うん?」
「誕生日、おめでとう」
和人が笑むと、詩乃は一瞬きょとんとしたが、やがて顔に笑みを取り戻していき――
「ありがとう」
と言って、和人の胸の中に顔を埋めてきた。
記念すべき誕生日を迎えた愛する人の身体を、和人はしっかりと抱きすくめた。