チュートリアル
「ん? なんだ、このアプリ?」
俺、『夜月 翔』はスマホをいじっていると、見たこともない画面に飛ばされた。
こういうことはまれに良くある。画面の下の方にある広告を誤って触ってしまい、強制的にそのページに飛ばされるのはみんな経験したことがあるだろう。
いつもならすぐに消して元のページに移動するのだが、今日はなんとなく流し読みしながらスクロールしてみた。
「あ、やっぱり、エロゲか」
描かれた過激なシーンの画像が、その『ドリームワールド』と銘打たれたページの正体を現していた。この手のサイトの大半を占めるエロゲの登録画面だったのだ。
しかし俺は、そこに描かれているキャラクターに眉を寄せた。
それらはすべて、それなりに有名なラノベやアニメのキャラクターだったからだ。
「すげーな。権利とか大丈夫なのか?」
気になった俺は、今度はちゃんとその文面に目を通すことにした。
それをまとめると、
・主人公は何でも屋の店主
・そこで依頼を解決することによってポイントを稼ぎ、ガチャを回して女の子をゲット。
・その女の子と協力して更なる依頼をこなしていく。
・依頼の途中に女の子の好感度を上げれば、サービスシーンがある。
というものだった。
何ともありきたりな設定だ。しかし、それを補っても有り余るほど豪華なキャラクターが登場する。
「やってみっかな……いや、ないな」
一瞬、欲望に身を任せてゲームスタートを押そうとしたが、正気を取り戻して指を離す。
こんなものを始めて、もし危ないサイトだったらどうすんだ。
しかし、俺は気が付いていなかった。すでにわずかに指が画面に触れていたことに。そして、すぐに手を放したことで押したことになってしまったことに。
俺はとてつもない眠気に襲われて意識を手放した。
目覚めるとリビングの床の上で倒れていた。しかも見覚えがないリビングだ。俺の家よりもはるかに広いんだけど。
頭痛がする頭を押さえながら立ち上がると、テレビがひとりでについた。
《ドリームワールドへようこそ、夜月 翔様。これからこの世界のチュートリアルを始めさせていただきます》
「は? ドリームワールド? チュートリアル!?」
訳が分からない。まさかゲームの中に入ったとでもいうのだろうか。
いや、それよりも、
「夢……か?」
《その通り、ここは夢の世界。男の欲望を無限に叶えることが出来る夢の世界でございます》
俺の声が聞こえたかのようにテレビは返す。もしかすると人工知能が埋め込まれているのかもしれない。あのテレビは、どっかの会社が開発した喋るロボットを発展させた物であろうか。
《私はドリームワールドチュートリアル専用AIです。問題がなければチュートリアルを始めさせていただきます》
「ああ、分かった」
混乱していたが、じいちゃんが鍛えてくれたおかげである程度落ち着くことが出来た。
今はこの声に従っておくか。何をするにも情報が足りないしな。
《翔様、あなたはこれからこの何でも屋の店主になっていただきます。ここには様々な依頼が舞い込んでくるようになっているので、その依頼を解決してください。この依頼は拒否が可能です。依頼の行動の結果自分たちがどのような立場になるのかを考えて慎重に行動することをお勧めします。しかし、この世界を最大限楽しむためには依頼には積極的にかかわることをお勧めします》
フムフム、これは直前まで読んでたゲームとほとんど同じ内容だな。まさか、本当にゲームの世界に来ちまったのか?
《依頼を解決すると
どんな依頼でも、最低1回回せるだけは貰えるのか……なんかやさしく聞こえるけど、依頼が全部難しいものだったら厳しいんだよな。
《女の子は例外でない時は、原作で1番最初に登場した時の姿で、1番最初に主人公に向けていた感情をあなたに向けてきます》
そこで気になった単語が出て来たた。
「例外って?」
《例えば、ライトノベルなどの場合、1巻の1番最初に主人公の幼少期が描写される場合があります。その場合には、その時登場したヒロインは例外的に、『1番最初』とは数えないという事です》
なるほど。だいたい分かった。
《もちろん、リアルに好感度を上げれば女の子とセックスすることも可能です。男を見せてください》
何をバカな。チョロインが増えてきた昨今だが、それでも主人公は死にかけるなどしてヒロインを落としていくのが常だ。俺にそんな度胸はない。せいぜい一緒に買い物するくらいだろう。それでも十分嬉しい。
《そして、あなた自身にも能力をつけることが可能となります》
「ん?」
サイトの紹介にはない要素だな。しかも、うれしい要素だ。
《武器・能力ガチャは1ポイントで1回、回すことが出来ます》
1ポイントで一回か。で、取得方法は?
《ポイントの取得条件は、女の子によって引き起こされるあなたの射精です。1回の射精で1ポイントです。フェラ、手コキ、セックス、どれでも構いませんが、自慰ではだめなので注意してください》
あ、はい、そうですか。俺もそのゲームやってますそろそろ10連ガチャでは☆4サーヴァント確定にして下さいお願いしますそうじゃなくて!!
なんだよその条件!! そんなの無理だろ!?
《それとポイントの取得条件については、あなたの口から女の子に喋ることはできないようになっているので。キャラによっては責任感のせいでやりたくもない行為をやらされる可能性があるので。合意はOKですが、ムリヤリはダメですよ?》
いや、だから無理だって!!
《ガチャは後ろに設置しておきました。ご確認ください》
顔をひきつらせながら振り向くと、壁際に2台のマシーンがある。あれか。
《次にこの建物ですが、1階は入手したマシーンの格納庫、2階は何でも屋の事務所、ここ3階はリビング、4階からは居住スペースになっています。4階にはあなたの部屋と洗面所、大浴場が設置されています。5階以降は女の子の居住スペースで、1つの階に部屋は4つ、女の子が増えるたびに階は増設されていきます。女の子が増えると、その子専用の部屋ができ、召喚された女の子はそこに現れるようになっています》
「いくら何でも、そんな建物おかしいんじゃ……」
《それについては、関係者以外違和感を持たないようになっているのでご安心を》
あ、そうですか。もういいです。
《チュートリアルは以上となります。チュートリアル終了記念として、翔様には、女の子ガチャと武器・能力ガチャ1回分のポイントを差し上げます。それでは、良い夢を》
その言葉を最後にテレビの電源は落ちた。
落ち着こう。
なんでログアウトの方法を言わなかったのか。そんなのは簡単、ログアウトできないから。
チュートリアルでログアウトの方法を言わなかったというのはつまり、そう言う事なのだ。確認してみても、それらしいものはなかった。
まあ、じいちゃんなら理解してくれるだろう。いつもいつも、男にはそいつにふさわしい戦場に行かなければならない時が来る、って言ってたし。それが今ってことで。
持ち前の適当さで素早く頭を切り替えた俺は、とりあえずガチャを回そうと後ろに置いてあるマシーンに向かうのだった。