男の子5人は、慣れた様子で埃まみれのソファーに腰かけている。やっぱり、ここにはよく来ているんだ。
それだけなら良かった。仲間内だけの秘密の隠れ家、とってもわくわくする。
問題は、彼らのポケットから、ガイアメモリが出て来たことだ。
「連絡しとくか」
俺は腕時計型携帯を操作して、俺の位置情報を3人の端末に一斉送信する。
恥ずかしいけど、拳銃と体の加速しかできない今の俺じゃ、ドーパントには勝てないからな。
今は情報収集に徹しないと。
俺は男の子たちの会話に耳を澄ませた。
「やったな!」
「ああ! あいつ、泣きながらションベン漏らしてたぜ!」
「散々俺たちをバカにした報いだろ。それよりも、次だ」
「で、でもさ、武偵もたくさん来てるし、ばれたらヤバいんじゃ……」
「なんだよ、ビビってんのか? このメモリがあれば武偵なんかには負けねえよ」
会話を聞く限り、この子たちが犯人で間違いないか。
それに次ってことは、まだ襲うつもりなんだな。
「だよな、この……」
《CHIMERA》
男の子の1人がメモリを手に取って首元に刺した。
その瞬間、男の子の体は様々な動物の部位をかき集めたような怪物に変化した。
なるほどね、キメラドーパントか。
顔はライオンをモチーフにしていて、しっぽは蛇。大きな翼もある上に腕は右が鋭い爪、左側は顎の様になっている。
あの証言は全部本当だったんだ。複数体いる訳じゃなくて、キメラとして一つにまとまってたんだ。
火を吐く能力もありそうだな。
俺が一人で納得してると、キメラドーパントは俺の方を向いてきた。
「そこに誰かいるな。出てこいよ」
ッ! 気づかれた!?
そうか、ドーパントになって感覚が一気に鋭くなったからか。
今気が付いたけど、使われる前にメモリを撃って壊せばよかった。ホントに、らしくないよ、俺。そんな簡単なことを見逃すなんて。
ばれてしまったものはしょうがない。俺は素直に姿を見せる。
「あれ? この前の武偵のお兄さんじゃん!」
「あーあ、ばれちゃった。どうすんだ?」
俺に見つかってもたして慌てた様子がない。むしろへらへらとしてドーパントの体を見せつけるようにしている。
「どう、お兄さん? かっこいいと思わない?」
「思わない」
「えー? そうかなぁ……空だって飛べるし、火も吐けるんだぜ?」
「だって、その力でクラスメイトを怪我させたんだろ?」
無駄話をして話を長引かせようとしたが、俺の一言で5人の目つきが変わる。
「あんな奴、クラスメイトじゃない」
「お兄さんもあいつらの味方するわけ?」
やっちまった。なんて軽率な一言を言っちまったんだ。
もう時間を稼ぐとか無理だぞ。
俺は言葉を続けながら、逃げる体勢を整え始める。
「ただの殴り合いならともかく、その力でやったら君たちが悪い」
「あっそ、じゃあ、お兄さんにも痛い目見てもらうよ」
キメラドーパントは予備動作なしで火を吐いてきた。
何とかタイムアルターを使って回避、外に出る。
悠々と出てくるキメラドーパント。
俺は試しに3発ほど打ち込んでみる、が、勿論効かない。
「あははははは!! どうしたのお兄さん!! そんなんじゃ痛くもかゆくもないよ!!」
そんなことは分かってるよ。
キメラドーパントの腕は、重機並みのパワーがある。当たればその部分が引きちぎられるだろう。
幸いだったのは、相手がまだ小学生で、がむしゃらに腕を振り回していただけだったという事。そうじゃなければ、俺はとっくの昔に肉塊になっている。
何とか攻撃をかわし続けていた俺だったが、それでも逃げる隙を見つけられない。
やがて、体全体に痛みが走り、膝から力が抜けてしまう。
タイムアルターの使い過ぎだ。
「しまっ!!」
ボディービルダーの腕ほどもある蛇が、俺の胴体に叩きつけられた。
肺の中の空気がすべて吐き出され咳き込む。
「じゃあね、お兄さん」
火を吐くつもりか。
何とかよけようとするが動けない。
ライオンの口が開かれ、そこから火の粉が漏れる。
だが、煌々と燃える火は、俺を襲う事はなかった。
キメラドーパントの横から飛んできた何かが、キメラドーパントの顔面に直撃したからだ。
それを合図にして、姫柊ちゃんとアスナさんがそれぞれの獲物でドーパントを切り裂いた。
少し遅れて、クロも出てくる。
さっきの攻撃はクロの弓矢か。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だ。助かったよ、ありがとう」
「良かった……じゃあ、ちょっと待っててね。あいつ、すり下ろしてミンチにするから」
弓を消して干将・莫邪を投影するクロの目は完全に据わっている。
こ、怖い。ドーパントよりも。
一方のドーパントは、攻撃が当たったところをさえてうずくまっていた。
「痛い痛い痛い痛い痛い!! お前ら……ひっ」
憤怒の声はクロを見ただけで霧散した。
所詮は小学生。クロの放つ本気の殺気におびえ、震えている。すでに腰も抜けているだろう。
クロは無言で近づく。
「や、やめ……ッ!! やめて! 助けてよお!!」
「やめて? 助けて? お兄ちゃんを傷つけておいて、今更何言ってるの?」
うずくまるキメラドーパントの顔の近くに干将を突き立てるクロ。
「殺しはご法度だから少しは手加減するけど、あんまり期待しないでね」
キメラドーパントは動かなくなってしまった。そして、メモリが排出され、元の男の子の姿に戻った。
「「「え?」」」
これは予想外だったらしく、クロも含めて素っ頓狂な声を出す。
「え? 翔君、これって……?」
「これが真相だ。今回の事件の」
俺はやっと痛みが引いてきた体を起こし、まだ中に4人いるだろう廃屋を見るのだった。
「全て話してくれました」
5人の男の子に事情を聴いたジャックさんが部屋に入ってくる。この部屋は、俺が依頼の内容を聞いた部屋だ。
ジャックさんが聞いた話はこうだ。
あの5人は少し前までは普通の学校生活を送っていた。友達もいたし、成績もそれなりによかったらしい。
だがある時、どういう訳か5人が
そこまでくれば、後はどういうことになるかは容易に予想がつく。
親がいないというネタはからかいの種に。そしてどんどんエスカレートしていじめに発展していった。
そんなある日、見たこともない男性から、メモリをもらったらしい。
「その男の事は?」
「残念ながら、覚えていないそうです」
「そうですか……すいません、続けてください」
その日から、秘密の隠れ家、つまりあの廃屋でメモリを使って遊ぶようになった。
超人的な力を与えてくれるメモリにその5人は夢中になった。たまにやりすぎて他の人に見つかったこともあり、それが今回の怪物騒ぎにつながったようだ。
怪物が現れた場所に5人がいたのは、メモリを使って遊ぶ時はいつも一緒だったから。
そんなある日、一人が提案したらしい。
この力を使って、いじめていたヤツらに復讐しないか、と。
後は今回の事件の通り、クラスメイトに重傷を負わせ、次の計画を立てようとしたところで俺たちに捕まったという事だ。
全ての話を終えて、俺とジャックさんは互いに無言になる。
何分そうしていただろうか、ジャックさんが口を開いた。いつものどこか楽しげな声色ではなく、深い悲しみにくれた声色だ。
「……ともあれ、これで依頼は終了です。報酬はどちらに?」
「あ、じゃあ、この口座に」
「分かりました。今回は、ありがとうございました」
こうして、後味悪く、事件は幕を閉じたのだった。
少なくとも、表面上は。
次の日、俺はベッドに寝転んで考え事をしていた。
あの5人は、全員違う学校へ転校、さらに保護観察処分になった。
これはかなり軽い処分ではないかと思うかもしれないが、武偵には血の気が多い人物が多く、子供のころに刃傷沙汰をおこしている物は何人もいる。
さらに武偵には一発撃たれたら一発撃ち返すという風習があるため、流血沙汰なんて珍しくもなんともない。
極め付けに、この島に来るときの契約書に生死の保証が出来ない、という文言があるため、外の両親が裁判で訴えることもできないのだ。
よって、この事件はすぐに忘れられていくことになるだろう。
ガイアメモリが関わってなければ。
どこのどいつがガイアメモリを渡したのかは知らないが、ガイアメモリは麻薬のようなもので、一度使うと狂暴になったり、ドーパントの力に飲みこまれたりといった具合に、中毒症状が出る。
あの年の子にガイアメモリを渡すような奴が、まともな倫理観を持っているとは思えない。
また渡そうと近づいてくるにきまっている。
俺ができるのは、
「ガイアメモリを渡そうとする現場で取り押さえることだな」
この情報を大手の武偵グループに渡したい気持ちはやまやまだったが、こんなことを知っている理由を説明することが出来ない。
今日の夜にでもみんなに相談しよう。
そう決めたタイミングを見計らったように、ドアがノックされる。
入ってきたのは姫柊ちゃんだ。
「どうした?」
「先輩に、少し話があるんです。クロさんとアスナさんは買い物に行ってるのでご安心を」
何を安心すればいいのかわからないけど、了解、安心する。
「単刀直入に言います。先輩の悩みは私達との関係についてではないですか?」
驚いた。勘がいいってレベルじゃねえぞ。
「そうだな、確かにそうだよ」
素直に認める。とぼけたら話が進まなそうだしな。
俺はこの世界に来て、ラノベのキャラクターといちゃいちゃできると思って舞い上がってた。
姫柊ちゃんはどうか知らないけど、クロなんか毎朝俺の布団にもぐりこんでくるし、アスナさんも気が付くと距離が近いことが何度もあった。
本当に夢の世界、ドリームワールドだと思った。
そうして過ごしているうちに、本当にこの生活が続くのかとふと疑問に思った。
言うまでもなく、世間一般的にハーレム、重婚なんて認められていない。
ヒロインの好意をこのまま受け取っていていいのか、すこし時間が経って冷静になるとそんな考えが浮かび始めた。
手を出しておいて何を、という人もいるかもしれないけど、いつまでも惰性で関係を続けていく方が問題だ。
俺がしていたのはあくまで一時の妄想。でもここは現実で、今後もずっと続いていくのだとすれば大きな問題がある。
ハーレムとしてみんなを愛していくとしても本当に平等に全員を愛していけるのか、誰か1人を本当に好きになってしまうことはないのか。
人の気持ちが変わるのは当然の事だ。
いくら全員を幸せにすると誓ってもこと好意において、それを絶対に突き通せる保証なんてない。そうだったらこの世に浮気なんて起こらない。
他人の人生はそんなに簡単に背負えるものじゃない。
「みんなの好意を素直に受け取れない」
「それは、私たちが創作物の存在だからですか?」
「え?」
姫柊ちゃんの言葉に、俺は固まる。
「姫柊ちゃん、それは……」
「召喚される女の子はみんな分かってますよ。自分が創作物上のキャラクターだってことは」
そ、そうだったのか? てっきり、まっさらな状態で。俺への感情と知識だけを持って生まれてくるもんなんだと思ってた。
「そこでは私たちは私たちなりの人生……っていうと少しおかしいかな? ともかく、それぞれ友達がいたり、親がいたり、もしかしたら恋人がいたりしてたんですよね? それなのに、自分に好意を向けてくるから戸惑っているんじゃないですか?」
「……そう、だな」
「じゃあ、そんなこと気にしなくていいです」
その言葉に、俺は普段からは考えられない大声を出した。
「そんなの無理だ!! その気持ちは本来、俺じゃない――」
「先輩が言う人なんて、私たち知りませんよ? 今、私たちが好きなのは先輩なんです」
まっすぐ俺を見て宣言してくる姫柊ちゃん。
「いや、だから……」
「私は先輩の事が好きです。ここに来てから、好きになりました。これでもダメなんですか?」
あ、れ?
「姫柊ちゃんが、俺を、好き?」
「はい」
姫柊ちゃんは主人公とのファーストコンタクト時、主人公に恋愛感情は抱いてなかった。
そんな彼女が俺のことを好きっていうのはつまり、
「だから少しずつでいいです。クロさんとアスナさんの気持ちも受け入れてあげてください。目をそらさないであげてください。何もしてないのに最初から勝機がないなんてかわいそうですよ」
「や、それはおかしい。俺の事が好きなんだったら。ほかの子を煽るのは……」
「いいんですよ、私は。2人も了承してくれました」
ハーレム公認宣言じゃねえか! 魅力的過ぎます!
「わ、分かった。じゃあ3人を大事にしてもうほかの子は――」
「それもダメです」
ナンデヤ。おかしいじゃん!
「先輩に呼ばれるのを待ってる子はたくさんいるんですよ? その子たちの気持ちはどうなるんですか?」
「その子がハーレム容認するかは分かんないだろ!?」
下手したら血を見ることになる。
「そこは大丈夫です。なんたって、先輩の事が好きな同志ですから!!」
何て根拠のない自信。ポンコツ姫柊ちゃんなんだよなあ。
「そ・れ・で、分かりましたか?」
ズイズイ迫ってくる姫柊ちゃん。ち、近いんですが。こういうの気にしないはずなのに、好きだなんていわれると途端に恥ずかしくなるのは不思議。
「わ、分かった! これからは俺に向けられる好意にはしっかり責任を持つ! これでいいか!?」
「はい!」
満面の笑みで俺のすぐ隣に座ってくる姫柊ちゃん。ベッドのスプリングが音を出す。
「……まだ何か?」
「分かりませんか?」
「好きな人だから一緒にいる?」
「惜しいですね」
惜しいのかよ。
恥ずい。二重の意味で。
ああ、もう、肩乗せるのやめなさいって。
「先輩、したく、ありませんか?」
「な、何を?」
「Hなことです」
まさかのセリフ。こいつ偽物か?
くだらないことを考えて、俺の肩に乗っている頭を見ようと首を動かす。
そして俺の頭は真っ白になった。
姫柊ちゃんは肩に乗せたまま目を閉じて、俺の方を向いていたのだ。
これはもう、求められてるとしか……
「姫……雪菜」
「……はい」
目を閉じたまま、雪菜は小さく答える。俺の視線は、小さい唇にくぎ付けだ。
「いくぞ」
俺はゆっくりと唇を――――
アスナとクロは、買い物を終えて家路についていた。
2人の両手にはいっぱいのレジ袋が握られている。
「やっぱりお兄ちゃん、最近私たちのこと避けてない?」
「うん、そう思う」
「アスナが色々禁止にしちゃうからよ」
「うーん……そうかなあ」
「きっとそうよ。年頃の男の子だもん。ヤらせてくれない女なんか、女じゃないのよ」
「もうっ! クロちゃんはすぐにそんなこと言って!」
レジ袋を振り回しながら、楽しそうに告げるクロ。アスナはいかにも保護者と言ったていでクロを注意するが、この手の話題でクロに敵う訳がない。
「そんなこと言って、毎晩お兄ちゃんのこと考えてるんでしょ? 自分のあそこにお兄ちゃんの固いアレを入れたら――」
「そそそ、そんなこと全然考えてないからっ!!」
動揺しすぎのアスナ。クロはアスナに聞こえないように、わかりやすいわねと呟く。
本当の理由は、2人ともわかっているのだ。
そして、今それをどうにか出来るのは、雪菜しかいない。そう確信したからこそ、翔と雪菜を2人きりにした。
「あーあ、今頃雪菜とお兄ちゃんは……はぁぁぁぁ……」
「そうだね、2人で話してるんだろうね」
クロはつまらなそうな顔をする。今の流れでいやらしいことを想像したアスナをからかおうとしていたのに、的が外れたからだ。
そんな2人の視界の端に、とある人物が映る。
1人は怪物事件でドーパントになっていた男の子。
もう1人はスーツを着た大人だ。
アスナとクロは無言で頷きあい、尾行を始めた。
2人はすいすいと進み、人気のない路地にたどり着く。
スーツの大人は懐からあるものを取り出す。
それに2人は息をのんだ。ガイアメモリだったのだ。
「動かないで!!」
2人はすぐさま武装する。
「そのメモリを捨てて」
アスナの警告に応えることはない。ただ無言で立っている。
「アンタ、まだそんなもの使う気なの?」
「やらなきゃいけないことが残ってる……邪魔するなよ」
クロの威圧に怯むことなく、男の子はぶつぶつという。
「呆れた。まだだれかを傷つけたいわけ?」
「ああ、特に君には仕返ししたいと思ってたんだ」
《CHIMERA》
男の子はコネクターにメモリを突き刺した。
それによってドーパントに変化するのだが、1日前とは全く違っていた。
2足歩行ではなく4足歩行の巨体。どんどん膨れるその体は、狭い裏路地だったため両側のビルの壁を破壊している。
更にたくさんの動物を取り込んだ体は、物語から飛び出したキメラそのものだった。
「すばらしい……! この年齢の子供でここまで成長するとは! やはり、コネクタの成長には強い感情が必須という訳だな……む?」
完全に暴走状態になったキメラドーパントは、めちゃくちゃに暴れ始める。
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ふむ、これ以上ここにいるのは危険か……」
そう言って男は路地の奥へと消えて行った。
男を追おうにも、キメラドーパントが邪魔をしている。
「アスナ、お兄ちゃんに連絡して」
「うん!」
干将・莫邪を投影したクロは、自分の体が危ない状態であることを理解する。
(魔力、持たないかも……)
それでもやるしかない。
クロとアスナは、キメラドーパントに飛びかかった。
クロとアスナはキメラドーパント戦。
主人公と雪菜は部屋でいちゃいちゃ。
死ね、主人公。