皆様、よいお年を。
あの後、指紋や読心能力者用の物品の確保を済ませた俺たちは、特務六課の隊舎に戻ってきた。結局あいつの拠点にいたのは召喚された女の子だけだった。中にいたスタンド使いの女には逃亡されたし、俺は俺であいつの部屋から何も発掘できなかった。
残っていたのは女の子の自由を制限するDISCだけだった。それを回収出来ただけでも良かったとしたい。
中にいた女の子はレムとラム(なんとセットですでに召喚されていたらしい)を含めて10人ほどだった。テスタロッサさんもここまでいるとは予想していなかったのか、急きょ車を手配することになった。
建物から出て車に乗り込んでいく女の子たちを見たら、これからどこに連れていかれるのだろうかという不安でいっぱいという表情だった。
中には知っている作品の女の子もいた。明らかに非戦闘員の女の子もいた。俺はまだ召喚していなかったが、この世界観に全くあっていない女の子も召喚されてくるんだな。
数人が俺たちに睨みを利かせていたのは、あいつに召喚されてからの経験がそうしているのだろう。
そうして帰ってきた俺達だったが、特にやることがなくなってしまっていた。
俺はここの所属ではなく、外部の協力者。特に何か手助けが出来たかといわれると微妙なラインだが、そういうことになっている。あいつの家の場所を知れたことが大きな収穫と思うことにしよう。
さて、俺は部外者だが、桜の方はそうではない。
桜は推薦される形で特務六課に配属された超エリートさんだ。休日なんてなんのその。隊舎に帰ってきてもやる仕事はいくらでもある。
そんな桜は、
「うぅ……まだ理解が及びません」
「ま、まあ、そんなに考えなくても大丈夫だから」
結果、悩み続けることとなってしまった。もうごめん。ほんとごめん。なんかもうごめんなさい。
原因は言うまでもなく、俺のカミングアウト。それがかれこれ1時間半は桜に混乱を与えているのだから、俺の罪は大きい。
俺は心の中で謝り続けている。もう無駄なことを言ったと反省しかありません。でも、ごまかし続けるのは心苦しかった。
「いえ、分かる部分もあるんですよ? レアスキル持ちの方の中には特殊な条件が必要な方がいらっしゃるのは間違いないので……でも、これはさすがに……」
「ばかばかしい条件で申し訳ない」
「い、いえ! そんなこと思ってませんから!」
思ってるだろ。俺も思うわ。
「……ちょっと待ってください、昨日の私たちとの、アレもカウントされるんですよね?」
「もちろん。さっき言っただろ?」
「そのほかの能力も、つまりはそういうことなんですよね?」
「そうなるな」
「つまり先輩がしたかどうか、それで判断できるってことですよね?」
この子怖い。何でそういうことに気が付いてしまうんだ。
「というよりも、能力の数を数えれば、今までした回数を計算することもできますね……」
やめましょうね? 桜さん、やめてくださいね?
「さ、桜はこの後仕事はないのか? ほら、皆さん忙しそうにしてるぞ?」
隊舎の食堂でうだうだしていた俺達だが、周りに人は全く座っていない。昼休憩はとっくに終わっているので当然だ。ここまで来るときにチラッと見た事務室では皆さん真剣な表情でパソコンに向かってたし、一緒にあいつの家に行ったメンバーも、報告書や保護した女の子に関しての手続きがあるとか言っていた。
つまりは、みんな仕事している中で暇しているという、日本人的にとても心苦しい時間になってしまっているんだけど。でも、ここで帰るのはそれはそれで、って感じがするし。やだ、俺なんて社畜なんでしょう。定時で帰れない新入社員かよ。
「大丈夫だよ2人とも。今日はお疲れ様」
テスタロッサさんが、トレーを両手で持ちつつこちらに近づいてきた。現在時刻は午後5時。少し遅めの昼食か、それとも早めの夕食か。トレーの上に載ってるメニューを見れば、シーフードサラダとサンドウィッチ。そこまでの量がないので昼食だろうか。
「座っても?」
「はい、もちろん」
フェイトさんは席に座り、箸を持つ……前に俺達を見てきた。
「今日はごめんなさい。私の不注意のせいで、あなたたちを危険な目に合わせてしまって」
謝ってきた。基本的に武偵は自分の身は一般人以上に自分で守るものだ。身の丈に合わないことをすると簡単に死んでしまう世界で、そんなことを言っていてはキリがない。
しかし気持ちはわかる。管理局は野蛮な武偵よりも組織を重んじる文化がある。一緒に働く相手が商売敵の武偵とは根本的に違う。そしてテスタロッサさんなら、あの状況に責任を感じてもおかしくはない。
「今回は一歩間違えば、ううん、何も出来ないで眠らされるなんて、一回死んだと同じだから。もっと慎重に行動するべきだったね」
「今回は、俺も相手のスタンド能力をなめていたところがありますから」
闇の魔法を手に入れてかなり調子に乗っていた。スタンドはそういった戦闘力を関係なしに術中にはめることができる。その程度のことは予想するべきだった。
……あいつのスタンド能力、一応絞れてはいるんだけど、俺がそれについてベラベラ話すのは無理だしな。何で知ってるんだ! ってなるし。
「テスタロッサ執務官、すこし素直すぎることがありますよね?」
「ま、間桐さん!? そんなことはないと思うけれど……!」
「そうですか? 先輩聞いてくださいよ。この前、危険薬物密輸業者―――」
「わー! わー! それはっ! 機密事項だからねっ! 外部の人にしゃべっちゃダメだから!」
いったい何があったというんだ。
「最終的には証拠品を―――」
「だからダメだって!」
だから何があったんだ。
「ま、まあ。お仕事としては知りませんけど、変にひねくれているよりは全然いいと思いますよ?」
「そうですよね? 部下にも慕われる要因になってますから」
「……それって、おもちゃにされてるだけなんじゃないのかな……?」
強いは強いけど、指揮官としては、ね? 原作のことを考えるとちょいと微妙な気持ちになってしまう。こんな若いのに人の管理をするんだから大変だとは思う。
目の前で落ち込んでちびちびとサラダを食べ始める姿は、とても可愛らしい。年上であることを忘れてしまいそうだ。
や、綺麗なんだよ。服の上からも簡単に分かるくらいスタイルがいいし。見る人によってはあざといと思われてしまうかもしれないくらいの仕草もGOODだ。
「痛っ!!」
「え! ど、どうしたの?」
「……いえ、何でもないですよ?」
さ、桜め……! 思いっきり踏んできたな……!
「そ、そう?」
「はい。それよりも、保護した女の子はどうなりましたか?」
桜は強引に話を変える。しかも仕事の話だ。こうされてしまっては俺もまじめになるしかない。
「今は病院に搬入されてるよ。特に外傷はなかったけど一応ね。その後は前に保護した女の子たちと同じ施設に移されることになっている」
「外傷がない?」
「うん。健康状態も悪くないから、入院する人はゼロだって聞いたよ」
うーん、それは意外だ。あいつのことだから、もっとひどいことをされていてもおかしくないと思ってたんだけど。ま、それはいいことだし素直に喜ぼう。
「これからどうなるんですか?」
「それは今回の事件が終わってからってこと? それだったら、本人の希望かな。調べてみたらみんな
「そうなんですか……」
アイツが身勝手をした代償はとてつもなく大きい。召喚されたといっても、しっかりとした命を持った女の子なんだ。絶対に許されることじゃない。
「……」
「……」
話題を変えたつもりが、別の意味で気まずくなってしまった。
沈黙に耐え切れなくなった俺は、時計をチラリ。お、これは……!
「そろそろ帰ります」
時間は午後5時半。すっかり定時になった。俺は定時で帰ります。
「あ、家まで車で送っていくよ。私も今日は定時で帰るから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
フェイトさんも定時上がりするようだ。ヴィヴィオが家にいるだろうし、そこらへんは調整されているんだろう。
トレーを片付け、着替えを待つこと10分。ロビーで待っていた俺たちの所に、テスタロッサさんともう1人、女性がやってきた。見覚えのある女性だ。
あ、あれは……ッ!
NANOHA!? NANOHA TAKAMATI!?
俺はぎょっとする。体が震え、動悸が激しくなる。背中に気持ちの悪い汗がびっしりと―――なんてことはない。ここにこの人がいることは想定の範囲内だ。
すでに私服に着替えて、後は帰るだけという服装。柔らかい雰囲気のなかには確かに強い意志が見てとれる。腰まで届く栗色のサイドテールを揺らして、テスタロッサさんと同じくらいの年代の女性が近寄って来る。
「ごめんね2人とも! 待った? ちょうどなのはと会っちゃって」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「お疲れ様です、高町教官。高町教官も定時なんですか?」
「うん。そうだよ。ちょっと準備しないといけないものがあるからね。時間が取れるのは今日だけだから」
テスタロッサさんと親しげに話すこの女性こそ、『魔法少女リリカルなのは』の主人公、『高町 なのは』である。巷では原作での活躍のせいで、『魔砲少女』や連邦軍の新兵器のように『白い悪魔』などといった不名誉なあだ名をつけられてしまっている。
実際はそんなことない素敵な女性、のはずだ。そんなに変わっているわけがないからね。
横にいる桜が頭を下げる。教官ってことは、やっぱりこの世界でもそういう職についてるって訳か。そしてこの六課で働いている。
「それで、間桐さん。そっちの子が今日一緒に行った子?」
「はい」
「夜月 翔です。あまりお力にはなれませんでしたけれど」
「それはみんな一緒ですよ。テスタロッサ執務官でもそうだったんですから」
俺も一歩前に出てあいさつする。
サーヴァントとやり合っていい気になっていたと思う。今回の敗北は忘れないようにしないと。この世界にいるのは原作がある人たちだけじゃないんだからな。いつも相手のことが分かっているとは限らない。
「フェイトちゃんでもダメだったの?」
「ん……というよりもみんなかな。詳しくは報告書を読んでね」
「そうだね、移動時間に読むよ」
柔らかい雰囲気が一瞬にして仕事人の顔になる。せっかく仕事が終わったのに、変な話を振ってしまったな。ここは強引にでも話題を変えよう。
「そういえば、何が準備なんですか?」
「え? ああ、私たち、知り合いの人が経営しているペンションに行ってお泊りするんだよ」
「ついでに、トレーニングもね」
ああ、なるほどね。だから準備とか言ってたのか。そんなイベントもあったな。
「私たちの娘の友達にも声をかけてるから、結構大所帯なんだよ」
その後も、他愛のない雑談をしつつ、テスタロッサさんの車で家まで送ってもらったのだった。
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翌日、ブラドにケガを負わされたアスナ達が入院している病院に行くと、
「え、友達に旅行に誘われてた?」
「うん。1週間後の定期試験終わりの休日を使ってね。旅行っていってもトレーニングもかねてなんだけど……」
「別にいいぞ……ああ……俺もついていかないと魔力が」
「うん三泊四日だから足りなくなると思う」
じゃあ、俺も行ったほうがいいのか。小学生だし、相手も親が同伴しているだろ。旅費はこっちが出すようにすればなんとか行けるはず。1週間前とはいえシーズンじゃない今ならホテルも取れる、よな? ま、カプセルホテルに泊まるようにすればどうにでもなるか……
「ああ、いや、それがね? 問題はそっちじゃないの。お兄ちゃんの週末の時間は空いてるのかってことなの」
「……うん? どういうことだ? もちろん空いてるし、諸々もどうにかするけど」
「じゃあ大丈夫ですね」
「うん。良かったねクロちゃん」
なんかアスナと雪菜も納得してるんだけど。
「今回の旅行先が、相手の親御さんのお友達が経営しているところなんだって。だから旅費とかは全部気にしなくてもいいんだって」
「その辺りはもう伝えてあるんです。先輩には事後承諾になってしまう形になってしまいましたけど」
「でも空いててよかったー。お兄ちゃんのことだからすぐ知らない女の人とデートの約束するか、何かに巻き込まれるから」
正直それは否定できないけど。え、ってか何? 十数人いるけど大丈夫な訳? そんな大きいホテルを個人経営してて、しかもトレーニングできるような設備もあるの?
「……ちなみにその友達って誰だ?」
「え? ヴィヴィオよ? お兄ちゃんもあったことあるでしょ? 金髪でオッドアイの」
そう言う事でしたか……
どうやら、まだまだなのはさん達との縁は途切れないらしい。