「おー、うまいもんだなー」
「武偵の授業でサバイバルの訓練がありましたから」
「あー、あの授業ね。何回もやんないといけないめんどくさいヤツ。1回やれば覚えられるってのに」
「それアリアちゃんだけだと思うよ?」
俺もそう思う。俺は完全記憶能力があったから別だけど、なかったから無理だよ。
椅子に座って偉そうに足を組んでいるアリアは空港で買った、冷えてもおいしい! という謳い文句のももまんをほおばっている。なんでこの娘はBBQの前にそんなものを腹に入れてるんでしょうね?
ちなみに俺たちはBBQの準備のお手伝いをしている。タダで泊めてくれているんだからそれくらいやるのは当然のことだ。もちろんその手のスキルがある人だけだけどね。
しかし人数が多いとはいえ、BBQなら食材の調理はほとんどない。料理スキルを持っている人が総動員で行わなければならないほどの作業ではない。子供達にはそれまで周りで遊んでもらっている。
「こんなに来るからどのくらい準備してればいいのかわからなかったけど、女の子がこんなに多いなんて思わなかったわ~」
「いや、ほんとに申し訳ないです。全然遠慮がなくって……」
「いえいえ。大所帯には慣れているからね~。多少増えたとしても問題ないわよ。もともとがこのくらいの人数が泊まれるところだもの」
隣のバーベキューコンロに火をつけたメガーヌさんとはすっかりと打ち解けることが出来た。
設置されたコンロの数は全部で5つ。これで全部に火をつけたことになる。すでに網も載せられ、準備万端だ。
「メガーヌさん、焼き肉のタレはこっちに置いておきますね」
「ありがとう、アスナちゃん」
アスナが持ってきたのは、市販のものではない。焼肉屋さんにあるような容器に入っている。
「これは自家製のタレなのよ。これもここの売りの1つなのよ」
「へぇ~! そうなんですか!」
売りにするくらいのモノと言われると、どうしても楽しみになってしまう。
「いい匂いがしてきた」
「まだ焼いてないんだけど」
「そこにあるお肉、いいやつだよ」
「お前の嗅覚が怖いよ」
生肉の匂いに反応する耀に少し引いてしまう。
「耀って生肉も食べれたりするわけ?」
「いけないことはないよ。消化器官を肉食獣の奴にすれば、おなかも壊さないし。翔も食べてみる?」
「俺がやったら、旅行の間ずっと寝込んでることになりそう」
いくら何でも生肉を食べる趣味はない。お腹が壊れるくらい食べようっていう意気込みならあるけどね。
「だよねー。私も焼いたほうがおいしいと思うし」
「もう少し待ってろよ。絶対につまみ食いしたりするな」
「あれだけあるんだし、少しくらい良いと思わない?」
「あれだけあっても簡単に無くなりそうなのが怖いんだよ」
何人かめちゃくちゃ食べる奴を知ってるからな。
「誰のことだろうねー」
しらじらしいセリフを吐きつつも、とりあえずつまみ食いをすることはあきらめてくれたらしい。
でも、なんだかんだ言いつつ耀も今回の旅行を楽しんでいるみたいだ。
周囲は少し暗くなってきた。
楽しい時間はすぐそこまで迫っていた。
―――――――――――――――――――――――
「それじゃあみんな、グラスは持った? うん、かんぱ~い!」
「「「「「かんぱ~~い!!」」」」」
キンキンに冷えた飲み物を喉に流し込んだ。この一杯のために生きてるって感じですな。オヤジ臭いか。でも酒を飲めるようになったら絶対言ってみたいセリフだ。
しっかりと温まった網には所狭しと食材が並んでいた。もちろん一番多いのはお肉だ。定番のカルビからタン、ロースから、油の弾ける音が聞こえている。
しかし、しっかりとした大人がこの場にはいる。お肉だけ食べることを許してはくれない。キャベツやトウモロコシ、ピーマンなんかもしっかりとその存在を主張していた。
大人たちの注意が入れば、子供たちもバランスよく食べてくれるだろう。そうでなくてもみんないい子なんだし。
「むっ! そこは私の領地だろう!」
「領地は常に侵略の危険がある。それは歴史が証明している」
「貴様……よりにもよって私にその言葉を使うか……っ」
子供、達なら……良い子なら……。
「やり合うなら相手になる……この金網の上で」
「良いだろう」
いい大人、片方は問題児で片方は黒い方の国の王様。何でそんなに人々のお手本にならないことをしてしまうんでしょうかね!
一瞬オルタから魔力が漏れ出すが、一気に引っ込む。何やら俺たちのうかがい知れないところで通じ合ったらしい。
「ルール無用でやるのか?」
「それだと面白くない。お皿にキープできる食べ物は1つだけ。食べ終わらないと次を取れない」
「良いだろう。私を甘く見たことを後悔するがよい」
「そっちこそ、私を甘く見ないで」
何やら開始早々バトルが始まりそうな予感だ。
「耀さん、オルタさん、少しはしたないと思いますよ?」
と、今度は別の方向からの圧がかかる。『?』に殺気すら込められているな。笑顔で怒っている分、余計に怖い。そしてそれに、
「そうだよ、2人とも。もっとお行儀よく食べなきゃ……ね?」
アスナも加われば、俺だったら震え上がっている。あれ、こんなに暖かいのに鳥肌が立ってきたぞ……? 2人ともすっかりと俺たちのオカンになっている。
「翔君? 翔君も見てないで何か言ってよ」
「ああ、うん、そうね。2人とも、たくさんあるんだし、ゆっくり食べていこうぜ。肉は逃げたりしないんだしさ」
「甘いよ、翔。たくさんあるってことは無限にあるってことじゃない。ここで負けるわけにはいかないの……ッ」
良いセリフ風に言っても駄目だから。お行儀が悪いのは変わらないから。や、まあマナーというか、モラル的なことを考えると、俺(複数の女の子と関係を持っている、内1人は小学生)が何か言える立場にはないんだけど。
「というか、アルトリアは参加しないんだな」
「食事はしっかりと味わわなければ。作ってくれた方への礼儀ですからね。これは少々ジャンクなものではありますが、たまにはいいですね」
アルトリアは意外にも上品に食べ進めていた。ま、食への考え方が違うからな。
「そうそう、ご飯を食べたら、温泉があるからね。みんなで入れるくらいの露天風呂があるから、ゆっくりとしてね」
「そんなに大きな露天風呂があるんですか!?」
「でも、前来たときはそんなに大きくなかったよね……?」
「そもそも、お風呂も温泉ではなかったような……」
20数人が入れるくらいの露天風呂となると、なかなかの規模だ。そんなもんをそう簡単に?
「温泉は掘ったら出てきたわ」
「んなアホな」
俺は脱力してツッコムがルーテシアの舌の回転は止まらない。
「ふふふ……みんなが来るって話だったからね! 私が気合を入れて改造したんだよ!」
ルーテシアが誇らしげに胸を張る。ヴィヴィオちゃんたちは口々に褒め称えている。実際にすごいことだ。おそらく召喚獣の力を借りたんだろうけど、その年でそこまでのモノを作ってしまえるとは。ルーテシアの腕の高さがうかがえる。
しかし、ルーテシアのターンはまだ終わりではなかった。
「まだまだ! 今回力を入れたのはそれだけじゃないよ! このオフトレーニング企画も今年で3回目……ずっと持ち込みの簡単な道具しかなかったことを私は不満に思っていたの……」
「あ、そうだったんだ」
おそらくトレーニングのメニューを考えているだろうなのはさんが、小声で漏らす。
「そうなんです! だから私―――」
一瞬溜めて、
「―――レイヤー建造物で訓練用の街を丸ごと作っちゃったんです!」
「規模が違う!」
それもうただの改造ちゃうやろ。改造の前に『魔』を入れないとだろ。魔改造だろ。
「結界で拡張した空間に、これまた魔力で編んだ建物だから、プログラム次第でありとあらゆる災害現場や建物を再現可能! さらには自然を利用したアスレチックフィールドで、単純なフィジカルトレーニングもカバー!」
「それ、俺たちが帰った後も使えるのか?」
オリン〇ックが終わった後の競技場みたいにならない?
「ついでに宿泊ロッジも外装、内装共にパワーアップさせたわ!」
「むしろそれが本命だろ!」
あなた何で本業を忘れちゃってるんですかね! むしろそれが一番大切でしょ!
「ふんふん、なるほど……確かにその設備があれば明日の訓練の内容ももう少し凝ったものにできそうかも……」
こっちはこっちで、高町さんの教導魂に火が付いてるし。食事を止めてデバイスを広げているなのはさんはすっかりと仕事モードになっている。
「そういえば、先輩は明日は訓練に参加されるんですか?」
「あー、そういえば考えてなかったな」
雪菜に言われ、俺は首をかしげる。あくまで特務六課に所属している人がトレーニングをするため、俺が参加する必要は無い。正直言うと休む気満々で来たからなぁ。トレーニングはしなくてもいいんだけど。
「雪菜は参加するのか?」
「はい、ご迷惑でなければ……」
「もちろん大歓迎だよ! 人数が多い方がやれることも増えるからね!」
「えー! お兄ちゃんは私たちと一緒に遊ぶんだよね! ね!」
「そうですよ! お兄さんと遊ぶことも楽しみにしてたんですから!」
「いろいろとお話聞きたいです!」
「クロってば、学校じゃお兄ちゃんの話ばっかりしてるんですよ!」
クロがすかさず俺の手を握ってぶんぶんしてきた。そしてクロが俺のことをどんなふうにしゃべっているのか、ヴィヴィオちゃん達も元気いっぱいに受け入れてくれている。
俺は小声で尋ねる。
「おいクロ、みんなになんて言ってるんだよ」
「え? 今まで解決してきた事件のことだよ? 聖天子様の暗殺を防いだり、ブラド逮捕にかかわってるって事とか」
おかしい。興味をもたれることしか話されていない。まあでも、そう言う事ならね。俺としてはお話しすることはやぶさかではないと言いますか。
「翔さん、私も一緒に遊びたい、です」
俺の服の袖を握り、控えめに自己主張したティナが止めになった。
「よし! 明日はみんなで遊ぼう!」
「「「「「やったーーー!!!」」」」」
あのティナに! こんな風に頼まれたら誰でもこうなっちゃうよな! 俺が悪いんじゃないんだよ。ティナが可愛すぎるのが悪いんだ!
「先輩がそっちに行くなら私もそうしようかな……」
「私もヴィヴィオさんに誘われているので」
綺凛とアインハルトも心が揺れ動いているようだ。
「へぇ~……」
「はっ!」
周りからの冷たい視線が!
「ア、 アリアさん……?」
「何かしら、翔?」
「怒ってらっしゃいますか?」
「あら、そう見えるのかしら?」
むしろそうとしか見えないよ。なんでその緋色のツインテールはゆらゆらと揺れているんですか? あなたそんな超能力使えましたっけ?
そしてその背後に控える、雪菜、アスナ、桜、理子、狂三。
「最低です、先輩」
「ロリコン」
「許せないです」
「むしろ、ロリ巨乳とか、需要合ったりする? それともアリアみたいなペッタンコがいい?」
「理子、アンタケンカ売ってんの?」
「あらあら、わたくし達と一緒に汗を流すという選択肢を、翔さんは放棄してしまわれるというのですか? 悲しいですわ、胸が張り裂けてしまいそうですわ……」
一部面白がっている奴がいるな。っていうか、みんな訓練に参加するつもりなのか? 別に強制参加ではないんだけど……
「翔? 余計なことは考えない」
「はい」
「とりあえず、正座しようか?」
「わかりました」
俺はおとなしく座った。
冷たい視線にさらされた結果、午前は子供たちと遊び、午後は訓練に参加する運びになったのだった。
―――――――――――――――――――――――
「何と言いますか、すごいですね向こうは」
「にゃはは、そうだよね、あれが若さなのかなー」
正座させられ、何人もの女の子に囲まれている翔を見て、ティアナはそんな言葉を漏らした。
「みんな分かりやすくて……うぅ、こうなるなら、私も少しくらいは経験しておくべきだったなぁ……はぁ、出会いが欲しいです」
「そんなこと言ったら私もおんなじだよ~。そんなこと考えてる暇なんて全然ないんだから」
「2人とも、まだまだ若いのに何言ってるの?」
メガーヌはくすくすと笑いながら、新しくお肉を網の上に置いた。関係の無いところで繰り広げられている大食い対決のためだ。その2人は全く変わらないペースで食べ続けている。
なのはもティアナも、ずっと仕事に時間を割いてきたため、多くの少年少女が経験するような『青春』というものを経験しないでいた。そのおかげでなのはは管理局の『エース・オブ・エース』、ティアナは難関である管理局執務官の試験に合格するという快挙を成し遂げていた。犠牲にしたものは大きかったが。
「仕事もいいけど、そっちもおろそかにすると後悔しちゃうわよ? 女の輝ける期間は短いんだから」
「その仕事が問題なんですよ! 忙しくてそれどころじゃなくて……周りにいい人もいませんし……」
「私も仕事は色々調整はしているんですけれど、ヴィヴィオのこともありますし……それに、お付き合いしてもしも結婚ってなった時は、フェイトちゃんと一緒に暮らせなくなっちゃいますからね」
ティアナは意気消沈、なのはもあいまいに笑う。
「何話してるの、ティア?」
声の主はスバルだ。昔から女性とは思えないくらいの大食漢である彼女は、今日のバーベキューでも張り切って食べまくっていた。数年前なら耀やオルタのように競うように食らいついていたかもしれないが、今日はそこまではしたないことはしていなかった。それでも両手に持った皿には山盛りだったが。
「あんたはいいわねぇ、色気より食い気で」
「ちょっと! そんなことないよ!」
「え、誰かいい人でもいるってこと……!?」
「や、そう言う事じゃないけど」
「なーんだ」
まさか抜け駆けの伏兵の裏切りがあったのかと疑ったティアナだったが、そんなことはなかったらしい。伊達に親友をしているわけではないのだ。
そして親友と言えば、
「フェイトちゃんはどんな感じ? 誰かいい人いたりする」
「私よりも忙しいフェイトさんがいたらびっくりですよ」
「えー、ティアそんなに彼氏欲しいのー? 私わかんないな」
「……あんただって、お父さんに孫の顔見せたいとか思わないわけ?」
相変わらず肉を食べ続けるスバル。だが、それより前に呼ばれたフェイトが反応しない。見てみると、箸がほとんど汚れていない。飲み物も最初の一口しか口にしていないようだ。
「フェイトちゃん?」
「ぇ、ぁ! な、なに、なのは」
「ちょっと疲れてる? ぼーっとしてた?」
「あー、だったら今日は早めに寝たほうがいいかもしれないですね。明日のトレーニングもありますし」
なのはとティアナが心配するが、フェイトは慌てて首を横に振った。
「全然大丈夫だよ! それで、何のお話してたの?」
「……そう? だったらいいけど。それでね―――」
そんなお話もありつつ、夜は更けていく。