「はぁ、こうしてみると感慨深いもんだね。復讐を誓ってここまで来るのは長かったっていうのに、終わりはこんなにもあっけないものだなんてね」
「げほっ……ぁ、っ……っ!」
ヤミはほとんど抵抗することが出来なかった。形だけは戦いになっていたが、実際はプロレスのようにシナリオが決まったお遊びだ。
アゼンダの言う通り、この世界の支配権は完全に握られていた。
着ていた服はすでにボロ布になってしまっている。これを着て外を出歩くことは出来ないだろう。
体の至る所に擦過傷と、鞭で打たれ、めくれあがった生々しい傷が刻まれている。内臓を狙ったヴィヴィオの打撃も、目には見えないが、深刻なダメージを与えていた。
「それで、どうだったんだい? 表の世界での暮らしっていうのは」
「……」
ベンチに立ったヴィヴィオに後ろから羽交い絞めにされ、力なく項垂れていたヤミはその言葉に返すだけの余力は残されていなかった。
「ガキのオトモダチができて、学校に行って、男と一緒に暮らして、ずいぶん楽しかったみたいだなぁ?」
そのいくつかには反論の言葉をぶつけたいヤミだったが、言ったところでアゼンダを喜ばせるだけだ。
「それで、本当のところはどうなんだよ」
「……」
「さっきは違うって言ってたけどよぉ。男と一緒に暮らしてて、何もないっていうのは。どうなんだ、それ。芸能人が女とホテルに行って何もしてないって言うのと同じくらい、説得力ないと思わねぇか?」
そんなことを言われても、本当に何も無いものは無いのだ。
女性だからか、そういう方面での屈辱も与えたいと思っているのか。
一向に反応のないヤミを面白くなさそうに、眺めるアゼンダの手が動いた。
無残に破かれてしまったヤミの服、その胸元だ。手のひらに収まるサイズのおっぱいを無遠慮に弄ぶ。
甘い刺激などない。嫌悪感で鳥肌が立ってくる。
「っ」
「あの年の坊やなら、お前の体でも十分におっ勃つだろうしなあ」
何も言えないでいるヤミに変わり、口を挟む者がいた。
「貴方にはわからないよ、おばさん」
「……なんだと小娘」
「貴方には、わからないって言ったの、おばさん」
「よ、耀ちゃん! 止めなさい!」
息も絶え絶え、顔も真っ青な耀が顔をあげて、皮肉めいた表情を作る。顔のパーツはぎこちなく、無理して作られたものであることはすぐに分かってしまう。
しかし、この世界の絶対支配者であるアゼンダにとっては、耐えがたいものだった。
「ヤミのこと、妬む気持ちはわかるけど、あなたには絶対、足りないものが、ある、から」
「へぇ? それは何だい」
「若さ」
アゼンダの瞳孔が開く。静かな怒りという言葉が、ここまで似合う人はいない。
「別に、動くなとは言われてるけど、しゃべるなとは、言われてない……っ。悲鳴とか、『やめて』とか、言ってほしかったなら、期待に沿えなかったみたい、だけど……っ」
「殺す」
アゼンダの袖から、ナイフが飛び出す。あまり使われていないのか、既製品のままこぎれいな光を放っている。小さく、最低限の機能しか持っていない刃物だ。最低限、人の命を奪う機能だけは持っている。
(ヤミ、まだ余力は残してるよね。ヴィヴィオも離れてる。今ならいけるはずだよ)
(全く無茶なことを言ってくれますね。ですが、やるしか……)
アゼンダはしょせんレベル3。ヤミが躊躇していなければ、制圧することは容易かった。アゼンダに余裕があったように見えても、実際には精密な能力操作をしていた。
耀に気を取られ、しかも頭に血が上っている状態なら、とっさの操作ではヤミを止めることはできないだろう。
しかし唯一にして、最後の逆転のチャンスだ。文字通り、命を懸けて作りだした最後のチャンス。
アゼンダはゆっくりと2人に歩いていく。
「どうやら、お前は先に死にたいらしいねぇ。残念ながら、お前の命なんざなくなってもいいんだよ?」
アゼンダは本気だ。
ヤミは体に力を入れ始める。ヴィヴィオの拘束は硬いが、力を入れ始めているというのに、特に警戒する様子はない。一度振りほどけば、棒立ちになるのは間違いない。
(行きますッ!!)
「言っておくが!」
アゼンダの声で、動きかけていたヤミの体が固まる。
「もしも私に攻撃しようとしたらその瞬間、ガキどもは自殺するようにしてある。背中から襲い掛かろうなんて考えないことだな」
「ッ!」
アゼンダも裏で殺し屋をしていた女だ。その程度の準備は当然していた。暗殺者にとって、不意打ちなんて想定してしかるべきものだ。いつも自分がしているのだから。
「何だい、その顔は。図星を突かれて固まっちまったのかい?」
顔を歪めて笑うアゼンダに、耀は何も言い返せない。
軽く振ったナイフが、光をきらりと反射した。
―――――――――――――――――――
赤毛の襲撃者の凶刃は、何のためらいもなく俺の急所を狙ってくる。
ACT3の爪弾を後ろに放つ。着弾と同時に体が吸い込まれ、回転の穴に避難する。
とりあえず、この場で戦い続けるのはマズイッ! やる気満々で対峙したのはいいが、こんなに人がいる場所で戦ったら、周りの人を巻き込まない自信がない。
「そんなこともできるんだ!」
無邪気な子供のような声が、穴の外から聞こえてくる。
子供がアリの巣に指を突っ込んで遊ぶように、穴の中に何かを入れようとしている。しかし無駄だ。回転の穴の中にはどんなものだろうと侵入することはできないッ!
「わっ、髪の毛が巻き込まれちゃった! これは聞いてなかったなぁ」
そうしているうちに、俺の準備が完了する。
「
取り込んだ魔力が体中に充填される。
「
風と雷の術式兵装。サーヴァントにだろうと追従できる俺の戦闘形態だ。
穴から飛び出した俺は少女と向かい合う。
「私でもわかるよ。その力、相当危ないよね。その力も知らないよ」
「教えた覚えはないからな」
そんなセリフを吐く少女の顔は狂気的な笑みに染まっていた。今が楽しくてしょうがないというように。
彼女の長い三つ編みおさげが、重力に逆らって動く。髪の毛が変形し、巨大なバスターライフルになった。体の一部を変形させる能力。その現象には、見覚えがあった。
「
銃口から光が溢れる。発射されるのは鉛玉ではなく、エネルギー弾だ。一発で、鉛玉以上の範囲を焼き払うことができる。
「これだから……ッ!!」
周りのことを考えないヤツは困るッ!
俺の後ろには、ようやく事態を把握し始めたお客さんが集まってきてしまっている。せめて逃げてくれれば良いのに……っ!
しかし射線に入ってしまっている以上、守るしかない。
「ハァッ!」
「パンチで相殺!? すごいね!」
午前中に練習した水斬りの踏み込みを応用した打撃だ。全身を使い、さらに魔力を飛ばす。『飛ぶ斬撃』ならぬ『飛ぶ拳』ってところだな。まだ連射はできないが。
俺達の攻撃はお互いに相殺して、空気が震えた。入り口のガラスにヒビが入る。
ようやく事態を飲み込み始めた他のお客さんが、我先にと逃げ始めた。慌てる大人の波に飲み込まれたせいで、お年寄りや子供の中には転んでしまっている人もいる。出来ればもっと早くに逃げてほしかったところだ。
また周りを巻き込んだ攻撃をしてもらっても困る。俺は近接格闘に持ち込む。
目の前の少女の攻撃は苛烈だった。武器を使っているわけでもないのに、俺と張り合っている。
身体を武器に変化させないのは俺に合わせているのだろうか。お互いの拳、足蹴りが掠り、肌が切れる。拮抗しているように見えて、俺は完全記憶能力でどんどん学習している。
それに、今、術式兵装で装填している魔法を開放すれば、即座に大魔法を叩きつけることも可能だ。
そして使っていない武器もある。まだまだ底を見せるつもりはない。
そしてそれは少女も同じだろう。楽しんではいるが全力ではない。
このままではただ長引くだけ、プライベートならまだ良いが、仲間がピンチかもしれないこの状況。俺は均衡を破り捨てる。
「
俺の陰から飛び出した黒い鳥が、少女の攻撃を受け止める。
俺が能力を使ったことが合図だったのか、少女のおさげが大きく動いた。先は鋭利な刃物になっている。
体を横にずらすことでよける。
目の前には先ほどおさげを変身させたのと同じタイプの、銃身を切り詰めたタイプのライフルが突き出されていた。
ACT3の回転に潜ることで回避する。
「
穴から空中に向けて飛び出した俺は、魔法の矢を番える。これは『魔法先生ネギま!』の魔法学校で唯一教わる基礎的な攻撃魔法。
雷、風、炎、氷、光、闇などの精霊を使役し、破壊や拘束などの効果を持つ魔力の矢を放つというものだ。
今回使うのは捕縛を目的とした『風』属性の矢だ。殺傷力はほとんどないため、全力で当てにいく。
しかし、相手から見れば、魔法を使おうとしているのは変わりない。当然反撃が来る。
今度はおさげが巨大な手に変形する。転がっていたカートを恐ろしい速度でブン投げてきた。
目標を外した魔法の射手は霧散してしまう。
殺傷力のない風属性の矢では、飛んでくるカートを止めることはできない。
再び魔法の射手を発動。今度は純粋な破壊の力を持つ光属性の矢だ。周りに浮かぶ計七つの光球。拳とともに前に打ち出した。
「桜華崩拳ッ!」
水斬りバージョンだ。
魔法の射手の威力は、だいたいその人の全力パンチと同程度。矢を束ねて打つことで倍以上の打撃力になる。
カートは真ん中からひしゃげ、バラバラになってしまった。
距離が離れたことで、お互いに間合いを図る。
が、ここで、少女から殺気が消えてしまった。
「なるほどね。このくらいでいいかな」
「なに? 逃げるのか」
「本当はもっと戦っていたいんだけどね。他にもやることがあるから、お姉ちゃんがどうなっているのかも見ておきたいし。そろそろ行くね?」
「みすみす見逃すわけないだろ。お前の仲間の能力についても、しゃべってもらわないといけないんだからな」
当然逃がすつもりはない。
「だったら、私にかまってる暇なんてないと思うよ? 私たち、別に何か作戦を立ててるわけじゃないから。他の人が何やってるのかなんて知らないもん」
「なんだと?」
でも、それはそれで納得できる。この娘が俺の予想している通りなら、そんな『仲間』なんて作ろうとは思わないだろう。
「だから、ちょっとだけヒント出そうかな……鏡、だよ」
「鏡……」
「その顔、ナニか思い当たるものがあるみたいだね」
鏡といえば、考えられるスタンドはある。そして予想が当たっていた場合、相当危険な状態になっている上に、俺からは手が出せない。しかし安易にスタンドだと考えるのは危険か……?
「おい! あっ!」
もっと情報を聞き出そうと少女に声をかけようとして―――すでにいなくなっていることに気が付いた。
しまった。あの子がいなくなってるっ!! 戦いの最中に目を逸らすなんて、間抜けなことをしてしまった。
「とりあえず、連絡を……」
ロッジにいる雪菜たちと連絡を取った。みんな驚いた様子で、すぐにこっちに来ると言っている。お店の人にも話し、中にいる人たちには避難してもらうことになった。
「でも、待っている時間はない」
皆は現在進行形で襲われているんだ。それに申し訳ないが、人が何人集まったところで、この敵には対処出来ない可能性がある。
いったいどうすればいいか。
原作でも倒せたのが奇跡みたいなやつだ。
悩みこんでいると、1人の人物が姿を現した。
「お困りかな、我が魔王」
「今日は、よくフードの奴に会うな」
俺が皮肉ったからか、男はフードを取る。
顔は整っているが、どうしても胡散臭さが抜けない青年だ。この状況で悠然と現れたこいつが、一般人ではないことはすぐに分かった。
「誰だよ、あんた」
「私の名はウォズ。未来の君が送り込んだ、忠実なるしもべだ」
「み、未來の俺は、とうとう男色に目覚めたのか……ッ!」
そんな、女の子に囲まれすぎて、とうとうそっちまで……? あまりにも衝撃的な事実に状況も忘れて軽く絶望してしまう。
「そんなことはどうでも良い」
「いや、良くはないんだけど」
「重要かもしれないが、今はそれ以上にやらなければならないことがあるはずだ」
「っ! お前が、どうにか出来るってことか?」
「ふむ……」
ウォズと名乗った男は、持っていた分厚い本を開いた。
「それは?」
「未来の君が書いた、未来を変えるための計画書だ」
「わざわざそんな包装したのか……」
立派なハードカバー、表紙には歯車と時計がちりばめられているデザインだ。
ウォズの目が上下に動く。本に記された記述を確認しているのだろう。やがて顔を上げ、本を勢い良く閉じた。
「残念ながら、私が直接手助け出来ることは無いようだ。この事件を解決するのはあくまで君の仕事。元々、今回はこれを渡しに来たのだから」
ウォズは跪き、どこからか小さく赤い、金の刺繡が入ったクッションを取り出していた。その上に乗っているのは、ベルトのバックルだった。色こそ違うが、その形には見覚えがある。前に未来から来た俺が変身していた仮面ライダー、そいつのベルトだ。
「お前、本当に……」
「ウォッチはすでに、あなたは持っているはずだ。手に入れているはずだ」
懐から取り出す。懐中時計にしては厚みがあり、2018と書かれている。昨日の行為の結果手に入れた物だったが、使い方はわからなかった。だが、底知れない力を感じる。これがそうなんだろう。
「私を信じるのか、どうか。今ここで決めていただきたい」
「このライダーになれば、この状況を打開できるのか?」
「貴方はすべてを手にする。すべてを取り戻すために戦っている。あなたはこの力で―――魔王になる」
質問の答えにはなっていなかった。しかし、俺は迷いなくベルトを手に取っていた。疑う必要はない。
バックルを腰に当てると、ベルトとして装着される。
ウォッチの絵柄を合わせると、複眼が『ライダー』という、奇抜なデザインの絵が完成した。
《ZI-O!》
ウォッチをベルトにセットする。
背後に巨大な時計が現れる。ジオウ、時王、か。このライダーのこと、俺は知らない。俺が元の世界にいたときは、TVではビルドがやっていた。
その次の仮面ライダーは平成仮面ライダー20周年記念作品。元号が変わることも決まっていたから、平成に始まる最後のライダーということになる。
それがどういう意味なのか、回したバックルが1回転するまで、ずっと考えていた。
「変身」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
「祝え!! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ! まさに生誕の瞬間であるッ!!」