感極まったウォズの祝詞が人のいない室内に響き渡った。
「仮面ライダー、ジオウ……」
聞いたことのない名前と姿だった。未来の俺の変身していたライダーを少し簡素にした姿といったところだろうか。おそらくこれが初期形態なのだ。
名前についても色々と推察できる。ジオウ、つまり『時』間の『王』だ。
「そしてこれも、私からの贈り物だ」
ウォズからさらに手渡される。俺が持っていた『ウォッチ』と同じ形状のものだ。同じように回転させると、今度は見たことのある絵柄―――仮面ライダー龍騎の顔―――にそろう。
《RYUKI》
これを見てわからないほど、俺の察しは悪くない。すべての情報を総合して考えると、このライダーはディケイドのように他の仮面ライダーへと変身できる力があるんだろう。
仮面ライダー龍騎は、ミラーワールドと呼ばれる鏡の中にある世界で戦うライダーだ。
あの少女が残した『鏡』というキーワード。この力を使えば、今回の事件を解決できるはずだ。
俺は今はめていたジオウのウォッチを外して―――
「ん? いや、そうではない。反対側の空いているほうに取り付けるのだ」
「あ、そうでしたか」
ウォズの言う通り、反対側に装填する。待機音が鳴り始め、一回転。
《ARMOR TIME!》
《ADVENT RYUKI!》
「おぅ」
目の前に現れたのは、ツギハギの装甲だった。それが龍騎の各部分をモチーフにしていることはわかった。これを装着するんだろうけど、どうすれば……
指先で触った瞬間、アーマーはそこかしこに飛び散った。俺の体に吸い寄せられるように、体の各部に装着されていく。
近くにあった鏡を見ると、俺の姿は大きく変わっていた。『アーマータイム』の名の通り、龍騎を模した装甲をさらに上に装着する形で変化するライダーのようだ。複眼部分には『リュウキ』と書かれている。
「ふむ。今回の私の出番はこれで終わりのようだ。それでは、また会おう、我が魔王」
「は? ちょ……っと」
ウォズは言いたいことだけ言って、姿を消した。聞きたいことは山ほどあったが、今はそれ以上にやらなければならないことがあった。
「っし、行くか」
鏡の世界にな。
鏡に触れると、体が吸い込まれ、吐き出された。そこは何の変哲もない世界……ではない。目に入る文字や物体が反転したミラーワールドだ。
鏡を使った能力、ここまでおぜん立てされれば、敵の能力の正体は『マン・イン・ザ・ミラー』だという予想はすぐに立てられる。
そしてその予想が正しかった場合、みんなの命が危ない。多少の強敵のほうがまだ安心できる。
ミラーワールドは危険な場所だ。人間を捕食するモンスターがいたり、そもそも生身で長い時間ミラーワールドにいると消滅してしまう。しかし一番の問題は、ミラーワールドと、マン・イン・ザ・ミラーの鏡の世界が共通しているのかということだ。
せっかく鏡の世界に入ることが出来たとしても、それが別の世界では意味がない。
だが、それもすぐに杞憂に終わった。
見付けたのだ。見たことのない男に銃口を向けられる、テスタロッサさんの姿が。肩からは血が流れ、抵抗する様子はない。いや、出来ないのだ。
今の彼女はおそらく魔法を使えない一般人に等しい。
向けられた銃口はいつ火を噴いてもおかしくない。や、もうすでに引き金が引かれているッ! 視界がスローモーションになるが……
クソッ! 流石に間に合わない―――!
《ジカンギレード! ジュウ!》
何かを読み取ったのか、ベルトから武器が飛び出してくる。武器自体にでかでかと『ジュウ』という文字が刻まれている。
ゆっくりになった世界で、俺の手は滑らかに動いていた。
ガキュンッ!!
「「ッ!?」」
久々の
銃弾は見事に逸らされ、銃が破壊される。
男の行動は早かった。俺のことを一瞥すると、すぐさま逃亡を開始した。
「クソッ!! 話が違うぞ! この世界は絶対に安全なんじゃないのか!?」
とっ捕まえてやりたいのはやまやまだったが、この場に負傷したテスタロッサさんを残していくわけにはいかない。
「フェイトさん! 大丈夫ですか!?」
「え、ぁ、き、君、もしかして、夜月君!?」
「はい。助けに来ました」
俺は一瞬ためらったが、警戒を解くためにも変身を解除した。俺の顔を見ると、体から緊張を解いた。
「良かった……っ、違う! ヴィヴィオが!」
「ヴィヴィオちゃんも、ここにいるんですか!?」
「わからないけど、あの男が言うにはもう捕まえてあるって……」
横に寝かせる。話を聞きつつも処置を開始する。治癒系の能力は持っていないので、学校で習った応急処置だ。
外に送り届けるべきだろうか……いや、あの男を逃がしてしまった以上、いつ襲われるのかわからない。一緒に来てもらうべきだろう。
「少し我慢しててください、フェイトさん。高町さんたちが来たら、すぐに病院に送りますから。
「ホイヨ」
「わっ! あ、ありがとう」
「乗り心地は期待しないでください」
「オイ! 丁重ニ運ブカラナ!」
「こんな能力もあるんだね……」
俺達はこの世界の捜査を開始した。今回はいろいろと時間をかけすぎた。相手が始めから効率よく殺すつもりでいたのなら、犠牲者が出ていてもおかしくない状況だ。
ヴィヴィオちゃんが捕まっているとすると、最悪ケガではすまないかもしれない。
「そういえば、呼び方変わったね?」
「あ、申し訳ないです……」
基本的にテスタロッサではなくフェイトで頭にインプットされていたため、焦ってそっちが出てしまっていた。大人の人を『さん』付けをしているとはいえ名前で呼ぶなんて、あまりあることではない。
「別にいいよ? そっちのほうが呼びやすいんでしょ?」
「じゃあ、そうする、かもしれないです」
「どっちなの?」
おかしそうに笑うフェイトさん。こんな非日常の世界だが、その程度のことは出来るようになったらしい。
とりあえず向かったのはメガーヌさんや耀と別れた場所。誰もいないし何もない。そこからはがむしゃらに探していると、空気を切り裂く音が聞こえてきた。
「「ッ!?」」
ここまで響いてくる、乾いた鞭の音だ。
「行ってきます!
「気を付けて!」
俺は、爪弾の移動能力を使って、上の階に移動した。
「いたな……」
メガーヌさん、ルーテシア、ヴィヴィオちゃん、耀、ヤミ。それに加えて見慣れない褐色の美女が1人。見た目からおそらく『Toloveる ダークネス』のキャラクター、暴虐のアゼンタだろう。こいつが今回の敵だったのか。
ヴィヴィオちゃんとルーテシアは虚ろな目をしている。アゼンダの能力で操られているのだろう。
ルーテシアの首元にはナイフが添えられ、ヴィヴィオはボロボロになったヤミを抱えている。ヤミはケガとはだけた衣類という、2つの意味で直視していられない格好になっている。
メガーヌさんと耀は少し離れた場所にいる。遠目からもわかるくらい耀の顔色が悪い。
アゼンダはそんな2人の前にいた。絶対的優位者の顔だった。睨みを利かせるようだが、それが虚勢であることはすぐに分かった。メガーヌさんは必死に耀をかばっている。
「こうも毎回タイミングがいいなんてなッ!」
しかし、そういうのは大歓迎だ!
「やめろッ!」
「ッ! 翔……!?」
「夜月 翔……どうしてここに……」
「テメェは金色の死神と一緒にいた……あの女、どういうつもりだァ……?」
大声を出すことで、全員の気を引いた。
「一つの賭けだったけど、今日はツいてるみたいだな。いや、旅行先で襲われたと考えれば、運はトントンになったってところか?」
「……ふん、悪運なのは変わりないけどね。連れの女を見つけられて舞い上がってるところ悪いけど、何一つ状況は変わってないんだよッ!」
「マン・イン・ザ・ミラーか」
「……ッ! よ、よく知ってるじゃないか。あの女が固執してた意味が、少しだけ分かった気がするよ。でもね、それを知っているなら、ここに入ってきた時点で負けてるっていうことも理解出来るんじゃないのかい?」
体の中にある異能力―――『スタンド』、『個性』、『闇の魔法』、その他の武器が使えなくなっている。
「魔力だけじゃあない! 超能力、魔術、もちろん銃も刃物も! 部屋の隅々まで掃除するみたいにな! 掃除し忘れている部分なんてない! 今のお前はただの一般人になっているんだよぉ!」
この世界にある魔法、魔術、超能力、それらに含まれないレアスキルは当然のこと、アゼンダ自身も持つ新種の能力であるスタンドまでもが見事に除外されている。
通信機器やデバイスも同じく、だ。
「と、思っているのかもしれないが」
俺はスタンドでこの世界に来たわけではない。龍騎の力を使って侵入してきたのだ。能力は何一つ制限されていない。
「そんなことは、お前がよくわかってるんじゃないのか? 俺はお前にここに引きずり込まれたわけじゃないってことは」
「ッ!! そんなわけがない! この世界は私の世界なんだッ!! 私が絶対のルールで―――王様なんだよ。わかっているのかい!?」
《Dual ガッシャット!》
《The strongest fist What's the next stage?》
「MAX大変身」
《ガッチャーン! マザル up!》
《赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! PERFECT KNOCK OUT!》
武器などいらない。みんなをここまで痛めつけていた奴は自分の手で殴り飛ばさなければ気が済まない。
暴虐のアゼンタは念動力と鞭の使い手ッ! 状況を見る限り、それは全く変わっていないッ!
「う、動くなッ! ガキを殺す―――」
《鋼鉄化》
言われる前に、ヴィヴィオとルーテシアに鋼鉄化のエナジーシステムを放り込む。効果があるうちは、普通のナイフ程度は通らない。
「これで決まりだッ!!」
《ウラワザ!》
《KNOCK OUT CRITICALSMASH!》
「でっ、出ていきやがれぇェェェ! マン・イン・ザ・ミラーッ! こいつをここから追い出すんだァァァァァッ!!」
スズメの涙ほどの効果もない念動力の拘束を引きちぎり、アゼンダに迫る。
アゼンダは最後の抵抗を見せる。しかし最も効果のある抵抗だった。この世界から追い出されれば、二度とみんなを救出するチャンスは訪れないだろう。
掃除機に吸い込まれるように、床に落ちているピカピカに磨かれたナイフに、体が吸い込まれていく。スタンドに引き込まれていなくても、追い出すことは出来るらしい。
こればっかりは、気合でどうにか出来るものではない。
《伸縮》
さらにエナジーアイテムを使用。
炎をまとった拳が、ゴムのように伸びた。鋭角に螺旋を描きながら曲がる俺の拳は――――アゼンダの頬をぶち抜いた。壁にたたきつけられるアゼンダは完全に白目をむき、気を失っていた。
それと同時に、世界にも変化が訪れる。
気が付いた時には、全員揃って元の世界に戻っていた。
周りには人がいない。
アゼンダが気を失ったことで、ヴィヴィオたちを操っていた能力が解けたようだ。そのまま気を失った。
「ありがとう、翔。助かった」
「体調は元に戻ったみたいだな」
数秒前まで人に背負われてぐったりとしていた耀だったが、すでに自らの足で立てるほどに回復していたらしい。
「ううん、まだかな」
「まだ? 何処か怪我したのか?」
「うん。もうフラフラだから。おんぶしてみんなのところまで連れて行って?」
「メガーヌさーん」
ケロッとした顔でよく言うな、お前は。
「ごめんね? 私にはルーテシアがいるから」
「ルーテシアは俺が運ぶので」
「あはは、冗談がきついわよ?」
変身を解いてヤミのもとへ向かう。
「ほら、羽織っておけって」
「……はい」
俺はその辺から適当に持ってきた上着をヤミに渡した。ヤミの着ていた服はズタボロだったからな。
流石のヤミもいつもの憎まれ口は叩かない。素直に受け取ってくれる。お礼の言葉はないけど。その代わり気を失ったヴィヴィオを抱いて、唇をかみしめている。今回のことについて、何か思うことがあるんだろう。
ここで何か言っても、逆効果になるだけだろう。
こうして、襲撃は終わりを迎えたのだった。
感想でオーマジオウのことについて色々聞かれてるんですけれど、番外編で書いたりしようかなーなんて考えています。
思えば『お気に入り○○人突破』とか、『100話突破』とかの記念を全然祝っていませんでしたし。