※この作品はR-18です。

異世界ハーレム奮闘記   作:文房具

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転校生の目的

ヤミは真面目に授業を受けていた。

 

ノートを広げ、ペンを持ち、必要なことをメモしていく。受けている授業は『要人護衛学Ⅱ』。ヤミの目的に沿った授業だ。

 

場所は視聴覚室。大学の講義室のように席が段になって配置されている。特に座席が指定されているわけではないので、生徒は互いに間隔をあけて座っているが、その顔は皆真剣だ。

 

照明は落とされ、黒板付近に設置された巨大なスクリーンに映像が映し出されている。映像では具体的なケースや場面が紹介されている。

 

今まで襲撃する側だったヤミにとって、その知識はどれも新鮮だった。

 

今回は一般的な銃火器への対処方法しか紹介されていないが、次回以降で能力者の対処法についても学べる。

 

目標のためにも、しっかりと集中して授業を受けたいヤミだったが、どうしても気になってしまうものがあった。

 

「……」

 

昼食が終わり、いったんアスナたちと別れてから、ずっと付きまとっている気配があったのだ。

 

しかし、何かを仕掛けてくる気配はない。殺気どころか敵意すらない。復讐のためにこちらを観察しているというわけでもないらしい。本当にただ『見ている』だけだ。

 

(いったい何が目的なんですか……?)

 

考えてもわからない。

 

結局、時間いっぱいに考えてもわからないままだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あ、ヤミちゃん!」

「……」

 

授業が終わり、ヤミはアスナ、狂三と合流した。アリアと理子は裁判関係の別件だ。時間が微妙に合わなかったため、一緒になるのはヤミのテスト終わりになる。

 

「ずっと見られています」

「それは例の?」

「何かされたんですの?」

「特に何も。ただ見てくるだけです」

 

向こうが手を出してこないうちは、下手なことは出来ない。生徒同士の殴り合いはしょっちゅうだと言っても、教師の前でやれば止められるのだ。道徳ではなくうるさいという理由で。

 

「時間がありません。行きましょう」

 

あいも変わらず視線は追いかけてくるが、時間に遅れるわけにはいかない。

 

武偵高の教師など、そのほとんどが、教師にふさわしくない粗暴な性格だ。特に強襲科(アサルト)の教師は。少しの遅れも許されない。

 

「確か、残りの2人はこの後合流でしたね。何かするならその時です」

 

ヤミの発言に頷いた2人は、おとなしくヤミについていくのだった。

 

強襲科(アサルト)棟までは歩いて10分ほどかかった。通常教室からは、それなりに離れた場所にあるのだ。

 

理由はもちろん、

 

「オラァ!!! 死ぬまで殺(ヤ)れやァ!!」

 

ガキュンガキュン!!

 

常日頃から銃弾が飛び交っているからだ。

 

「ここ、いつ来てもこうだよね……」

「皆さん、元気なことで」

 

飛び交う怒声と銃撃。打ち合わされる刃物と拳。強襲科(アサルト)の日常風景が広がっていた。

 

一番楽しそうに声を張り上げていたのは主任の蘭豹。ヤミを視界に捉えると、号令を出し、乱闘を止めさせた。

 

「ん? 夜月の女も一緒か。あいつはどうした?」

「今日は別の用事があったので……」

「あん? 別の用事……管理局がらみの用事か?」

「そうですわ」

 

狂三が肯定すると、蘭豹は憎々しげに拳を壁にたたきつけた。壁が少しへこむ。

 

「ちっ! あいつは管理局の狗に成り下がったからなぁ! 今度来たら、徹底的に痛めつけないとな!」

 

ちなみに、血の気が多い一部の武偵(強襲科(アサルト)に多い)は、管理局を目の敵にしている。管理局がお上品で気に入らないからだ。半分ヤクザと言われるのはこういうところからくるのだが、気に入らないものはどうしようもないらしい。

 

「あはは……」

「ご愁傷さまです」

「他人事と思ってんなよヤミ。私らに再テストなんて面倒なことをさせる奴にはなぁ、2倍キツイもん受けてもらうからな。覚悟しとけや」

 

「ああ、だから……」

 

アスナは合点がいったと頷いた。周りの生徒が妙に浮かない表情をしているのだ。さっきまで訓練していた生徒は全員再テストの受験者だった。皆同じように、これからどんな地獄が始まるのかを考えて震えていた。

 

「問題ありません。鈍った体を叩きなおすには丁度いいでしょう」

 

ヤミは、そんな脅しに顔色一つ変えずに、訓練スペースへと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、ヤミは全く大丈夫だった。最後には死屍累々と言ったありさまだったが、ヤミは多少息を切らすだけで、最後まで立っていた。

 

今はシャワーを浴びて、誰よりも早く強襲科(アサルト)棟を出たところだ。

 

ヤミは、しばらく歩き回っていた。後ろにこっそりとつけている影があることを確認すると、一気に速度を上げる。

 

それだけではない。

 

校舎の壁を蹴り、一瞬で屋上のフェンスを乗り越える。軽やかに着地したヤミ。スカートでこんなことをしているから、色々と見えてしまうのだが、そこに突っ込むのは野暮というものだ。

 

「出てきたらどうですか、黒咲メア」

「……」

 

屋上まで飛んだヤミは、自分を見ていた視線もしっかりとついて来ているのを確認し、そう告げた。

 

「ずっと付きまとわれるのは迷惑です。いい加減にして下さい」

「流石ヤミお姉ちゃん。気が付いてたんだね」

 

メアはあっさりと姿を現した。ヤミの超人的な動きに付き合うだけの能力を備えている。彼女も十分に超人だ。

 

手を後ろに組み、赤毛の三つ編みを揺らしている。ヤミが凄んで見せるが、メアは全く動じない。並みの武偵なら腰を抜かすほどの殺気だというのに。

 

ヤミはつま先で自分の影を叩いた。ここに潜んでいる人物にまだ出てこなくてもよいと伝える。

 

他の場所にも、何人か潜んでいる。ピンク色のツインテールが少し見え隠れしている。が、すぐに引っ込んだ。一緒にいる人物が、何とか抑え込んだんだろう。メアの真後ろだったため、彼女の視界には入っていない。

 

「貴方の目的は何ですか?」

「目的だなんて、そんな寂しいこと言わないでよ―――お姉ちゃん」

「……変身(トランス)能力を持っているからと言って、私とあなたは別に姉妹というわけではないでしょう」

 

メアが変身(トランス)能力を持っていることはすでに、翔に知らされている。

 

「あー、夜月君に聞いたんだ」

 

メアのおさげが不自然に蠢いた。鞭のように、尻尾のように。丸い髪留めから先、おさげが変形する。鋭い爪を持つ手がヤミに向けられた。

 

「夜月君に何を言われたの?」

「何を?」

「ヤミお姉ちゃん、急に今日からヤル気出したよね?」

 

それは間違いではなかった。

 

この前の事件があり、翔の説得(挑発)のおかげで、翔の家にとどまり、ヴィヴィオたちとの関係を続けようと決めた。あれがなければ、間違いなく以前の生活に戻っていただろう。

 

「私たちの予想では、もうこの学校には来ないんじゃないかなーって思ってたんだけどね? 準備が無駄にならなくてよかったけど」

「それで? 結局、目的は何なんですか」

 

メアは最初の質問には答えていない。だが、そう簡単に答えが得られるとは思っていなかった。あくまで会話を続けるための問いかけに過ぎない。

 

しかし、意外にもメアは簡単に口を開いた。

 

「この学校に来たのはね。ヤミお姉ちゃんのことを知るためなの」

「私を知る……?」

「そうなの。ヤミお姉ちゃん、私たちは『何』なのか、忘れちゃってるんじゃない?」

 

メアは一歩前に踏み出した。

 

「私たちは兵器。変身(トランス)兵器なんだよ? 人を殺すための道具なのに、人間のお友達なんか作って、どうしちゃったの?」

 

メアは本当に分からないと言いたげな顔をする。

 

「うん。わかるよ。兵器は負けたら壊れるはずなのに、夜月 翔に負けたのに生きてるから、おかしくなっちゃったんだよね? だから人間の友達を作って、人間のまねごとをしてるんだよね?」

「勝手なことを……っ!」

 

そうではないと否定するがまるで効果はなかった。

 

「だから、ヤミお姉ちゃんが学んだこと、知ったことを私も知って、最後に全部壊してあげる。そうすれば、ヤミお姉ちゃんも元に戻ってくれるよね?」

 

メアは歌うように告げる。

 

「ヤミお姉ちゃんを本当の姿に戻すの。家族なら当然だよね―――素敵!」

「……」

 

ヤミはメアの言ったことを咀嚼し、一言。

 

「もういいですね」

「え?」

「もういいですと言ったんです」

「全く、合図がわかりずらいですわよ!」

 

ヤミの陰に潜んでいた狂三が飛び出してきた。

 

それを合図に、隠れていた女の子たちが姿を現す。

 

屋上への扉を開けてアスナが、校舎の壁面に張り付いていたアリアと理子も。各々すでに戦闘態勢になっている。各々の武器を構え、メアを四方から取り囲む。

 

「ごめんねぇ? でも転校してきた娘に、ここのルールを教えるのは武偵の文化だからぁ、くふっ」

 

理子は楽しそうに笑う。

 

「きひ、ええ、ええ、わたくしたちのやり方、教えて差し上げないといけないですわね」

 

狂三も自らの天使―――時間を操る最強の武装、刻々帝(ザフキエル)を顕現させ、短銃と長銃を取り出した。

 

「黒咲メア、イ・ウーについて知っている事を、洗いざらい吐いてもらうわよッ!!」

 

アリアは二丁拳銃を突き付ける。

 

「ああ……夜月翔の女たちだね。やっぱり、ヤミお姉ちゃんに張り付いてたんだ」

 

ヤミは順番に指さしていく。

 

「峰理子・リュパン4世。神崎・ホームズ・アリア。結城アスナ。時崎狂三……間桐桜と肝心の夜月翔はいないんだね。どこかで様子見してるのかな?」

 

イ・ウーに所属しているだけあって、名前と容姿については頭に入っていた。能力についても同様だ。

 

「みんな揃って、どうしたの?」

「戯言を言わないで。ヤミちゃんとの会話は全部聞いてたのよ」

「……それで? それで、どうしたいの? 私は自分の考えを話しただけだよ? まだ何もしてないのに? 戦うの?」

 

そう言われるとアスナも困る。無抵抗な人を痛めつける趣味はない。

 

「そんなの関係ないわ。イ・ウーに所属しているってだけで、超法規的な逮捕権が行使できるのよ」

 

今後はアリアが吠える。

 

実を言うと、いくら暴力が横行している武偵高でも、先輩が複数人で下級生をいじめるというのは格好が悪かった。逆なら何も言われないのだが。

 

「そう? そんなに言うならやるよ? 『敵意を向けてきた相手には容赦するな』。それがマスターの教えだからね」

 

空気が泡立つ。

 

「何人死ぬのかな。ここには無関係な人もたくさんいるけど……」

「……」

(アリア、ここでやりあうのはマズイ。教師の目もあるし、立場から見たら私たちが悪者になるぞ)

 

理子に諭され、引き金から人差し指を放す。

 

「うん。その方がいいよね。お互いに―――」

 

直後、メアのいた場所を銀の刃が一閃する。

 

「これは警告です」

 

それはヤミの変身(トランス)攻撃だ。

 

「黒崎メア、あなたが何を考えているのかわかりませんが、手を出す人には気を付けてください。高町ヴィヴィオに何かあれば、私はあなたを殺します」

「すっごい良い目……っ! 素敵っ!」

 

殺気が心地よいと武者震いするメア。だが、当のメアには戦う気がないようだ。髪の毛にかけてあった変身(トランス)が解かれる。

 

「でも、私には戦う気はないよ。すごくおもしろそうだけど、この学校にいられなくなるのは困るからね」

 

屋上の扉をふさいでいるアスナの方に歩いていく。

 

「あ、そうそう、イ・ウーについてだっけ? 私、特に知ってることとかないんだよね。イ・ウーに入ったのだって、お姉ちゃんに近づくためだし。一応夜月翔を監視しろっては言われてるけど、こっちはついで。本命はお姉ちゃんだから」

 

アスナは獲物の先端をメアに突きつける。

 

「ちょっと待って。どうして翔君が狙われないといけないの!?」

「さあ? それ以上は私は知らないよ」

 

切っ先をものともせず、メアは歩みを進める。

 

「それじゃあお姉ちゃん。私たちと一緒に来たくなったら、いつでも言ってね? 待ってるから」

 

そう言い残し、メアは屋上を去っていったのだった。

 

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