「おう! 帰ったぞ!」
航平は自分の楽園に帰宅した。
「「「おかえりなさいませ……!」」」
主人の帰還に応じるのは、色とりどりの女性たちだ。口調は丁寧で表情も笑顔だが、その意志までは操られていなかった。これっぽっちも航平を敬ってはいない。
それもそのはずだった。極端に短いスカートは、その下の下着を隠しきれておらず、胸元も煽情的に開いている。ちょっとした趣味で航平が着せたものだったが、この場にいる誰も、自分の意志でこの服を着たわけではなかったのだから。
しかしどんなに不満を持っても、航平に反撃することは出来ない。
すべては彼の持つスタンド、『ホワイトスネイク』のせいだった。
DISCにして能力を奪い取ることで、どんな女の子であろうとも無力化してしまう。DISCを使って様々な屈辱を与えられ、心を折られてしまう娘もたくさんいた。
召喚した女の子に殺されかけたのがよほど応えたのか、召喚され、目の前に来た瞬間にホワイトスネイクでとある意志を抜き出していた。『新谷航平に対する害意』だ。
物理的なものだけではなく、何か計画すること、何か不利になることすべてが封じられていた。
スタンドを手に入れてから4か月。達成した依頼は15を超えた。つまりはそれだけ、犠牲になった女の子がいたのだ。そして今夜、また1人犠牲者が加わる。
「飯を食い終わったら女を出すからな。今夜はそいつとする。▲▲! お前、手伝え」
「は、はぁ!? どうしてアタシがそんなことしなくちゃ……!」
この数か月で、航平は効果的な女性の『しつけ方』をマスターしていた。元の性格を壊さない程度に屈服させ、誰が主かを分からせる腕は確かに上がっている。
この少女はかなり上手に『できた』。航平の自信の一作だ。
元のツンツンとした性格は無くならず、体は完全に降伏している。されている最中でも憎まれ口を叩いては、それ以上の回数泣かされることになるのだ。それが楽しくて、2日に1回は▲▲に相手をさせている。
今だって逆らってはいるが、数日前に気絶するまで犯されてたのだ。それでも心は堕ちていない。もっとも、最終的には逆らえないのだが。
「お前の気持ちなんて知るかよ。今夜、俺の部屋に来い。ククッ」
「ッ! ほんっと、最ッ低……!」
強めに迫ると内股になって震える。航平の嗜虐心がむくむくと大きくなるがグッとこらえる。ここで始めることもできるが、今は空腹の方が勝っているからだ。
「(お楽しみは今夜だもんなぁ。初物相手か、始めからビッチなのか……ククッ)」
しかし、毎日のように行為に及んでいる航平だったが、それに対して能力はあまり増えてはいなかった。
それは当然のことだ。合意になるくらいの仲でないとポイントは増えない。どうして、出会った瞬間に自分たちの自由を奪ってくる男に好意を抱けるだろうか。
召喚した時点ですでに好感度が高い女の子も、好感度が下がらないわけではない。言動やそぶりを見て、変化していくのだ。
等価交換とでもいうべきか、航平は安心と引き換えに能力を得る機会を少なくしてしまっているのだ。
ポイントが増えないわけではない。この状況に絶望し、男のものになることを受け入れてしまった女の子は何人かいる。
しかし、航平にとって能力を増やすことはさして重要ではなかった。単に自分の言う通りに動く、最高の女たちに自身の性欲を発散したいだけなのだ。
中途半端な能力なんてもういらないのだ。なぜなら、すでに神に等しい能力を手に入れているから。ゾンビの不死身能力、相手の能力を奪い、与え、命令を強制できるホワイトスネイク、能力を生み出せるスタンドの矢。
男が勘違いしてしまうのも無理はない。
スタンドの矢は翔がもっているものと同じく3回使えば只の矢に戻るもののはずだった。しかしここで、幸運にも新しいアイテムでその制約を解除することができた。
あまりにも有名な秘密道具『バイバイン』だ。小瓶に入った液体をかけたものが5分ごとに倍になっていくというぱっと聞いただけでは危険なのかわからない道具だ。
何も考えずに「便利じゃねーか」と、ぶっかけた航平。おかげで今は地球に住んでいる人全員に矢を使ってもなくならないくらいの数になっている。
その時同時に入手していた、いくらでもモノが入る『アイテムボックス』がなければ、世界が滅んでいた可能性がある。こっそりと世界の危機だったのだ。
何はともあれ、すべて男の思惑通りに進んでいた。
「そろそろガキどもにも仕込みを始めるかぁ」
「……それはいくら何でも」
女性を性行為の相手としか思っていない航平は、出来そうもない小さい年齢(そもそもロリコンではないので小さい娘では『その気』に慣れない)は、まとめて女の子に面倒を見させていた。
小さい子供たちを守ることは、この世界に召喚されていた女の子達の唯一やるべきことだった。
自分たちに飽きて無垢な子供たちに手を出さないように、一致団結している。
一番口のうまい女性がいいように言いくるめる。一番に気いられている女性もその蠱惑的な体を押し付け、誘惑して意識を逸らそうとしている。
「はっ、今日の女はガキじゃねぇといいが」
すっかり気を良くした男は笑いながら歩いていく。
その後ろにつくのは、虎視眈々とあるはずのない勝ち目を探す女性の視線だ。
ここは男の中で完結した帝国。誰にも犯せない聖域だ。
しかしその天下は長くは続かなかった。とんでもない奴に目をつけられたからだ。
―――――――――――――――――
「――――――ハァ、ハァ、ハァ……ッ! クソがァァァァ!!!」
デンジャラスゾンビは手に持った小型のナイフ型光剣で、目の前で呑気にパイプを揺らしている男に切りかかった。幾度となく繰り返された光景だ。
不死身の力を利用した、自分へのダメージを完全に無視した攻撃。相手にダメージを与えることしか考えていない動き方だ。毎回そんな特攻まがいのことをされれば、よほどの達人でもしのぎ続けるのは難しい。撤退を考えるのが普通だ。
「ふむ」
しかし相手はただの達人ではなかった。闘牛を難なくかわす闘牛士のように、身体を少し横にずらすだけで攻撃を回避する。足をかけて転ばせることも忘れない。
「これで君の転んだ回数は49回になるが……まだ続けるのかい?」
デンジャラスゾンビは背後からホワイトスネイクで襲った。
しかし、
「ッ!! なんでスタンドの攻撃も当たんねぇんだよ!!」
見えないはずの攻撃を避けられる。ここまできれいに避けられ続けると、デンジャラスゾンビの中でとある可能性が高くなる。
「いや、残念ながら私はスタンド使いではないよ」
「ッ!!」
それを口に出す前に涼しい顔で否定される。これも何度も繰り返されたことだ。まるで未来を予知しているかのように、次に言うことを当てられるのは。
「初歩的なことだよ。君は自分が考えているよりもずっと有名人なんだ。当然色々と情報が出回っている。それを使って私なりに推理した結果だよ」
「推理、だと……ッ!?」
「ああ。君は見ることのできない人型の何かを使役しているという事は分かっている。カメラの映像、負傷した人たちの傷の形。自分の力を過信しているからだろうね。探そうと思えば色々と弱点が見つかってくるよ」
スタンドのラッシュを予知していたかのように、最初の拳が繰り出されるより前に回避する。
「君が操作しているのか、それともそれ自体に意思があるのかはまだはっきりとわからないが、ある程度どこにいるのかが分かれば避けるのは難しくないんだよ。君ともう一人、透明人間を相手にしていると思えばいいのだからね」
デンジャラスゾンビはシャーロックが言っている言葉の意味を理解できなかった。今まで無敗を誇ってきた自分の力が全く通じない。それどころか、いいようにあしらわれている。
しかしまだ不死身の能力がある―――――
「ガハッ!!」
すれ違いざまの攻撃。今までは足をかけられるだけだったのが、拳に変わっていた。そしてそれは、確実なダメージとなってデンジャラスゾンビを襲った。
「ふむ。流石は篠ノ之博士だ。完璧な仕事をする」
「なに、が……ッ!!」
「君の不死身の能力も無敵という訳ではない、という事だよ」
男の手には何やら籠手の様な物が装着されていた。
「これは私の協力者が作ったものでね。詳しい原理は探偵である私の口から説明することは出来ないが、これを使えば君の能力を無効化してダメージを与えられるんだよ」
最後の砦が無くなってしまった。
自分は目の前の男には勝てない。そう確信する。
「しかし、博士も感心していたよ。今まで自分の中にはなかった発想を与えてくれたといっていた。開発者は、自分と同じくらいの天才だとね。正直、篠ノ之博士があれほど手放しに人をほめたところを見たことがなくて驚いているよ。ああ、逃げようとせず、私の話を聞いてくれ」
思考を推理されたデンジャラスゾンビは静かに従う。
「問題は、君がどこでこれを手に入れたのかだ」
「……」
「色々と調べたが、全くわからなかった。告白するのは恥ずかしいけどね。生まれや境遇に特筆することはないし、武偵としての腕も可もなく不可もない。不自然なところと言えば、ここ半年で急激に名前が売れ出した―――主に悪い方向で―――くらいだが……それも君がその力を手に入れてからだった。実力を買われて新兵器のテスターになった線は薄い。失礼な言い方になるが、君が開発したという可能性もないだろう。そもそも、博士が絶賛するほどの技術が、今まで私の情報網に全く引っかからずにいたというのは考えにくい」
「……」
「結局私がたどり着いたのはとても荒唐無稽な結論だったよ――――君はこの世界の住人ではなく、どこか他の世界から来た人間だとね」
「だったら何だってんだ……ッ!!」
男の言ったことは穴だらけでボロボロだった。しかしデンジャラスゾンビの反応が、その戯言を真実だと肯定する。
「(偶には勘に頼るのも良いな)それなら、今ここで殺してしまうのは勿体ないと思ってね。どうだろうか、私の下につくというのは」
「てめぇの下だと……ッ!?」
「おや、嫌だったかい? 君は潔く死ぬようなタイプではないと思っていたのだがね」
男の言っていることは当たっている。デンジャラスゾンビは何としてもこの場を切り抜け、男に復讐しようと決めている。
その為なら、少しの屈辱を飲み込むくらい、
「俺は―――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「教授。彼の身柄、私が預かってもよろしいでしょうか」
「そう言いだすと思っていたよ、ブラド。君に任せよう」
全く笑っていない美青年2人が笑い合う。
航平は去り際に呟いた。
「必ずブチ殺してやるからな。俺は、絶対に強くなる……!」
「はは、ああ、楽しみに待っているよ」
ありったけの怨念を込めても、男は涼しい顔で受け流していた。
―――――――――――――――――――――――
「ほらよ」
デンジャラスゾンビは血まみれになっている男を雑に投げ捨てた。相手は苦い顔をしている美男子だ。
「さっさと回収しろよな」
「(この男が人間か……人間は我々と化け物やなんだと言うが、同族のほうがよっぽどおぞましいだろうに)……わかりました」
「鈍間は返事も遅いってことか?」
「……」
言い返したい言葉は山ほどあるが、デンジャラスゾンビの特異性と凶暴性は嫌というほどわかっている。ブラドの部下は、言いつけられた採血を始めるのだった。
――――――――――――――――――――
「ふむ、彼はうまくやっているようですね」
「それは……どうでしょうか? 確かに任務はこなしていますが、人格に大きな問題があるかと……」
その言葉に、ブラドはおかしそうに笑う。
「その程度大した問題ではないでしょう。あそこまで単純な人間、他にはいません。機嫌を損ねないようにしていれば噛みついてくることは無いはずですが?」
反抗期の子供のように周りに当たり散らす航平の機嫌を損ねないのは、ありたいていに言えば無理だと言いたかった。人間にへりくだるのがそもそも屈辱なのだ。
その粗暴な態度は積もりに積もり、ブラドの部下の不満は日に日に高まっていた。『気にしない』にも限界はあるのだ。
「そう言わないでください。彼は重要な研究対象なんですから」
性行為によって能力や道具を生産し取り寄せる。明らかに異常な男。そもそもの出身はこの世界ではない異世界だという。何から何まで研究のし甲斐のある男だ。
優秀な遺伝子を集めているブラドにとって、逃す手はなかった。今まで見たことのないかえの利かない素材だ。
ブラドも航平の蛮行には思うところが無いわけではないが、それ以上に研究に興味をそそられていた。
「遺伝子自体に特殊な所は無し。性行為中に何かエネルギーを感知したということも無い。種も仕掛けもない手品を見せられている気分ですよ。いったいどんな仕組みなんでしょうねぇ」
航平は自分の能力についてすでに説明していた。元来の雑さが手伝って、『セックスすれば能力を貰える』程度の説明だったが。好感度云々は元々航平が気にするものではなく、人間の好き嫌いなど、ブラドに理解できるものではない。
それでなくとも、いくら調べても航平の能力についてわかることは無かった。最新機器を使っても、能力を使っても、無から有を創造しているようにしか見えなかった。
「いずれは、あなたのすべてを私が貰いますよ。新谷航平……!」
彼への研究は終わることなく続いていく。
翔がこの世界に来る半年前の出来事である。