「―――っ!」
急激に意識が浮上してきた。
面倒な部分は端折って、関係ない部分はそぎ落として、重要な部分だけを圧縮した情報の濁流。溺れそうになりながらも、何とか這い上がることが出来た。
場所は留置所の通路。目の前には名門、常盤台中学の夏服が距離ゼロセンチメートルのところに見えていた。というか密着している。右も左も布地だ。
どうでも良い話だが、この島は常夏の地域に存在しているため、夏服以外を拝むことは出来ない。
それはともかく。
「……ちょっとぉ? 正気力は保てているのかしらぁ?」
「それは今ぶち込まれた記憶のせいか? それとも、食蜂のおっぱいのせいでか?」
「そんなの、私に決まっているでしょぉ?」
そんなに怒っていないようで安心した。
見事な弾力のおかげで、俺はふらついても倒れることがなかったのだ。目の前にちょうどいい(というには少しばかり豊満が過ぎるが)突っかかりがあって助かった。
「ふんっ」
全然痛くはなかったが、ビンタされた。
「貴方が何を考えているのかはお見通しなのよぉ?」
この娘以上に、『お見通し』という言葉が似合う娘はいないだろう。
「これはお前、どういうことなんだ?」
俺が見たものは、おぞましいものだった。
悪の組織が何か悪だくみをするとか、殺人鬼が人を惨殺するとか、そういった非現実的なものではない。何気ない人の欲望を、はみ出さず、湾曲させずに、極限まで煮詰めたものを見せられた。
すでに脳細胞とくっついて離れそうにない。
見せられたものがあまりにも多かった。中の時間から察するに1年ほど。しかし、何人もの視点が入り交じり、胸焼けでどうにかなってしまいそうだった。
「今見せたのは、新谷航平の記憶―――をベースにして、彼が監禁していた女の子、ブラドとその一族の記憶を切り貼りしたノンフィクション映像よぉ」
「入れすぎだよ、調味料を」
元の素材である新谷航平の分だけでもお腹いっぱいなのだ。フルコース料理にフルコース料理を隠し味にされた気分だ。全く隠せていない。
悪い意味でも良い意味でも、主役を引き立たせることには成功していたけどな。
「ありがとう、参考になった」
「それは良かったわぁ」
そのおかげでわかったこともあったのは事実だった。
「なんでこんなに重要な記憶のストックがあったんだ?」
「そんなの、この事件についてあの人に協力しているからに決まっているでしょぉ?」
あの人というのは楯無さんの事だろう。
それにしても、過去に戻った俺は、こんなえぐい記憶を読み取らせたのか。どうかしてたんじゃないのか?
「済まないな、不用意に変なこと頼んで。」
「別に良いけどぉ、あなた、結構どうかしてるわよぉ?」
「いい意味じゃないよな?」
どうかしらと、食蜂は笑った。
「でも、貴方なら、うまくやってくれるって知っているもの……また会いましょう、夜月さん」
そう言い残し、食蜂は一足先にその場を去っていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――
その日の夜は、みんな揃って報告会になった。
何もない1日だったのは中等部の雪菜と耀だけだったらしい。クロとティナの方は予定していた特訓がつつがなく始まり、メアの件は凡そ予想通りになった。
少し予想外だったのは、イ・ウーが俺のことをマークしているという話だったが、新谷航平の記憶を見た今となってはその予想も想像できるというものだ。
いずれにせよ、難しい問題ではない。
あいつらとぶつかるのは確定している事なのだから。
「翔君、大丈夫? 顔色悪いけど……」
「大丈夫かどうかは、見ての通りだ」
「つまり大丈夫じゃないってことだね?」
食欲もないし、何なら早めに横になりたい。
歪んだ考えを持つ相手にも、勇気と覚悟を持って挑める俺だったが、アイツの考えだけはどうしても受け入れることが出来なかった。
なまじ境遇が似ているからか、立ち向かう前に排除しようという気持ちになってしまう。
あいつと戦う前にこの事実を知っていたら、殺していたかもしれない。実際にそういうわけではないのだけど、鏡に映った自分を見たような気分になって。
「もう寝ることにする」
こういう時は寝てしまうに限る。
――――――――――――――――――――――
寝る前に熱い風呂に浸かると、かなり気分は良くなっていた。この分なら、明日の朝には元通りになっているだろう。
が、しかし、
「寝れないな……」
疲れてないわけじゃないんだけど、目をつぶっても眠りにつけなかった。ぐるぐると余計なことを考えてしまっている。
ドアをノックされた。応じると、控えめにドアが開き2人の女性が顔を見せた。なんとも意外な組み合わせ。アスナとセイバーだった。
2人ともお風呂に入ったのか、先ほど見た格好ではなかった。アスナは何度も見ている薄いピンクのネグリジェ姿。どう頑張っても見えないが、目を凝らせば中が見えそうだという期待が持てる、そのくらいの絶妙な、着ているほうが恥ずかしくなりそうなパジャマだ。
雪菜が何も言わないことを考えると、ネグリジェというのはこれが普通なのだろうけど。
問題はセイバーだ。
「どうしたんだ、その服」
昨日までは雪菜のパジャマを借りていたはずなんだけど、どういうわけか、実用的な、今から走りに行くのかい? と聞きたくなるような、とにかくそんな格好をしていた。
見覚えがないわけじゃない。手首と足首まで覆うタイプの、特殊繊維を使った伸縮性ばっちりの青と黒を基調にしたスポーツウェアだ。
この前の買い物で買っていたものだってことくらいは知っている。
「ど、どうでしょうか……」
「感想を言うなら、この場にはそぐわないんじゃないのってくらいしか……」
どうして今披露しようと思ったのかが謎だ。時機を探るじゃないけど、適切なタイミングを考えてもらったほうが良かったのではないかと思うんだけど。
「そしてどうしてアスナが付いてきてるんだ?」
「不安だからついてきてって言われて」
にゃるほど。わからん。
「そ、その格好で寝るわけだな……?」
「はい。何か問題が?」
寝にくくないんだろうか。
戦場では鎧姿で寝ていたから平気ってことなんだろうか。
「それじゃあ、私も失礼して」
自然にアスナも布団に潜り込んでくる。ちょっと窮屈だけど、両手に花だ。これ以上のぜいたくはない。
「翔君、元気ないよね。大丈夫?」
「少し機会があってな。今日の取り調べで、新谷航平の記録を見たんだ」
「新谷航平……その人って翔君と同じ」
「どういうことですか?」
この場で唯一会ったことのないセイバーに説明する。当然憤慨する。
「そのような人物がいるとは……」
「ま、ブラドからイ・ウーに情報が渡ったんだろうな。そりゃ気になるよな。アイツと同じ人間がまた現れたんだ」
「でも、でもっ! 翔君とその人は違うでしょ?」
そりゃそうだ。俺だって、自分があそこまで堕ちるなんて思ってない。ただ、気分が悪くなっただけだ。
「私は幸せだよ? ここに来て、みんなと暮らせて」
アスナが柔らかな笑顔で俺のことを抱きしめてくれる。俺は抵抗することなく、されるがままになる。
わざとやっているのか、頭をなでるのはいいんだけど、そのままおっぱいに誘導するのはどうなんですかね。
「わ、私だってそうです!」
セイバーも張り合うように背中に引っ付いてきた。ベッドにはふさわしくない素材のウェアが、布団をこする音がしたと思えば、後ろからも手が回されていた。
「貴方には大恩がある。私の心を救ってもらった。しょ、しょれに……一人の女性にしてもらいましたし……」
もにょもにょと、小声でセイバーが言う。
『女にしてもらった』なんて、まじまじと、改めて言われると胸を掻き毟りたくなってしまう。俗な言い方をすると恥ずかしくなってしまう。
どこか価値観がズレているのはしょうがないことなんだろうけどね……!
「それにしても……アスナ、これがあなたの手腕というわけですね?」
「ふふふ、さてさて、どうなのかな~?」
余裕を見せるアスナに対抗するためなのか、アルトリアの腕にぐっと力が入った。
や、ね。アレだよ。もう、おっぱいにサンドされてるとか、いちいち報告する必要ないと思うけど。みんなの想像通りになっていると思うけど。それでも報告させてもらう。
まずは目の前にあるアスナのモノ。衣服は生地が薄く、支えるための下着も身に着けていない。
抱きしめられているから、両頬は柔らかく圧迫され、鼻先と唇は谷間の奥底、ハリのある肌に密着し、くらくらしそうな匂いに包まれている。心臓の音も聞こえてくる。ずいぶんと早い、心臓の音が。
後ろからはセイバーだ。アスナほどのボリュームがないとはいえ、眠るための柔らかな衣装ではなく、全身のラインが浮き出るような衣服を着ている。
そのため、少しでも身じろぎすると、確かな弾力に背中が押される。心臓に悪い。しかも、潰れた乳房がどのような形になっているのかもわかるのは、どういうことか。
そして、あんなにひどい記憶を見せられたというのに、どうして俺の半身はこんなにも正直なのか。
「ふぅー……っ」
後ろの吐息が、熱を持った物に変わった。
段々とお腹の位置にあった手が下がっていく。何処へなんて聞くまでもない。パンパンに張り詰めたズボンを上から撫でるように、形を確かめるように滑る。
「お、おい、セイバー……っ」
「……違うでしょう?」
「は、はい?」
こんな状況で始めるつもりなのか。目の前にはこの家の裏の主、結城アスナパイセンがいるんだぞ!?
そんな俺の心の叫びなど何のその、セイバーは拗ねた口調で言う。
「こういう場では、その……名前、で呼ぶと、そう言っていたのは貴方ではないですか」
「……いやいや」
確かにそんなことを言った覚えもあるんだけど、今はそんなことを言う場面ではない!
案の定、前から不機嫌そうな声が聞こえてきた
「セ、セイバーさん? ちょっとがっつきすぎじゃないのかなー? 翔君、今日は疲れてるみたいだし、あんまり無理強いするのは良くないと思うなー?」
「先に仕掛けてきたのはあなたでしょう? それに心配されなくても、翔に負担はかけませんから」
俺の頭をなでていた手はいつの間にか消滅していた。布団の中に潜り、セイ―――アルトリアの腕と格闘を始めた。
でも、がっついているのはアスナも同じだろう。同じ布団に入ってきた時点で言い逃れは出来ない。
アスナに開放され、あおむけになった俺の下腹部は、しっかりと布団を押し上げている。その付近ではもぞもぞと何かが必死に主導権を取ろうとしては、激突を繰り返していた。
流石は『閃光』のアスナ。騎士王に対しても全く引かず立ち向かい、互角の勝負を繰り広げている。
アスナは埒が明かないと思ったのか、
「っ!」
「んっ……くちゅ、れろっ、んんっんむ、んちゅる……」
いきなり唇を奪ってきた。
すぐ後ろで「あぁ……っ!」という悲鳴が聞こえてきた気もするが、そんなものはすぐに脳みその外に飛ばされた。
優しさなど微塵もない。はじめから口を少し開き、先走った舌が覗いていたのだ。
舌を絡ませると同時に、足を使って俺のことを自分に密着させてきた。布越しとはいえ、2人の性器が擦れ合い、俺たちはそろって体をくねらせる。
「ちゅ、ちゅるっ、ずぞっ、んっ、ちゅるっ、れろ、ちゅぱ……ぷはぁ……」
お互いの口を犯していた舌技が終わった。唇が離れ、舌が離れる。ねっとりした唾液のアーチが、細くなってシーツに落ちた。
代わりに腰の動きが激しくなる。自慰をするかのように、腰をくねらせるその情景は、アスナの中のスイッチが入っているのだと理解させられる。
段々とネグリジェがめくれ上がり、ズボンに張ってあるテントの頂点が、三角布を捉えた。それも擦るのではなく、グリグリと押し付けるような動作だ。
「ん、ぎゅっ、ぁ、んっ、これっ、これ、いいかも……!」
湿り気のある布の感触と、その奥にある熟れた肉が歪む感触が伝わり、俺の下着に先走り汁が滲む。
すっかり上気したアスナは悩ましげな吐息を何度も何度も繰り返す。
俺はアスナを抱きしめ、腰を突き出す。あくまでアスナに合わせて。それ以上は、まだこれからだ。
「翔君……っ、そ、それ、いい。いいよぉ」
「気持ちいいか、アスナ」
「う、うん。その、気持ちいい、かも。頭ふわふわする。腰、止まんない……っ」
最後の最後で、かも、と言ってしまったのは少し残念だったが、言い方があいまいなだけで、しっかりと感じてくれている。
ゆるい、ぬるま湯に浸かっているような快感に、俺達2人は酔いしれる。体を焼き尽くすような暑さはないが、ずっと浸かっていたいと思わせるような、心地よい温もりだ。
布団の中を覗き込むと、めくれ上がったネグリジェから、お腹が露出してた。少し我慢出来なくなった。腕をするりと衣服の中に潜り込ませる。
「あ、ちょ、ちょっと待って……っ!」
「先っぽは触らないから」
「そういう問題じゃ、あっ、や、やだっ……あ、うぅん? あんっ、あ、ふぅぅぅっ」
後ろから何やら声が聞こえてくるが、俺の意識はこちらに集中していた。
宣言通り、俺はツンと立っているところには触れず、全体をマッサージするように揉みほぐした。
服に引っかかる感じで、硬くなっていることはわかった。ここに触れてしまえば、一気に温度が上がってしまうだろう。
そうならないように、柔らかさを堪能し、気分を高めていく。
「ね、翔君。そろそろ……」
「ん? 何だ?」
「だから、ね。ほら……疲れてるかもしれないから、今日は私がするから、ね?」
もちろんわかっているが、わざと意地悪してみる。
「何をするんだ? 言ってくれよ」
「え!? そ、それは……」
流石に迷いなく、とはいかないようで、ちょっと非難するような、どうしてそんなことを言わせるのかという表情で睨まれる。
だが、その躊躇は一瞬だった。
一度息を吸い込み、吐き出した。
「私が上になって。翔君のおちんちんに、いっぱい、いっぱいご奉仕させてください」
真っ赤に、しかし母親のように穏やかな顔で、アスナはそう言ったのだった。