なんとこの家、テラス的なものまで備え付けられていた。アインハルトがデバイスを調整している間、俺とアスナはそこに座って休憩していた。
アインハルトはデバイスの調整も兼ねて、八神家道場のトレーニングに参加していた。
あえて足場の悪い砂浜でトレーニングして、踏み込みの技術を上げているのだとか。
「みんなすごいねぇ。あんなに小さいのに」
「なー」
子供たちは10人ほどいるが、その中でも飛び抜けてスゴイ子供が2人いた。
そしてその2人とも、俺の知っている娘だった。
1人は『ミウラ・リナルディ』。『魔法少女リリカルなのはvivid』の登場人物で、一人称が『僕』の僕っ子だ。初対面の人には人見知りするのか、シグナムさんやもう1人の娘の後ろに隠れていたが、その実力は本物だ。
聞いた話によると師匠であるシグナムさん、同じヴォルケンリッターであるヴィータさんと練習試合できるほどだという。
実際遠目から見た彼女の踏み込み速度、蹴りの威力は素晴らしいものだった。
この娘がいるのは全然良い。予定通りだったまである。問題はもう1人の娘だ。
1人は『紺野 ユウキ』。この娘がいるのが本当に問題だ。SAOを知っている人なら知らない人がいない程の有名キャラクター。なのだが本編小説ではとある事情で退場してしまっている。
その辺りの事情がどうなっているのか本当に気になるところだ。今の俺ではその事情を解決できない。この島の医療なら解決できるのか、今度調べてみることにしよう。
それにしても、どこかにつながるようなキャラクターではないので完全に油断していた。まさかここで登場して来るとは。
その強さは説明不要と言っていいほど圧倒的なものだった。あのアインハルトですらまともなヒットを一度も出せないでいるのだ。
圧倒的なスピードと天性としか表現できない勘のようなものが、極細の片手剣に乗せられ放たれるのだ。
「でも、アスナも出来るもんな。あのくらいは」
「あはは、どうだろうね?」
「……ま、出来ないと言わない時点でそれはわかってしまうわけで」
マジか、あのレベルなのかよ。
「でも年下の女の子と同じくらいって言うと、少しプライドが傷ついちゃうよね」
「十分だろ、あれぐらい出来れば。剣術だけがアスナじゃないし」
「……そうだね」
そんなことを言っていると、
「あーあ、元気いいなぁ。若い娘っていうのは。少しくらい分けてほしいくらいやわ~」
デバイスの調整がひと段落した八神さんがこちらに歩いてきた。
「八神さんも十分若いでしょう?」
「なーに? それ。ウチの年齢聞いとんの?」
そんなつもりないわい。
年齢だったら知ってる。23、4だろ。だから若いって言ったんだよ。
「でもすごいですよね。その年齢で管理局の部隊長を任せられているなんて」
アスナは完全に余所行きの態度で接している。原作でも、お正月は親戚集まって着物で過ごすという家柄だと言われている。この程度はお手の物なのだろう。
「あはは、そうでもないんよ? 私は本当に、周りに恵まれてるからなぁ。友達にも、うちの騎士にも、空に還った『あの娘』にも」
「……そうなんですね」
何でもないように口から出ていたが、聞き逃すほどアスナも緊張してはいなかったようだ。深く切り込むことはせず、肯定を返す。
「それで、や」
八神さんも今のは口が滑ったと思ったのか、少々強引に話を変えてきた。特に俺も言及することなく受け入れる。
「そのうち、次に会う時があったら言っといてほしいって、フェイトちゃんには言っとったことなんやけどな」
それがここに来た理由だと、今回のお話の本題だと言いたげに、八神さんが俺たちのほうを向いて、腕を組むようにひじを抱えた。
さらりと、言った。
「自分ら、特務六課に興味あらへん?」
「はい?」
自分らというのは、俺とアスナということだろうか。複数形で、しかもこの場には八神さん以外には俺とアスナしかいないとあれば、疑問を挟む余地はないのだが。
疑問というなら、なぜ俺達を勧誘するのかという点だ。
「疑問に答えるとな、私には権限があるんや」
「権限、ですか?」
アスナも困惑している。
「そ、権限。普段はいろいろと面倒なテストがあるんよ。筆記だったり、実技だったり。そもそも訓練校に入らないと管理局には入れないんや。警察学校みたいなもんやな。なんやけど。ウチは、今だけ、六課限定で、そういうことをすっ飛ばして人を雇える権利を持ってるんや」
それはすごい権利だ。もちろん上から降りる予算でやりくりしないといけないだろうから、無制限にとはいかないのかもしれないけど。楯無さんの後ろ盾があるからか?
でも今の言葉は、俺たちの疑問には全く答えていない。
どうして、そこまでの強力な権限を使ってまで、俺達を特務六課に勧誘しようというのか。その疑問には答えていない。
「それは俺がスタンド使いだからですか?」
一番に思いつくのは、俺がスタンド使いだからという理由だ。六課はスタンドの事件について深く関わっている。スタンド使いの戦力が必要だと思っているのだろうか。
「んー、ま、それもあるんやけどね」
八神さんは顎に手を添え、5秒ほど唸った。
「必要としとるんよ。六課で一緒に働いてくれる人材を。それも、即戦力になりそうで、信頼できる人材を」
「どうして、戦力を必要としているんですか?」
アスナの問いだ。
今でも、十分すぎるメンバーが揃っているはずだ。それ以上の戦力を必要とする最も単純な理由は。
「何か、大きな戦いがあるんですか?」
「うーん、そうやなぁ……ま、どうせ早いか遅いかの違いだけやろうし……そうや。近々、遅くとも3年以内に」
3年。3年だと?
その数値に、俺は、おそらくアスナも、聞き覚えがあった。
「それは―――」
俺の声は掠れていた。
それは、未来の俺が現在の俺に告げた、終わりまでのタイムリミットではなかったか。
「―――それは、何か、根拠があって……?」
「そうじゃなかったら、六課は設立出来てへんよ? 何、どうしたん? 私のお話、そない怖かった?」
納得がいった。八神さんに、六課にこれほどまでに人と力が集結している理由が。楯無さんやクローディアが後ろについている理由も。
すべて、終わりに向けた準備だったのだ。
「何が起こるのかは分かっているんですか?」
「それはまだや……なんて言うと、胡散臭く聞こえるかもしれへんけどな。でも、『何か』が起こることはわかっとるんや。私達はそれに備えてる」
俺もアスナも、動揺が隠せなかった。
「スタンドの事件はその前兆やないかと思っとる。どうしようもない事件が起こる前段階の。難しい事件なのは間違いないんやけどな」
話は続く。
「実はあの旅行、オフトレーニングの旅行は、君たちの人格面でのテストの意味もあったんよ? 堅苦しい面接なんてすると、どうしても仮面をかぶってしまいそうやからな。でも、オフの旅行ならそうもいかない。私の部隊、みんな家族みたいな、しっかりとした繋がりのある集団やからな。その辺りはどうしても外せんのよ。みーんな合格。でも流石に、あんなにたくさん女の子を連れてきた時は驚いたけどなぁ」
道理であの人数でも一緒に行けた訳だ。試験官は、多分なのはさんだったんだろう。フェイトさんには務まりそうになかったし。
「そうそう! フェイトちゃんが夜月君のことすごく気に入っててな。もう驚いたんよ! ウチはてっきり、なのはちゃんとデキてるもんやと」
それは思わないでもない。一緒に住んでるしな。
「翔君? 何度も聞くけど、本当に……?」
「何もないから、な?」
一度フェイトさんとはしっかりと話し合わないといけないかもしれないな。や、それはそれで、ドツボにはまりそうな予感がするんだけど……でも、このままにしておくのはいろいろとマズイか。
「何なん? 2人とも、やっぱり付き合っとんの? それとも、あの時旅行に来てた誰かと? ん? 悪いようにはしないから正直に白状してみい?」
「や、それは、ね? プライベートじゃないですか」
あまり深くまで切り込まれると、ぼろが出るかもしれない。
「まあまあ、減るもんやないし。こない綺麗な彼女なら、誰に見せても自慢出来るやん」
それはアスナもわかっているようで、否定も肯定もせず、曖昧に濁している。
「そんなに気になりますか?」
「そりゃー気になるよ? 私の周り、そういう色恋とは全然縁のない人たちばかりで。つまんないんやもん。その点、若者はいいわぁ。女性が輝いていられる時間が短いって、この年になって思うんよ」
だから、あなたはまだ若いって。
同じ年代の人と比べて、多少くたびれているかもしれないけどね。
「―――話を戻すと。と言っても、そこまで話すことはもうないんやけどな? あの旅行、本当なら、陸戦試合で戦闘力のテストもしておきたかったんや。あんな事になってしもたし」
あんな事、とはアゼンダ達の襲撃の事だろう。あれがなかったら、次の日には陸戦試合をしている予定だった。全く違うスキルを持った人とチームを組んでの団体戦だ。さぞ実戦で役に立つことだろう。
「一体、いつから考えていたんですか?」
余所行きから戦場での顔に、アスナの表情は変化していた。
「ほとんど全部、偶然の積み重ね。それを都合よく私が利用しただけなんよ。私、チャンスは逃さない質でな」
その言葉は本当だろう。降って沸いた機会をうまく利用したんだ。
タヌキめ。
「考えといてくれると嬉しいわ」
「考えるまでもありませんよ」
考える理由も、断る理由もない。
「受けるに決まっています」
「そうなん? ここにいない娘に相談とかしなくてもええん? 確か10人くらいおったはずやけど?」
「私たちの意見も同じです。みんなもそう言います」
俺の代わりにアスナが答える。
「……そっか。おおきに。ありがとうなぁ」
八神さんは、柔らかくお礼を言った。その微笑みは、とても綺麗だと思った。
「と言っても、形式上極限まで簡略化したとはいえ、筆記と実技の試験は避けては通れないのはわかる?」
「はい」
「筆記は無理にしても、実技なら。今ここにシグナムがいてはることやし」
「え」
それはつまり、ここでシグナムさんと戦えと?
「冗談や。実は近々、潰れてしもた陸戦試合を六課のシュミレーターを使ってやろうと思っとるんよ。あの時の旅行のメンバーでな? それに混ざって欲しいんよ」
「そ、それは、いいんでしょうか……? 一応公的な機関の備品を私的に使うっていうのは……」
突然茶目っ気を出し始めた八神さんに、アスナは態度を崩さずに突っ込みを入れる。
良い訳がない。言い訳なんてする余地もなく、ダメなことだ。
「だからこそ、や。みんなの試験って体にすれば、問題はあらへんのよ。そこにちょっと、お子さんが混じってしまうかもしれへんけどな?」
「えぇ……」
身内で固まっている六課だからこそ出来る荒業だな。こういう人なんだ、この人は。
「詳しい日程は2週間前までにはお知らせするから、これからどうぞ、よろしくな」
「はい。よろしくお願いします。八神さん」
俺は、特務六課に入隊することに決めたのだった。