「
「ヴィヴィオさんのお母様、2人がかりで卑怯かもしれませんが、一槍お願いします!」
「うん! 私で良ければ喜んで!」
出し惜しみはしない。
俺はランスロットとも渡り合った術式兵装を纏い、アインハルトはやる気満々だ。しかし、空を飛ぶなのはさんの態度には全く焦りがない。
「アクセルシューター、弾幕集中!」
桜色の光球が不規則な挙動と変則的なスピードで迫ってくる。
弾幕の隙間を縫って接近しようにも、今の俺のスピードをもってしても撃ち落とされるだろう。そのくらいの技量はある。
「アインハルト、こっちだ!」
「はいッ!」
アインハルトを引きよせ、呪文を唱える。
手に持つ赤い本が光りを放つ。
「ラシルドッ!」
地面から大きな盾が出現する。2人で隠れても十分に余裕がある、電気でできた盾だ。盾に当たったアクセルシューターは、当たった時と全く同じ軌道で跳ね返っていく。
「よっと」
それを見たなのはさんは、盾を破壊するのではなく避けるように操作し始める。そのタイミングで俺とアインハルトは盾から飛び出した。
盾を避けるために大きな軌道を描いていた誘導弾を置き去りにして、なのはさんに迫る。このやり方だと通り過ぎて行った弾丸で挟み撃ちされる恐れがある。
案の定、旋回した弾丸が再び俺たちを追尾し始めるが、
「ラシルドッ!! 行け、アインハルトッ!!」
「はいッ!」
後ろに電撃の盾を生成し、後ろからの攻撃を防ぐ。
なのはさんは最初の弾丸の操作を放棄したのか、後ろからの攻撃は明後日の方向に飛んでいく。代わりに精製した弾丸は、十分に射程内になったアインハルト1人に向けられていた。
だが、アインハルトも負けてはいない。迫る誘導弾を両手を使っていなし、掴んで、お互いにぶつけることで速度を落とさずに突き進む。
「だったら、これはどう?」
なのはさんが持っているのはトリガーを引く拳銃ではない。魔法の杖だ。魔法を同時に1つしか使えない、なんてことはない。
誘導弾ではダメージを与えることは出来なかった。だったら他の弾丸を装填するまでだ。銃口のような杖先に魔力が集まる。
「砲撃だぞ……!」
なのはさんの代名詞ともいえる魔力砲だ。それが見えているにもかかわらず、アインハルトは突貫する。
タイミングはギリギリ、あと3秒あれば撃たれる前に拳が届く―――ッ!!
「フォトンスマッシャー……ファイアッ!!」
俺の手は間に合わない。アインハルトに迫る砲撃。それに対して、
「ハァッ!!」
すさまじい轟音と共に砲撃が掻き消された。アインハルト渾身の右ストレートが砲撃を跳ね返したのだ。
「あらら、パンチで相殺……?」
なのはさんの呟く声は、たった今攻撃を防がれたとは思えないほど冷静な、あるいはとぼけたようなものだった。
風を切り裂く剛拳がなのはさんに迫る。
「ハァッ!」
「……っ」
レイジングハートの柄で拳を受け止めるなのはさん。その衝撃で柄がしなり、衝撃を受け止める。予想外の威力だったのか、なのはさんの顔が初めて引き締まる。
「ハッ、ハァッ! ヤァッ!!」
だが流石のなのはさん。アインハルトの猛撃を難なく交わしている。中距離主体の人と言ってもそれしかできないわけではないのだ。
今度は杖を槍のように扱い防御の姿勢を取っている。
俺もボーっとしているわけにはいかない。この距離からだろうと、援護の手段はある。
「
なのはさんに飛来する7本の光の矢。俺の魔力ではけん制程度の威力にしかならないが、魔法と同時にネギの技術も付与されたのか、そのコントロールは正確だ。
「よっ、と」
なのはさんが相殺しようとアクセルシューターを飛ばしてくるが、そう来るのは読んでいた。
「
アクセルシューターと
俺の弾丸だけが生き残り、なのはさんを襲う。
「ッ!?」
初めてなのはさんにダメージが入った。微々たるものだろうが、バリアジャケットに埃をつけることに成功した。
そこを好機とアインハルトの攻撃が激しさを増す。だがなのはさんの防御に隙は無い。被弾のダメージも感じないスピードだ。
「ッ!」
なのはさんと一瞬目が合った。次の瞬間、今までの倍の数のアクセルシューターが現れた。そのすべてが俺に向かって襲い掛かってきた。
すさまじいマルチタスクだ。すべての魔法のキレが、これまでとは別次元。今度は
仕方なく距離を取るが、相手は誘導弾。どこまでも追いかけてくる。
「翔さん!」
「よそ見なんて余裕だね」
「ッ!?」
アインハルトの拳はプロテクションシールドに受け止められていた―――だけではなく、その薄いピンクの壁から生成された、同色の鎖に絡めとられていた。
アインハルトの右腕が完全に空中に固定されている。
そして、そんな隙をみすみす見逃してくれるほど、相手は甘くない。
「ディバイン―――」
魔力が練り上げられていく。次の瞬間には彼女の代名詞にもなっている砲撃がアインハルトを飲み込むことだろう。
防御しようと焦っているアインハルトだったが、そこから急いで逃げたとしても、なのはさんの銃口はそんなに甘くないだろう。吸い寄せられるように命中するのは目に見えている。
誘導弾で距離を離されていた俺では、あの攻撃を直接カットすることは出来ない。即座に出せる火力では、なのはさんの硬い防御を突破することは出来ないだろう。
何たる失態。せっかく2人で攻めていたというのに、いつの間にか引き離され1対1の状況に持ち込まれていた。
たかが誘導弾であしらわれていたのは俺だ。捕まっているアインハルトを見捨てることは出来ない。
「
身体に纏っていた
威力だけ見れば、なのはさんの砲撃にも引けを取らないはずだ。これならなのはさんも無視できない攻撃のはず。
「おっとっと」
「っちぃ!」
距離がありすぎた。
派手な攻撃は一瞬でなのはさんに発見され、華麗な宙返りで回避される。
魔力の収束を抑えられたのかと言われればそうではなく、アインハルトの逃げる時間を稼ぐことが出来た訳でもない。
砲口が向けられたアインハルトだったが、拘束された当初のように暴れなくなっていた。
発射までもう時間がない。
「―――バスターッ!!」
アインハルトに迫る砲撃。威力は必殺。防御は出来ない。受け身の行動でどうにか出来る技ではない。
それは彼女も理解している。
体の回転で腕を拘束していた魔法の鎖を残らず粉々にする。それだけにとどまらず、自由になった右手はそのまま砲撃を迎え撃つ。
「―――ッ!?」
なのはさんも驚愕に目を見開く。
アインハルトの放った右掌打は、なのはさんの砲撃を完全に相殺、どころかその威力を上回っていた。
バリアジャケットが破れ、空中で姿勢を崩す。なのはさんにとっても予想外の反撃だったらしい。
なにより、拳を放ったはずのアインハルトもこの結果に驚いたのか、掌底を振りぬいた格好で静止してしまっている。
再びなのはさんのデバイスに光が灯った。
思考の空白が短かったのは、やはり歴戦のエースオブエースだ。
「ストライクスターズ―――!」
撃たれるより前に、再び
このままアインハルトを抱えて逃げることは出来るが、撃ち落とされるのは目に見えている。だったら、
「頼むぞ、
まさかお前も、初陣がなのはさんの砲撃とは思わなかっただろう。俺もだ。だけど、
完全に生身。すでに砲撃は発射され、視界は光に染まっている。
「いっけええええぇぇぇぇ―――!」
右手に激突する。すさまじい圧力と共に、右手首がへし折れそうなほどの痛みが襲い掛かってくる。
右手が弾かれてしまわないように、左手で支える。
触っただけでは打ち消しきれない。そのくらい強力な攻撃なんだ。永遠にも近い一瞬。終わりはすぐに訪れた。
その感覚は分かった。アニメで聞いたような効果音はなかったが、俺の脳内にパキンッ、という何かを壊した感覚があった。一気に痛みと圧力がなくなり、砲撃が跡形も無くなる。
アインハルトが跳ね返した時とは違い、辺りに衝撃すら起こらない。まるで何もなかったかのように、この世界から完全に消えてしまった。
流石のなのはさんの顔にも、動揺が見て取れる。
「(なに、今の? 砲撃を相殺、じゃなくて、打ち消された? 術式そのものを壊されたみたい。今までこんなことなかった。いったいどんな能力を……)」
「ありがとうございます、翔さん」
「間に合ってよかったよ。下手したら撃墜されてたぞ」
2人がかりで互角とはね。今の一瞬の攻防のなのはさんは間違いなく本気モードだったな。訓練で、相手のことを分析しながら成長させる戦いから、相手のことを撃ち落とす戦いになっていた。
今はその中間だ。砲撃を準備しつつも、下手に前に出てこない。まるで天から降りてきた天使のように、スカートをはためかせ、空に浮かんでいる……何であれで中が見えないんだ?
「今の砲撃、私だけだったら間違いなく飲み込まれていました。あれが本物の砲撃……」
「俺の右手も結構マズいかもな」
何とか打ち消すことが出来たが、2回目をやれと言われたら自信がない。
そしてその魔王はまだまだ元気だ。少し警戒させることは出来てるけど、ダメージは全然―――
「痛いっ!?」
「「はい!?」」
なのはさんの頭部に弾丸が命中する。急所には自動で発動するプロテクションがあったらしく、ダメージはほとんどないみたいだけど、撃ったのはいったい誰だ!?
《お兄さん、アインハルトさん》
通信機から聞こえてくる声は、
「ティナか!?」
今のはティナの狙撃だったのか!
《はい。ティアナさんからの連絡で、作戦の準備が整ったそうです。援護するので一度撤退を。召喚魔法で後方に飛ばします》
「了解だ!」
「翔さん!」
足元に魔方陣が現れる。この色は俺たちのチームのフルバック、キャロのものだ。次の瞬間、俺たちの目の前にそのキャロが立っていた。いや、俺たちがキャロのいるところまで移動したのだ。
「お疲れ2人とも。すぐに治すから、戦線復帰よろしくね」
「は、はい!」
俺はもちろんだが、アインハルトも初めてだったらしい、コクコクと頷いている。
「今のが召喚魔法か。便利なもんだな」
削られたライフが回復していくのを見ながら呟く。戦場から帰還できたため、一気に緊張が解かれる。でも、これで少し休憩が出来るな。
そう思ったのもつかの間、アインハルトに肩をゆすられる。
「しょ、翔さん……」
「ん? 何だ?」
「アレを見てください!」
「アレ? アレって……は?」
指で示された方向を見ると、岩を寄せ集めたような巨大なゴーレム、そしてそれに対抗するように真っ黒いナニカ。その2体が殴り合っていた。
何あれ。
――――――――――――――――――――――――
「よし、翔君たちがなのはさんを引きつけてくれたおかげで準備は万端。これがBチーム勝利の篝火ッ!」
ティアナの周りにはオレンジ色の光球がいくつも浮かんでいた。なのはとの違いは、アクセルシューターよりも充填された魔力だ。
なのはの援護が途切れている時間に、ティアナはこの攻撃を準備していた。誰にも邪魔されず、時間をかけて、入念に仕込みをすることが出来たのだ。
「クロスファイヤ・フルバーストッ!!」
全ての戦場へ向けて弾丸が降り注いだ。狙いも正確に、正確にAチームのメンバーだけを打ち抜いていく。
拮抗していた戦いが一気に傾いていく。ダメージを受けたところにさらに追撃を受け、ダメージを重ねる者。隙を突かれて戦線を突破されてしまう者。
その中でも一直線に敵陣に向かっていくのはノーヴェだ。スバルとの戦いをすっぱりと放棄し、一直線にルーテシアが構える陣地へ切り込もうとする。
「ノーヴェ! 私との1on1放り出してどこ行くのさー!」
「後衛攻めに決まってんだろうが! 今なら治療中のヴィヴィオとクロをまとめてブン殴れるんだからな! 追いつけるもんなら追いついてみやがれーッ!」
「ちょっとー!」
悲しいことにスピードは圧倒的にノーヴェの方が上だ。見る見るうちに離されていく距離。スバルはすぐさまルーテシアに通信を入れる。
「ごめーん! ノーヴェに突破されちゃった!」
《ありゃ、そうなの? うーん、どうしようかなー》
《ルールー! 私たちいけるよ!》
《十分回復してるわ》
ヴィヴィオとクロは気合たっぷりだ。2人ともそれぞれ違った理由で、アインハルトとの再決戦を望んでいる。
《そうだね。アインハルトも夜月君も治療中だし、ここを逃すともう逆転は出来ないかな。よし、やっちゃおうか!》
ルーテシアは通信回線を全員に繋ぎ直す。
《Aチームの皆さん! 予定とは少し違ってしまいましたが、作戦を開始します!》
《わかりました。では―――行きます!》
その声に一番に反応したのは桜だった。
数瞬後には、戦場の真ん中に巨大な影の巨人が出現していた。
《Aチームはまだまだここからだよ、夜月君》
Aチームの逆転の一手が切られた。