「アインハルトさん! さっきのリベンジです! よろしくお願いします!」
「……はい。翔さんすみませんが」
「行ってきてくれ、俺は……」
「うん。私も邪魔しないよ。ヴィヴィオ、行ってきて」
「うん! 行ってきます!」
アインハルトとヴィヴィオちゃんが離れていく。
《翔君、2分後に撃つから。お願いね》
「責任が重すぎるな……」
目の前のエースオブエースを突破して、あの戦場までたどり着かなくてはならない。
「じゃあ、最後だね。夜月君」
「何とかするしかないな」
ルーテシアの挑発的な笑みを浮かべる。
最後の戦いが始まろうとしていた。
――――――――――――――――――――――――――
「ヤァッ!」
「ハアッ!」
2人の少女の拳が交錯する。リングがあるわけでない、むき出しのアスファルトの上。ヴィヴィオの後ろでまとめられた金髪と、アインハルトの銀髪がお互いを追いかけるように乱舞する。
攻めているのはアインハルトだったが、苦い顔をしているのもアインハルトだった。
本格的に手合わせしたのは片手で数えられる程度だったというのに、その時見せたアインハルトの攻め方を、ほとんど学習してしまっている。
ヴィヴィオがどれだけアインハルトを意識して訓練してきたのかがわかる。
(それに、この成長速度……っ)
いつぞやのように、『軽くあしらう』ことが出来るレベルではなかった。明確な目標と充実したコーチによるトレーニングの結果、実戦を積んだはずのアインハルトに迫る実力を身に着け始めていた。
少し前までとある事情でトレーニングに集中できなかったアインハルトとは、『伸び』が段違いだ。
2人ともベストコンディションならば、まだアインハルトに軍配が上がっていたのかもしれない。だが、アインハルトは、なのはと戦ってろくに回復もできていない状態だ。ライフは減っていなくても、スタミナは減っている。
「そこっ!!」
「ッ!?」
狙い撃つように早くて精密なパンチが、ライフを一方的に削る。2人とも、子供のリーチというハンデを無くすために変身魔法を使っているため、体格の差はほとんどない。
しかし、当たる拳は片方のモノだけだ。
「特訓したんですね、ヴィヴィオさん。ヒットが取れません……!」
「えへへ、ありがとうございます! 私の武器は相手の攻撃を見切るこの『目』ですから! 今回の大会は、そこを中心に鍛えました!」
(それだけじゃないですよ。それ以上に、相手の攻撃を恐れずに前に出て打ち込める勇気があります)
アインハルトの一撃は重たい。ちょっとしたミスで一気に押し込まれる可能性があるのだ。だがヴィヴィオは、むしろ自分からアインハルトの間合いに入る。もっと打ってこいと攻撃を誘うように。
(それらが重なって出来上がるこの
このままではジリ貧になるだけだと悟ったアインハルトは、ならばと被弾を覚悟で相打ち狙いの技を放つ。
多少目が良い程度では避けることの出来ない。空を断つ一撃を。
「覇王―――断空拳ッッ!!」
(ッ! 来た! ここだッ!)
ヴィヴィオが大きく踏み込む。
大技とは急に放てるものではない。必ず一瞬の溜めが入るものだ。そして技を出し始めた瞬間から、大きな隙が出来る。
その隙を、今のヴィヴィオは見逃さない。
「一閃必中―――アクセルスマッシュッ!!」
強烈なアッパーカットが、大技の直後で隙だらけだったアインハルトを打ち抜く。
(まともに入っ―――)
拳に伝わる感触に、ヴィヴィオは会心の一撃という言葉を思い浮かべ、顔を緩ませる。
間違いなく顎を捕らえた一撃。人体の急所の1つだ。脳みそが揺らされてしまえば、どんな達人でも立っていることは出来ない。
アインハルトの体の力が一気に抜ける。勝利を確信したヴィヴィオの体からも緊張が解ける。解けてしまう。
「ッ!?」
気が付いた時には、ヴィヴィオの側頭部に重い蹴りが叩き込まれていたのだ。
お互いの攻撃によって2人の体が宙に浮かび上がり、重力に従って地面に倒れこんだ。まるで時間が止まったように、今まで激しく拳を交差させていたとは思えないほどに、2人は動かない。
光に包まれ、BJから私服のジャージに。それと同時に戦うために大人の姿に変化していた体も元に戻った。
2人のライフは全損。完全に気を失っていた。
勝負は相打ちという結果に終わったのだった。
――――――――――――――――――――――――――
「MAX大変身!」
《Dual ガッシャット!》
《The strongest fist What's the next stage?》
《ガッチャーン! マザル up!》
《赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! PERFECT KNOCK OUT!》
俺はパーフェクトノックアウトに変身する。
「夜月君、あんまり無理に攻めないでね。何とか突破することを考えて」
「無理しないと、突破することも出来なさそうですよ」
「最悪、私のことは助けなくてもいいからね」
向かい合うのは俺とキャロ、なのはさんとルーテシアだ。
「さぁて、夜月君。ドキドキしてきたんじゃない? 絶体絶命だもんねぇ?」
「いやいや、俺たちのチームは、ここからがしぶといからな」
その言葉を合図に戦闘が始まる。
後ろから撃たれては敵わない。俺はなのはさんを攻撃する。それをルーテシアは止めない。俺たち2人の間に入ってきても意味がないとわかっているんだ。彼女は彼女で、キャロが何もできないように足止めをするつもりらしい。
「今度は1対1だね、夜月君」
「そうみたいですね。ちなみに、今のところ俺の評価はどんな感じですか? 六課に入れそうですか?」
「あはは、まだわからないよ。最終的な判断をするのは私じゃなくて部隊長だから。もしかすると、ここの勝負で決まるかもしれないよ?」
「じゃあ気合入れないとですね」
言葉を交わしている時もお互い攻撃の手は緩めない。
なのはさん相手の撃ち合いで勝てる訳がないので、俺は何とか近づこうとし、時折隙を見て中央の戦場に向かおうとする。
しかしどの行為も、自在に動く誘導弾のせいでうまくいかない。その場に縫い付けるように、大きく動こうとすると弾丸に通せんぼされる。
織に閉じ込められた俺に向けられるのは、なのはさんの杖先だ。
「ディバイン―――バスター!!」
迫りくる砲撃。
《マッスル化》
《7連打!》
「う―――おおおおっりゃあぁぁ!」
パラブレイガンを全力で振りかぶり迎え撃つ。
切り裂くというよりも、大きな刃の部分で撃ち返すという表現が正しい。
《5連鎖!》
さらに光弾をばらまき、逃げ道を塞いでいたアクセルシューターを撃墜した。
《高速化》
全ての攻撃を捌いたところで、加速してなのはさんに肉迫する。
ここまで近づいてしまえば大きな攻撃は出来まい。後の障害は魔力障壁だけだ。
炎の拳が盾を粉々にする。後ろにもう1枚あり、俺の拳は止まった。
「ッ!!」
桃色の盾から出た鎖に、俺の腕が絡めとられている。
これはアインハルトが引っ掛かっていた奴だ。ここから来る攻撃も予測できる。動けない相手に必殺の砲撃―――だが、パーフェクトノックアウトを舐めてもらっては困る。
《分身》
エナジーアイテムを引き寄せて取得する。
その瞬間、俺の隣にもう1人のパーフェクトノックアウトが出現した。当然、鎖で拘束はされていない。
わき目も振らず、なのはさんに突貫した。
「ッ!?」
砲撃の準備をしていたなのはさんも、これには驚いて準備を中断する。
武器が無くなってしまったが、パーフェクトノックアウトにはまだ燃える拳がある。
拳とレイジングハートが激しい火花を散らす。
分身の俺は突貫する前に自身のパラブレイガンを、俺を拘束している鎖に向かって投げつけていた。ノールックとは思えないほど正確に、鎖を切り裂く。
自由の身となった俺は、後ろから援護を開始する。
もう一方では、キャロとルーテシアが魔法戦をしている。飛び交う魔力弾は派手さこそないが十分な攻撃力を兼ね備えている。
「アルケミックチェーン!」
キャロの足元の魔法陣から、無数の鎖が飛び出す。鎖の見た目通り、絡みついて相手を拘束する魔法だ。狙いはルーテシアだが、鎖のコントロールが甘い。
「ふふふ、そんな攻撃当たらないよー♪」
「……いいんだよ、当たらなくても。これは、撃墜のための布石だから―――!!」
「後ろ―――!」
なのはさんが声を上げるがもう遅い。
ルーテシアを狙っていた―――ように見えていた鎖は、実は俺に向かっていたのだ。
俺がその鎖を掴むと、何かに巻き取られるように腕が引っ張られた。向かう先はもちろんルーテシアだ。
なのはさんは分身を相手にしているため、こちらには何も出来ない。
「え、ちょ―――!」
《ウラワザ!》
《PERFECT KNOCK OUT CRITICAL BOMBER!》
防御なんて関係ない。ルーテシアのライフを根こそぎ奪い取るッ!!
「くらえ―――!!」
パラドクス必殺のライダーキックがルーテシアに炸裂した。
「よしッ!」
「勝利のV!」
俺はサムズアップ、キャロはVサインを互いに交わす。
「わっ!」
キャルの体に、ピンク色のリングが巻き付いた。
分身の効力が切れたのか、それとも撃ち落としたのか。BJにところどころ焦げ跡を作ったなのはさんが、そこにはいた。
「夜月君、行って!」
「おう!」
「行かせないッ!」
キャロを助けている時間はもうない。ティアナさんが指定した時間までに任務を達成しなければ、今の勝利は水の泡になるのだ。
だがなのはさんは、当然阻止しようとする。
ビルの影に隠れた俺は時間を確認する。残り30秒。生き残るだけなら何とかなるかもしれないが、ここからなのはさんを突破して向こうの戦場に行くのは難しいかもしれない。
小さい頃からフェイトさんと一緒にいたからなのか、『高速化』のエナジーアイテムを使っていても問題なく攻撃を当ててくる。
俺の十八番になりつつあるACT3の回転の中に隠れたとしても、ずっと隠れていられない上に、回転の移動速度がそれほどでもない。狙い撃ちにされるだけだ。
時間が無い。
射砲撃が強すぎて、なのはさんに近寄ることが出来ない。逃げることもできない。八方ふさがりだ。
なのはさんは俺を足止めしておけば良い。中央の戦場に俺たちのチームの逆転は無いだろうし、『逆転の1手』も桜がいる限り、致命的な一手になり得ない。
勝つにはやはり、俺が
「だとしてもどうやって……ん?」
足元がアスファルトとは違う感触を踏み砕いた。足を退けると粉々になったガラスだった。今回のフィールドは廃ビルが多数ある。ともすれば、割れたガラスがある程度全く不思議ではない。
「ッ! これだッ!!」
俺はベルトを腰に当てた。
《ZI-O!》
《RYUKI》
「変身!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
《ARMOR TIME!》
《ADVENT RYUKI!》
仮面ライダージオウ、龍騎アーマーに変身した俺は、そこら中にある鏡の破片の中で一番大きなものを見繕う。それに向かって水泳の飛び込みのように、両手を揃えて飛び込んだ。
俺がその世界に吸い込まれるのと、なのはさんがビルの裏まで飛んでくるのはほとんど同時だった。
俺のつま先が現実世界から消えるのがあと1秒遅ければ、この行動に意味はなかった。
「いない……?」
だがなのはさんは見ていなかった。そうなれば、俺が突然消えたように見える。一番疑わしいのは、今まで散々見せてきたACT3だ。
どこかに潜んで機会を窺っている。そう考える。
そうなれば、今度はこちらがなのはさんを足止めする番だ。索敵の魔法を使って辺りを調べ始めるなのはさんは、俺を逃がさないように、不意の攻撃を受けないように意識を集中する。
その姿を横目に、俺は走り出した。
鏡の向こうにある世界、ミラーワールドを目的の方角に向かって。邪魔者はいない。この世界に干渉できる能力を持った人は、この戦場にはいない。
最短距離で戦場まで駆ける。
完全記憶能力でおおよその道、地形、建物は頭に入っている。おおよその当たりをつけ、適当な出口を探す。後はタイミングだが、時間の余裕はない。すぐにミラーワールドから飛び出した。
「え!? 翔く―――」
突然現れた俺に、巨人を操っていた桜は仰天しているが―――あいにくと目標は桜ではない。桜を倒しても目的は達成できるが、より正確なのはこっちだ。
変身を解除しつつ、右手には
目標は目の前。視界全てを覆うほど大きい、吸い込まれそうな黒い物体だ。
「―――、―――!」
桜が何かを叫んでいるが、もう遅い。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
そのわずか2秒後。
「は―――」
俺の視界は光に包まれたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
(戦闘を開始してから十分に時間が経った。戦場の魔力散布は十分にされている)
見晴らしの良いビルの屋上からティアナは飛び降りる。ビルの陰に隠れ、今の戦場の中心を思い描く。
周囲の瓦礫をどんどん取り込み、巨大化していくコロナのゴーレム。そして、桜が作り出した影の巨人。フィールドの中心でぶつかり合うスケールの違う攻撃に、みんなが釘付けになっている。
「(あそこの戦いで、戦力の均衡は崩れた。もう今から仕切り直しなんて出来ない。ここからはもう乱戦、この機会を逃せば戦術的な勝利は無くなる。仕掛けるなら―――今ッ!)Bチームのみんな、ここが正念場よ。そのままフィールドの中心で戦線を維持して」
ティアナは戦っているだろう仲間へ作戦を告げる。
しかし戦いつつも、周囲に目を光らせていた人物がいた。エース・オブ・エース、高町なのはだ。
「(翔君だけじゃない、ティアナがいつの間にか姿を消してる―――どこかで一撃を狙ってるんだ。それならこっちだって)Aチーム各員! 作戦通達!」
試合開始と同じように、2人の思考は一致していた。
「「
戦いによって魔力散布は十分にされた。戦略攻撃をするなら、人が集まっている今を除いてほかにない。
「Bチーム生存者一同! なのはさんを中心に広域砲を撃ち込みます! コロナはその場で最後まで敵を引き付けて! 残りの人は合図で脱出をッ!」
「
最後の指示を飛ばすティアナとなのは。発射までもう猶予がない。
「ブラスター1、モード『マルチレイド』。スターライト―――!!」
「シフト『ファントムストライク』。スターライト―――!!」
空気中に滞留していた目に見えない魔力の粒子を、2人が奪い合い、根こそぎ自分のモノにする。吸い付くし、弾けそうなくらいに膨らまされた魔力が―――解き放たれた。
「「―――ブレイカーッッ!!!!」」
戦場が光りに包まれる。フィールドの中心で激突した2つの
爆心地にあった建物はチリも残らず、その周辺にあった建物も爆風で倒壊していく。その爆発はみんなが予測していたものよりも、はるかに大きいものだった。
選手のほとんどが、2つのブレイカーに巻き込まれてしまったのだった。