「現在、六課では
「ふむふむ」
―――あなたならそう言うと思っていました。
このまま事件に関わるのか。その問いへの返答に、クローディアは笑顔でそう返してきた。
ここから先はまだ六課にも共有していないことなので、絶対に他人に話してはいけないことだと言われた。
「もちろん、あなたの友人にもですよ? 明確に知って捜査するのとそうではないのとでは、向こうの出方も違いますから」
時計の針は真上を指して重なる。
俺の返答を予測していたとの言葉通り、クローディアの説明は淀みなく続いていく。
「そもそも
紙の資料ではなく、空間に映し出されるディスプレイの画像が動き、説明を補足していく。
「御坂美琴が研究者に自身のDNAマップを提供したのは、時期的に考えれば幼少のころですね。とある病気の治療の助けになる―――そう思って提供したものが悪用されてしまったというわけです」
「そうか……」
その辺りに変わりはないんだな。
「先ほども言ったように、
「妙な話だよな」
同じ遺伝子を使って、同じ教育を施しても同じ結果にならないのだ。超能力の成長に他の何かが関係しているということの裏付けになるんだろうか。なんにせよ、今は関係ない。
「
しかしそうはならなかった。
「ここで別の計画が持ち上がります。
絶対にしてはならなかった、禁断の計画だ。
「超能力は使うことによって成長の速度が速まる、という研究結果に基づいて立案されたこの計画は、つまるところ戦闘で能力を使い、レベルアップを果たすというものでした」
リアルでゲームのように経験値を稼ごうというわけだ。
「この方法でレベル6に到達しうるのは、現在存在しているレベル5の内ただ1人。学園島最強の超能力者―――
「―――」
とうとうこの名前が出た。
まだ会ったこともない相手の名前を聞いただけで、俺の体に力が入る。
「しかし、ここでまた問題が起きました」
出来ればこのまま問題で潰れてほしかったものだ。
「世界最高のスーパーコンピューター、
計算で天候を100%の確率で的中させているのだ。
そしてこの
だが優秀な科学者ってヤツは、実際に目で見るまでは結果を信じられないみたいだ。そんなバカげたお話は、机上だけに留めておいてほしかったものだよ。
計算をそのまま現実に。
「とは言え、レベル5である
「そんなに用意出来てたら、今ごろ世界は超能力者で溢れかえってるな」
128人殺害ってとこでもうトチ狂ってるとしか言えない計画だ。
レベル5をそこまで量産出来ていれば苦労はしない。今現在レベル5に分類されるのはたったの7人だけ。そうやすやすと生まれるものではないのだ。
計画は失敗だ。失敗に終わるはずだった。
だがそうはならなかった。
「
レベル5の
それ以下のレベルしかない
ここまで来ると数字の暴力だ。
下手な災害の被害者並みの数字。現実味が無くて想像することが出来ない。
これが戦争による死傷者ならまだ理解出来る。だが、1人の人間が殺す数字ではない。
「ふぅ……」
「飲み物、冷めてしまいましたね。淹れ直します」
クローディアが席を立つ。
大枠の説明を聞き終わり、俺達は一息ついた。
分かっていた内容だけだったが、これの解決のために動くとなると途方もない気分になる。
「それでどうしますか。何か良い考えがありますか?」
ティーカップにお茶を入れたクローディアが、再び対面に座る。
事件についての情報共有は終わった。次はその解決策だ。次は、なんて気楽に言っているが、ここが一番の難関と言っていい。
「一番良いのは
「一番良いのはそれですけれど、残念ながら居場所もわかりませんし」
「その辺りは調べてないのか?」
「いえ、住民票に登録されている部屋には行ってみました。しかしそこには誰も。部屋の中は荒れ放題でとても人が住めるような状態ではありませんでしたし、1週間経っても
本人は? じゃあ他の誰かは来たってことなのか。
「最強の超能力者というのがどの程度なのか、自分の腕試しに来たという方々が2、3組。ですが彼らも、普通に調べて分かる以上のことは何も知りませんでした」
腕試しって……有名人は大変なんだな。しかも1週間で2,3組。路上での待ち伏せもあると考えれば、ほとんど毎日かもしれないぞ。
それじゃあいくら最強の
「じゃあ実験に乗り込んで、
原作で上条当麻がやったように、計算を狂わせることで実験を中止させる案だ。
「倒して、どうするんですか?」
「や、だから、
俺の言葉にクローディアは首を横に振る。
「少し狂いを生じさせたからと言って、再計算されれば意味がありませんよ」
「あ……」
そうだった。原作では破壊されてしまった
「それに、相手の隠蔽力が高すぎて、私の調査ではこれ以上詳しいことはわからないんです。実験に割り込もうにも、肝心の実験がどこで行われているのかが分かりませんよ。実験のスケジュールはおそらく最重要機密ですから」
「そうか……じゃあ次点で、後ろ盾のレベル6を作りたがっているクソ野郎共を全滅させるってのはどうだ? それだったら資料にあったよな?」
「それも……あまり現実的とは言えないですね。科学者の皆さんは、『前人未踏のレベル6』がよほど魅力的みたいですから。資料に書かれているモノもごく一部なんです。調査できないのではなく、載せきれなかったという意味で」
いくら潰しても、ゴキブリのように湧いてくるってことか。
「ちなみに研究所を潰すという方法は、御坂さんが今しているんですよ。本人もそれ以外に方法が無いと結論付けたんでしょう」
御坂の能力では
管理局の権限で、実験の現場を取り押さえるって方法もあるんだけど。
「そもそも2万人の人を殺す実験が、まったく人の目に触れられていないというのは不自然です。どこからか圧力がかかっているのでしょう。それが組織なのか、国なのかはわかりませんけれど」
公的な組織でも解決が難しいという訳だ。
「じゃあせめて、御坂とは協力したいな」
「それが、最近は学校にも顔を出していないようです。夜中あれだけ活動していますからね。昼は休んでいるんでしょう」
「ちなみにどこにいるかは……?」
「彼女ほどの
「……ああ、もう……っ!」
つまりはわからないってことかよ! そりゃ痕跡が残らないようにするのは大切かもしれないけどさ! それじゃあ、どうしようもないじゃないか!
「はぁ……とりあえず、俺も研究所を潰して回ることにするよ。クローディアはどんどん情報を集めてほしい。そのうち御坂と会うかもしれないから、そこで改めて協力関係を築くことにする」
「現状ではそれしかありませんね。スケジュールはこの後メールで送ります」
とりあえずの方針が決まる。
時間も遅いし、もう帰った方が良いだろう。明日は夏休み前最後の登校日だ。
「それで、翔?」
「何だ?」
「今回協力する条件と言いますか、ご褒美のようなものが欲しいのですけれど」
「ご褒美……?」
今回の事件、管理局の捜査という建前はあるけれど、実際に俺に命令が下されているわけではない。あくまでもクローディアが、六課に渡すはずの情報をわざわざ俺に先に教えてくれているのだ。
ご褒美の1つや2つをねだられれば、首を横に振ることは出来ない。もう情報を貰っちゃってるしな。
「俺にできることなら……」
「ありがとうございます。それじゃあ、少し立ってもらえませんか?」
「ん、ああ……」
俺は椅子から立ち上がり、その横に立つ。
「それでは……」
クローディアは、おもむろに抱きついてきた。
柔らかな双丘が俺の胸板で潰れる。いくら柔らかくてもペッタンコになるまで潰れる訳がない。むしろ余計にその弾力がわかってしまう。
俺が反射的に身を引こうとすると、逃がさないとばかりに背中に回された腕に力が込められた。
「ク、クローディア……?」
「ふふふ、何ですか? これは私に対するご褒美ですから。翔は抵抗しちゃだめですよ?」
「分かったけど……っ」
しかしじっとしているのもつらいものだ。
何故って、この体勢は非常にまずいからだ。
こんなに密着されて、俺の愚息が反応しないわけがない。少しずつズボンの下に血液が集まり始める。
柔道の試合で組み合っているかのように、抱き合っている俺たちの足がせわしなく動く。主に俺が逃げようとして、クローディアの足が絡みついて来ようとする。
「こら、暴れないでください」
「や、だから……っ」
俺があまりに逃げようとするからだろう。背中に回していたうちの片方が腰に添えられ、より強く密着させられる。
クローディアがどういう意図でこんなことをしてくるのかわからない。もしかしたらこの娘も、過去に行った俺の行動で何かあったのかもしれない。
だからと言って、何も知らない俺がそれを受け取るわけには……!
「もう、どうしてそんなに暴れて―――あれ?」
気づかれた―――!!
すっかり固くなった俺のモノをズボンの上から撫でられる。
「ふふ、そう言う事ですか。どうしますか? こっちもスッキリしていきますか?」
「それはいいから!」
ギリギリのところで立ち止まることが出来たのだった。
―――――――――――――――
「残念です。そこまで拒否しなくても良いじゃないですか」
「こういうことは、な? 俺たちこういう関係じゃないんだし」
我に返った俺は、据え膳を放り投げて帰宅しようとしていた。
「続きがしたくなったら、いつでもいらして下さい。私は何時でも良いですよ?」
「や、それはちょっと……」
流されかけてしまったが、目的が定かではないクローディアにこれ以上弱みを握られるわけにはいかなかった。
そうは思いつつも、先ほどまで引き寄せられていた胸元に、どうしても視線が吸い寄せられてしまうわけだが。
「そうですよね。イケナイですよね、こんな事。皆さんに対しての裏切りですもんね?」
「……っ」
「でも、そういう刺激も、良くはありませんか?」
「帰る、から」
何とか欲望を振り切り、ドアノブに手をかける。
「あ、そうです」
「ん?」
今まさに思い出したとクローディアは手を打つ。
「一応この実験の立案者の名前も教えておきますね。動向は全く掴めていないので、役には立たないかもしれませんが」
「そうだな。聞いといて損はないな」
えー、確か……原作では計画の立案者は『木原 幻生』だったっけ。確かにアイツを見つけるのは骨が折れそうだ。
それに、いまさらアイツをどうにかしたところで、動き出した計画を止めることは出来ないだろう。
「木原 幻生。かなりのご老体です。彼はレベル6理論―――
「うん」
まあそうだろうな。そんなところに変更があるわけないか。
「それともう1人」
「はい?」
何? もう1人?
「こちらは
その名前に、俺は息を呑むことになる。
「―――ティアーユ・ルナティークです」
ヤミと関わりの深い人物だったからだ。