※この作品はR-18です。

異世界ハーレム奮闘記   作:文房具

147 / 383
くっついて離れない 前編

「よし、お前ら。誰も死なずに2学期に顔を見せろ。これでホームルームを終了とする」

 

那月先生の少々物騒な話が終わると、教室は一気に騒がしくなった。なんてったってこれから約40日間は、学生が待ち望んでいた夏休みだ。これで騒ぐなと言う方が無理だろう。

 

若干何名かは成績が足りずに補習になってしまっているが、それは本人の自業自得。もちろん俺は問題無い。

 

今の俺は、補習なんかに気を取られている場合じゃないんだからな。

 

リュックを背負いながら、同じように荷物をまとめている少女に目を向けた。周りが騒いでもどこ吹く風。彼女の周りだけ静かな空気を纏っている。

 

ヤミだ。

 

ヤミを見ていると、どうしてもクローディアが最後に言ったことを思い出してしまう。まさかあの人が関わっているなんて、万に一つの可能性もない、と思いたい。それもこれも、俺が実験に介入していけばわかることだ。

 

でも、クローディアの仕事の手際を見ていると、俺に言った情報に、誤りは無いのではないのかと思えてしまう。

 

実は今日の夜から実験の研究所にカチコミを行う予定になっている。実行部隊は俺1人だが、準備はすべてクローディアがしてくれた。

 

実験場、妹達の生産工場、その他実験データを保管しているデータセンター等、重要度やランダム性を考慮した襲撃スケジュールを作ってくれた。

 

無暗に重要な施設から狙うのではなく間にクッションを入れることで、警戒をまばらにする狙いがあるのだとか。

 

もちろんそれが100%正しいのかと言われれば難しいが、そのくらい親身になって手伝ってくれているのだ。

 

だとするとティアーユのことも……そう考えてしまうのはしょうがないことだ。

 

一応今日、御門先生に会いに行って色々と聞いてみる予定だ。

 

あの人なら何か知ってる可能性があるからな。

 

「夜月翔」

「ん、ああ、なんだ」

 

考えていると、いつの間にかヤミが目の前に来ていた。

 

「何だとはこちらのセリフです。いったい何の用ですか?」

「え?」

「とぼけるつもりですか? ここ数日、事あるごとに私のことをジロジロと見てきたでしょう。気づかないとでも思っていたんですか?」

「視線には敏感なようで……」

 

自分でも心当たりがあったため、返す言葉に力が無い。

 

「そうだよねー。私の席からでもバッチリ見えてたよ。夜月君が授業聞かないでお姉……ヤミちゃんのことを見てるの」

 

後ろから忍び寄っていたのはメアだ。すっかりクラスにも馴染んで、最近ではことあるごとに俺とヤミにちょっかいをかけている。

 

「黒崎メア……」

「ん? どうしたのヤミちゃん。そんなに睨んで。私、何か気に障るようなことしたかなぁ? 私達、同じクラスのオトモダチじゃない?」

「……何でもないと言うなら、別に構いません。変なことを考えているのなら、血に染まるだけですから」

「そんなこと考えてねーよ!」

 

ヤミはメアの言葉を無視して歩き出した。

 

「で? 実際のところどうなの?」

「秘密だ」

 

この娘にティアーユのことを知られても面倒だ。妹達の事件に関わる理由が無いから、ここは引っ込んでもらうことにしよう。

 

軽くあしらうと、メアもそれ以上深く追求してくると子は無かった。

 

ヤミを追いかけて教室を出る。

 

「黒崎メアに何か言われましたか?」

「まあ、ちょびっとな」

「問題が無かったのならいいです。それで、結局何があったんですか? 私に関係あることなんでしょう?」

「……」

 

やっぱり言った方が良いんだろうか。ヤミの経歴について、詳しいことは知らない。でも、ティアーユとの関係のことを考えれば、少なからずショックを受けることになるだろう。

 

伝えて、ヤミはどうするんだろうか。

 

知らないところで、知っている人がおぞましい実験に手を染めていることを知ったら。

 

「ヤミ、実はさ……」

「わわわっ、どいてくださーい!!」

「は?」

「え?」

 

俺たちは誰かに後ろから追突された。

 

ホームルームの時間にそんなに差があるわけがない。俺たちと同じように教室から出た生徒でいっぱいの廊下。そこを全力疾走していたんだ。

 

その生徒が抱えていた、何やら見慣れない機械がそこら中にばらまかれる。

 

ぶつかられた俺とヤミだったが、転んだりはしなかった。代わりにぶつかってきた生徒―――小柄な女子生徒が尻餅をついていた。

 

本当に、まったく知らない娘だ。少なくとも、俺の知っている作品にこんな娘はいなかった。

 

「大丈夫ですか?」

「いたた……は、はい……ごめんなさい、急いでて……」

「拾いますよ」

「はぁ……」

 

ため息をついたヤミだったが、俺と一緒に床に散らばったものを拾い集めてくれる。

 

「あーあ、割れてるよ。片づけ面倒だな、これは」

 

ビンが割れてしまったようで、中身の液体が廊下を濡らしている。これは先生に怒られるぞ。

 

何事かと眺めていた生徒も、事故以上のことが起こらないとわかると興味を失って離れていく。

 

代わりに大騒ぎしたのは、ぶつかってきた女子生徒の方だった。

 

「あああああ!! 気を付けてください! 不用意に触ると……!」

「はい?」

 

そんな忠告に首をかしげたその瞬間、すさまじい勢いで俺の右手が引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

この島に来た当初は、この島は武偵を育成する場所だと考えていた。

 

それは当たっているようで間違っていた。

 

確かにこの島には武偵養成の学校が、小中高、さらには大学までそろっている。

 

しかしそれとは別に、超能力開発を主とした学校(例を挙げると御坂の常盤台中学)、魔法教育を主とした学校、一般学校など、いくつもの種類の学校がある。

 

ただし魔術を教える学校は無い。その性質から言って当然なんだけど。島に魔術師がいないわけじゃないんだけど。本場の時計塔に比べるとその差は歴然だ。

 

つまりこの島にいる人間は全員が武偵、というわけではなかったのだ。

 

科学と魔法と魔術が交差した、原作よりも巨大な学園島というわけだ。

 

各勢力は各々の基準で、超能力、魔法をランク付けしている。武偵ランクだったり、超能力者のレベルだったりな。

 

ここまでいろいろと喋ったが、そういった環境に揉まれているおかげか、ここの島の武偵は外からの評価が非常に高いのだ。

 

全員が武偵ではないと言っても、武偵である者のほとんどは超偵(超能力や魔術などを使える武偵の総称)で、科学的に最先端の技術に真っ先に触れることが出来るのだ。

 

大陸よりも進んだ技術を持つこの島の武装を、学生の時から使い込んでいるとなれば、評価が高くなるのも頷ける。

 

装備科の中には研究機関にスカウトされるくらいの逸材もいるのだとか。

 

先ほどぶつかってきた女子生徒も、そういう研究機関にスカウトされている優秀な学生だったようだ。

 

しかし天は二物を与えなかったようで、研究以外は人並み以下だという。おかげでスポンサー契約まであるのに、不得意教科で夏休みは補習三昧。研究所の仕事のスケジュールが一気に崩れてしまい、慌てていたのだとか。

 

問題は彼女が抱えていたものだ。

 

鞄にしまう時間すら惜しんで両手で抱えて教室を飛び出したはいいが、ぶつかったせいで廊下に散乱することになってしまった彼女の研究成果たち。

 

その中でも液体状のそれは、振りかけた人の肌に反応して、対象から強力な磁力を発生させるものらしい。しかも、その表面僅か1センチというごく狭い範囲に。

 

金属製の壁なら、スパイ〇ーマンのように上ることが出来るようになる1品だ。

 

で、今回は俺とヤミの手にかかってしまい、

 

「つまり、こうなってしまったと」

「そう言う事だ。全然取れない」

「本当に申し訳ありません!!」

 

女子生徒は何度も何度も頭を下げてくる。

 

場所は現在保健室。能力を使って身体能力を上げても、うんともすんとも言わなかった。手のひらが離れる前に、肩が脱臼してしまいそうだったよ。

 

アスナや狂三、アリア、理子にも来てもらって事情を説明した。

 

急いできてくれたんだろう。ここに到着した時、4人とも息を切らしていた。ドアを開けて俺達を見た視線が、どんどん冷えていくのには俺も肝を冷やしたものだ。

 

特にアリアなんて、発砲5秒前だった。

 

「突然手を握り合うほど仲を深めたのかと思いましたけれど、そういう訳ではなかったんですのね」

「まさか、見せつけるために私たちを呼んだのかと思ったもんねぇ~」

「そんなわけないだろ……そうだったら、性格悪すぎるわ」

 

狂三と理子は面白そうにニヤニヤしていた。事情を聴くともっとニヤニヤしだした。

 

「もっと早く事情を説明しなさいよ。どうやっても取れないわけ?」

「はい……手が強力な磁石のようになっていまして……無理に引っ張ると、手のひらの皮だけ剥がれてしまうかも……」

 

体がきゅっと縮こまる。恐ろしいことを想像してしまった。

 

「仕方ありません。斬りますか?」

「やめてくれ!」

「そうですよ! 半日もすれば効力が無くなると思うので……っ!」

 

俺と女子生徒は何とかヤミを思いとどまらせる。すでに指を刃物に変形させていたヤミだったが、俺たちの説得をあっさりと聞いてくれた。

 

これって、分かりずらいヤミなりのジョークなのか?

 

「とにかく! 今日は2人とも家でゆっくりしててね? 身の回りのことは私たちがサポートするから!」

「それまでこの男とくっついて過ごせと? ……はぁ、不愉快ですがしょうがないですね」

 

とっくに出ていた結論だったが、改めて納得してくれたようだ。

 

こうして、半日ほどのヤミとの共同生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「それで、たい焼きか」

「何か問題がありますか?」

 

家でおとなしくしていろと言われた俺たちだったが、いい機会だと行動をヤミに任せてみることにした。

 

旅行から帰ってからというもの、目に見えてヴィヴィオたちの特訓を見守り―――もとい、手伝う事が多くなっていたのはわかっていたので、実際にどのようなことをしているのか見てみようと考えたのだ。

 

この状態では、今夜から予定していた妹達実験の研究所への攻撃は出来ないし、御門先生に情報収集にも行けない。

 

だったら、この機会にヤミと親しくなっちゃおうじゃない! という短絡的な考えだ。旅行の時のヴィヴィオちゃん達の作戦と何ら変わりない。

 

「でもな……」

 

ここはヴィヴィオちゃん達が良く利用している運動公園だ。夏休みに入るタイミングはこの島すべての学校で統一されているため、カップルの姿はちらほら見える。

 

でも、ずっと手を繋いでいるようなカップルは俺たち以外には見当たらなかった。俺たちを見た他のカップルが、お互いに顔を反らしながらためらいがちに手を握るところを見ると、すごいムズムズしてしまう。

 

「やっぱり恥ずかしいな。手をつないだまま歩くってのは」

「私は非常に不快です」

 

聞いたか? 初々しいカップル。これが俺たちの実態だよ。

 

「でも―――……」

「ん?」

 

続く言葉があった。

 

「こうしていると……少しだけ、幼い頃を思い出します」

「子供の頃の? 親との思い出か?」

「……っ、あなたに話すようなことではありません。気にしないでください」

「そうですか……」

 

色々と聞いておきたい気持ちはあったんだけど、それはまだ難しいみたいだ。

 

「……ティアーユ博士のこともあるしな」

「何か言いましたか?」

「何も?」

 

そう言うと、ヤミはそれ以上追及してくることはなかった。

 

しばらく無言で歩いていると、ノーヴェさんとその妹達が立っていた。他の娘たちの姿はない。

 

「おっす、ヤミ。今日は翔も一緒なのか―――……あ?」

 

軽快な挨拶が、繋がれた俺たちの手を見た瞬間に止まる。

 

「おいおい。おいおいおい。おいおいおいおい! へぇー……! ふぅーん? そう言う事ねぇ?」

「違いますからね?」

「何も言ってねえだろ」

「考えてること全部違うってことですよ」

 

ニヤニヤとこちらを見てくるノーヴェさん。

 

「まさかあんなにいる中からヤミを選ぶなんてなぁ。いつものコイツの態度も、バレないようにするためってことか」

「だからっ! 違いますから!」

「そう言いつつも、手を握ったままなんだもんな」

 

このままでは埒が明かないと思った俺は、有無を言わさず事情を説明した。

 

「なんだ。つまらないな。ま、お前の場合は、誰か1人に決めても色々と面倒そうだけどな。大会前にやらかしてくれないで良かったよ……確実に調子を崩しそうな奴がいるしな」

 

しばらく待っていると、みんなが帰ってきた。どうやら、公園をランニングしていたらしい。

 

大会まで1週間。この時期になると、もう激しい訓練はしない。体力を落とさない程度に、ケガをしない程度に体を動かすのだ。

 

「あっ! ヤミさん! それに夜月さんも!」

 

先頭を走っていたヴィヴィオが疲れを感じさせない動きで、駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様です。高町ヴィヴィオ。いつもの差し入れです」

「ありがとうございます」

 

ヤミはさっき買ったたい焼きの紙袋を手渡した。

 

「やったあ!! ありがとうございます!」

 

いつものってことは、毎日こうしてるんだな。

 

「なあヴィヴィオ。何か気が付かないか?」

「え? 何がですか?」

 

ヴィヴィオちゃんは首を傾げている。たい焼きに気を取られているのか、すぐ目の前で俺たちが手を繋いでいる事に気が付かない。

 

代わりに気が付いたのは元気一杯のリオだった。

 

「あーっ! 手繋いでる!」

「あっ、ホントだ!」

 

一気に色めき立つヴィヴィオ、コロナ、リオ。

 

しかしそんな中でも、ただはしゃぐだけでは終わらない娘がいた。

 

「先輩……」

「むぅ……」

「ヤミ……やられたわね……」

 

面白くなさそうな顔をしている3人の女の子。綺凛、アインハルト、クロの3人だ。3人が3人とも、サンサンとした、晴れ晴れとした笑顔を浮かべているわけもなく。

 

「夜月翔。早く説明を……」

「わかってるよ!」

 

ややこしいことになる前に説明を済ませてしまう。

 

「なーんだ。てっきり仲良しになったのかと」

 

ヴィヴィオちゃんの期待には応えてあげられなかったみたいだ。

 

「あのねヴィヴィオ。高校生にもなると、仲良くなったからってそう簡単に手なんてつながないのよ。むしろ手を繋ぐなんて、もう最終段階と言っても過言じゃないんだから」

「えー……? そうなの?」

「まだまだお子様ね、ヴィヴィオは。その内、どういうことか分かる時が来るわ」

 

クロが上から目線で講釈を垂れているが、年齢に反して言っていることは間違ってないんだよな。

 

「むしろ人目もばかからず手を繋いでるなんて、世間ではバカップルと言われて爆発することになるわよ」

「爆発するの!? 攻撃されるってことなの!?」

 

それは間違い……とは言い切れないのが、この島の恐ろしいところ。

 

「大丈夫よ。主に攻撃されるのは男の方だから。だからお兄ちゃんも気を付けてね?」

「そうだな」

 

事情を説明しようと、視線が痛いことには変わりない。クロもニコニコしているが、内心ではどう思っているのか。

 

「爆発する時は1人でお願いします。巻き込まないでくださいね」

「爆発する前提はやめてくれよ」

 

手を繋いでいるヤミの態度は、依然冷たいままだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。