場所は路肩に停められた黒いバンの中。4人の中高生の少女達が、その狭い車内で同じディスプレイを眺めていた。
眺めているといっても、別に映画鑑賞をしているわけではない。映し出されているのは、破壊された、何の用途に使うのかも常人にはわからない機械類だ。
「2人組のインベーダーねぇ?」
4人の中でも一番年上の、ギリギリ少女と呼べる年齢の女性が、通信越しの自らの上司にいぶかしげに問いかける。
《そ。片方は電撃使い。通信回線を使ったテロと、電気的な設備に記録が全く残っていないこと、それと魔力反応が無いところから、そう推測されてるらしいの……っていうか、この電撃使いの方……依頼主はどうも犯人を特定してるっぽいのよねぇ》
『SOUND ONLY』と表示されたディスプレイからは、若い女性の声が聞こえている。もちろん、本当に女性であるかなど分からない。裏稼業を行う身。通信越しの声質ほど頼りないものはない。
《もう片方は少し遅れて現れたの。使う武器は重火器なんだけど、残っていた弾丸と威力が釣り合わないらしいわ。何かしらの能力を持っている可能性が高いわね》
「電撃使いの方。目星がついているのなら、どうしてこちらから超襲撃しないのでしょう? 不意を突いた方が超楽勝だと思うのですが」
《さあ? 手出しは向こうが施設に侵入してきた時のみ。素性は詮索しないってのが、依頼主のオーダーよ》
「はぁ? 何それ。結局意味わかんないんだけどっ!」
至極まっとうな質問をした、中学生程度の年齢の小柄な少女2人だったが、『依頼主の意向』という一言で黙らされてしまう。
《何よ! 私に文句言ったってしょうがないでしょう!? それに、この手の依頼の相手にはいろいろと事情ってものがあるのよ! 文句言ってないで仕事しろ!》
突如ヒステリーを起こしたように叫びだす声。一番生意気な年頃の女子を相手にしているのだ。それに加えて依頼主との交渉もある。ストレスは溜まってしまうだろう。
「はーい。わかりましたよー」
「やることは、待ち伏せして敵やっつけるだけか……」
4人の中では真ん中の年齢。髪型は肩で切りそろえられた黒髪。眠そうな瞼。いまいちパッとしない地味な少女は、簡単な仕事で拍子抜けしたと言わんばかりに、今聞いた内容をざっくりとまとめた。
「面倒なのは、2か所狙われる可能性があるってことなのよねぇ」
《そう。もちろん、どちらかだけを守るっていう手抜きは許されないからね!》
「場所が2つで、相手も2人。普通に考えて、同時襲撃される可能性が超高いですよね」
今のところその2人のインベーダーが協力してどこかを襲ったという記録は無いが、この2人が全くの別グループだと考える方が難しい。
セオリー通りなら、二手に分かれるのだが、
「はーい! 片方は私一人で行くー!」
元気よく手を上げるのは、先ほどまっとうな質問をした女の子の1人。ベレー帽をかぶった少女だ。
「どういう風の吹き回しですか? 超不満そうだったのに」
「それとこれとは話が別! 結局、1人で倒せば、撃墜ボーナス独り占めでしょ?」
「「はぁ……」」
彼女『らしい』発言に、2人の少女がため息をつく。
「わかったわ。でもターゲットが現れたら、連絡は必ず入れること」
最終的にその意見が通されることになった。単独行動を任せられる程度には、少女の実力は理解されているのだ。
「先走るんじゃないわよ。私達『アイテム』の名前に泥塗ってもらっちゃ困るんだからね」
「んっ、もちろん!」
ベレー帽の少女は、ウインクで返答するのだった。
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「それはどういうことでしょうか? この事件の捜査は、我々特務六課に一任するという話ではありませんでしたか?」
「予定が変わったんです。ご理解ください、八神部隊長。あなた方が現在捜査している件は、我々が引き継ぐことになりました」
部隊長室では、はやてともう1人の女性が言い争いをしていた。
はやての横には楯無、クローディア、蛇倉が立っている。だが立場上、ここで口をはさむことは無い。
はやては一方的に告げられた言葉に対して、両手をテーブルに叩きつけ、立ち上がって抗議する。
それを受け止める妙齢の女性は、なんともないというように、事務的に処理をしている。顔には笑みを浮かべ、年下の遠慮のない物言いにも態度を荒げない。
テーブルに叩きつけられた音に対して、妙齢の女性―――テレスティーナ・木原・ライフラインの横に控えている管理局員が反応するが、手を挙げてそれを諫める。
「予定が変わった?」
「はい。当初は人手が足りず、ここに回していた事件でしたが、抱えていた大きな案件が片付きまして。この事件にも人員を割り振れるようになったんです」
「大きな案件……私には心当たりがありませんが……なら、その捜査部隊に六課も参加します。この事件、人手は多いほうがいい。そのはずです」
ここまで調べた案件を他に持って行かれることに納得できない。ここまで強引に話が進むことに違和感を覚えるはやては、何とか食い下がる。
だが、テレスティーナは首を横に振る。
「いえ、違う部隊の合同捜査は、かえって部隊員同士の軋轢のもとになるので。特にこの特務六課は、方々からあまり良い目で見られていないようですしねぇ。命令に従って、今回は我々に任せていただきたいです」
「……ッ!」
捜査の主権を持って行かれるだけではなく、もう捜査することも出来ない。命令のないままで捜査をすれば、不当捜査になってしまう。
「しかし、軍用クローンです! かかわっている人物も、実験の規模も尋常ではありません! 単なる一事件とみなすのは危険です。多少のリスクがあっても、私たちが合同で捜査したほうが―――」
「八神部隊長」
それでもまだ続けようとするはやての言葉を遮る。
「これはすでに決定したことです。正式な令状もあります。これ以上は時間の無駄かと」
「……ッ」
確かに、手元にある書類一式は上層部から送られてきたもので間違いない。完璧なモノだ。はやてが多少駄々をこねた程度で覆るものではない。いや、覆るかもしれない。全てが終わった、その後で、だろうが。
「これから六課は通常業務に移行。本来の業務である特殊テロ、特殊犯罪の対策を」
「……今回の事件は、その特殊犯罪には当てはまらないと?」
「それを判断するのは、あなた方ではありません」
いかに特権を与えられている部隊であっても、上の本気の命令には逆らうことが出来ないということだ。
「それでは。事件の捜査書類と資料は、今日中にこちらに送って下さい」
にっこりと笑顔を見せたテレスティーナは、部下とともに部屋を退出していった。
扉が閉まると同時に、張り詰めていた空気が緩む。
一様に、残った人たちの顔は暗い。
「部隊長、どうしましょうか?」
蛇倉ははやてに声をかける。
「どうもこうもあらへん。お上の言うことは絶対。組織で働く以上は、そういうこともあるっちゅうことや」
割り切ったようなセリフを吐くはやてだったが、その心情は簡単に推しはかることが出来た。
というか、テレスティーナがいる前では引き締まっていた唇が、への字になっている。分かりやすく納得していないという表情だ。
だが、納得していないのはほかの3人も同じだった。
「この強引なやり方。どうにも引っかかるわね。どう思う、クローディア」
「そうですね。しかも、わざわざここに来たのが、研究者として有名なテレスティーナ・木原・ライフラインということも気になります」
「テレスティーナ・木原・ライフライン……ああ! あの木原一族か」
蛇倉は手を叩く。
『木原一族』とは『とある魔術の禁書目録』に登場する科学者集団だ。
『木原』は科学に対しての副産物の一種で、『純粋な科学の一分野を悪用しようと思う時に、その一分野に現れる実行者』のことだ。木原というだけで科学を愛し、科学に愛され、いずれは科学を悪に染めてしまうという超ド級の変態の集まりだ。
もちろん管理局の研究者として働いているこの世界の木原は、原作とは違い(原作でもそうではあるが)大っぴらに悪事に手を染めているわけではない。
木原がどういう集団かについては、あくまでも噂として、まことしやかに囁かれているだけだ。
そんな研究者であるはずのテレスティーナが来たというのは、確かにおかしいところではあった。
だが、楯無の疑念は、他のところに向いていた。
「……」
「何ですか? 楯無さん。そんなにじっと見て」
「いえ別に? いつも通りクローディアは勤勉だなって思っただけよ。木原一族のことはともかく、1人1人の名前と顔なんて、私だって覚えてないもの。よく覚えてたわね」
「偶然ですよ。今回の事件のことがあって、個人的に調べ物をしていただけですから。その時に偶然」
「あっそ」
クローディアはニコニコと楯無の視線を受け流す。
「ともかく! これ以上の捜査は出来へんってことや。言われた通り、今までの業務に戻るように。スタンドの件と新谷航平の件、やることはいくらでもあるんやからな! 蛇倉さん。悪いけど向こうに送る資料の準備、お願いしてもええ?」
「はい。もちろんです」
そう言って、さっそく準備をするために部屋を退出した。
「……ま、つまりだ。今フリーな六課は、建前さえあれば無理やりにでも首を突っ込んでいけるわけだ。もともとの目的がそうなんだからな……獲物を横からかっさらわれるってのは、俺の趣味じゃあないんだよねぇ……」
蛇倉のつぶやきを聞いたものは1人もいなかったのだった。
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そしてその夜。とある研究所近くのビル。その隣のビルの屋上に御坂美琴は立っていた。
「ここを含めて、あと2か所。実験がどんなペースで行われているのかは知りたくもないけど」
電気系では最強の超能力者である美琴の前では、電子的なセキュリティは意味をなさない。いくら魔法や超能力がある世界でも、データの保存に役立つのはやはり電子機器。それで実験を管理している限り、調べられないことは無いのだ。
そこで調べた情報によると、実験に協力している施設は残り2つ。ここまでしてきた破壊活動は確実に効果が出ている。
ここ1週間で、急激にペースが上がったおかげということもある。誰かは分からないが、美琴と同じように実験に加担する研究所を襲撃する人物が現れたのは、美琴にとってありがたい話だった。
「どういう目的で実験を邪魔してるのかは知らないけど、使えるモノはなんだって使ってやるわ」
もう1人の襲撃者は的確に実験に関係ある設備を狙って攻撃している。研究所は残り2つ。今までは奇跡的に同じ場所を狙うことはなかった。だが確率的に、今夜は間違いなく鉢合わせるだろう。
味方かどうかわからない以上、敵対することも視野に入れていかなければならない。
「どっちだろうと関係ない。今晩中に、全部終わらせる……ッ!」
前髪から火花を散らした美琴は、ビルから身を躍らせるのだった。
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「はぁ……」
アイテムのメンバー、フレンダ=セイヴェルンは憂鬱そうなため息をついた。
その胸に大きなぬいぐるみを抱きしめてごろごろと転がっている。場所はもちろん襲撃される可能性がある研究所の中だ。
ここは彼女の自宅ではない。寝転ぶような環境ではないが、何処からそんなに持ち込んだのか、大量のぬいぐるみが敷き詰められている。そのぬいぐるみを絨毯代わりにして、くつろいでいるのだ。
「ギャラにつられてOKしちゃったけどさぁ、来るかどうか分からないやつを待つのって、退屈なのよねぇ……」
しかも欲を出したせいで一人きりだ。話し相手もいない。まだまだ幼いフレンダだが、抱いているぬいぐるみに話しかけるのは卒業していた。
代わりに不細工なウサギのぬいぐるみの顔を弄ぶ。
「2人いるから2か所同時に襲われるって考えも、結局、浅はかな願望だし」
これまでは効率を重要視して行動していたのかもしれない。標的の研究施設が残り2つともなれば、2人が一緒に行動したほうが、結果的に効率は上がるというものだ。
むしろ2人で行動したほうが、緊急の事態に対応出来る。
「もしも2人そろって、向こうに行っちゃったら、待つだけ待って、なーんにも無し……」
待ちぼうけを食らっただけで、一晩を無駄にするだけ。誰も来なくとも料金は発生するが、花の乙女の一晩を、こんな埃っぽい部屋で過ごさせることと釣り合うかと言われれば、その金額は微妙だ。
その時、
「ッ!?」
研究所の各所に設置しておいたセンサーが反応を示した。研究職員ではない。つまり。
「ウソ―――キタキタキターーー!!!」
しかも反応は2か所から。インベーダーは2人とも、この研究所に来ることを選んだのだ。2人倒せば撃墜ボーナスも2倍。懐に入るボーナスも2倍だ。
「結局、日ごろの行いな訳よ!」
飛び起きたフレンダは、さっそく反応があった場所に向かって走るのだった。
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「お疲れ様です。蛇倉さん」
「おう、お疲れ。お前らもほどほどにして帰れよ」
テレスティーナに言われて相手方に送る資料を作成した蛇倉は、残業を済ませてすべての本日の業務をすべて終了させた。
この部隊、人数に仕事量が合っていないため、多少の残業で文句を言ってはいられない。高い志を持つ部隊員は文句を言う事は無いが、国際労働法的には改善は急務だ。部隊長が倒れないうちにどうにかしなければならない。
そんな過酷な業務を終えた蛇倉。これからは『お楽しみ』の時間だ。
「さて。行こうかね。夜勤の連中には申し訳ないが、もう少し働いてもらうとしようか」
そしてこの男も。『教授』に教えられた研究所へ向かって、動き出すのだった。