始まりはどこだったのか。いったいどこで間違ってしまったのか。
全ての元凶は、美琴が幼いときに提供してしまった自分のDNAマップだろう。
筋ジストロフィーとは、筋肉を思うように動かせなくなる難しい病気だ。
もし仮に生体電気を操る力を解析できれば、そう言った病気で苦しむ人たちを助けることが出来るかもしれない。
そんな話を幼い子供にして、動かない体を必死に動かそうとする人の姿を見せれば、答えを誘導することなど容易い。
もちろん、それが誘導だったのかはわからない。幼い子供にも分かりやすいように伝えていただけかもしれない。
こうして、美琴のDNAマップは正式に登録されることになった。
このことを覚えてはいるが、思い返すことは無い過去の話になった最近、とあるウワサが美琴の耳に入るようになった。
曰く、御坂 美琴のクローンが軍事目的に生産されているのだとか。
美琴がDNAマップを提供した話はそれなりに有名だった。
様々な事情であまり人様に紹介できない他のレベル5とは違い、美琴はよく超能力者の理想モデルとしての広告塔にされていた。
レベル1から時間をかけてレベル5に成長したというお話は、多くの超能力者に希望を与えている。
そう言う話には、美談はつきものだ。難病のためにDNAマップを提供した話はそれにぴったりだったというわけだ。
そしてそれと同じくらい、面倒な噂が出てくる。そんなものいちいちに気にしていられないし、美琴もまともに相手にしていなかった。
だが今回は、根も葉もないウワサではなかったのだ。
美琴が気になって調べた時には、すでに生産ラインは確立され、後はボタンを押せば無尽蔵に作り出される状態になっていた。
しかも、軍用につくられたはずの妹達は、兵器として生きることすら敵わず、モルモットとして殺されるだけの存在になっていた。
(そうよ、まだ終わった訳じゃない)
美琴は電撃の槍を飛ばし、装置を壊していく。電撃が散り数人の研究員が巻き添えになった。
(諦めちゃダメだ)
腕を振ると、腕の軌道に従って電撃が飛ぶ。
(ぜんぶ潰してしまえばいい)
データの欠片も残らないように壊す。
(今あるもの、これから引き継ぐものも全部……!)
警備員など障害ではない。手加減するのが面倒なだけだ。
(機材も、資金も)
そもそも、どうして研究員を生かす必要がある。こんな狂った実験に加担してるような奴らを生かしておくから、いつまでも実験を引継ぎされるんじゃないのか。
(欲も野心も底を割って跡形も無くなるまでッ!!)
この島が悪いのなら、この島ごと。
「全部ッ!! 壊すッ!!」
全力の超電磁砲が、コンソールを粉みじんに吹き飛ばす。
「はぁ……はぁ……!」
肩で息をする美琴。
(そうすればいつか!)
―――いつか?
ひび割れたモニターに映った美琴が、ひどい顔をした美琴が、美琴を見ていた。
―――そんな都合のいい日が訪れるとして、その時までにあと何人の『妹達』が死ぬの?
美琴は歯を噛み締める。
「うるさいッ!!」
感情に反応して電撃が飛ぶ。四方八方に飛び散り、床や壁を抉りとった。
―――関係ないバカも巻き込んで、それもこれも全部、不用意にDNAマップを提供したから。
「うるさいって言ってんのよ! ならどうすればいいってのよ!?」
美琴は叫ぶ。
「計画を! 今すぐに! 中止に追い込む!」
―――妹達だけじゃない、関係のない人まで死ぬことになる。私と知り合ったから。
「どんな方法があるっていうのよッ!!」
―――そんな都合の良い方法、あるわけないでしょ。
頭からあふれて止まらない考えを無理やり電撃でねじ伏せた美琴は、肩で息をする。
ふと、目にあるものが映った。
それは小さなモニターだ。かろうじて破壊からは免れ、稼働している残り少ない機材の1つ。
モニターには【LIVE】という文字がある。
「らい、ぶ……」
つまりは生放送。撮影されたものではない。記録映像ではない。今まさに行われていることだ。一体何の?
「ウソ、でしょ……」
映像を見た美琴は呆然と呟いた。
前に一度だけ見たことがある。線の細い白髪の男。最強の超能力者、
その一方通行の目の前には、良く見慣れた常盤台中学の制服を着た、美琴と全く同じ顔の少女、
そしてもう1人。
「なんでアンタがそこにいるのよ……」
武器を持たず、駆動鎧も着ていない。画面越しに見る限りはまるっきり丸腰の男が立っていた。
夜月 翔が立っていた。
―――――――――――――――――――
「おい乱造品、答えろよ。この場合、『実験』ってェのはどうなっちまうンだ?」
「どうして―――」
白髪の男―――
そいつを挟んで向こう側にいる御坂妹には、俺が今まで見た中で一番の表情が作られていた。驚きの表情だ。
場所はビルとビルの間。細い、路地とすら呼べない、人が通行することを目的としていない空間だ。いかにもと言いたい。
ビルの勝手口とエアコンの室外機、ゴミ箱しか目に入らない。当然、俺達3人以外、人はいない。
今まさに実験を始めようというところだったのだろう。御坂妹の手には、少女には似合わないサブマシンガンが握られている。
あと数瞬声をかけるのが遅ければ銃弾が発射され、反射された銃弾に御坂妹が撃ち抜かれていただろう。
「これが最後じゃない。すぐにわかるって言っただろ」
「―――なに、を……理解できません。早く立ち去ってください。あなたはこの実験とは何の関係もない―――」
俺達のやり取りを壁に寄りかかって聞いていた
「……、ンで? その話はいつになったらまとまンだ? 俺はいつまでここに寄りかかってたらいいンですかー」
「ッチ! おい! どうすんだよこの状況! どっかで見てやがンだろうが! 模造品の知り合いが実験場に入り込んできて、訳分っかんェことになってンぞ! お引き取り願えないときはアレですか? 秘密を知った一般人は、ってお決まりの展開かァ?」
「心配するなよ、
「……はァ? へェー? そいつァ、スゲーなァ。ご苦労さん―――ンで?」
「もう少しわかりやすく説明してくれてねェかな? 実験が終わりだとか、俺でブン殴るだとか。ここまで意味不明なことを言う奴は珍しいぜ? オマエ、目の前にいる奴が何者か理解してるンだろうなァ? 7人しかいないレベル5の、その中でも第1位って呼ばれて俺に? 何を勘違いして―――」
「そんな下らねぇことはどうでもいいんだよ。俺は、テメェをぶん殴って実験を止めるって言ったんだッ!!」
「―――へェ? オマエ、面白ぇな」
全部理解したうえで自分に挑んでくるのか。そんなアホは久しぶりだと
「こんなモルモットに情が湧いちまって、突っ込まなくてもいいことに首突っ込ンじ待った訳か? どんな隠し玉があるのかは知らねェが、勝てるって勘違いしちまった訳だ」
「や、めて。やめてください、
「うるせェよ」
「御坂!」
壁に叩きつけられた御坂妹が立ち上がることは無い。まさかあの一瞬で……!
「ギャアギャア騒ぐンじゃねェよ。あの程度じゃヤツらは死なねェからよォ」
「俺なりの配慮、って奴だ。やりあってる最中にちゃちゃ入れられたら困るだろ? そしたら勢い余って殺しちまうかもしれねェ。実験以外のシナリオで死なれたら、計算が狂っちまうかもしれねェからな」
「そりゃありがたい配慮だよ……」
俺は顔を引きつらせつつ、拳を握る。
すでに
でも、
「(まともにブン殴れば、一撃でいける―――)」
原作で上条さんが放っていた拳は、戦いながら、
それでも倒せた。
それでまともな『戦い方』を学ぶ機会が訪れるはずがない。
唯一心配だったのは、この世界の影響(主に武偵)で、
「(あの身体つき……大丈夫みたいだな)」
骨と皮ばかりとは言わないが、それでもひ弱な印象を受ける体だ。俺だってムキムキのマッチョってわけじゃない。でも
武偵学校の先生にしごかれてあの体型はない。大丈夫そうだ。
や、まあ、世の中にはあれよりちっこい体で仮面ライダーと張り合うアリアがいるからな……
ま、そんな例外はいいとして。今はそんなこと考えてる場合ではない。
今はこの拳をあいつの顔面に突き刺すことだけを考えるんだ。
距離は10メートル。
「―――ッ!!」
走り出す。わき目をふらず、わずかな距離を全力で詰める。
対する
「……、はァ」
たん、と。
靴先で地面のコンクリートを叩いた。
「ご―――アアアァァァッ!!?」
削られた無数のコンクリートは防弾制服を貫通し、散弾銃のように俺の体に突き刺さった。
身体がふわりと浮かび、いつの間にか元居た場所に転がっていた。
「つーかよォ」
「能力も魔法も使う様子がねェ。完全に丸腰で俺に殴りかかってくるったァどういう冗談だ? こっちも暇じゃねェンだよ」
たった一撃受けただけで、もう足が震え始めている。
「大事な実験の真っ最中な訳。わかるか? ここまでどンだけの時間がかかったのか。ぷちぷち、ぷちぷち。雑魚を時間どおりに潰して回って、ようやく半分だ。テメェが割り込ンだせいで、
でも、あれだけ無防備に近寄ってくれるなら―――
「別にテメェのおめでたい頭で何を考えてても、俺は微塵も興味がねェ。他人のお人形遊びを止める理由はねェからな。ただ、俺の時間をゴミ箱に捨てちまう可能性があるってンなら―――こうするしかねェよなァ!」
サッカー選手がボールを蹴るよりも正確に俺に向かって飛んできた。
「ンだよ。しっかり能力使えンじゃねーか」
「……っ」
俺は
合成樹脂で作られていたゴミ箱は、コンクリートの壁にぶつかって粉々になる。
「(考えが甘かった……っ)」
能力が無いと見せかければ少しくらいは油断してくれると思った。でもただでさえオーバーパワーの
遊びの攻撃でさえ、生身の体には致命傷になる。
「どうしてだ……」
「あン?」
「どうして、妹達を殺すんだ。どうして実験に加担しているんだ。お前が一言『嫌だ』って言えば、全部解決するじゃねぇか!」
これだけははっきりとさせておきたかった。
「……ま、テメェごとき三下のおめでた野郎にはわかンねェかもしれねェけどな」
「俺は絶対的な力が欲しいンだ。誰も挑むことが許されない存在になァ」
「最強よりも上、ってことか」
「最強なンてのは、どこまで行っても最強なンだよ。第一位もそうだ。結局、他人と比べられてるから、そんなつまンねェ呼び方されちまう。他と比べて最も強いから最強。第2位、第3位よりも優れてるから第1位。くっだらねェ」
これは紛れもない
そういうことを言える相手がいなかったからだろうか。
「その他大勢と一緒にいるってことは、そいつらと嫌でも競わねェといけねェだろうが。うっとォしくてたまらねェンだよ」
「俺が突っかかったみたいにな」
「テメェじゃあまともな相手になりゃしねェだろーが。お前、一体どこに勝機を見出したんだァ?」
「なら試してみるか」
「あァ?」
「最初に言っただろ。今からお前をブン殴る。俺がその他大勢なのか試してみろよ。もしかすると、今日、最強じゃなくなるかもしれないぞ」
「……ま、言ってもわかンねェバカは、痛い目見ないとだよなァ……いいぜ、やってみろよ」
下らなそうに言い、棒立ちになる。
千載一遇、降って沸いたようなチャンスだ。
「(この一発で決めれば―――!)」
反撃をしてこない、俺の拳を一方的に当てられるのなら―――!
だがそんなのは関係ない。俺は助走をつけ、全力の右拳を
右手に、相手の顔が変形する、グシャリ、という鈍い感覚が伝わった。