アナザービルドがその腰にあるハンドルを回す。すると、ベルトから粒子が放出され、木村が変身したスマッシュに取り込まれていく。
《パンダ》
《ロケット》
《―――ベストマッチ》
スマッシュの形が変わる。
右半身がパンダを模した形態に、左半身がロケットを模した形になる。
スマッシュが2人に猛スピードで体当たりしてきた。
「「ッ!?」」
ロケットエンジンで加速したスマッシュ。パンダの腕力が2人に襲い掛かる。
「―――ふ……!」
細剣の絶妙なコントロールでその腕を回避するアスナ。ベクトルをずらされたスマッシュは、ロケットの勢いのまま、建物の外まで吹っ飛んでいく。
「アスナ、こっちに!」
「はい!」
アスナはフェイトにつかまり、スマッシュを追う。
ビルの下に落下したスマッシュは元の姿に戻っていた。
「サンダースマッシャー!!」
フェイトは電撃を飛ばして動きを止める。
「―――!!」
フェイトから離れたアスナの細剣が、空中で光を放つ。
「はぁぁぁぁっ!!」
彼女の得意とするスピードを生かしたソードスキル、『リニアー』だ。砲撃が止んだ直後のスマッシュに、光の針になった細剣が突き刺さる。
だが、渾身の攻撃が終われば、体には一瞬の空白ができる。
その硬直を埋めるように、フェイトのハーケンセイバーが割り込んだ。
2人の連撃によって一気に勝負の流れが決まる。
「(よし、体勢が崩れた、『スター・スプラッシュ』で―――!)」
刺突8連撃の大技を繰り出そうと、『溜め』のモーションに入った。
「アスナちゃん、危ない!!!」
「ッ!?」
ソニックムーブを発動させたフェイトが、アスナを抱えてその場を離れる。
凄まじい轟音と共に、砲弾のように何かが着弾した。
それは上から飛び降り着てきたアナザービルドだ。スマッシュ援護のつもりだったのか、青い戦車のパワーを使った、戦車砲の威力の蹴りだ。
だが、それは逆にスマッシュにダメージを負わせる結果になった。
あの威力の攻撃を、近接戦をしていたフェイト達とスマッシュのど真ん中にブチ込んだのだ。援護というよりも、まとめてぶっ飛ばす攻撃と言ったほうが正しいだろう。
だが、アナザービルドはこの結果を想定していなかったのか、虫の息になっているスマッシュを見てオロオロしている。
能力は凄まじくても、明らかに戦い慣れていない。敵を前にして余計なことをしているのは、素人の動きだ。自信満々に登場はしたが、2人の脅威にはならない。
「フェイトさん!」
「うんッ!」
武器を構えて迫る2人に、慌てた様子でベルトのハンドルを回す。
《忍者》
《コミック》
《―――ベストマッチ》
倒れたスマッシュに無理やり成分が注入される。形が変わり、いくらか細身の体型になる。だがそれは苦し紛れで、効果的な攻撃は何一つ出来ない。
「「はぁぁぁぁッ!!」」
細剣と戦斧がアナザービルドを切り裂いた。
「――――!!」
それは致命的な攻撃となる。膝から崩れ落ち、爆散した。
夜が一瞬だけ明るくなる。爆発の熱風を頬で感じながら、2人はそこに倒れているだろうアナザービルドのことを考えた。
「ふぅ……」
「やりましたよね……」
「……うん。そうだね」
スマッシュはまだ人には戻らないが、動く気配もない。こっちは病院に連れて行かなければらない。
フェイトはティアーユと詳しく話せなかったのが残念でならなかった。明らかにおかしかった様子を考えると、絶対に事情がある。
それもこれも、これからの取り調べで明らかにしていくしかない。
爆発が晴れるとそこに――――――アナザービルドの姿はなかった。
「―――え?」
「どうして……?」
2人の顔が青くなる。1つの可能性に行き着いたからだ。
「も、もしかして、今の爆発で……!」
都合よく『倒した』と思っていたが、あんな爆発をしたということは、体自体が粉々になっていてもおかしくはない。
視線を少しだけ上に向けると――――――何事もなかったかのように歩いてくるアナザービルドの姿があった。
「避けられた!?」
「手ごたえがあった! たぶん再生能力があるよ!」
訳の分からないままに、2人は武器を構え直す。
アナザービルドはベルトのハンドルに手をかけ、回す。
《タカ》
《ガトリング》
《―――ベストマッチ》
空に飛びあがったスマッシュには翼が生えていた。ロケットのように暴走するミサイルではなく、羽ばたく翼でその場に留まっている。
さらに腕が変形し、いくつもの銃身が円形に配置された銃身、ガトリング砲が形成される。
空から弾丸が降り注いだ。
2人はフェイトの作ったプロテクションで身を守っている。バリアを突破されるほどの威力はないが、それでも身動きは取れない。
変幻自在の攻撃に加え、理由の分からない復活能力。流石の2人も苦しい状況だった。
「どうしようか」
「攻撃がずっと続くとは思えません。ここは耐えて、反撃の機会を―――」
その時、
「ザケルッ!!」
雷撃が空から降り注いだ。
電撃に焼かれてスマッシュが墜落するのと、病院にいるはずの翔が空から降ってくるのは、ほぼ同時だった。
――――――――――――――――――――――――――
この研究所に来たのは本当に偶然だった。
八神さんから話を聞き、まだ事件が終わっていなかったことを知った。こっそりと抜け出すことには成功したものの、あいにくとどこに行けば良いのか分からなかった。
そんな俺を救ってくれたのは、クローディアからのメールだった。
メールには、はやてさんに聞いた以上の情報が書かれていた。何処に目標の研究所があるのか、だれがどこの研究所に行ったのかなどなど。
本当に、この事件ではクローディアにお世話になりっぱなしだ。しっかりとしたお礼を考えないといけないな。
お礼については後で考えるとして、だ。
メールには、美琴に見せられたものと同じ研究所の名前が並んでいた。だがそれだけでは、どこが重要なのか全く分からない。
分からないなら手当たり次第に回るしかない。の、だが。
どういう訳か、ここに引き寄せられた。漠然とした予感が、ここを最初に行く場所にしたのだ。
そして、その予感は当たることになった。
目の前にいる赤と青の怪物。その脇には倒れたスマッシュ。あれはどう見てもこの世界のものではない。まさか俺やゾンビ以外に、この世界に存在しているというのだろうか。俺達と同じ異邦人が。
そして、悪事に手を染めるような人格なのだろうか。
だがそれは、今考えることではない。
「「翔君っ!?」」
「2人とも、下がってろ!」
今考えるべきは、目の前のコイツを倒すことだ。
俺はベルトを取り出し、装着する。
《ZI-O!》
「変身!!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
俺は仮面ライダージオウに変身して、2人の間に割り込んだ。
あの見た目はどう考えても仮面ライダービルドをモチーフにしている。こんな怪人が出てくるのはどう考えても映画か、もしくは周年記念作品。
だとすれば、このジオウの攻撃が一番効果的なはずだ。同じ作品のライダーなんだからな。
ジカンギレードで、何度も斬りつける。こうして肉弾戦をしていれば分かるが、この怪人ビルド、接近戦はあまり強くない。
ほとんど一方的に攻撃を食らわせる。
これなら、このままいけるか?
ジオウライドウォッチのボタンを押し、走り出す。すると、怪人ビルドの周りを取り囲むように『キック』という文字が現れた。
時計の針が進むように、時計回りにその文字が重なっていく。
ベルトを1回転させた。
《FINISH TIME! TIME BREAK!》
「これで―――」
『キック』の文字が足裏に重なり、発光する。顔の『ライダー』の文字も発光しているため、相手から見れば『ライダーキック』と見えていることだろう。
「―――決まりだ!!」
見事命中し、大爆発を起こした。
終わった、かな。
「2人とも、大丈夫か?」
俺は2人に駆け寄る。安心したような、何か言いたそうな、複雑な表情をしていたが、次の瞬間には驚きの表情に変わっていた。
「あ!」
「やっぱり……!」
「え? 何―――」
振り向くと、何事もないように怪人ビルドはそこに立っている。
「無傷……!?」
あれだけの手ごたえがあったのにか? でも、見たところ再生能力があるという訳じゃない。そんな単純なモノじゃないぞ。何か、概念的な守りの力が働いている。
「―――ッ!」
倒れていたスマッシュに何かを注入した。するとスマッシュがその姿を変える。
《キー》
《ドラゴン》
《―――ベストマッチ》
「「「ッ!?」」」
俺達の体に鎖が何重にも巻き付く。それは光る錠前で固定され、全く振りほどけない。もがいているところに青い炎が着弾、爆発を起こした。
《ハリネズミ》
《消防車》
《―――ベストマッチ》
追撃がやむことは無い。
逃げることは許さないとばかりに、炎と棘がまき散らされる。
この攻撃、まさに仮面ライダービルドのベストマッチそのものだ。
しかし、無邪気に実験を楽しむように、様々な成分をスマッシュに注入している姿は、愛と平和のヒーローとはかけ離れたものだ。
俺達と戦っているというよりも、ビルドの力に振り回されているという印象を受ける。
しかし、立て続けに成分を注入されているスマッシュはたまったものではないらしい。
解剖されたカエルの筋肉が電極に反応するように、成分を注入された瞬間にしか反応を示さない。
それ以外では、地面に倒れたまま動かない。
様々な成分を注入され、その反応を観察される。今のスマッシュは形容するにふさわしい言葉は―――そう、モルモットだ。
こんな奴がビルドの姿をしているとは、皮肉が効いてるぜ。クソッたれが……!
その時、怪人ビルドが苦しみ始めた。
ベルトを中心として放たれた光は、そのまま俺の手の中に納まる。
「これは……!」
赤と青、2色のライドウォッチだ。
どういう原理かはさっぱりわからないが、俺の手にビルドライドウォッチが収まっていた。
「ビルドの……! これを使えばッ!!」
目の前にはビルドを模した怪人。そして俺の手にはビルドのライドウォッチ。これだけ条件がそろっていれば、いける。いけるはずだ。
「その通りだ、我が魔王」
いきなり後ろから声を掛けられる。
そこには分厚い本を持った謎の男、ウォズが立っていた。前に、ジクウドライバーを渡してきたときには忽然と姿を消してしまった奴だ。
一体どこからやってきたのかは全く分からないが、以前と全く変わらない様子でそこに立っていた。
「お前……」
「分かりきっているが、聞いておこう」
ウォズは、質問を聞かない。俺の意志だけを聞いてくる。
「目の前にいる相手はアナザーライダー。アナザービルドだ。歪められた歴史、歪められた力によってこの世界に顕現する怪物」
目の前の敵の正体を教えてくれる。
「そして、我が魔王。あなたがその手に持つものこそが、仮面ライダービルドの本当の力を宿した、ビルドの歴史の結晶だ」
力だけではなく、そのライダーの歴史すら、このウォッチには詰まっているということか。だからこそ、こうしてスマッシュを生み出すことが出来るのか。
「アナザーライダーを倒すには、そのライダーの力を使うしかない」
それは俺の想像通りだ。だから、今ここにあるビルドウォッチを使って倒そうとしているのだ。
「だが、ウォッチを使うということは、単に力を使うという意味ではない。力を受け継ぐという意味だ」
「受け継ぐ……?」
「歴史を受け継ぎ、君自身が仮面ライダービルドになる。そういう意味だ」
それはまた大層な話だ。
力を単に力として使うのではなく、歴史も含めて自分のものにするって事か。
「ライダーの力を集めることの意味。その重大さが、我が魔王ならば理解出来るだろう。それでも、この力を使って戦うことを選択するのか?」
全てを聞いたが、確かに答えは分かりきっていることだった。
「当たり前だ」
《BUILD》
俺の答えに、満足そうに唇の端を持ち上げたウォズは、一歩下がる。恭しく頭を下げる姿はまるで、王を敬う家臣の様だ。
やることは龍騎の時と同じだ。ベルトにセットし、回転させるッ!!
《ARMOR TIME!》
《BEST MATCH! BUILD!》
龍騎アーマーの時と同じだった。
目の前に出てきたツギハギの装甲。それは目の前にいる偽ビルドと同じ赤と青の2色だ。色とその配置だけ見ればオリジナルに近いが、肩に突き出したパーツがある。フルボトルを模した形だ。それだけで、全く違う印象を受ける。
違いはそれだけではない、右手にドリル型の武器がすでに装着されている。あれはビルドの専用武器だった『ドリルクラッシャー』に似ている。
そのアーマーが俺に装着された。
最後に、仮面の『ライダー』の文字が『ビルド』に変わる。俺にビルドの力が受け継がれる。
「祝えッ!!」
「「「っ!?」」」
何か能力を使っているのかと錯覚してしまいそうになるが、これは間違いなくウォズの肉声だ。
「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ、ビルドアーマー。たった今、仮面ライダービルドの力を継承した瞬間であるッ!!」
「「「…………」」」
「では我が魔王。キメの一言を」
「あ、ああ、わかった……?」
いきなり現れて『祝え!』とか意味不明、俺達がここで戦っていることをどうして知ってるのか、色々言いたい気持ちはあるが、今は目の前の怪人を倒すのが先決だ。
そして、この場で言うべき『キメの一言』って奴も。とっくに理解している。
「勝利の法則は―――決まったッ!!」
右手に装着されたドリルクラッシャークラッシャー(誤字ではなく、『クラッシャー』が2回続くのが正式な名前)が、回転する。
《ゴリラ》
《ダイヤモンド》
《―――ベストマッチ》
ダイヤモンドの結晶が盾となって立ちはだかる。回転するドリルとぶつかり火花が散る。跳ね返されそうになる右手を抑える。
だが、力の大部分が俺に移動したからか、鉄壁のはずのダイヤモンドの盾にヒビが入り始める。
「―――!?」
盾を貫いた攻撃が、アナザービルドに命中した。
さっきジカンギレードで攻撃したときの何倍もダメージを与えた感触がする。
「これで決める……!」
ベルトを操作した。
《FINISH TIME! BUILD VORTEX TIME BREAK!》
白いグラフが相手を拘束した。
「な、なに、これ……」
空中にはどこからともなく現れた数式が、まるで魚が泳ぐように漂っていた。そんな不可思議な光景に、みんな揃って頭を捻っている。
しかし重要なのはそこではない。
相手が拘束されているのはグラフの端。俺はジャンプして端まで続く線に乗る。傍目には滑り台を滑っているかのような光景だ。
しかしこの線は、物理的に相手に衝撃を与えるために、最適な角度で伸びているのだ。
「う、おおおおっりゃあああぁぁあッ!!!!」
確かな手ごたえを感じた。続いて起こる大爆発。
怪人は完全に姿を消した。復活する様子もない。
代わりに残ったのは、金髪の、服の上からでも分かる、分かりすぎてしまうほど分かる、グラマラスな体型の女性だ。
あの女性は、
「ティアーユ、先生……」
ヤミを創り、母親代わりになっていた女性。この事件の始まりからずっと聞いていた名前だったが、まさかこんな形で会うことになるとは思わなかった。
そのそばには、粉々に砕け散ったビルドウォッチが、今まさに光の粒子になって消えていくところだった。
回収は不可能だな。せっかくの手がかりだっていうのに。でも、この世界の人たちに、変に解析されるよりはましなのか。
そんなことを考えつつ変身を解除していると、フェイトさんが近づいてきた。その手には対能力者用の手錠が握られている。
「夜月君、その人を逮捕します」
「……はい」
色々と言いたいことはあったが、この状況では受け入れるしかない。
フェイトさんがティアーユ先生に手錠をかけ、ひとまず、この場所での戦闘は終わりを告げたのだった。