俺は、教室の自分の席に着いて腕時計型携帯を弄っていた。
今朝のドタバタのせいで引きそびれてしまった武器ガチャを引くためだ。あの夜は1回でアスナさんがダウンしてしまったから1ポイント、一回分だ。
スタンドの矢
『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するアイテム。
この矢に傷つけられたものには『スタンド能力』が発現する。
ただし、発現したスタンドが制御できる保証はなく、制御できなかった場合は死に至ることがある。
またこの矢は、スタンドが制御できる出来ないに関わらず4人までにしか使えない。4人に使った時点で、これはただの矢になる。
ほほう……またまた、これは難しいアイテムが。
スタンドとは『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する、超能力に像を与え、目に見える形で表現したものだ。
作者がインフレを意図的に避けたせいか、あたり一面をまとめて消し去ったりする程の力を持ったスタンドは少ないが、自分のスタンドのルールに取り込んでしまえば一方的に相手に攻撃出来たりと、特殊な方面に強いのが特徴といえる。
問題はスタンドをコントロールするだけの意思がないと逆に死んでしまうかもしれないってことなんだけど……今博打をするほど困ってるわけじゃないわけじゃないし、こいつはしばらく封印しておくことにしようか。
それに、もう一つ考えないといけないことがある。
「翔君大丈夫? 顔色悪かったけど?」
「そう言うあかりさんはずいぶんとご機嫌だね」
声をかけてきたのは間宮 あかり。緋弾のアリアAAの主人公だ。アリアに負けず劣らずのちっこい体。その表情は俺の心配する言葉とは裏腹にゆるみきっている。
俺はAAのほうはあんまり関心がなかったから、初めてこの子を見た時もあんまり意識しなかったんだけど、名前を聞くまで本当にただのクラスメートとしか思ってなかった。
いくら何でも、顔と名前を見れば、あれ? って思うはずなんだけどそんなこと全然なかったんだよな。
でも、そんなことは言ってられない。
今朝、チャリジャックでアリアに出会った。結局、怒り狂ったアリアに追い掛け回されただけだったけど、思えばそれは原作1巻のキンジも同じだ。
もしかして、何かしらの影響を受けて俺が事件の方向に誘導されてるんじゃ……なんてな、考えすぎ考えすぎ……でもないかもしれないけど、今はいい。
問題はほぼ確実に起こるであろう『緋弾のアリア』第1巻の事件をどう対処するか。
犯人はわかってるけど、証拠も何もない状態で指摘しても意味がない。しかも、さまざまに混ざり合っている要素のせいで、全く想定外の事態が起こるかもしれない。
ならばこちらも、原作に惑わされずに情報を集め、対処するだけだ。
そう思ったところで、あかりさんとの会話に集中する。
「えへへへ、分かる? 実はね、アリア先輩と
「あー、そうなんだ」
「反応薄くない!?」
「ッチ、またアリア……今朝からずっとこの調子なんです。あかりさん」
お前、今舌打ちしただろ?
この子は佐々木 志乃。黒髪ロングの大和撫子で、十分すぎるほどかわいい女の子だ。
なんだけど、あかりさんの事が好きすぎで半分ストーカーのようになってしまっている危険な子だ。
「信じらんないよな。こいつ、アリア先輩相手にエンブレム成功させたんだぜ」
ポニーテールで勝気そうな火野 ライカが椅子を寄せてくる。
この3人とは比較的仲良くしている。仲良くしていると言っても男子と女子、そこまでではないが
「エンブレム、成功させた?」
「うん」
「あかりさんが?」
「うん」
信じらんない。仮面ライダーの身体能力に張り合ってくるアリア相手にエンブレム成功させるなんて。
エンブレムは30分以内に
「すごいんだよ、アリア先輩。今朝も
ああ、それ、俺もいたよ。
志乃さんの目がどんどん濁っていくんだけど、大丈夫?
「そ、それはすごいですね。ところで私、今日リーフパイを買ってきたので―――」
「あ、アリア先輩からだ。ごめんね、ちょっと行ってくる!!」
紙袋を差し出す志乃さんに一言言って、あかりさんは教室を出て行ってしまった。
「なあ、ライカ」
「なんだ、翔?」
「なんか、まずくない?」
「まずいな。あの志乃はマジヤバいぞ」
小声であかりさんと繰り返す志乃さんから、微妙に距離を取る俺達だった。
そして、これといった収穫はなかった。がっくり。
そして放課後。
「なんで尾行してくるんだろ、あかりさん」
しかも超下手だし。頭隠して尻隠さずだぞ。
いや、分かるけどね。
アリアに言われたんだろ。
アリアの事だ、名前を教えたんだから俺の事を調べるのなんて簡単のはず。で、調べた結果、俺が自分の
まったく、俺が危険人物だったらどうすんだよ。あのパワードスーツがあれば、あかりさんなんて一捻りだってわかるだろ?
そもそも、あの後コンタクトをとろうと思って怒りが収まった頃を見計らって探し回ったのに発見できなかったし。
ホント、何考えてるかわからん。
そろそろ、まいておこうかな。買い物しないといけないし。
俺は右へ左へ曲がり角を数回曲がる。
スーパーにつく頃には、あかりさんは後ろからいなくなってしまった。
や、だから、尾行ガバガバ過ぎるって。
こんなんでいいのか、あかりさん。
スーパーの自動ドアをくぐりながら、あかりさんの将来が心配になってしまう俺。俺の将来も大変だけどな。
さ、今日の晩御飯は何にしようか。
「クロ、友達は出来た?」
「お兄ちゃん、質問がじじくさいよ……?」
「うるさいな」
あの後、あかりさんに見つかることなく、また、アリアに待ち伏せされることもなく家に到着した。
「あらあら、クロさんは愛されてますのね。うらやましいですわ」
「でも、本当には
「愛してを強調するんじゃない」
みんなで皿をつつきながら談笑する。
「そう言う狂三さんはどうなんだ? クラスのみんなとなじめそうなのか?」
「はい。アスナさんと同じクラスになったので、いろいろ助けてもらっていますわ」
アスナさんの方はそっぽを向いている。昨日の事、根に思ってんのか? 言っとくけど、最後の方はあなたも乗り気だったからね?
「話を戻すけど、結局クロはどうなんだ?」
「それは……まあ……何人かは……できた、けど」
「そうかそうか」
それを聞けてとっても安心だ。
「先輩、その顔は少し気持ち悪いです」
雪菜、君は俺のこと好きじゃないの? 俺、傷ついちゃうよ?
「それで、どんな子なの?」
アスナは興味津々といった様子だ。
「えっと、3人なんだけど、格闘技やってて、今日は練習についてった、というか連れてかれたんだけど」
ふんふん。クロに友達が出来て良かったよかった。
照れながらもその友達の事について話すクロを微笑ましく思いながら箸を進める。
「名前は、高町 ヴィヴィオ、リオ・ウェズリーそれに、コロナ・ティミルなんだけど……ほら、この子達」
俺たちはクロが差し出してきた携帯の画面を見た。そこには照れるクロの隣に3人の同年代の少女、そして俺達よりも年上だろう女性の姿が映っていた。
おっとぉ……?
俺の手がぴたりととまる。この写真を見た瞬間、この3人の名前が聞き捨てならないものに変化したぞ?
リリなのViVidの主要人物じゃねーか。そっちはそっちで違う原作キャラとあってんのかよ。
俺はもう大混乱だぞ。
俺の方はアリアに目をつけられてて、クロの方はリリなのViVidの主要人物と友達か、ハハハ……。
乾いた笑みを浮かべていると、家のチャイムが鳴る。
こんな時間に誰……まさか。
俺は急いで玄関を開ける。
そこには、
「遅いわよ、翔」
腕を組んだアリアがいた。
「……調べたのか」
「もちろんよ。仮面ライダー……いえ、夜月 翔。あかりの尾行はフェイクよ」
なるほど。あんなバレバレの尾行をさせたのは俺を油断させるためだったのか。俺の注意はあかりさんに向いてるから、アリアは楽に尾行できる。あかりさんが危なくなってもすぐに助けに行けるしな。
甘かったのは俺の方だったか。
「翔君、誰?」
奥からアスナさんが出てくる。
「あれ? アリアちゃん? どうしてここに?」
「ア、 アスナ? あんたこそどうして……ま、まさか……っ」
アリアは俺に向かって鋭い視線を向けてくる。
「そ、それも含めて、中で、な?」
俺はアリアを招き入れた。
「翔、あんた私のパートナーになりなさい!」
で、リビングに入っての一言目がこれだ。
「いきなりすぎないか?」
やめて、みんな。そんなに睨まないで。狂三、口に手を当てて笑ってんじゃねーよ。
「今朝の戦いを見て、こいつだって思ったのよ。翔にはあたしのパーティーに入ってほしいの。他のみんなもあたしのパーティーに入ってもらうわ」
「「「えぇッ!?」」」
「あらあら」
強引だなあ。押しかけ営業マン並みだよ。 あ、はい、分かりずらいですね。
「安心して。私のパーティーに入ってくれるならそれなりの報酬は出すわ!!」
武偵を動かすには金が必要。基本を良くわかってますね。
「私はパスよ。わざわざリスクを負いたくはないわ」
クロはそう言い放つ。
「そう、ですね。これ以上ライバルが増えても困りますし……」
雪菜も反対の様だ。つか、ライバル?
あ、そうか。浮気は公認したけど、わざわざライバルが増えるようなことはゴメンだってことか? じゃあなんで召喚は推奨してるんですか?
つまり2人の中では、俺がアリアを惚れさせると思ってるのかよ。そんなにうまくいくわけないだろ。仕事仲間に惚れる人なんてそう相違ないだろ。あ、でも職場結婚ってよくありますね。
「アリアさん。なんで私達と組みたいんですの?」
狂三さんが問いかける。
「武偵だったら自分で―――」
「これから仲間に、背中を預け合うんですわよ。わたくしたちを信用しては下さりませんの? わたくしたちはともかく翔さんは、あなたがこの人だ、と思った人ではありませんこと?」
アリアはうつむいてしまう。
どうやら迷っているようだ。
ここはアリアが覚悟を決めるまで待ってることに……ん?
狂三さんが俺の裾を引っ張ってきている。
「翔さん、あとはよろしくお願いいたします」
「狂三さん、もしかして
「ええ。アリアさん、翔さんの事を調べていたみたいですから。わたくしも少し調べておきましたの」
それにしても、
「狂三さんが俺のこと心配してくれるなんてね」
「あら、わたくし、翔さんのことは大好きですわよ。食べてしまいたいくらいに」
なんか俺、狂三さんのこと誤解してたみたいだな。ここまでやってくれたんだ、俺もがんばろう。
「アリア、君が俺を調べたみたいに俺も君を調べた。アリアの事情は知ってる」
「ッ!?」
クロと雪菜、アスナさんは俺を見る。顔を上げたアリアは涙目になってる。
「お母さんを助けるためだろ?」
「「「!?」」」
事情を知らない3人は驚愕する。
「みんな」
アリアを背にして言う。
「アリアの母さんは今、懲役864年で刑務所にいる。その全部が冤罪だ」
「「え!?」」
「そんな……っ」
アスナは信じられないと言った風に手を口に当てる。それが普通の反応だ。
「俺はアリアを助けたいと思ってる。力を貸してほしい」
俺は頭を下げる。
原作が始まった時から決めている。事情を知っていれば誰だって助けたいと思うだろう。あわよくば、今回は犯人になってしまう娘も。
これはそのための第一歩だ。何が起こるかわからない。みんなの助力が不可欠。
3人はしばらく沈黙する。
正直、雪菜とクロにはきつい話かもしれない。
雪菜は親の顔を知らない設定だし、クロも母親によってなかった存在にされた。2人とも、親によい感情を持っていないのだ。
それにアスナも(マザーズロザリオ以前なら)、母親とは仲が悪いことになっている。
もしかしたら断られるかもしれない。
でもそんな心配は杞憂だった。
「いいよ、翔君」
「ま、お兄ちゃんに言われたらしょうがないよね」
「そうですよね。しょうがないです」
3人とも、やれやれと言った顔だ。
やめてくれよ、ちょっと泣きそうになっちゃうだろ。
「ありがとう、3人とも」
これで準備は整った。
「アリア、俺達も協力する。お母さんを助けよう」
「ありがとぅ……っ! しょう……っ、みんな……っ!」
カメリア色の瞳からボロボロと涙をこぼし、泣きじゃくるアリア。
そんなアリアをなでながら、
「じゃ、ご飯食べるか」
温かいご飯が並んでいる机にアリアを招待するのだった。
この世界にいる人はみんな幸せにする。それが、俺がこの夢の世界にいる対価だ。
俺がそう決めた。
そう、決めた。
「ところで翔」
「なんだ?」
アリアは笑顔だ。泣いてた痕は、少し腫れた目しかない。女神のような笑顔。そこにある種の嫌な予感を感じる。
ももまんが食べたいと言われたが、それを即席で用意するのは無理がある。もしかしたらそのことについて、何か言われるのかもしれない。
「アスナの事は何て読んでるの?」
「アスナさん」
「狂三のことは?」
「狂三さん」
何を言ってるんだ、この子は。
「私の事は?」
「アリア」
「……アリア?」
「アリア」
え、な、何? 怖いんだけど。
「私、2人と同い年なんだけど?」
「……あ」
「なんで私には『さん』がないのかしら?」
それか……っ!!! なんていえばいいんでしょうか。ここは正直に、小さくて子供っぽいからいつの間にかそう呼んでた、って言った方がいいか?
そうだな、正直に言ったほうがいいだろう。
「そ、それは、小さ―――」
「風穴」
こんな感じで俺たちは、アリアとパーティーを組むことになったのだった。
スタンドの矢は1回はもちろん主人公ですが、あとは未定です。
戦力差を埋めるために、うまく活用したいと思います。
次回からは全部新しく書きます。