秘密の会議 前編
暖かなランプの光に照らされた廊下を2人の人物が歩いていた。
踏みしめる床は最高級の赤い絨毯。そうでなければ、磨かれた革靴が小気味良い音を奏でていただろう。
2人ともそれぞれに特徴のある人物だった。
1人は長い黒髪が特徴の―――男性だった。手入れの行き届いた髪の毛は女性のあこがれになるには十分すぎるものだが、男性の眉間に刻まれた深いしわと不機嫌そうな顔がすべてを台無しにしてしまっている。
もう1人は室内であるというのに深くフードをかぶっている。そのせいで容姿と表情は全く分からない。それどころか全身を覆う服装のため体格がわからず、男性か女性かすらもわかりづらい。1人目の男性の後ろを歩く姿はさながら従者だ。
男性の名前はウェイバー・ベルベット―――知る人にはロード・エルメロイⅡ世と呼ばれている。数年前の少年からは想像もできないくらいにしっかりとスーツを着こなし、そのスーツには年季を感じる。
もう1人の名前はグレイ。連れのことを考えずに歩くエルメロイ2世について歩く女の子だ。
見事な調度品が並ぶ廊下は、少しでも歴史をかじっていれば腰を抜かすほどの豪華さであり、少しでも魔術をかじっていれば震え上がるほどの警備である。その突き当り、ひときわ豪奢な扉の前に立つ。
「ふぅ~……」
本当に憂鬱そうに、エルメロイⅡ世は息を吐く。
意を決して、扉を開いた。中にはすでに数人の女性が円卓に座っている。アフタヌーンティーを楽しみながらくつろいでいた。テーブルに置かれたティーカップからは5メートル離れた扉まで香しい紅茶の香りが届いている。
「遅れてしまい、申し訳ない。時計塔代表ウェイバー・ベルベット、ただいま参上した」
「いえいえ。問題はありませんよ、ロード。むしろ時間通りですから。どうぞ、そちらに」
中にいた女性がそれに答えた。
エルメロイⅡ世は促されるままに席につく。いちいち高級品が目に入り、落ち着かない。もちろん、この屋敷に住む人間の格式というものがあるのだろうが、こうも露骨だとうんざりしてしまう。
「師匠」
「どうした」
「ここでは、まずいと思います」
「……っ、ああ、そうだな」
無意識のうちに愛用している葉巻を取り出していたエルメロイⅡ世は、グレイの忠言で火をつける前に我に返った。複数の人間、しかも女性が多いこの場で紫煙をくゆらすほど、エルメロイⅡ世は常識知らずではない。
それほどまでにイライラしていたという事実に、エルメロイⅡ世の意識が引き締まる。何とか平静を保とうとする彼の耳に、余計な一言が飛び込んでくる。
「かまいませんよ、ロード。ここはそこまで礼儀を重んじる場ではありませんから」
「いや、そういうわけにはいかない、レディ。場は許しても紳士としての礼儀というものがある」
「流石、若くして時計塔に名を轟かせるだけはあるわね。そういったことも戦略の1つなのかしら?」
「これはこれは。更識家当主にお褒めいただけるとは思いませんでした」
扇子で口元を隠す更識楯無に皮肉をもって返す。2人は視線だけで互いの腹の内を探りあっているいるが、根っこが臆病なウェイバーの旗色は悪い。
楯無は笑顔のままだが、エルメロイⅡ世は苦い顔をしている。このまま言い合ったら不利だということをエルメロイⅡ世は自覚しているらしい。それ以上に突っかかることはしない。
「まあまあお二人とも、ここは言い争う場所ではありませんよ。この島の、強いては世界の平和のための集まりですから。無意味な言い争いは避けましょう?」
そう言いなだめるのはクローディア・エンフィールド。
顔は笑っていても、内心ではどのような表情をしているのか。本人曰く『暗黒物質を煮立てて、焦げ付かせたものをブラックホールにぶちこんで黒蜜をかけたくらいには真っ黒』という腹の内を予測することは不可能だ。
「その通りですよ、皆さん。ここは全員の力を合わせなければならないのです。どうか立場のしがらみを忘れ、協力していただきたいと思います」
「その通りや。これから起こる大災厄に対抗するために、こんなメンバー集めたんやからね」
そう収めるのは聖天子様と特務六課部隊長の『八神 はやて』だ。この島の日本代表である聖天子と、なのはやフェイトの上官にあたるはやても、この場に招待されていた。
「こんなメンバーとは、ずいぶんな物言いだな。まるでイロモノを集めたような」
「まさか。前の事件では、UQホルダーの皆さんには随分とお世話になりました」
挑発的に笑うのは『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』。不死身の集団、『UQホルダー』のトップ、吸血鬼の真祖だ。
悪魔的な美貌とYシャツとタイトスカートにようやく収まる豊満な肉体を持つ彼女だが、実際の姿はちんちくりんのロリっ子。しかしその実力は、全力のブラドにも引けを取らない。
「メンバーはそろった。そろそろ始めてもらいたいが」
「そうね。私も忙しい仕事の合間をぬいたりて、時間を作りけるのだけれども?」
この2人はこの場にいる人間ではない。PCのスピーカーから聞こえてくる声だ。この場に翔がいれば、両者ともに、『とある魔術の禁書目録』のキャラクターだとわかっただろう。
前者の声は男性にも女性にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも聞こえる。声の主は『アレイスター=クロウリー』。『とある』原作では、科学サイドのトップを務めている男。この世界では管理局に所属しつつ、この学園島の長を務めている。
もう1人は、ローラ=スチュアート。こちらは変わらず英国魔術サイドのトップだ。
アレイスターが音声だけなのに対し、彼女はビデオ通話。時差の影響か、外に見える空は暗く、彼女も簡素で、上質な寝間着姿だった。身長の倍以上ある髪の毛をメイドに手入れをさせつつ、本人は頬杖をついていた。
「わかりました。それでは、始めさせていただきます」
今回の会議は聖王教会の支部で行われている。よってこの聖王教会の重鎮『カリム・グラシア』が今回の司会を務めることになっている。
そして、今回の会議を設けられたのは、カリムの意思があったからだ。
「今回集まっていただいたのは他でもありません。私の
月と星々の魔力(原作では二つの月の魔力)がうまく揃わないと発動できないため、ページの作成は年に一度しかできない欠点があり、書き出される事件のランダム性と、詩的な文章の解読ミスを考えれば、的中率は『よく当たる占い』程度。
ただし、『事件が起こる』ことだけは確かであるため、無視はできない代物なのだ。
ウェイバーは自分に与えられた情報を整理する。
「(確か前回の予言では『JS事件』についてを的中させたとか……メンバーを見る限り、そのレベルの災害が起こるということか)」
「そろそろ、皆さんにも話しておいた方がいいと思い、この場を設けさせていただきました」
「ほう。やはり、今回の設立にも裏の理由があったということか?」
エヴァンジェリンが興味を示した。
「はい。今回記された著書の内容はこれです」
はやてが端末を操作すると、画面に文字が移された。
《魔法と科学が集い交わる地、
未知の力が満ち、さらなる混沌を極める、
6つの輝石集まりし時、
時空の魔王が現れ、すべてを無に還す》
「ほう? 魔王とはな。随分と思い切った文章を出したものだな、カリム・グラシア」
「い、いえ。この文章は私が書いているものではないので……」
以前に魔王と呼ばれていた過去があるからか、エヴァンジェリンはからかうように笑った。
「……確かに、あまりめでたい文章たりけるわけではないようね」
「(に、日本語だよな? 翻訳機能がおかしくなっているのか?)」
めちゃくちゃな言葉遣いに、ウェイバーは内心で首をひねった。
「そうです。この文章の解釈は……」
「魔法と科学が集い交わる地……これは間違いなくこの島、学園島の事でしょう」
はやての言葉を楯無が続ける。
確かに、魔術が発達しているヨーロッパ、科学が発展しているアメリカなど、1つに特化している国はいくつもあるが、すべてが高いレベルにあるのはこの学園島だけだ。
世界中と戦争して勝てる、とまではいかないが、大国を相手どれるほどの戦力がこの小さな島に集結していることは間違いない。
「未知の力が満ち、さらなる混沌を極める……これは言うまでもありませんね。ここ最近の島の様子を見ていれば、すぐにわかるでしょう」
「新種の能力、スタンド、ですね」
自身もスタンドに襲われたことのある聖天子が呟く。
1年ほど前に突如現れた能力。特定個人にのみ現れる能力だがレアスキルという訳ではない。個々のスタンドの能力がバラバラでも、ある特定のルールが存在しているのだ。
それは1つの能力体系を作り始めていた。
「今のところ発動していないスタンドを外部から検知することは不可能。相手のルールに引きずり込まれれば、個人が使用しているとは思えないほどのパワーを発揮する……厄介な能力や」
デンジャラスゾンビが金稼ぎのために矢をむやみに使っていたため、島の見えないところにはたくさんのスタンド使いが未だ息をひそめている。
公表されていないが、何十人ものスタンド使いがすでに捕まっていた。
だが、検知できないのでは島から出さないようにする、という処置が使えない。これまでに何人のスタンド使いが世界に散らばっていったのかわからない。
「つまりすでに予言の半分ほどが、現実に起こっているということだな」
この事態をどう思っているのか、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも聞こえる声は、全く慌てた様子はない。
「後半部分は全く解読が進んでいませんが……ここ1年の事態が、予言に当てはまっていると考えて間違いないでしょう」
「このままいくと、時空の魔王が全てを無に帰す。おそらくは……」
「最後はこの島だけじゃない。世界を巻き込む事態になるでしょう」
深刻な雰囲気のはやてたちに、エヴァンジェリンは納得がいったという声をかける。
「なるほどな。だから今回も、自分たちで自由に動ける部隊を作ったのか。身内で固めて、予言なんてものに大真面目に立ち向かえる部隊を」
「そういうわけです」
「予言のスパンを考えると、おおよそ3年以内に、予言の最後の出来事が起こると予想されます。その途中の混沌……その段階ですら、何人の犠牲者が出るのかわかりません」
「未知の力も、もしかするとスタンドだけではないのかもしれませんしね」
近い将来、しかしいつ起こるのかわからない災害に立ち向かうために作られたのが、今回の特務六課という訳だ。
しかし、後手に回ってばかりでは仕方がない。
何か反撃の手立てが無ければ、時空の魔王が全てを無に帰すその時まで、指をくわえて待っていることになる。
「6つの輝石。どうにもこれが崩壊の鍵になるようだが。目星はついているのか?」
ウェイバーは顎に手を置き、気になった箇所を挙げる。
難解な文章だが、ここではしっかりと数が明記されている。世界を崩壊させるようなアイテムなどそう転がっているわけがない。
そこから突き止めることが出来れば、事態を未然に防ぐことも可能かもしれない。
「そこについて、皆さんに力を借りたいと思い、今日、この場に集まっていただきました」
聖天子がテーブルに座る全員に目を向ける。
「皆さんはそれぞれ、各方面で大きな知識を有しています。その中に手がかりは無いでしょうか」
それが、今回このメンバーが集められた理由だった。
イギリス清教のローラ=スチュアート、時計塔代表のロード・エルメロイ2世、吸血鬼として何百年も生きているエヴァンジェリン、管理局で高い地位にいるアレイスター……下手に調べるよりも早く、表に出ていないことでも分かるだろう。
「それともう1つ」
はやてが指を立てる。
「例のスタンド能力を広めた可能性が高い人物を拘束、そして関係者と思われる人物が今六課に所属しています」
「なんだ、もうそこまで来てるのか」
「……む」
エヴァンジェリンが一気に冷めたと言わんばかりの声を上げる。
それはウェイバーも同じだった。
これまでは詳細不明の世界滅亡の予言。どうすれば良いのか、という話だったはずだ。
しかし目下の問題であるスタンドに関係する人物をすでに見つけているとあっては、前提が覆る。
「見つけたと言っても前者は読心能力者でも意味不明なことしかわかりませんし、後者の方は、そんな犯罪を犯すようには見えなくて……」
「手ぬるいな、八神部隊長」
アレイスターが割り込む。
「事は世界の危機だ。手に入れた手がかりであれば積極的に活用していくべきだろう」
「かと言って、彼は何か犯罪を犯した訳ではありません。強引な捜査は違法に……」
「だったら、ウチでやってみるのはどうだ?」
次に割り込むのはエヴァンジェリンだ。
「多少の汚れ仕事、私たちが請け負ってもいいぞ? 何せ、世界の危機だからなぁ」
興味が出たのか、ニヤニヤと提案してくる。
「……それは後日検討するとして」
これ以上言われてしまうとマズいと判断したはやては、ディスプレイを表示する。
空中に出てくるそれらは、デンジャラスゾンビ―――新谷 航平と夜月 翔の詳細データだ。経歴からわかる範囲の能力まで、事細かに書かれている。
「ふむ……」
ウェイバーはそれを手に取る。
その後ろに控えているグレイもディスプレイをのぞき込む気配を感じつつ、目を走らせる―――
「……は?」
「……何?」
「その映像は、先日、六課の戦闘シュミレーターでの模擬戦の様子になります。見ていただけるとわかる通り……どうかしましたか?」
その映像を見て、顔色を変える人物が2人。
さっきまでの様子はどこに行ったのか、眉を寄せて考え込んでいるエヴァンジェリン。
「い、いや、なんでも……話を続けてくれ、ミズ八神」
ウェイバーは何とか取り繕うが、挙動不審な様子はごまかせない。
今にも叫びだしそうな気持ちだった。だがこんなところで叫んでは、周りの面々にかわいそうな人を見る目で見られてしまう。
代わりに、
「(あいつはっ! 何をやっているんだ!!)」
映像の中で暴れまわる翔に向けて、心の中で絶叫するのだった。