メールで呼び出された俺は、聖天子様に指定された場所に来ていた。
場所は聖王教会。聖王と呼ばれていた大昔の人物、オリヴィエを主として崇めている場所である。
オリヴィエ、つまりはヴィヴィオちゃんの『母体』な訳だけど、これはやはりすごい人物だった。
科学の世界大戦が俺の世界にもあった1900年代のものだとすれば、凡そ600年前にあった魔法版の世界大戦を鎮めたのが、聖王オリヴィエということになっているのだ。
それも、『聖王のゆりかご』というデッカイ魔導戦艦を使ったとはいえ、ほとんど1人で。
そりゃ、当時の人から見れば神様に見えるだろうし、こうやって崇める団体が出てきてもおかしくはない。
ちなみに、ここのお偉いさんである『カリム・グラシア』は管理局の少将だったりもする。
聖天子様はどうしてこんな場所を指定したんだろうか。まさかとは思うけど、数か月会っていない間に変な勧誘に引っかかって、すっかり狂信者になっていたり……ない、よな?
「はいはーい! こちらにどうぞー」
俺は多少警戒しつつも、シスターの後ろをついていく。このシスター、ノリが大分軽いんだけど。
そういえば、外に色々と高級車が停まってたんだけど。あれ全部職員の、って訳じゃないよな?
俺の他にも誰か来てるってことなんだろうけど、いったい誰が来てるんだ? 同じタイミングってことは、もしかして俺も会うんだろうか。
改めて聖天子様が偉い人だと考えていると、
「シャンテ!」
後ろから声をかけられた。これは聞き覚えのある声だ。
振り向くと、1人の女の子がこちらに駆け寄ってくるところだった。金髪で、左右が違う色の瞳、着ている学校の制服は、毎朝クロのもので見慣れている。ヴィヴィオちゃんだ。
「お、陛下だ。いらっしゃーい」
俺を案内していたシスターが軽く手を振る。
「翔さんも、こんにちは!」
「こんにちは。1人なの?」
「はいっ!」
ヴィヴィオちゃんは今日も元気いっぱいだな。
このシスターさんとの距離感、ヴィヴィオちゃんは頻繁にここに来てるのかな。
「そうなんですよ! 色々と、あー……はい。色々と用事があって!」
「やー、でもお客さん、まさか陛下と知り合いだったなんてねー」
「友達のお兄ちゃんなんだよ!」
ヴィヴィオちゃんが聖王のクローン(のようなモノ)であることは、あまり口にしない方が良い。その用事とやらも、むやみに口外するものではないんだろう。
話題が変わる。
「シャンテもインターミドルに出るんですよ!」
「ほーん、そうなんだ」
「はい。まぁ一応、聖王教会の代表ってことで」
「でも、無断で申し込んだんだよね?」
「うん……あの後シスターシャッハにメッチャ説教されたよ……」
言い忘れていたが、俺を案内してくれていたこのシスターは、リリカルなのはの登場人物、『シャンテ・アピニオン』だ。
そこまで出番の多いキャラクターではなかったけど、実力は確かだったはず。
「なんや、前にも見たことのある光景やなぁ」
……なんだ、このエセっぽい関西弁は。そのキャラは八神さんで間に合ってるぜ。
俺の後ろに何人もの気配がある。それも強大な。間違いなく強者の気配だ。俺の後ろを見たシャンテは露骨に顔を引きつらせてる。
「自分、陛下に絡んだせいで、前にオットーやディードにお仕置きされたこと忘れたんかー?」
だが、この喋り口調と声。俺にはピンと思い付くキャラがいるんだが……!
「や、やだなー。もう、そんな冗談ばっかり。前回とは違って、ただおしゃべりしてただけなんですよー?」
「そうですよ! 今回は本当に、シャンテも私もおしゃべりしてただけですから!」
「まあまあ、そんなに焦んなくてもええよ。ウチはあのお堅いシスターと違って、オモロければなんでもオーケー。むしろ最後まで見たかったんやけどな―――……んで? そっちの坊主は初めてのお客さんかいな。喋ってる人にずーっと背中見せてるってのは、どうなんやろうなぁ?」
そう言われてしまえば、振り向くしかない。
後ろにいたのは、まさしく俺が予想していた通りの人物『達』だった。
予想していても、驚きを隠すことは―――
「ロ―――」
「何や、その顔。ウチの顔になんかついてるんか?」
ロキ・ファミリア、だと……!? な、何でここにいるんだ!?
先頭にいるのは糸目で緋色の髪の『神』ロキ。
後ろには子供と間違えてしまいそうな体格、しかし子供には決して出せない『凄み』を持つフィン・ディムナ。
それと同等の実力を兼ね備えているだろう、俺が出会った魔法使いの中でも、10本の指に入るリヴェリア・リヨス・アールヴ。
どっしりとした体に、豊かなひげを蓄えたドワーフの男性、ガレス・ランドロック。
細身ながらにしっかりと筋肉があり、『狼人』特有の耳と尻尾がチャームポイントになっている男性、ベート・ローガ。
眩しい褐色の肌を露出させている双子のアマゾネス、ティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテ。
そして一番後ろには―――『剣姫』、アイズ・ヴァレンシュタイン。
まさに、ロキ・ファミリアの主要メンバー大集合といった具合だ。
頭がくらくらしてくる。俺、聖天子様に呼ばれてきたはずなんですけどね? ここは何時から迷宮都市オラリオになったんでしょうかね?
っていうかロキ! あんたマジで神様じゃねーか! この世界は、そんなポンポンと神様が出てきてもいいのか!?
「……この方たちは?」
「あれ? 翔さん知らないんですか?」
「
ロキ・ファミリアだろ? 知ってるよ! 知ってるけど知らないんだよ!
「武偵高の制服着とるのにウチらを知らないってのは、モグリが過ぎるわ」
「まあまあ。我々は別に、知名度を売りにしているわけではありませんよ、神ロキ」
フィンが間に入ってくれるけど、聞き逃さなかったぞ! 今、『神ロキ』って呼んだな! やっぱり神様なのか!?
「初めまして、我々はロキ・ファミリア。聖王教会所属の武偵グループです」
名前もそのまんまか!!
ツッコミをおさえ、俺も挨拶を返す。
「初めまして、フィン・ディムナ。俺は夜月 翔、武偵……でもあり、管理局特務六課にも所属しています」
「うん?」
握手をする俺たちだが、フィンは不思議そうに眉を動かした。
「何か?」
「いや……ロキ・ファミリアの名前は知らなくても、僕の名前は知ってるんだね」
「ま、まあ、そう言う事もありますよ……!」
ついうっかり口走ってしまった。探偵みたいに言葉の違和感に気が付くな。や、武装探偵なんだから探偵か。
「それで……その、神ロキってのは?」
「ふむ、そうだね……知らないのなら、しっかりと説明しようか」
フィンの説明によると、この『ダンまち』ロキ。本当の神様……ではないようだ。
だがしかし、聖王教会設立からずっと、この人物は教会を支えてきたらしい。つまり、軽く5~600年は生きている計算になる。謎多きおばあさんだ。
そこまで長い間支えてくれたとなれば、それはもう生き神様だ。自ら『ロキ』を名乗ることも相まって、いつの間にか『神ロキ』と呼ばれるようになったのだとか。
そしてこの世界のロキ・ファミリアは、聖王教会所属の武偵集団だ。
聖王教会が、そもそも戦乱を収めた聖王を崇めたところ。それに則り、力で平和をもたらすことを容認している。教会の内側を守るのがシャンテのような武装シスターだとすれば、外へ構える剣がロキ・ファミリアという訳だ。
メンバーは基本的にこの島に捨てられた
ロキの加護(原作のステイタスのようなモノ)によって、主力メンバーの武偵ランクは全員Sというトンデモ集団だ。
武偵ランク自体は無能力者の人を基準に考えらているから何とも言えないが、まあ見掛け倒しじゃないんだろう。だってロキ・ファミリアだし。
やっぱり思う。この島はどこもかしこも魔境だと。
「それで、前にお仕置きされたってのは?」
事実を飲み込み、話題を変える。
「や、それは……」
「ヴィヴィオちゃんの出自は知ってるから」
そう言い添えると、シャンテはあっさりと口を開いた。
「ん、ならいっか。2ヶ月くらい前に陛下がここに来てね、大会に出るって言うから少し手合わせしたんだ」
2か月前って言うと、ちょうど大会に向けて特訓が始まるあたりだな。
「陛下、格闘にこだわってるけど、魔力資質的にそれは不向きなんだよ。戦闘魔導師になるとしても、後衛が向いてる。それを分かってほしくてねー、少し闘ってみたんだけど」
俺にはそのあたりのことは分からないけど、別に意地悪をしたという訳ではないようだ。本当に心配しての行動だったようだ。
「ただ、こんなところで陛下に斬りかかったって事で、叱られちゃってねー。でも、私も悪いと思ってるから。うん。反省してるから!」
「ヴィヴィオちゃんも、大会に向けてしっかり特訓してるからな。自分のことは自分で理解出来るくらいは、ヴィヴィオちゃんは大人だよ」
「ん、陛下、頑張り屋さんだからね……ってかそれ、前にも言われたよ。あー、もう! やっぱり余計なお世話だったかー! 慣れないことはするもんじゃないね!」
そんな風に盛り上がっていると、
「んん? どうした、こんなに多く集まって」
「おお? なんや、帰ってみれば血なまぐさいと思えば、吸血鬼かいな」
「ははは、いや、まさか500年生きても貧相な体のエセ神様にそんなことを言われるとはなぁ」
「だまらんかい! お前はそもそも魔法を解いたらちんちくりんのガキンチョやろうが!」
「……いやいや」
俺は頭を振った。
流石に処理しきれない。もう今回はほとんど説明しかしてないんだぞ。これ以上人物を増やして収拾できるんですかね!?
そこにいたのは、ジャケットを指に引っ掛け、胸元のボタンを少し開けたスーツ姿、手で顔に風を送っているが、そんなことは気にならないくらいの超絶美女。
―――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだった。
今度はなんだ。どうしてこんなところにいるんだ!? 俺はいったい何を試されているんだ!?
「……ん?」
見つかった。
目が見開かれた後、細められ、その口元が歪む。すんごく嫌な予感。
「(んん? んんん? アイツはさっきの映像の。確か……夜月 翔? アイツらめ、実は呼んでいたのか。ふんふん、なるほどなぁ)」
厄介なことになる前に、ここを離れたほうがいいな。
「あー、シスターさん? 俺も約束があるからさ、そろそろ案内してもらえると……」
俺の持っている魔法の1つ
今この段階で、それは拙い。
「まあ待て」
しかしそれは叶わなかった。
二の腕をがっちりと掴まれ、その指が全く離れてくれない。
そのまま体捌きだけでするりと絡みつくように、腕が首に巻きつく。
「別にそこまで邪険にすることは無いだろう? なぁ? 夜月 翔?」
「なんで俺の名前を……」
「まあまあ、どうでもいいじゃあないか、そんな些細なことは」
一番考えられる可能性は……やっぱりブラド関係だろうか。同じ吸血鬼を倒した男ということで覚えられていたのかも。
や、すでに名前を覚えられているというのが問題な訳なんだけど!
「お、俺に何の用でしょうか?」
「(……ふむ、だがどうするか。少なくとも、今のコイツの腕は見ておきたいが、私直々に戦うのは流石にまずいな。主に周りの被害的な意味で。となれば……)おいロキ! オマエのとこの、1人貸せ」
「あぁ? 突然何言っとるんや」
俺から離れたエヴァンジェリンはロキと内緒話を始める。この隙に逃げられないかな。逃げられないんだろうな。
「ロキ、お前予言のことは知ってるか?」
「そりゃ、まあなぁ。こう見えてもウチ、ココで結構いい暮らしさせてもらっとるし?」
ロキが行っているのは、あくまでファミリアの運営だけだ。実際の教会中枢には意図として関わらないようにしている。
だがファミリア経営の流れで、カリムから予言については知らされていた。だがその頃は、翔の情報は全くなかったのだが―――
「あのガキ、予言に関係あるぞ」
「マジか!?」
なんかロキが、首が取れるんじゃないかって勢いでこっちを見たぞ。
「間違いないんか、それ」
「十中八九な。もし違っても、また別の理由でタダ者じゃない」
「んん? その心は?」
「アイツ、私と同じ呪いを受けている」
「ははぁ、なるほどなぁ」
同じく長い時間を生きている者同士、お互いの事情にはそれなりの理解があった。
「そう言われると、流石に手ぇ振って別れるってのはムリやなぁ」
「そうだろう? 少しくらいはツバをつけておきたい」
「となると、そうやな……」
ロキは自分のファミリア集団の方へ行き、エヴァンジェリンはこちらに向かって歩いてくる。
「お前、今時間があるな」
「いや、無いんですけど」
「よし、あるんだな」
話聞いてないなこの吸血鬼。
「よし、今からここで戦ってみてくれ、ロキ・ファミリアのメンツとな」
「はぁ? 嫌で……俺が勝った時には?」
全力で拒否しようと思ったが、あることが引っ掛かり踏みとどまる。
「お前が知らないことを教えてやろう。知ってるか? 今自分が、どんな立場に置かれているのか。少しくらい自覚があるんじゃないか?」
「……」
言い争っていたはずのロキがあっさりと協力的になったことが引っ掛かる。これは本当に何かあるな。俺の知らない何かが。
それにこのレベルのキャラクターたちだ。ここから先、何らかの事件があるかもしれない。そのための繋がりを持っておくのは悪くない、のかもしれない。
もう目をつけられているんだし、隠そうとする方が無理だ。無駄な行動だ。
ここは受けるべきか。聖王教会でなら、面倒な政治利用されるってことも無いだろうし。
「分かりました。やりましょう」
「そうか、いやー良かった良かった。断られたら何をしてやろうか迷ってたんだ」
俺はずいぶんと賢明な判断をしたらしい。
俺が了承した丁度その時、向こうでも話がまとまったようだ。
「よっし! それじゃ、リヴェリア、結界よろ!」
「断る」
「なんでや!」
まとまってなかったみたいだ。
しかし、ロキはその後何度も頼み込む。
「はぁ、しょうがない……」
溜息を吐きつつ、リヴェリアが結界を張ってくれる。
ロキ・ファミリアのメンバーから一歩前に出たのは、ベート・ローガだった。