大会の予選も今日が最終日。おそらくは島に一番人がいるであろう時期だ。聖天子様に依頼された護衛の初日は明日に迫っている。
それはつまり、例の偉い人たちの会議も明日に迫っているという訳だ。
そんな前日の夜。俺達―――俺とアルトリアとオルタは、とある人物に会う約束を取り付けていた。
「いらっしゃませー! 何名様ですかー!」
「あー、や、待ち合わせなんですけ、ど……」
俺は席を見回す。
家族連れがいつも以上に目立つファミレス。普段は島にいない人の割合が多くなっているんだ。単純に観光に来た人もいれば、多少ケガしている子はインターミドルに出場しているのかもしれない。
その中で、明らかに場違いな人物を見つけた。
わざわざテーブル席に1人で腰かける長髪の男性。まだ何も頼んでいないのか、そのテーブルにはドリンクバーすらない。
不機嫌そうに腕組みして眉間に皺を寄せる姿は、注文を聞きたい店員さんも、周りのお客さんも、とても居心地悪そうにしている。
「あそこです」
俺達は速やかに案内された。
近寄ると、その男性は目を開けた。
「おっす。遅れてすまんな」
「来たか―――はい……?」
待ち合わせしていた人物、ウェイバー・ベルベット―――通称ロード・エルメロイ2世は、あっけにとられた顔で俺達を迎えてくれた。
この前聖王教会で連絡先を交換してから、何とか空いている時間を探した結果、こんな前日のタイミングになったのだ。
俺もウェイバーも当日の打ち合わせ帰り。夜ご飯を一緒に食べる時間くらいは取れるということで、集まることに成功した。
どうせだったらアルトリア達も連れて行こうと思い、合流していたら少し遅れてしまったのだ。
「お、おま、え。それ……」
俺が2人のアルトリアに挟まれる形で、席に座る。
周りからの視線が、一層強くなったような気がする。
大柄の長髪男性に、双子と見間違うほどよく似た美少女2人。そして特に特徴のない男子高校生の俺。
傍から見れば、訳の分からない組み合わせだろう。
「すまんすまん。やっぱりちゃんと言っておけばよかったな」
ウェイバーはぱくぱくと口を開閉させている。言葉を出したくても、出せないでいるみたいだ。言いたいことがありすぎて、逆に空気しか吐き出せていない。
それほどまでに、俺の隣にいるアルトリア達が衝撃的だったんだろう。
そりゃそうか。
俺だって、こっちの時代に帰ってきてからのガチャですぐさまこの2人が来たときは、驚いたなんてもんじゃなかったからな。
それこそ、運命めいたものを感じた。
それをアルトリアに言うと、顔がへにゃりとするのを我慢しようとして出来ないのが可愛い。
それをオルタに言うと『当たり前だ』などと言いつつも目を合わせてくれなくなる。やっぱり可愛い。
「惚気るな!!」
「いや、本当なんだって」
ウェイバーにこの2人がここに居る経緯を説明していたが、いつの間にか余計なことを言っていたみたいだ。
とりあえずウェイバーには、こっちの時代に戻ってきた時にこの2人が突然召喚された、という説明をしておいた。
女の子の召喚もサーヴァントの召喚も同じようなものだし(全然違う)、ウェイバーには何とかこれで納得してもらうとしよう。
「……お前、グレイについて何か知ってるのか?」
「いや、別に? まあ、そんなに人に慣れてない感じだったし、今回はいないほうがいいかなって。ウェイバーも、その方がしゃべりやすいだろ? 素が出せるっていうかさ」
「それはそうだな……」
俺も事件簿のストーリーはあまり知らないんだけど、グレイとアルトリアは混ぜるな危険。かどうかは分からないけど、何が起こるのか分からないのは否定できない。
一応ウェイバーが1人で来ているかを確認してアルトリア達のことは誘ったから、その辺りの対策は万全だ。
今回は、昔からの知り合いとの集まりってことで。
「そもそも何を触媒にしたんだよ……」
「そんなものは、私達の愛に決まっているだろう? 愛の力が、私たちを引き寄せた」
「よくも恥ずかしがらずに言えるな!」
流石に俺も恥ずかしくなる。
「あながち間違ってはいないかもしれんぞ? 実際翔は、私達が生涯守り続けた純潔を奪った男なんだからな」
オルタも、そういうことを公共の場で言うんじゃありません。周りの目があるでしょうが!
「ま、まあ……ぁぃ、かは分かりませんが、我々はここにいます。しかもあの時の、聖杯戦争の記憶を持ったまま」
「サーヴァントは基本的に、前回の召喚の記憶を持つことは無い。確かに、何か特別な事情で召喚されたようだが……」
アルトリアの場合は、その存在が特別だからな。
まあ、それを抜きにしても、いくら考えても答えなんて出るもんじゃない。
だって、この2人は魔術的に召喚されたんじゃなくて、俺の授かった謎能力によってこの世界に来たんだからな。
実際どんな基準で召喚される女の子が決まっているのかは分かんないんだよね。それこそ神のみぞ知るってところか。
いや、でも、もしかするとウェイバーなら、俺の能力の秘密が分かったりするのかもしれないな。
「確かに、目の前で起きている事象を否定するわけにはいかないが……」
それでも納得がいかないのか、眉間の皺がますます深くなり、腕組みをしながら俺たちを睨んでいるロード。
「ま、まあ、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない? 今のところ、何か起きたわけじゃないんだし?」
「何を言っている。何の前触れもなくサーヴァントが召喚されるわけがない。今なくても、今後起きるかもしれん。これはきっと何かの予兆が……」
そんなことをぶつぶつと呟き始める。
アルトリア達と会わせただけでここまで大ごとになるとは。
「翔の言う通りですよ。そんなに大したことじゃありません。案外よく起きているかもしれないですよ?」
アルトリアの声にも、
「伝説のアーサー王がそんなホイホイ召喚されてたまるか!」
「いえ、私たちはアルトリアですが?」
「人の名前を間違えるな」
「そ う じ ゃ な い だ ろ !」
すっかりウェイバーに戻ってツッコミを入れている。ツッコミを入れたくなる気持ちもわかるが。
しばらく肩で息をしていたウェイバーだったが、
「……まあいい。いくら話しても、この場では結論が出ないことだ。そのことについては、こちらで調べておく」
「あ、うん。別に無理して調べる必要ないからな?」
多分何もないから、本当に気にしなくてもいいんだけど……
座るだけでひと悶着あったが、ようやく料理を注文できた。
食べる最中でも、おしゃべりは続く。
「歴史が変わっていた、だと?」
「ん、まーな」
俺はミラノ風なドリアを口に運びながら答える。
そこまで昔の記憶じゃない。聖杯戦争からこちらの時代に戻ってきた時、それまではいなかったはずの桜が、俺の家に当たり前のようにいた。
「つまり、お前がサーヴァントとして召喚される事象は、本来の歴史にはないことだったと?」
「本来の歴史って言い方はどうかな。俺の知る限りの事実はそうだったってだけで、別に絶対に正しい歴史ってのが決まってるわけじゃないだろ? 知らんけど」
「それもそうだが……だがな。歴史改変か……私たちが思っている以上にあの聖杯戦争は歴史の分岐点だったのかもしれん」
「ふむ、と、言うと?」
運ばれてきたパスタに箸をつけずに、ウェイバーは俺に講義してくれる。
「お前、召喚される前までは、聖杯戦争なんてものには縁もゆかりもなかったんだろ? 事件の資料として知っているだけで」
「まあな」
流石に知っているだけでは、縁にはならないだろう。
「だとすれば、やはり何かしらの意図があったと思うべきだ」
「意図ねぇ……」
「大した縁も無く、例外クラスとして呼ばれる。ルール外の事には必ず何か原因がある」
「抑止力の仕業だったり?」
「もちろんそれも否定できない」
単純に原作のイベントだからって考えていた俺には、全くない思考だったな。原因があるとすれば、やっぱり俺をこの世界に引き込んだ『存在X』何だろうか。
だとすれば、そいつの意図で緊急クエストが出てるのか? タイムベルトも、あの時以外は起動しないし。
「それで、あの聖杯戦争の後、どうなったんだ?」
「桜からは聞いてないのか?」
「なんだかんだで聞くの忘れちゃって」
それよりも予定が立て込んでたってこともあるけど。
「まったく……」
ウェイバーは呆れつつも話してくれる。その時の記憶があるアルトリア達もだ。
「言うまでもないが、あの時の戦いで聖杯戦争は事実上終戦になった」
そりゃそうだ。あの時点で俺たちの陣営のサーヴァントしか残っていなかった。ライダーが面白半分に戦いを挑まなければ、あれ以上の戦いが起こることは無い。
さらに言えば、マイティブラザーズで分身したオルタの魔力は聖杯に溜まっていた分が使われていた。
そのおかげで、(ランサー、アサシン、キャスター、バーサーカー、アーチャー)5騎のサーヴァントを倒したのに、(セイバー、セイバーオルタ、ライダー)3騎のサーヴァントが存在している状態になっていた。
「そのおかげでアイリスフィールは動ける状態でしたが、長旅が出来る状態ではありませんでした」
アルトリアが続ける。
遠坂家(遠坂時臣)は弟子(言峰綺礼)の裏切りに遭い、その弟子は切嗣さんとケイネスさんに倒された。
間桐臓硯は俺に倒されて、アインツベルン家は特に監視をつけていない。監督役だった教会も、共謀していた遠坂が消滅し、アクションを起こす理由がなくなった。
つまりこの時点で、審判が存在していない。
「我々は二手に分かれました。一方は冬木に残り、動けないアイリスフィールを守りながら聖杯の解体に取り掛かるチーム」
「もう一方は、切嗣さんの娘さん……イリヤちゃんをアインツベルンのお城まで迎えに行くチームだ」
「なるほどね」
俺が出来なかった後始末はそんなことになってたのか。
「と言っても、迎えに行ったチームは切嗣さんとセイバーオルタだけだったがな」
「それでも十分だろ」
聖杯の泥に呪われていない切嗣さんと、サーヴァントであるオルタ。戦力としては十分だ。
「事実、そうだったな」
「向こうは向こうですんなりとイリヤちゃんを渡したわけじゃないんだろ?」
「ああ。聖杯を解体することを伝えれば、絶対に渡さないだろうとあの男―――切嗣が言ったからな。かと言って、こっそり攫ってそのままでは後顧の憂いが残る。ゆえに、正面から叩き潰した」
「うわー……」
オルタは何ともないように言うが、それってつまり。
「……まあ、それでアインツベルン家は事実上滅ぶことになった」
「滅ぼしちゃったかー……」
相当暴れまわったらしいな。
「それで解体チームだが……そんな短期間で解体が進むわけがない」
「そりゃそうだ」
「だから私たちはずっと……散歩したり、ゲームしたりしてたな……」
「おい」
懐かしむように目を細めるウェイバー。
「そうですね……イリヤスフィールが日本に来てからは、旅行にも行きましたよね」
「ライダーの戦車に乗ってなー……」
「何をやっているんだ君たちは」
「や、もちろんただ遊びに回ってたわけじゃないぞ? 私だってケイネス先生の手伝いをしてたんだ。その時間の合間を縫ってだな……」
積もる話が多すぎて、時間になってしまった。
全てを聞くことは出来なかったが、その後の話はまた次回に持ち越されることになった。
――――――――――――――――――――
「お疲れー、明日も頑張ってなー」
「お互いにな」
ウェイバーと別れ、店の外。俺の端末が震えた。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「や、クロからメールが……」
なになに? 遅くなりそうだから迎えに来て欲しい?
あー、そういえば、今日は大会に出てるちびっ子組が、予選突破を祝してファミレスでプチ祝勝会してるんだっけ?
初日の様子を見てて、まあこれは行っただろうなって思ってたからな。予選は気にしてなかったな。
「ちょっと行ってくるな」
迎えに来て欲しいって言うなら行かなくては。
「そうか。われわれは先に戻っているぞ。あまり遅くなるなよ」
「そうですね。くれぐれも夜遊びをしないように」
「……はいはい」
すこし含みのある言い方の2人にそう返し、指定された場所に走るのだった。
――――――――――――――――――――――
「2人とも、おめでとう」
「「ありがとうございます!!」」
目の前のアインハルトと綺凛は満面の笑みだ。
呼び出された俺は今、アインハルトの家に来ていた。プチ祝勝会のお店ではなく、ここに来いと指定があったのだ。
最低限の生活用品に、沢山のトレーニング機器があるのは、本当に『らしい』部屋だと思う。未成年の女の子が1人で住むにはかなり大きい部屋だ。
さっきも言ったとおり、俺はそこまで熱心に予選は見ていなかった。それは心情的に、まあ余裕だろ、という考えがあったこともある。
だが聖天子様の護衛の準備があったため、ということも大きな要因だった。無事、全員揃って予選を突破出来たのは良かった。
晩御飯は『予選突破おめでとう』と、『明日からのブロック本戦頑張ろう』を兼ねて、ノーヴェさんがお店に連れて行ったらしい。
それも終わり明日から本選。一度でも負けたら終わりの試合だ。ここからは気を抜けないはずだが。
「……それで? どうしてそんなに直接会いたかったんだ?」
こんな夜遅くに、わざわざ家に呼ぶなんて。
「それは今から2人が説明するわよ」
実はここにはクロもいる。何やら不満そうな顔をして、仏頂面になっているが。とりあえずは呼び出された理由を聞かないと。
「別に普通の事なんじゃないの? 直接祝って欲しいっていうのは。なんて言っても、2人はお兄ちゃんの『彼女』、なんだし?」
「……」
確かに仕事のせいで、おめでとうの言葉は電話越しになった。
それはもちろん申し訳ないと思う。でも、あんなに強く今会いたいと言われると、どんな理由があったのか気になってしまう。
ただ、直接祝ってもらいたい、ってだけじゃないよな。
「私たちは頑張りました」
「予選を勝ち抜いて、本戦出場です」
「もちろんおめでとう」
それはもう何度でも言うよ。
「頑張ったんですよ」
「うん」
「ですから、頑張ったんです」
「……おめでとう」
頑張ったのは十分に伝わってくる。全編を通して楽勝な試合展開だったとは聞いているけど、それでも頑張ったものは頑張ったんだろう。
「だ、だから、ですね」
2人は見合った。
「ご」
「ご?」
「ご褒美が、欲しいです……っ」
「ダメですか……?」
「ああー……」
俺はちらりとクロを見た。
「別に私の方を見なくてもいいんじゃない? するかしないかを答えればいいんだから」
「……そうですね」
するかしないかって、もう1つしかない。そして答えも、1つしかなかった。