「み、皆さん……? そんなに念入りに、あう」
「ダメですよ聖天子様! 聖天子様に何かあったら!」
「そうですそうです! この真っ白な肌に日焼け跡が残るようなことがあってはいけませんからね!」
「マジ引くわー!」
聖天子は自室でパーティの準備をしていた。パーティには当然ドレスを着ていく。白く透けるような素材でできており、ロングスカートに肩を出すタイプだ。
今はメイクの前に、新たに『おつき』になった3人の武偵(女性)に揉みくちゃにされつつ日焼け止めを塗られているところだった。
夏の強い日差しの影響を受けないように、いつも念入りに。
聖天子の透き通った白い肌が小麦色になる、それは高貴な宝物を穢すに等しい行為だ。同性でそのケが無い彼女たちでも、本気で守らなければならないと思うほどの。
この3人はさしずめ、その宝物を手入れする職人。や、それにしては少々扱いが雑かもしれないが。
ようやく塗り終わり、聖天子は解放される。
後はメイクだ。
「それで、あの男どう思いますかい?」
「まあ、見た目は冴えないけどねー。高貴な人は逆にあんな感じの人がイイのかー、って感じ。当の本人はJCと幼女を連れてきておりますが」
「マジ引くわー……」
コソコソと話しつつ、3人はメイクの準備をするのだった。
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大会の予選も終わり、様々なイベントが始まり、学園島が一番賑わいを見せるこの時期。桜は実家である冬木の遠坂邸に、理子は東京にあるコミックなマーケットに行くために島を離れたこの日。
俺たちは聖天子様の部屋の前で待機していた。中では今日の懇親パーティの準備、メイクアップ中だ。
今回一緒に護衛をするのは雪菜とコッコロ。俺と雪菜は防弾制服、コッコロはいつものあの服。
どういう事件が起こるのか分からなかったため、メンバーのバランスを考えたかったんだけどな。ギリギリだったせいで空いてるのが雪菜しかいなかった。それとこの世界に召喚されたばかりのコッコロ。
話をすると、2人ともすぐに快諾してくれた。
「主様は、そんなに偉い方ともお知り合いなのですね」
「……そうですね。『若い女性』の、偉い人ですね……」
何でそこを強調したんでしょうね?
「いえ、別に? 何かやましいことがあるんですか、先輩?」
「……そんなことは無いけど?」
不安があると言えば、今日これから会うかもしれない人たちだな。ニュースで毎日のように『どこどこの国の誰々が島に到着しました!』なんて言ってるのだ。もちろん映像付きで。
正直、魔境。何も起こらなくても大事件だと思う。そんなメンツがこの島に集結している。
「……もう仕事は始まってるんだよな。ただの護衛の俺に、そんな絡むとは思えないけど……」
そんなことを考えながら聖天子様を待っていると、とんでもない人物が現れた。
日本古来から伝わる伝統着である着物を着こなしている。それも無駄に豪華なものではなく、大名が将軍に会うような、必要とあればすぐさま刀を抜ける絶妙な格好だ。
この人物が天童式抜刀術の免許皆伝であることを考えれば、それも脅しではないのだろう。
顔には深い皺が刻まれているが、眼光は俺を刺し貫くほどに鋭い。喋ってもいないのに俺の内面全てを見透かされているようだ。
多数のガードマンを後ろに引き連れて、その老人、天童菊之丞が目の前にいた。
「っ……!」
「貴様達は……そうか」
当然のように俺達の顔は知っているようだ。
「今日は期待しているぞ。万が一にも、傷一つつけてくれるな」
「もちろんです」
それだけ言うと、その場を後にしていった。自分の護送車に向かったんだ。
「あれが天童閣下ですか……」
「確かに、ただならぬオーラを感じました……」
雪菜とコッコロも活力に満ち溢れた天童菊之丞に、唾を飲み込んでいた。
俺たちが固まっていると、聖天子様が出てきた。もちろん自分で扉を開けたのではなく『お付きの人』が開けて、だ。
その『お付きの人』にも見おぼえがあるが、ここは突っ込まないでおく。
「おはようございます。何かありましたか?」
「や、今天童閣下が通って」
「先に行ってしまいましたか?」
「そうですね」
「私達も急ぎましょう。遅れてはいけません」
聖天子様の言葉で、俺たちも移動を開始するのだった。
「……」
聖天子様の服、なんか気合入ってるな。や、そりゃあ国際的な交流会だと思えば当然なのか……それにしてもいつもTVで見るよりも透明感があって、神秘的な雰囲気で……
「痛っ!?」
「ふんっ! 行きましょう、コッコロさんっ」
「ぁ、は、はいっ」
雪菜とコッコロは先に行ってしまう。
「うっわー……」
「最悪……」
「マジ引くわー……」
後ろではなんか言われていた。
―――――――――――――――――――――
「閣下、よろしいのですか?」
「ああ。あれでいい」
一番の側近に短く返す菊之丞。
「しかし……」
側近は、翔と同じことを考えていた。保脇の一件で、翔に聖天子の護衛をさせることを不安に思っているのだ。
「あの男は使える」
「使える、ですか?」
「無知な民衆に必要なものは、なんだ?」
「……やはり、我々の都合よく動いてもらう事でしょうか?」
「そうだ。だが、思い通りに動かそうとしては、必ず抵抗が生まれる」
人々の自由を奪うというのは、一番回避しなければならないことだった。
思い通りに世界を動かすためにも、抵抗を作ってはならない。
「必要なのは納得だ。世間全てが納得すればいい。納得する血統の後継者ができれば、いいのだ」
「まさか……あの男を聖天子様の伴侶に?」
「そうなるのかはまだ分からん。しかし、あ奴が今、一番心を許しているのは、あの男で間違いないだろう。そうでなければ……」
わざわざ護衛として、もう一度雇おうという気持ちにはならない。
「立場上仕方のないことだが、世間受けがいいのは聖天子だ。自由意思を尊重した恋愛婚ならば、世間は納得する。子供ができ、それが次期トップになったとしても、そこには納得があるだろう」
多くの民衆が、祝福の言葉を贈ることになる。
「重要なのは納得だが、必要なのは教育だ」
菊之丞唯一の失敗は、幼少期の教育を他の人間に任せてしまったことだ。気が付いた時には優しい、争いを好まない少女へと育ってしまった。
だからこそ、次代の子供には最高の教育を施す必要があるのだ。
「だが、あくまで自由意思でなければならん。あの男が本当にそうなるのかは、まだまだ未知数と言ったところだ……」
高齢の菊之丞は生涯現役を誓っている。多少長い目で見ることに、何の抵抗も無い。今は目の前に迫った会議に意識を向けるのだった。
――――――――――――――――――――――――――
パーティが始まった。
入口は管理局と武偵に固められて、蟻一匹入る隙間もない。そんな物々しい雰囲気とは対照的に、会場は煌びやかな雰囲気に包まれていた。
たくさんの料理が並べられ、このままパレードにでも行けそうな服を着た人たちが互いの顔色をうかがいながら食事とおしゃべりを楽しんでいる。
「―――」
聖天子様も他の国の方々と平和にお話をしている。当然のように全員顔立ちが違う。国が違うんだから当たり前だ。
ちなみに言うと、言葉に関しては万能翻訳機があるため、まったく困らない。俺にも話している内容は理解出来る。
「……」
予想外に平和だ。よくよく考えれば当然なんだけど。
チンピラのように絡んでくる奴もいないし、怪しい奴もいない。政治の場で立場ってものがあるんだからかな。やらかせばその国の信用問題だ。
今集まってきているのは、聖天子と、敷いては日本と仲良くしたい面々。個人的な付き合いが無いのは、聖天子様の口調ですぐにわかる。
だからと言っても気は抜けないが。
俺は遠目に会場を見回す。
同じように人だかりができている場所がいくつかある。
政治的に仲良くしたいというのはつまり、力のある強い国ということだ。あの人だかりの中心には多分、俺の知っている人がいるんだろう。
一日目は、どの国も我先にと強国に唾をつけに走る。強国同士が話すのは2日目以降になりそうだな。
―――――――――――――――――――――――――――
「で? どうだったよ、会議は」
「特に何とも。日程の確認、近況の報告、私の場合は多少嫌味も言われたが……もう慣れてしまったよ」
「ずいぶん余裕そうじゃないか。この会議、実質世界最強のメンバーが揃ってるだろ? 少なくとも表舞台では」
「それも含めて、慣れてしまったということだ」
無事、何事も無く終わった1日目。俺は旧友―――ウェイバーと合流して少々お高めのお店に来ていた。雪菜とコッコロは隣に座り、ウェイバーの横には相変わらずフードをかぶったグレイが座っている。
今は食事も終わり、コーヒーを飲みつつの時間だ。外の喧騒が嘘のように、静かな時間が流れている。
この場にさらにもう1人いなければ、それだけで終わっていたことだろう。
「それはそれは、時計塔のロードともなれば、常日頃から気苦労が絶えないという事か?」
「半分はお前のせいでもあるがな……!」
くつくつと嫌な笑みを浮かべるのは、俺たちのどちらにも属さず、会話を楽しそうに聞いていた少女だ。
傍らに鈍色のメイドを控えさせる姿は、黙っていればどこぞの貴族と言われても違和感がない雰囲気を持っている。実際、貴族みたいなもんだ。
ケイネス先生と同じ美しい金髪ロングヘアーのこの少女の名前は、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
ケイネス先生の遠縁にあたる少女で、Fateの外伝作品『ロードエルメロイ2世の事件簿』のメインキャラクターでもある。
この世界線ではケイネス先生は生きているため、原作のようにエルメロイ家の当主になっているわけではない。
それでもこの場にいるというのは、
「昼間は特に喋れず残念だったが、こうして話せてうれしいよ、夜月 翔」
ウェイバーが会議に出ている間、ライネスは懇親パーティに来ていたのだ。
1日目が終わってウェイバーと合流してから、同じ会場に彼女がいたことを知った。ま、あんなに人がいれば、気が付かなくてもしょうがないよね。
ライネスはライネスで、他の国の人たちに囲まれる聖天子様に近寄れなかったようだ。彼女の目的は俺だったというのに。
ファミレス辺りに行こうかと思っていたところ、ライネスに引っ張られる形でこのお店に連れてこられたのだ。
来るとき散々財布は無いぞって言ったんだけどね。
「当たり前だろう? まさか君は、『ふぁみりーれすとらん』に入れとでも? 魔術の大家、エルメロイ家の人間に?」
「いやいや、この島のファミレスはヤバいぞ?」
多国籍ファミレス。各国の郷土料理が手ごろな値段で楽しめるんだからな。
「それに、雪菜とコッコロが緊張してる」
「べ、別にそんなことは……っ!」
「も、申し訳ありませんっ、わたくし、森育ちで。このような場所にはあまり縁が無く……っ」
コッコロは素直だが、雪菜は強がっている。持ってるコーヒーカップは揺れてるけどね。
でもそれはウチの2人だけではない。ウェイバーの隣に小さく座っているグレイもここに来てからずっと喋らない。
「……お前も緊張してるだろ」
「え、なにか?」
ウェイバーがぼそりと何か言ったね。とりあえずコーヒーで喉を潤しておこうか。
「それで? どうしてお前はこいつに会いたいなんて言い出したんだ?」
「それはもちろん、好奇心さ。個人的な好奇心。思えば10年前の聖杯戦争。あれはエルメロイ家の転機になった」
原作では没落の転機だったが、この世界では違うようだ。
「当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとソフィアリ家との仲は良好、まあ、婚約をしていたからそうでなければ困るんだが……それでも、以前の政略婚のような空気は無くなった。聖杯戦争という冒険が2人の仲をより強固にした……そんな2流のロマンスが本当にあるとは思わなかったよ」
本来その2人は戻ってこないはずだったからな。
「だが、確かに正直言ってあの人のことは実力以外は全く評価していなかった。古臭い価値観、過剰な慢心、魔術師としては優秀だったのかもしれないが、殺し合いに参加して生きて勝利できるとは到底思えなかった」
身内に対してもずいぶんと辛辣だな、この娘は。
「だが、戻ってきてみればなんだ。どこぞの3流魔術師と桜―――私とそう変わらない女の子を自分の養子にするなんて言い出す」
そりゃ仰天されるな。聖杯戦争で狂ったのか思われそうだ。
「それどころか、未来への投資だ、なんて言ってはぐれ者の生徒を集めた『エルメロイ教室』なるものを設立するともな。いや、あの時は笑ったよ。引退したはずの元当主の取り乱しようと言ったら……くくくっ、治癒術師に頼んで頭に異常が無いのか調べる寸前だったよ」
「……」
ライネスは笑うが、ウェイバーは居心地悪そうに眼を反らした。
そりゃあ話の渦中にいた人間だからな。それでも桜をここまで育ててくれたんだ、ケイネスさんにはそのうちお礼を言いに行かないといけないな。
「まあ結果として、エルメロイ家は時計塔の若い魔術師、歴史の浅い家、特異な体質の生徒に大人気になった。めでたいなぁ、兄上?」
「兄上はやめてくれ……まあ、エルメロイ教室は勉強になったよ」
「何だお前、お兄ちゃんなんて呼ばせてるのか。義妹をいいように使ってるな」
「呼ばせてないだろ!? 何処に耳ついてんだ!」
「おいおい。普段は眉間にしわを寄せて黙るのに、今日はどうしたんだ? 楽しくなってしまうじゃあないか」
「……この悪魔共……っ!!」
破裂してしまうんじゃないか心配になるな。そんなに真っ赤になってると。
「それで、だ」
ライネスは話を戻す。
「これまで話した通り、聖杯戦争はエルメロイ家の転機になった……その中心にいた人物で? サーヴァントでありながら未来に生きる人間で? その本人が10年後の学園島から来たと明言していて? しかも桜の想い人らしいじゃあないか。機会があれば会ってみたいと思うのは、そんなにおかしいことかな?」
「それで? 実際に会った感想は?」
「実に面白いよ。真面目なのに私の様に悪魔的な部分がある」
「悪魔的って……」
自分で言うのか。
「サーヴァントとして呼ばれるだけはある。口が裂けても平々凡々な人物とは言えないな。聖天子の護衛についていなければ、私の護衛につけたいくらいだよ」
ずいぶんと高評価をもらえたみたいだ。
「だが、その横にいる女はいただけないな。」
ニヤニヤ笑うんじゃねーよ。
「私の予想では、隣にいるのは桜のはずだったんだがね? 今日は久しぶりに桜とも会う予定だったんだが……それがなんだ、どこぞのJCにエルフの幼女だと? 我がエルメロイ家の恩人は
「よくよく考えれば、桜もあの頃は小さかったな……」
「ウェイバー、テメェ……!」
「先輩……」
俺へと向けられる視線を理解しているライネスは続ける。
コッコロだけが、言葉の意味が分からずきょとんとしているが。
「もちろん恋愛は個人の自由。いくら桜が幼少期からずっと、お前のために身を磨いてきたとしても、それを受ける義務は発生しない」
そうか。年齢が近いってことは、接する機会が多かったのか。や、むしろ桜の腹黒さは、ライネスから学んだものかもしれない。
何はともあれ、そこには確かな友情が芽生えて―――
「まあ玉砕したらそれはそれだが」
「と思ったら冷てぇ……!」
「それで、実際はどうなんだ? 小さい頃から見てきたが、アレはイイ女に育ったと思うぞ? それとも、本当に
実際にはもう抱いたあとなんだよなぁ。
「めったに自国の外に出ないと言われているエルフが、しかもその年齢で聖天子の護衛とは、よほどの訳ありか? そっちの女も、それほどの礼装(雪霞狼)、そうそう個人で持てるものではあるまい?」
「え、や、それは……」
まさかガチャから出てきましたなんて言える訳もない。しどろもどろになっていると、
「ふう……その娘もそうなんだろ?」
「え?」
「だから、お前のことだ。世界中飛び回って、困ってる人を、だな。助けて回ったり、してるんだろ? それで諸々合って引き取ったとか、そんな感じなんだろ」
「お、おう……そやな……」
ウェイバーがすごく都合のいい解釈してくれた。俺、あの聖杯戦争以外で、この島出たことないけどね。
「まあいいさ。他人の事情にとやかく言うつもりは無い」
ライネスもそこまで追求するつもりは無かったようで、あっさり引っ込んでくれた。
その後も適当に雑談をして、帰宅の時間になった。
去り際にライネスは、
「用心することだな。1日目というのは誰でも様子見をするものだ。本番は明日だぞ」
そんな不吉なことを言ってくる。
その言葉通り、会議の本番は明日。何かが起こるのも明日になるのだった。