屑ヤミーの襲撃があった次の日。本来なら今日も護衛の仕事で会場に行くはずだったんだけど。
「すみません、まさかこんなことになってしまうとは……」
「いえいえ、別に聖天子様に原因がある訳じゃありませんから」
申し訳なさそうな聖天子様に、雪菜は慌てて手を振る。
今現在いるのは、聖天子様の家。
家、なんて軽く言ってるけど、もっと別の言い方したほうがいいかな? もっとやんごとない感じに。
「わたくし達、こんなにのんびりしていてもよろしいのでしょうか……?」
「ええ。そんなに気になさらないで下さい」
こうしてお茶を飲んでいる間にもお給料は発生している。まじめなコッコロはだんだんと申し訳なくなってきたみたいだ。
今日、こうしてヒマしているのにはしっかり理由がある。
言ってしまえば、パーティが無くなったのだ。
あそこまで露骨な襲撃があってそのままパーティを続けるほど、皆さん平和ボケはしていない。
懇親パーティをキャンセルする国が大多数となり、パーティ自体が中止。会議は変わらず開催されているが、パーティの護衛をすべてそちらへ付けた超厳戒態勢になったらしい。
会議と言っても、それぞれ議題を決めて、分かれて行われている。そうでもしなければ、話し合うことが多すぎるのだ。
菊之丞氏はこの島の政治的な関係について? ま、難しいところは分からないけど。
ちなみに八神部隊長はさらにその上、超政治的な極秘会議に出席しているのだとか。妹達関連の話を出すならそれも当然か。
それでだ。会議に出席しない聖天子様と、それこそパーティのために護衛として雇われた俺達は、超暇になったわけだ。
夏の大部分を占めていた予定がなくなったわけだからな。とりあえず今のところは、状況を見てパーティーが再開されるかもしれないからな。
「「「「……」」」」
みんな揃ってお茶をすする。
「あーもう!」
「さっきからじれったい!」
「マジ引くわー!」
聖天子様お付きの護衛。どこかで見たことあるような3人組だ。
勢いよく扉が開けられ、3人そろって飛び出してきた。
「や。驚かすなよ。敵かと思っちゃったじゃん」
「何もすることが無いってんなら……」
「街にでも遊びに行きゃあいいでしょうが!」
「マジ引くわー!」
「「「「え?」」」」
――――――――――――――――――――
「あっつー……」
そんなこんなで、俺たちは街へ繰り出していた。
危険だからパーティが中止になったんだ。絶対許可下りないだろ、と思ったが、
「まーまー、聖天子様のリフレッシュだと思って。ずっと働き詰めで学校にもまともに行けてないんだよ? ひと夏の思い出くらい作っても罰当たんないっしょ?」
「でも、何かあるのは絶対勘弁ね? まああんたは、前回の暗殺者騒ぎで結果残してるから大丈夫だと思うけど……何かあったらその時は」
「マジ、引くわ」
こんな感じでゴリ押しされた。
別に外出禁止命令が出ているわけではないのだから、咎められることは無い……訳ないよなぁ?
予定では今日1日中、聖天子様はこの部屋にいることになっている。扉の前にいた3人はいなくなるのを黙っているだけ。つまりは傷一つつけず、1日楽しませて来いという訳だ。
許可は下りてないよ。
あれよあれよという間に白いワンピースに着替えさせられた聖天子様と、町に送り出されてしまった。
来てしまったものは仕方ない。気合を入れてやるだけだ。
の、だが。
「……なんか、護衛対象が増えている気がするんだが?」
「そうでございますね……」
「どうしてこんなことになってるんでしょうか……」
真面目な雪菜、コッコロが既に疲れた声を出している。もちろん俺も同じ気持ちだ。
近場の出店にそれはもう目立つ送迎車がいくつも停まっていた。それだけで少し騒ぎになってしまっている。なっっっがいリムジン。俺たちはその内の1台に乗ってきた。
リムジンは広いからな。俺、聖天子様、雪菜、コッコロの4人が乗ってもまだ余裕があるし、1人1台あてがわれるほど俺たちは好待遇じゃない。
「おおー!! どこかしこからもおいしそうな匂いが……! やばいですね☆」
「この時期は学生の出店と企業の試食のテントがあちこちに立ちますからね。このエリアは食品がメインですね」
パーティでのドレスとはうって変わり、動きやすい服装をした2人のお姫様。
ラ・フォリアとユースティアナだ。
ラ・フォリアは、アニメはほとんどこの服装で過ごしている、と言える制服のような恰好。
ペコリーヌの方と言えば、こちらは原作ゲームの絆ストーリー、『夢みたいなもの』な世界で拝むことが出来る現実世界の服装だ。
どちらも大きく印象は変わっているが、それでも人目を引くのは変わらない。それが、あの方々が誰なのかを知っているからか、ただ単に可愛い少女がいるからなのかは知らないけど。
この2人、聖天子様からの連絡を受けて、ここに先回りしていたらしいのだ。
「まあまあ、良いじゃないですか。結局、ゆっくりお話を聞く約束、なくなってしまいましたから。しっかり責任を取ってもらいませんと」
「そうですそうです! どうせなら、楽しまなきゃ損ですからね!」
「あっ! ちょ、ちょっと……!」
笑顔で告げる2人は、聖天子を引っ張って出店へと向かっていく。
「……俺の責任じゃないんだけどね」
ぼやく俺だったが、ここまで来ていまさら変えることは出来ない。そしてもう1つ言えば、この場にいるお嬢様はこれで全員ではない。
「あまり人込みは好きではないが、ここまで活気がいいと私でも気持ちよく感じるな」
「……」
あまりにも自然と横にいるライネス。一番問題なのはお前だろ。お前にゃ誰も連絡してないはずだぞ。
「ライネスさんは、いったいどこで聞きつけてきたんですか?」
「刺々しいのは相変わらずだが、これは本当に単なる偶然だよ、姫柊 雪菜」
えー?
「……」
「何か言いたそうだな?」
「流石に偶然はありえんだろ……」
「そんなに疑うな。普段から考えすぎてると、『偶然知り合いに会う』ことすら、誰かの作為に思えてしまうのか?」
「「思える(ます)」」
それ以外にないだろ。
「職業病だな。兄上のようにならない内に、治療をお勧めするよ……それはそれとして、今日はお前達もそこまで力を入れなくてもいいだろう? 周りにはたくさん人がいるようだからな」
「……」
ま、どこかしこから視線を感じるのは気のせいじゃないんだろうな。見えないところから護衛してるってことか。
「だからって手は抜かないけどな」
「真面目なことだな」
「何かあってからじゃ遅いし……そもそも、お前だってその中に入ってるけどな」
「……うん? なんだって?」
や、だから。
「護衛云々言ってたの忘れたのかよ。何かあっても俺がどうにかするってことだよ」
「……そこは『俺たちが』ですよね、先輩?」
雪菜が訂正してくる。そのやり取りを見ていたライネスはこらえきれないとばかりに吹き出した。
「あははは! ああ、そうだな。期待しているよ、夜月 翔。今の君は私のナイトでもあるんだからな」
「もちろん、私達もいますからねっ!」
「はい、お任せください、ライネス様」
「ああ。もちろん頼りにしているさ。若干一名、違う感情を持っているようだが」
「じゃあそろそろ動こう。あんまり離れるのは良くないからな」
視線を向けると、王女様達がどんどん前進している。人込みに紛れてもしっかりと分かる輝きがあるが、あまり離れるのは良くないな。
立ち止まって何か買い物してるみたいだ。
屋台の定番の1つ、たこ焼きだ。
「すみませーん! このたこ焼き、2パックくださーい!」
「はーい、毎度ありー……ん?」
店番をしている学生が首を傾げている。
「どうしたんですか?」
「お客さん……どこかで会ったとこありません? というか、テレビに出てたりとか……」
「いえいえ! そんなことないですよ?」
「えー、そうですか? や、ホントに……うーん?」
有名人だってことがバレかけてるんだけど。
いくら悪いことじゃなくても、騒ぎになってしまうのは勘弁だ。
「流石にもう少し自重してくれ……!」
「下手に顔を隠しても、それはそれで怪しまれるからな」
「それは詰んでるな……! お出かけ自体無理だろ!」
俺たちは急いでフォローに入るのだった。
―――――――――――――――――――――
一段落ついた俺たちは、何とか店の中に入っていた。パーテーションで仕切られている、さらにその隅、俺たちの体で隠し、何とか一息ついていた。
ちなみに、流石にお店の中に持ち込みは出来ないので、買った2パックのたこ焼きはみんなで処理した。
そう、みんなでお互いに食べさせ合って……え、もしかして回想シーンが欲しい?
――――――――――――――――――――
「とりあえず、1回落ち着こう。これじゃあ、何かするどころの話じゃない」
俺の提案に、反対する人はいない。
一度目立ってしまえば、俺たちがいかに異常な集団か、周りに広がっていくのはそんなに遅くは無かった。
1人くらいなら『似ている人』でごまかせるかもしれないが、その『似ている人』が何人もいるとなっては、もうその言い訳は通じない。
動けなくなる前に、脱出してきたのだ。
「そうですね。流石に人が多すぎると、満足に身動きも取れないですし。色々とお話したいこともありますからね。良さそうなお店を予約させますね」
こういう時のラ・フォリアの行動は早い。端末を取り出して、どこかに連絡している。
「うーん……私もそのほうがいいと思いますけど、このたこ焼きはどうしましょうか?」
ユースティアナの手には、先ほどの出店で買ったたこ焼きの袋が。出来立てらしく、上にかけられたかつお節が躍っている。
「お店には持って入れないからなぁ。ここで食べちゃうか、それとも捨てちゃうか―――」
「じゃあ食べちゃいますね!」
一拍の遅れも無く、ユースティアナが断言する。
「皆さんも食べちゃって下さい! 私1人だと食べきれないかもしれないので!」
「や、王女殿下だったら余裕でしょ。たこ焼きの1ダースや2ダース」
「ええ? そんなことないですよ?」
「先輩! 失礼ですよ!」
間違った。ゲームのノリで言ってしまった。向こうだったら、このくらい余裕だろうからな。でも今はお腹が減る要因が無い。例のアイテムも今は持っていないみたいだしね。
女性にそんな、大食いだねっ! なんていうのは失礼だな。まして相手は王女様なんだから。
「全然気にしていませんよ。それより、ほら、どうぞ! 熱いうちに食べちゃいましょう!」
「それじゃあお言葉に甘えて」
差し出されたたこ焼きを口の中に入れる。もちろん、竹串に刺さったたこ焼きを差し出されてそのまま『あーん』された―――訳ではなく、たこ焼きの入ったパックを差し出されたのだ。
もちろん自分で食べましたとも。
むむむ、カリカリ系じゃなくてとろとろ系のたこ焼きだったか。学生の文化祭にしては十分すぎるおいしさ。
「ではわたくし達も」
「そうですね。お言葉に甘えましょうか」
「ん。熱いから気をつけろよ」
雪菜とコッコロも、前に出てくる。それぞれ1つずつ口に運ぶ。
「考えてみれば、これってお姫様に奢られてるんだよな」
「むぐっ、へ、変なこと言わないで下さいよ!」
「あはは、そんなこと全然気にしなくていいんですよ! 今日一日はそんなつまらないことなんて忘れて楽しんじゃいましょうね!」
「恐れ多いお言葉ですが、とても光栄でございます」
俺は今さら気にしないけど、雪菜はそうじゃなかったらしい。意外にも、コッコロもそんなに気にしてないな。森育ちは強かったのか。
そんな会話を繰り広げていると、ライネスがたこ焼きを前に躊躇しているのが見えた。
「タコヤキ、か……」
「どうした、ライネス。食べないのか? オクトパスは苦手なのか?」
割と知らない食べ物は苦手なのかもしれない。まあタコだしな。デビルフィッシュだしな。
「いや、食べるさ。食べるとも。せっかくなんだ。最近ではイギリスでも良く店に並べられているからな。変態の国、日本のせいで」
「人の母国を変態の国なんて言うんじゃねーよ」
「ふん、馬や戦艦を女の子として擬人化している国が何をほざいている」
それは……そうだな。
差し出された小さい手に、竹串を渡す。
「よし……」
意を決したように頷き、竹串を刺した。
そのまま持ち上げようとして―――
べちゃ!
5センチほど持ち上げたところで、生地が破れてパックに落ちてしまった。
「……」
「もう1回やってみたら?」
「うむ……」
もう一度チャレンジするが、
「……とれんぞ」
「うぅーん……」
もはや球体ではなくもんじゃ焼きみたいになってるな。
「ま、まあ! まだ残ってるわけだし! ほら、そっちの奴にチャレンジしような!」
「何かコツは無いのか?」
「コ、コツ?」
そんなこと言われても。
「中にあるタコを刺せばいいんじゃないか?」
「透視の魔術は使えないぞ」
「はいはい、わかったよ……」
俺は竹串を受け取り、たこ焼きに刺す。
持ち上げて、もう片方の手を下に。落ちないようにそっと―――
「先輩?」
「はい」
「私がやりますね?」
「あ、はい」
言われるがままに雪菜に竹串を渡す。
「ずいぶんと敏感だな、雪菜」
「アハハ、何を言っているのかわかりませんね?」
みんなで仲良く食べました。
――――――――――――――――――――
という感じだった。
みんなで熱々のたこ焼きを頬張り、仲良く口の中を火傷した。そう、仲良くな。
「ふふふ、危なかったですね」
「あと少しで、身動き取れなくなるところでした」
「分かってるならもっと考えて行動してくれ……」
ラ・フォリアは分かってて迂闊な行動してるし、ユースティアナは騒ぎになる事の重大さをわかってないみたいだ。
「まあまあ、今はこうしてゆっくりできてるんだ。いいじゃないか」
そしてライネスは、こうしてくつくつと笑っているだけ。色々と面白い事がたくさんなんだろう。
「それじゃあ、ゆっくりと聞かせてもらいましょうか」
「何をですか?」
「パーティでも言ったじゃないですか。聖天子とあなたとの関係ですよ。」
ラ・フォリアはいたずらっ子のように微笑む。
「……関係、ですか。そうですね。私も聞きたいです」
「雪菜さん?」
そんな期待されたような目をされても困る。だって本当に、聖天子様とは何もないんだし……
なんと言ったものかと思案していると、
「あ、あのっ!」
「はい?」
見知らぬ男子学生が声をかけてきた。