「うーん……いきなりとは思いませんでしたね……」
「ああ。当たるカードが悪かったな」
リィンフォースⅡとシグナムは発表されたトーナメント表に眉を寄せていた。
「あ―――、う―――」
滝のような汗をかいてワタワタとしているのはミウラだ。
八神道場の2人も予選を突破していた。明日から始まるということで、トーナメント表が送られてきたのだが、
「ユウキの方は問題ないとしても、ミウラはな」
ユウキの対戦相手は予選の成績から見ても、ユウキの相手にはならないだろう。
だが問題はミウラの方だ。
「ミカヤ・シェベル選手。最高戦績は決勝トーナメント3位。いきなりの超強敵です!」
「ひえ~~~~!!!」
改めて事実を確認すると、ミウラは頭を抱えてしまった。
「あはは、いいなぁ。剣を使う相手なら、ボクが戦いたかったよ」
そんなミウラを見て、ユウキは他人事のように笑っている。だが、強敵と戦えなくて残念に思っているのは本当だった。
いつまでもオロオロしているミウラに渇を入れるのは、ヴォルケンリッター、『鉄槌の騎士』であるヴィータだ。
「確かに強敵だけど、負けるつもりで戦うなんて許さねぇからな。アタシらが教えてんだ。お前だって負けちゃいねぇよ」
「わ、わわわわ分かりました! 頑張ります!」
ミウラは何度も頷いた。
試合まで時間はない。しっかりと休んで臨むだけである。
―――――――――――――――――――――
そして試合当日。翔が聖天子様の護衛(という名の町遊び、プリンセスを添えて)をしている丁度その頃。
ミウラとミカヤの試合が始まろうとしていた。
「う~ん、この上がり性は治らないもんだな……」
「すすすすみません!! おちつななちゃと思っちぇるんですが……っ」
「もはや、何を言っているかもわからんな……」
ヴィータとザフィーラも頭を悩ませていた。
ユウキのセコンドはシグナム1人で、ミウラが2人体制なのはこういう理由があった。
「うわあぁあぁ!?」
メールの受信にすらここまで驚く具合だ。
「お前は……」
「え、えと……」
ミウラがディスプレイを操作する。
「ぷっ―――あははは!!」
「おい……」
「今度はどうした、ミウラ」
《ミウラさん、緊張しないで頑張ってください!
チームナカジマも頑張ります!》
そんな文章が、写真付きで送られてきていた。チームナカジマのメンバーとユウキが思い思いのポーズをとっている写真だ。
「ヴィヴィオさんって面白い方ですね! こっちまで元気になります!」
「確かに変わった娘ではあるな」
「ヴィヴィオさんと戦えたら絶対楽しいだろうなぁ……うん、そのためにも頑張りますね!」
「おし、その意気だ! 行ってこい!」
「行ってきます!!」
すっかり緊張の解けた様子で立ち上がり、
「スターセイバー、セット・アップッ!」
BJを纏った。手と足に打撃補強用の装甲があるが、後は全体的にフェイトのように装甲を削ったインナータイプのBJだ。
リングへと続く道を歩いていく。
チームナカジマから応援メールが届いたのはミウラだけではなかった。
ミウラたちがいる控室とは反対の場所にある控室、対戦相手であるミカヤにもメールが届いていた。
《ミカヤさんに教わったこと、全部出して頑張ります!
ミカヤさんも思いっきり楽しんでください!》
そんなメールが、写真付きで送られてきていた。
流石に写真は変なポーズは取っていないが、友達であるノーヴェが教え子たちに囲まれてはにかんでいる様子には、思わず笑ってしまった。
「ふふふ、全く、ナカジマちゃんはかわいい弟子を持ったな」
「あら、私にとっては、あなたも可愛い後輩よ?」
「それは光栄です、姉弟子様」
セコンドである木更に頭を下げた。
「うむ、私も頑張らないとだな」
ミカヤもBJを纏った。腰には刀を2本。服装は和装だが、胸元が大きく開かれ、動きやすいように胸にはサラシが巻かれている。
「まずは初戦突破。それから決勝ブロックまで一直線だ!」
そう宣言し、リングへと向かうのだった。
――――――チャリン、チャリン
――――――――――――――――――――
試合は1ラウンド5分で、最大4ラウンド。
ギブアップかライフ全損、すべてのラウンドを使った場合は判定によって勝敗が決まる。
試合は勿論、非殺傷設定で行われ、受けた攻撃に応じて怪我の痛みが再現される『クラッシュシミュレート』も搭載されている。
「あ~、こっちまで緊張してくるね!」
「ね! ミウラさん緊張が解けてるといいけど」
観客席には午後からの試合であるチームナカジマの面々とユウキ、応援に来ていたなのはとフェイトもいた。
「はやてとシャマル先生は?」
「仕事があるから、それを片付けてからだって」
「そっか、ミウラちゃんの試合、間に合うかな……」
そんなことを話していると、
《皆様お待たせいたしました! 選手の入場です!》
ブロック本戦からは実況付きだ。観客席は有力選手のミカヤが出るとあって満員。試合開始を今か今かと待っていた。
《レッドコーナーからは、インターミドルチャンピオンシップには7回出場。内5回は決勝ブロック出場! 天瞳流抜刀居合師範代、ミカヤ・シェベルッ!!》
大衆の視線にさらされても、ミカヤは全く動じることは無い。
《そしてブルーコーナー。こちらは大会初参加。八神道場の若き新星、ミウラ・リナルディッ!!》
こちらはシャドーボクシングをしつつ進む。一種のルーティンなのか、緊張の色はない。今は試合しか見ていないのだ。
《ルーキー対ベテラン! 抜刀居合vs格闘技! 何もかもが対極的な2人の試合が始まります!!》
割れんばかりの完成が2人を包み込む。
試合開始の直前、一瞬だけ静かになり、
《試合開始ッ!!》
ゴングが鳴らされた。
動いたのは同時だった。
ミカヤは腰を落とし、刀に手をかける。抜刀居合で待ち受ける構えだ。
「(天瞳流抜刀居合―――月輪)」
対するミウラは猪突猛進と言って良いくらいの正面突破だ。
「(自分よりも強い相手の攻撃をずっと避けるなんて無理だ! 防御を固めて、先に当てていかないと……!)」
「バカバカ! 止まれバカッ!」
「突っ込むな! 止まれッ!!」
ヴィータとザフィーラが必死で呼びかけるが、ミウラは止まらない。
観客が気が付いた瞬間には、刀が抜かれ、ミウラは切られた衝撃で宙に浮いていた。
「おお―――っ!!」
浮いた体を、返す刀でもう一度切り落とす。
「(水月・二連―――)」
刀を収めると同時に、ミウラの体がリングの外に墜落した。
あまりにも一瞬の出来事に、会場全体が静まり返る。
《ぁ、と! り、リングアウト・ダウン! カウント10ッ!!。ミカヤ選手はニュートラルコーナーへ!》
たった今到着した
「ああーーー!! ぐずぐずしてるから終わっちまったじゃん!!」
「ん……? や、多分……」
ハリーは騒ぎ出すが、エレミアは今の攻防を見切っていた。
カウントは進んでいくが、『4』でミウラは起き上がった。
「あれ……?」
「やっぱり、あの娘、ミカさんの斬撃をそれなりに防いでたんよ」
クラッシュシミュレートも発生していない。胴体が寸断されるほどの斬撃を、しっかりと受け止めていたのだ。
その様子に、ノーヴェも一安心していた。
「何とか首の皮一枚繋がったって所だな……でもラウンドの残り時間はまだまだ4分半はある。ここからやれるのか……?」
「そうだね。立ち上がっても心が折れてるかもしれないし」
「そうだよね一撃でライフの9割……それこそ、ここから一撃も当たらないってくらいで戦わないと」
なのはとフェイトの2人もコメントする。
「やるよ」
ユウキは迷いなく言った。
「ずっと一緒に練習してきたからわかる。ミウラが『抜けば』、まだまだ戦える」
ミウラがまだまだ戦うつもりだということは、対面するミカヤも分かっていた。
「(残りのライフから考えても、『撫でて落とす』というには少々多いな。やはりここは、受けに回ってカウンターを狙うべきか。問題は、今の攻防を経て、どうしてあの娘の目が全く死んでいないのか、だが……)」
「ごめんね、スターセイバー。ちょっと無理するけど付き合って!」
「(向こうはやる気だ。考えていても仕方がない。この1年、格闘戦技への対策ばかりしていたんだ、それもこれも、すべてあの娘に勝つため……)」
ミカヤの頭にあるのは、去年の敗戦だ。ジークリンデ・エミリアに手も足も出せずに負け、エミリアはその後の試合を辞退した。
あの試合以降、避けられてしまっているのか、まともに顔を合わせてもくれない。大会に出てすらくれないと考えていたが、そこまでではなかった。
「(雪辱を晴らすためにも、こんなところでは負けられない!!)」
そしてミウラも、昔のことを思い出していた。
「(僕は本当に不器用で、口下手でおっちょこちょいで、何をやってもダメな娘だったけど)」
本当に特徴の無い平凡な女の子だった昔のミウラ。自分に自信を持てず、いつも下を向いて歩いていたあの頃を。
「(あの日師匠たちに差し出してもらった手が、ボクの始まりで、ここにいる理由!)」
シグナムやヴィータ、ザフィーラの指導で、どんどん格闘技にのめりこんでいった日々を思い出す。
「(だから怖くなんてない! いつだって全力の自分をぶつけるだけだ!!)」
一瞬で踏み込んだミウラの蹴りが、刀をへし折りかねない衝撃をミカヤに与える。
「(なんだ、今の蹴りは!?)」
ミカヤが受けるだけで精一杯だった。
腕の痺れを気にした時には、すでに元の場所に戻っている。
「(あの間合いを一瞬で詰める速度に、この威力は……!)」
真っすぐ突進しているはずなのに、初撃の様に迎撃することが出来ない。
瞬きをした瞬間には、懐に入られていた。
「ハンマーシュラークッ!!」
ミカヤの鳩尾に拳がめり込む。
「~~~っ!!(ご丁寧に拳まで重いッ!!)」
脇差を抜いて二刀流で迎撃するが、苦し紛れの攻撃は懐までもぐりこんだ純格闘選手には当たらない。
もう一発、拳が鳩尾にめり込んだ。
「が、は……っ!」
最初の一撃を見た観客達は、このまますぐに試合が終わると思っていた。だが蓋を開けてみれば、最初の一撃以降、ミカヤが攻撃に転じることが無い。
「ミカ姉、一気に動きが鈍くなったな」
「速度優先で防御はあんまりだから。密着されるとせっかくの抜刀術も使えへんし」
何とか距離を取ったミカヤは息を整えていた。
ラウンドの残り時間は1分。
「はぁ、はぁ……(この子の戦術は凡そ理解した! 俊足の蹴りと密着した時の爆弾の様な拳! 本当に純粋な強襲型だ。まっすぐで手ごわいぞ!)」
「はぁ、はぁ……ラスト1分、行こうスターセイバー!」
ミウラの足元に魔法陣が現れる。
「
脚部の装甲が展開し、内部の装甲が露出する。同時に、リングに変化が現れる。
「(なんだ、何が起きている!? 足に魔力が収束している、とんでもない圧縮率だぞ!? 空間の残存魔力すら集まって……!)」
その光景、フェイトには見覚えがあった。
「なのは、アレって……!」
「うん。
なのはの代名詞とも言える砲撃、その中でも最強技である『スターライトブレイカー』。その技が最強と言われる所以は、空間に散布された魔力を再度収束させ、攻撃に使うからだ。
自分の限界を超える攻撃を行うことが出来る。
それと全く同じだ。
周辺魔力を集め、高密度に圧縮し、蹴り技に乗せて放つ。
「そういうことか。一閃必堕の逆転技。それが君の切り札ということか!」
誰でも出来ることではない。適正も関係する。そもそもミウラはまだ12歳だ。少なくとも、
「ふふ、あははは!! だからインターミドルは面白い! 君のような強敵に、思わぬところで出会えるのだから!!」
ミカヤは技の溜めを狙うような無粋なマネはしない。
腰を落とし、刀に手を添えるだけだ。受けて立とうというのだ。
「ありがとうございます。僕の全部、ぶつけさせていただきますッ!」
「心配するな。どんな攻撃でも切り伏せるだけだ……!」
2人の間の緊張は、会場全体に広がっていた。
「ミカ姉、守って逃げるつもりはさらさらねぇな」
「そういう性格やからな、ミカ姉は。いつだって最強最速の一閃で切り伏せるんや」
「……知ってるよ。オレも3年前にそれで秒殺されてるんだから……」
「ぁ、うん……ごめんな」
涙ぐんでいるハリー。実は心が弱い
そうしていると2人の準備が完了した。
先に動くのはミウラだ。
「抜剣・飛燕ッ!!」
「天月・霞ッ!!」
二つの剣がぶつかり合う。
「「はああぁぁぁぁ―――!!」」
威力も速度も互角。
2人は弾かれるようにして距離を取った。
「初めて受けたが凄まじいな、
「……っ!!」
全力の技がぶつかり合った衝撃で、お互いにライフが削れる。
だが危険なのはミウラだ。最初に受けたダメージが大きすぎた。もう1回、同じようにぶつかりあえば、たとえ今のように威力が互角だとしても、ライフ全損によって敗北してしまう。
しかし、ミウラの前進の意志は止まらない。
「(あの日僕は受け取ったんだ。自分の空を飛べる翼を―――!!)」
今の攻防で散った魔力を再度収束。
「自分の道を切り開く、星の剣をッ!!」
ミウラの蹴りが、今度こそ本当に、ミカヤの刀をへし折る。
「一閃必堕ッ!!」
武器をなくしたミカヤに、最後の一撃を繰り出す。
「抜剣・星煌刃ッ!!!」
輝く足から繰り出される蹴り技は、まるで光り輝く剣のようで―――
壁に叩きつけられたミカヤが立ち上がることは無かった。
《試合終了!! なんと! なんとッ!! 大会初参加のルーキーが大金星をあげました!!》
「……お疲れな、ミウラ」
何とか間に合ったはやては、そう呟いた。
ミウラ・リナルディは鮮烈なデビューを飾ったのだった。
――――――チャリン、チャリン
――――――――――――――――――――――――
ユウキだけでなく、チームナカジマの面々、聖王教会のシャンテ、ルーテシアはこれといった苦戦もなく試合に勝つことが出来た。
そしてもう一つ、第1試合ではもう1つ注目の試合があった。去年の上位選手たちの試合だ。
第5組のブロック本戦、勝った方がリオと戦うという、エルス・タスミンとハリー・トライベッカの対戦である。
エルス・タスミンは学校では生徒会長、ハリー・トライベッカはアウトローな姉御肌というのだから、普段から馬の合わない2人だ。
この2人は去年もブロック本戦決勝で対戦した。結果的にハリーが勝利したが、試合は終始エルスが有利に進めていたのだから、2人のライバル意識は凄まじいものだった。
予選会で一悶着起こしていたのはこの2人なので、その意識の高さが伺える。
ハリーの戦法は
なのはのものほど正確ではないが、連射性能と威力は匹敵する。一撃ヒットさせれば、ライフを半分以上吹き飛ばせる必倒の攻撃だ。
対するエルスは手錠型の特殊なバインドを駆使するコントロール、耐久型。
序盤の内は、良くも悪くも去年から変わらない戦法を貫くハリーを、意識して研究してきたエルスがうまく罠にはめ、拘束する展開になる。
だが、自分ごとバインドを砲撃で撃ち抜くという規格外の方法で脱出したハリーが、次第に押し始める。
そこからは射撃、砲撃で攻めに攻めるハリーに対し、守備にまわりながらも隙をつくエルスと去年の試合の再現になり、一進一退の攻防が続くことになる。
互いに負傷しつつも、最後はハリーの拳でエルスのライフがゼロになった。
試合はハリーの勝利で終わり、同時にリオの次の対戦相手も決まった。
――――――チャリン、チャリン