「う、ん……あれ……?」
ワープの光が晴れると、雪菜は自分が横になっていることに気が付いた。背中に感じるこの感触は、硬いカーペット。今、自分が倒れていることがわかる。
上には心地よい人肌の温かさ。上に人が乗っているのだ。
自分のおっぱいが、自分のモノ以上の質量をもったおっぱいに押しつぶされている。目の前には恐れ多くもララの顔。透き通った肌にわずかな痛みもないことが分かるくらい近くにある。
「(ララさん、すごくキレイ―――)」
同性の雪菜でもそう思ってしまうほどの美貌。その体を自分の体全体で感じてしまっている。
「(すごく柔らかいし、温かい―――)」
そして妙にすーすーする。
「って、ええええええっ!?」
ようやく雪菜は、自分が裸になっていることに気が付いた。
そして自分がいる場所も。
「えへへ、成功したねー」
「っ! すみませんっ!」
雪菜は飛び起き、カーテンに飛びついた。
しゃーっ! とカーテンがレールを滑り、小部屋と外界とをシャットアウトする。ここでようやく息をついた。
「うぅ、なんですか、これ……!」
自分を見下ろして、雪菜は真っ赤になる。雪菜はその身に何一つ衣服を身に着けていなかった。制服も、下着すらも。
見下ろした視界に入ってくるのは、ツンと上を向いた2つの膨らみだ。後ろを振り返ると、壁にかかった大きな鏡に、羞恥で赤くなりつつある背中にお尻まで、余すところなく写っていた。
少し目線を下げれば、はしたなく胡坐をかいたララが小首をかしげている。
「ここ……試着室、ですよね」
「しちゃくしつ? この狭い部屋の事? とりあえずさっき言ったお店にはワープしたよ?」
「なっ! ―――……っ、何で裸になってるんですかっ、私達は……っ!」
ララは元々裸だったとしても、雪菜は違う。直前まで着ていたはずなのに。
「え、だって『ぴょんぴょんワープ君改』は、服まではワープ出来ないもん」
「え」
「改造前は本当に緊急脱出用で、場所の指定はできなかったんだけど。前に使った時にママの目の前にワープしちゃって。その欠点は直したんだ~」
「それ以上に重大な欠点が残ってるじゃないですか……!」
そう言って雪菜はハッとした。
「服が無くなっても特に何とも思っていない人だから、この欠点に気が付いていない……!?」
「どーしたの、雪菜? 早く外に出ようよ」
「ダ メ で す っ」
カーテンを開けようとするララを押しとどめる雪菜。
外からはたくさんの人の声が聞こえ、賑わっているのが分かる。カーテンの隙間から見ると、すぐ目の前を親子連れが通り過ぎた。
こんなところに全裸で飛び出せるわけがない。
「あーもう、先輩……っ! 早く来てくださいっ」
雪菜には祈ることしかできなかった。
――――――――――――――――――――
「あっちゃぁー……」
俺の忠告空しく、2人はこの場から消え去ってしまった。
「え、どうして……?」
「主様、これはどういう事でしょうか……?」
残されたのは雪菜の衣服。ワープの時に発していた光に引きつけられていた周りの人の目も、何も起こらないとあってはだんだんと少なくなっていく。
「うーん……」
どう言ったものか。聖天子様もいるからなぁ。
コッコロだけだったら、包み隠さず言えるんだけど。
ララが使ったアイテムは、衣服が転送できないワープ装置だ。原作から考えるとな。ララの言葉を信じるなら、場所は指定出来るらしいんだけど……それも定かではない。
もしかすると、本当にヤバいところに転送されている可能性もある。
時間が無い。聖天子様が素直なことを考えて、ここは……
「多分あのワープ装置、服までは転送できないんだと思います」
「ええ? それはいくら何でも……」
いやいやと聖天子様が首を振る。
その気持ちは分かる。服を転送できないなんて不良品以外の何物でもない。そんなものを喜々として使おうとするとは。
「しかし、実際にいなくなっているのも事実でございます。早くお二人を見つけなければ」
「ですが、探すアテはあるのですか?」
「今はララ王女の言葉を信じるしかないですよ! このお店に行きましょう!」
「「はいっ!!」」
俺達は立ち上がる。
「あ、っと、雪菜の制服も持って行かないとだな」
脱ぎ捨てられた形になっている制服を持ち上げると、
「ん?」
その中から落ちてきた。
スカートとセーラー服からそれぞれ、淡い水色の。
「おっとっと―――」
「っ!!」
その時、聖天子様の手が、俺も目にも追えないほどのスピードで動いた。床に落ちてしまったソレを拾い上げ、胸に抱くように隠した。
そして笑顔で、
「雪菜さんの服、私が持っていきますね?」
「や、そんな、聖天子様に―――」
「ね?」
「あっはい」
聖天使様の提案に素直に頷いた俺は、お会計を済ませ、すぐに店を出るのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「ごめんね、雪菜」
「いえ、人の話を聞かないで焦ってしまったのは私ですから……」
地面に体育座り、体を抱えて局所が見えないように体を縮こませている。その様子を見たララは流石に申し訳ないと思ったのか、しおらしくなっている。
「(それに先輩の話も……あの時、先輩はやめたほうがいいって言ってた。多分、こうなること分かってたんですね。こんな特徴的な人、『そういう事』なんですよね)はぁ……」
不幸中の幸いは、ワープ先が人の目が届かない更衣室だったことだ。
とにかく今はじっとしてることしか出来ない。
「うーん、どうしようか、雪菜?」
「先輩の助けが来るまで待つしかありませんよ。先輩ならすぐに来てくれます」
「そうなの?」
「はい、先輩なら。すぐにここに来てくれるはずです」
こうなることが分かっていたのなら、行動も早いはず。
「ふーん、雪菜は信頼してるんだね。翔の事」
「それは……! ……はい。もちろんです」
言ってて顔が熱くなるのを自覚する雪菜。
「(気がづかれてませんよね? でも、まあ、ララさんなら、からかってくることも……)」
「んー?」
「少しは隠しませんか? そんな風に……」
雪菜と違って立っているララ。女性の魅力にあふれた肉体を惜しみなく晒している。
「いえ、いいです……」
雪菜は言っても無駄だと思い、注意をやめる。
「ってララさん!? その手の!」
「え?」
「そのブレスレット! ワープ装置ですよね!」
自分の体以外何一つワープしていないと思っていた雪菜は、ずっと見落としていた。ララの手首には、あの時使った『ぴょんぴょんワープ君改』があったのだ。
「それを使ってもう1度ワープしましょう! 私の家……もしくはララさんが泊まっているホテルに行けば……!」
さっきもそれを思いつけば、こんなことにはならなかったのだが。あの時は新しい服を買うという事しか頭になかった。
だがこれで万事解決―――
「えー? 無理だよ?」
雪菜の中に生まれた希望は、あっさりと崩れ去る。
「ぴょんぴょんワープ君改は、1回使うと充電に1日かかるから」
「そう、ですか……」
空気が抜けて萎んでしまった風船のように、雪菜の体から力が抜ける。
「それでさっきの話に戻るけど」
「はい?」
「雪菜って翔のこと好きなの?」
「すっ! な、何でそんなこと……!」
突然すぎる質問に、思わず大声を上げそうになる雪菜。
「さっき、最近ずっとお見合いしてるって言ったでしょ? でも、将来の相手は自分で選びたいの!」
「それは、そうだと思います」
「でも、どうやって選べばいいのかなぁ、って。やっぱり結婚するんだったら、好きな人としたほうがいいよね?」
「はぁ」
「でも私、全然そういうのって分からなくって。好きってどういうことなのかな? 雪菜は分かる? 翔の事好き?」
「っ!」
ここまで直球に聞かれるなんて思っていなかった雪菜は、赤面して口ごもる。
「それはっ……先輩のことは、信頼してます。何かあったら、助けに来てくれるって思ってます」
「うんうん。それで?」
「それで?」
「好きなの?」
どうしてもその一言が欲しいらしいララは、最後まで許してくれないらしい。膝に顔をうずめた雪菜は、か細い声で答えた。
「っ、ぁ、その…………はい」
「わー!! 本当!? ねえねえ! それってどんな感じなの?」
「あ、あの! もう許して―――」
様々なことを聞いてくる。出会いから、一緒に何をしているのか、今一緒に住んでいることなども。
その時だった。
「すみません、お客様?」
「っ!!」
「あれ?」
カーテンの外から聞こえてきた声に、雪菜の心臓は大きく跳ねる。ララは例によって、首を傾げているだけだ。
「は、はいっ! なんでしょうか?」
セリフから見て店員。黙っていては怪しまれると考えた雪菜は、とっさに返事をする。ララには喋らないでいるように人差し指を立てて動かす口の前に当てている。
「ご試着中に申し訳ありません。ですが、ずいぶんと長い時間ご試着されているようなので……」
「も、申し訳ありませんっ! 持ち込んだ服がたくさんあって!」
「本当は何も着てないけどね」
「ララさんっ!」
雪菜は小声で注意する。
「とにかく問題は無いので! もうしばらく試着させていただければ!」
「そう、ですか? ですが外に靴がありませんが……」
「靴?」
雪菜はつられて自分の足を見る。
相変わらず何も身に着けていない。それは当然、靴も靴下もだ。ここに来た時から身に着けていなかった。
試着室に入る時に靴を脱ぐのは当然。外に無ければおかしい。
「どう、して、でしょうね? アハハ、もしかして盗まれちゃったのかも?」
「……お客様? よろしければ、一度カーテンを開けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、い、や、ちょっと今は服を着ていなくて……!」
「今度はホントのことだね」
不審に思ったのか、店員の声が少し厳しくなる。
もはやララの言葉にツッコミを入れる余裕すらない。焦りから体が熱くなり、全身に汗をかき始める。
「なので今開けられるのはちょっと……!」
「はい。2分ほどお待ちしますので、次にお声がけした時に開けさせて頂きますね」
「あ、あの……!」
「後ほど、お話はお聞きしますので」
完全に何かあると思われてしまっている。もしかすると、もう人を呼ばれてしまっているのかもしれない。
「ど、どうすれば……!」
どうするも何も、もう店員に事情を説明して、服を貰うしかない。
お金も持っていないが、この緊急時ならしょうがない。
「聖天子様とララさんには迷惑をかけてしまいますが」
「全然大丈夫だよ」
「うぅ、私にとっては、一生の恥です……!」
雪菜が悲壮な覚悟を決めたところで、店員からお呼びがかかる。
「お客様、よろしいですか? 開けますよ?」
「あのっ、開ける前に話を聞いて下さい!」
カーテンから顔だけを出して店員に呼びかける雪菜。幸い女性店員だ。幾分か事情は説明しやすい。
「……わ、わかりました」
その剣幕に店員は頷く。
一呼吸置き、今の状況を説明しようと―――
「実は―――」
「雪菜さん!」
「雪菜様!」
ギリギリのところで、聖天子とコッコロが駆け込んでくる。
「コッコロちゃん! 聖天―――」
名前を呼ぼうとして口を閉じる。この人だかりで不用意に聖天子の名前を出すわけにはいかない。
「申し訳ありません。お騒がせしてしまったようで」
「は、はぁ……お連れ様ですか?」
「はい。雪菜様、こちらをどうぞ」
「あっ! ありがとうございます!」
制服を手渡された雪菜は試着室に引っ込んでいく。
事態についていけない店員は、ずっとハテナマークを浮かべている。
「ここはもう大丈夫ですので。あなたはお戻り下さい。すぐに開けますから」
「その分、しっかりとお買物させていただきますので」
2人の説得に、店員も折れた。
「……分かりました。それでは」
こうしてララと雪菜は、事なきを得たのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「ここですね!」
「はい!」
「ですがどこに……」
お店に到着した俺達は、その入り口で中の様子を窺っていた。
「お二人とも服を着ていませんし、もうどこかに行ってしまったのではありませんか?」
「いや……」
聖天子様の言葉に首を振る。
「特に情報は入ってないので」
武偵のネットワークには、そんな情報を入っていない。
「とすると?」
「場所が少しずれてるか、人に見つからない場所に隠れているか……」
「このお店で人に見つからない場所は……更衣室ですね!」
「コッコロと2人で見に行ってもらってもいいですか? 俺はここで全体を見てるんで」
「分かりました!」
ヤル気たっぷりの聖天子様とコッコロに任せ、俺はお店の前で2人の背中を見ていることにした。
本音を言えば、下手に裸の美少女2人が入っている更衣室に近づけば、『Toloveる』が起きると思ったからだ。
特に騒ぎは起きてないみたいだし、無用な混乱は避けたい。
「(レプリカ先生。何かあったらよろしく)」
「(任せたまえ)」
もしもの時を考えて、2人にはミニレプリカをつけている。
ここにいるのかは少しドキドキするけど、多分大丈夫だろうという勘がある。
初日以来だな、こんなに忙しいのは。
「ふぅ……」
「ずいぶんと大変だな。この世界の仮面ライダーは」
全身の産毛が総毛立った。
あの時とは違い、黒いジャケットを着た青年。俺がTVで見ていた時と比べて年をとっているように見える。そして首からぶら下げているトイカメラが妙に似合っている。
「門矢、士……!」
「なんだ。俺の名前を知ってるのか? 俺も有名になったもんだ」
俺は生唾を飲み込む。
「何の用だ」
「俺のことを知ってるってことは、どういう要件なのかも分かるんじゃないか?」
「最近出てるヤミーについてか?」
「話が早くて助かるよ」
満足そうに笑う士。
「アイツらは何だ? 何が原因なんだ?」
「その前に、俺から質問させてもらおうか。お前、一体何なんだ?」
「何なんだ、だと?」
「前に見た時はエグゼイドに変身していたが、あれはお前の本当の姿じゃないだろう? いや、そもそもで言うなら、ここは『仮面ライダーのいない世界』だ。」
「そんなことまでわかるんだな」
「旅をしていればな。ニオイで大体分かる」
やっぱりこの士は、本編の後、旅を続けた姿なのかもしれない。
「それなのに、仮面ライダーに変身した奴がいる。お前だ」
「詳しく話そうとすると色々と面倒だけど、こういうベルトも持ってるぜ」
俺はジクウドライバーを見せつける。それを見た士は目を細める。
「お前、名前は?」
「夜月 翔だ」
「ソウゴじゃないのか」
「誰だよ、それは」
「いや、忘れてくれ」
そう言うと士は考え込む。
「……、……、……、なるほどな。大体わかった」
「分かったのか?」
「大体は、な。だが、大本の犯人は分からない。それに、俺が知っているモノに比べると、パワーの大きさが全く違う。ここからどうなるのか、俺にも想像出来ないな」
「事態の収拾のために、協力してくれるのか?」
ここで門矢士の協力を得られるのなら心強いが。
「俺をお前の女に紹介するっていうなら、遠慮させてもらう。お互い仮面ライダーだっていうなら、戦うときに協力すれば事足りることだ」
必要以上に群れるつもりは無いってことか。それも士っぽいな。
「お前の連れが戻ってくるな……じゃあな、また会おう」
言いたいことだけ言った士は、手を振ってその場を去っていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「何っ!? どういうことだ、貴様達!」
顔に痣を作った部下を怒鳴りつけるのは、長身の男性だ。
家出したララを連れ戻すのに失敗した。それどころか、見知らぬ人物に連れていかれてしまった。そんな報告を聞けば、怒鳴り声の1つや2つ、あげたくなるというものだ。
「そ、それが! これを見てください!」
「ん? ……これは!」
部下が渡したタブレットには、雪菜によってぼこぼこにされる直前の映像が映し出されていた。
「中々の使い手だが、この後ろにいる女性……日本の聖天子か? 何故だ。何故、そんなことを……」
「隊長、どうしますか!」
「居場所は掴んでいます! すぐにでも!」
「ああ。これ以上時間はかけられん。私も出よう。ララ様のわがままも、これで終わりにして頂かなくては」
理由を聞きたいのなら、直接出向けばいい。
デビルーク王室親衛隊隊長『ザスティン』は、マントを翻して家出王女のもとへ向かうのだった。