ここはアルディギア王国が借りているホテル。
「それでは、私はもう休む」
「はい、おやすみなさい」
ラ・フォリアの父であるルーカス・リハヴァインは、そう言い残して自分の部屋に帰っていった。残されたのは王室の女性陣。ラ・フォリアと母のポリフォニアだけだ。
アルディギア王国の第一王女であるラ・フォリアは、会議にこそ出席していないが、次のアルディギアの王座に座ることが確定している。
『もしも』のことがあった場合を備えて、会議の内容を聞かされていたのだ。
その時の態度は真剣そのもの。
翔がこれまでに会った王女様の中で、一番翔をからかってくるラ・フォリアだったが、一番王族としての責任感を持っていた。
「今年も上は大変の様ですね……」
「今年は特にねぇ。島でも大変なことがあったみたいだから」
聞かされた内容を思い出しつつラ・フォリアは口を開くと、ポリフォニアは穏やかな声で頷いた。
1日目から流れてしまった妹達の件について。管理局の内部にいるかもしれない裏切り者について。その裏切り者と一部の科学者が、違法な研究に手を染めているかもしれないことについて。
この島の裏側ではびこり始めている新種の能力、『スタンド』について。
そしてそれに大きく関わっている可能性のある人物について。
「調べましたけど、聖天子の件、護衛の1人の暴走だったみたいです。スタンド使いの」
「あら……」
ポリフォニアは口元を押さえる。
「そんな相手から聖天子を守ってくれたのだから、翔には感謝しないといけないですね」
「翔さんというと、ラ・フォリアがお話した?」
「はい。今回のためにわざわざもう1回雇ったんですって。この暗殺事件で、護衛を新しくしたっていうのに。お母様、どう思います?」
「そうねぇ、聖天子さんは真面目だから。全然そういう話を聞かないものね」
しかしだからこそ、あの聖天子が同年代の男の子を指名して護衛に付けたのは衝撃的だった。
「自分にも、そのくらいの自由が欲しかった?」
「正直、少しうらやましかったわ」
「そう……それで、今日はどうだったの?」
「特に進展はありませんでしたよ」
『どう』、『進展』とはラ・フォリアの将来のパートナー、結婚相手のことだ。
パーティが無くなっても、活動が無くなるわけではない。もっとも、おしとやかな姫君を想像していた相手にとって、ラ・フォリアは刺激が強すぎたが。
「あの人も、心配してるから」
「それも分かっています」
父親が親心から、多くの選択肢を用意してくれているのだということも、聡いラ・フォリアには理解出来ていた。
そして母親も、自分のように本当に好きな人と一緒になりたいのなら、今からでも行動しないといけないことも。
「ままならないものね……」
ラ・フォリアはそう呟くのだった。
―――――――――――――――――――――――――
ここはランドソル王国が借りているホテル。
ラ・フォリアのように将来に関して言われることも無く、会議についてもあまり聞かされていないユースティアナは、自分のベッドでごろごろと転がっていた。
「はぁ~、今日もたくさん食べ歩きしちゃいました☆ 明日は何処に行きましょうか……」
今日も今日とて、ユースティアナは食べ歩きを楽しんだ。学生が出している出店だけではなく、ここが稼ぎ時と数を増やしているキッチンカー。1週間全てを使っても、全て回り切れるものではなかった。
パーティが無くなった今、その行動を咎める者は1人もいない。
その時、ドアがノックされた。
「姫様、もうお休みですか?」
「あっ、真那さん! こんばんはっ! どうしましたか?」
千里 真那。ユースティアナの傍付きであり、護衛でもある女性だ。姫の護衛を任されるだけあり、魔導士としての実力も超一流である。
「姫様の明日の予定をお聞きしておこうと思いまして。明日も出かけるのでしょう?」
「そうなんですか? えへへ、実はまだ迷ってるんです」
食べ歩きツアーにも文句なく付き合ってくれる真那のことを、ユースティアナは深く信頼していた。
「今日はこのブロックを攻めたので、明日は……ココかココのどっちかにしようと思ってるんですけど……」
ユースティアナは明日の予定に胸を躍らせるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
ここはデビルーク王国が借りているホテル。
その王女である3人の女の子達の部屋だ。
ララはザスティンに連れられてこのホテルに戻った後、心配そうな顔をした双子の妹に迎えられた。
もっとも、その心配そうな表情は、ララの話を聞いているうちに全く別のものへと変わっていくのだが。
「ずるいなぁ、姉上は。こっそり抜け出してそんなことしてたなんてさー」
双子の1人、背中の中ほどの長さの髪をツインテールにした少女、ナナ・アスタ・デビルークは、話の途中からベッドに寝そべっていた。
まだまだ発育途中の幼い身体と、チャームポイントの八重歯が特徴の女の子である。
護衛からの話を聞いて、てっきりララが誘拐されたと思い込んでいたため、考えと内容との落差が大きく集中を保つことが出来なかったのだ。
「ナナ、お姉様は私達と違っていつもお忙しいのよ? 少しくらい羽を伸ばそうと思っても、仕方がないでしょ?」
「はいはい……はー、まーたいつものぶりっ子かよ……」
そんなナナを窘めるのは、しっかりと最後まで椅子に座って話を聞き続けた双子の片割れ、モモ・ベリア・デビルークだ。
まだまだ幼さが残るナナとは対照的に、ともすれば姉のララよりも落ち着いた様子の少女だ。
しかしそれは姉に認められたいという気持ちからくる1つの仮面。年頃の少女が持つ、大人に見られたいという気持ちがそうさせるキャラクターである。
そんなモモは、ショートボブの少しクセっ毛になっている毛先を指で弄っていた。
そして笑顔で一言。
「何か言った?」
「べーつにぃー?」
本当は腹黒く容赦のない性格であることを知っているのは、王室護衛と家族だけだ。
「もー、2人共ケンカしないの」
モモの追及に知らん顔で顔を反らせるナナ。そんな様子も、ララにとってはいつもの日常だ。
天真爛漫なララと元気一杯なナナ、そして腹黒なモモ。この3人がデビルーク王室のお姫様達である。
一通りの説明をし終わると、ドアがノックされた。入ってきたのはザスティンだ。あの時の戦いの傷はすっかり癒えていた。
「ララ様。今日の件について、王と王妃が少しお話があると」
「は~い……それじゃあ、行ってくるね」
ララは軽く手を振って部屋を出て行った。
残されたナナとモモ。
結局は、誘拐でも何でもなく、単なる勘違いだということが分かった。黒服と揉み合いになっているララと、聖天子の護衛が勘違い、ただそれだけの内容だ。
あとはザスティンが迎えに行くまで、楽しくお茶をしていただけ。
しかし、唯一気になる話があった。
「姉上本気かな?」
「本気? ……ああ、結婚するって話?」
「そーだよ! モモは気になんないのか!?」
「そりゃあ、気になるけど」
でも、とモモは続ける。
「今までずっと、お見合いすら拒否してたのに、今日会った人と結婚するなんて本気で言うと思う?」
「そうだけどさ……」
お姉ちゃん子の2人にとってララに伴侶ができるというのは、心穏やかではいられない出来事だった。
今まで何度もお見合いがあっても慌てなかったのは、ララ本人が絶対に結婚しないと宣言していたから。しかし今回は自分から結婚すると言ったのだ。
だがモモには、大方の予想がついていた。ララが一種の隠れ蓑として、その男を利用しようと考えていたことは。
「でも、どんな人なのかは気になるわね。その男の人」
「な! もしものコトがあるもんな! もし会ったら、姉上にふさわしい奴なのか試してやらないとな!」
「別にそこまで大ごとに捉えなくてもいいと思うけどね。ここを離れたら二度と会うことは無いんだし」
どこの馬の骨ともわからない奴への考えが一致したところで話題が変わる。
「なあ、モモ。私達も明日出かけよーぜ!」
「うーん? でも私、あまり行きたいところが……それにこっそり行くと、ザスティンさんに叱られるわよ」
ララが脱走した昨日の今日で、今度は妹達が脱走など、優等生のモモにはあまり受け入れることの出来ない提案だ。
「だってザスティンに言ったらダメって言うか、ついてくるじゃんか」
「それはしょうがないでしょ」
「でも鬱陶しいだろ?」
「……ナナ。あなたね……」
モモは特に否定することなく、ナナの名前を呼ぶ。
ナナとモモは今年で14歳。お年頃の年齢だ。そういった監視の目が一番イヤになる時期だ。
ナナはもちろんのこと、真面目ぶっているモモですらそう思っているのだ。
「別に嫌ならいいけど? そん時は私1人で行くから。実はずっと行ってみたかった場所があるんだよな~」
「……わかったわ。わかりました。あなた1人で行かせる方が不安だもの。明日はついていくわ」
「よしっ! じゃあ明日は―――」
こうして、ナナとモモの2人は明日の予定を立てるのだった。
――――――――――――――――――――――――
ここはウェイバー達が住んでいるマンション。時計塔の支部を作るにあたって買ったものだ。時計塔でも大きな派閥になっているエルメロイ家の資金力もあり、ウェイバーとグレイで住むには少々大きすぎるくらいだ。
「ふぅぅぅぅー……」
たった今会議から帰宅した2人。着替えることもなくソファーに体を沈めたウェイバーは大きく息を吐いた。
「お疲れ様です、師匠」
「ああ、お前もな」
グレイはソファーに座ることは無いが、フードの奥の顔には疲労の色が見える。
今のところただ座っているだけの会議だったが、ただいるだけでも全く眠くならない。其のくらいの緊張感をずっと味わっている。
「おー、兄上、帰ったのか」
気怠そうな声で出迎えてくれるのはウェイバーの義妹であるライネスだ。奥の部屋からトリムマウを引き連れてくる。
「お前はお前で疲れているようだが。今日は何をしていたんだ?」
「何もしていないよ。何もすることが無いと逆に疲れる」
ウェイバーの対面に腰を下ろし、重いため息を吐いた。
「仕方がないだろう。あんなことがあったんだ」
「全く、10日間パーティがあると聞いてこの島に来たというのに、もう1週間近く部屋に軟禁状態だ。体の方が腐ってしまうよ」
ライネスの目的は懇親パーティ、もとい翔がどのような人間なのかを観察することだった。
その格好の場として考えていたパーティは中止になってしまったのだ。他の予定など考えてもいなかったライネスは暇を持て余していた。
「はぁ……流石にずっと部屋にこもりきりというのもな……いっそのこと会いに行ってみるか。なぁ兄上、アイツの連絡先知っているんだろう?」
「やめておけよ。向こうは仕事をしているんだ。要人の護衛。手を抜ける仕事じゃあない」
「何を言う。私だってこの夏の間守ってもらうと言質を取ったぞ? その手の約束は違えない性格じゃないのか?」
「アイツはまたそんなことを……!」
ニヤニヤと言うライネスに眉間の皺を深くするウェイバー。
「夜月さん……拙はあまりお話しませんでしたが、あの方が師匠の唯一のご友人、なんですよね?」
「や、グレイ。唯一って……」
「違うのか?」
「……そうかもしれないが」
ライネスの問いに、渋々頷いた。
そうかもしれない、ではなく、そうである。
聖杯戦争前は自分の実力を過大評価して周りを見下していたせいで友達ゼロ。
その後はなぜか仲が悪かったはずのケイネスと和解し、それどころか養子に。いつの間にか教室を任されるほど寵愛を受けている。
敵はごろごろいるが、味方と呼べる人物が教室の生徒以外にいるかと言われると……
「まあ、そんな寂しい兄上の唯一の友達だ。妹としてあいさつしておかなければいけないだろう? これからも、末永く付き合って下さいとな」
「余計なお世話だ!」
「でしたら拙も、師匠の従者としてごあいさつしたほうがよろしいでしょうか?」
「グレイ、お前も余計なことを考えるな……!」
ウェイバー的にはあまりアルトリアには会わせたくない。
様々な因縁によって、グレイは騎士王にあまりいい感情を抱いていないのだ。
「(初めて会ったときは驚いたもんだ……)」
あまりにも騎士王に似ている顔で腰を抜かしそうになったのは懐かしい思い出だ。
いつの間にかアルトリアが受肉していて、翔との間に子供を作ったのかと思い、流石に年齢が合わないと思い至るまでグレイの目の前でフリーズしてしまった。
「(うーむ)」
「師匠? どうされましたか?」
「(正直、あの翔にベタ惚れなアルトリアを見れば、騎士王に対する恐怖心は無くなる気もするんだけど……)」
むしろ自分がこんなにも
ウェイバーとしては、グレイのことも翔に相談しようと思っていたのだが、アルトリアが召喚されていたのは想定外だった。
「(そう言えばグレイは10年前―――第四次聖杯戦争の時に、一気に騎士王の顔になったって言ってたな)」
グレイはとある事情でアーサー王に深い縁がある。もともと、その縁はわずかなものだったが、10年前、聖杯戦争の時にその運命は大きく変わってしまう。
顔は騎士王そのものになり、あのキューブ状の礼装『アッド』との会話もできるようになったのだ。
「(今回の召喚は特に影響がなかったのか?)」
いくら考えてもウェイバーには分からないことだった。
今回のアルトリア達の召喚は世界への違和感を消すために、『サーヴァントとして召喚された』という形がとられているだけなのだ。
本当に召喚されていたのなら、顔が似る以上の変化がグレイには訪れていたことだろう。
「師匠? どうされましたか?」
「ん、いや……そのうち、お前のことはアイツに紹介する。だから今は待ってくれ。少なくとも8月以降じゃないと、お互いゆっくりと時間も取れないからな」
「は、はいっ。分かりました」
グレイはこくこくと頷くが、代わりに非難の声を上げる義妹がいた。
「おいおい! それは無いじゃあないか、兄上。目の前に暇で退屈で時間を持て余している妹がいるというのに!」
「アイツは仕事だし、私達もすぐに会いに行くわけではない。分かっているのか? 8月以降だ」
8月以降となるとパーティも終わり、ライネスの滞在期間もとっくに終わっている。
「いっそのこと、私もここに住んでやろうか?」
「絶対にやめろ」
何時までも言い合っていては時間の無駄だ。ウェイバーは、まずはこの疲れ切った体に栄養を補給しようと立ち上がるのだった。
ネカマにするのは面倒なので、千里真那は普通に女性設定です。