皆様良いお年を。
《おおっと!! アインハルト選手は前に出ない! ここは受けの姿勢か!?》
「(だったらこっちから!)ネフィリム・フィスト発動! 近接格闘ラッシュモード!」
ラウンド1の終盤のように、激しいインファイト戦を繰り広げる2人。
「すごい、すごい……! あの技があれば格闘戦で戦えるよね?」
「……っ」
オットーの言葉にノーヴェは何も返せない。
身体操作や自動反撃。格闘戦で非常に優位に『思える』それらの機能。だが、それらの機能を実戦で使う選手はほとんどいない。
その理由は。
「(鋭い踏み込みからの連撃……これは完全にヴィヴィオさんの動き!)」
コロナの左手が電撃を帯びる。
「(この動きから、スタンナックルに繋がる―――)」
ノーヴェの技であるスタンナックルが防御される。
一連の攻撃が終わり、今度はアインハルトの攻撃だ。
「(反撃が来る。ここから自動防御に切り替え―――!)」
コロナの動きがガラリと変わる。
「(リオさんの春光拳。『捌き』の動作。ここから自動反撃が―――)」
「やあ!! ッ!?」
反撃が避けられたことに、驚愕の表情を浮かべるコロナ。
「(やっぱり……!)」
一気に後ろに飛んで、間合いの外に出る。自動防御モードのネフィリム・フィストではそれ以上の追撃はなかった。
「コロナさん。あなたはそこに辿り着いたんですね。辿り着いて、しまったんですね」
「……はい。どうしても……どうしても勝ちたかった。どんな手を使っても、今回だけは勝ちたかったんです」
コロナも無理やりな手段だということは分かっていた。
漫画やアニメで感覚がマヒしているかもしれないが、自分の体も壊しかねない技など、本来使うべきではないのだ。
限界に挑んだ結果、反動が来るならまだ良い。だが、ハナから負担がかかる前提の技を使う選手などそうはいない。
ノーヴェも、コーチとして考えれば、絶対に止めるべきものだった。コロナの気持ちを優先してしまうところは、プロ目線でいえば失格だ。
だがそれだけ、コロナの気持ちが強かった結果だと言えた。
だったら、それには答えなければならない。アインハルトの全力をもって。
「ティオ、出して下さい」
「ニャ!!」
己の内にいるティオに呼びかける。
次々と具現化する鎧達。
《こ、これは何でしょうか? アインハルト選手に次々と鎧が装着されていきます!! 見たことが無いものです! これがアインハルト選手の切り札なのでしょうか!!》
赤と白がメインの色。武装の類は何も具現化せず、所々に青く透き通ったパーツがある。
この『機体』の名前は、
「ビルドバーニングガンダム……!」
ビルドバーニングガンダム
『ガンダムビルドファイターズトライ』に登場するガンプラ。主人公である『カミキ・セカイ』が操る。
ビームライフルやシールドだけでなく、ガンダムの伝統的な固定武装である頭部バルカンやビームサーベルすら装備していない特殊な機体。
しかしその分、格闘性能に特化しており、モビルファイターのような徒手空拳を使って戦う。
カミキ・セカイが『次元覇王流拳法』の使い手ということもあり、爆発的な近接能力を発揮出来る。
これを装備した場合、次元覇王流拳法を扱えるようになる。
アインハルトとの行為によって生み出されたモノであり、次元覇王流拳法という共通点から、アインハルトに譲渡された。
《こ、これは何でしょうか? リング上で未知のエネルギーが観測されています!! アインハルトさんはレアスキル持ちだったのでしょうか!?》
青いクリアパーツ―――プラフスキー粒子放出用のパーツから、青い燐光が漏れている。
「アインハルトさん……!」
今までの訓練では見せなかった武装に、コロナに焦りの感情が湧き出る。
随分と仰々しい鎧だ。アインハルトにはあまり鎧のイメージは無かったが、この場面で出してきたということは、みんなに秘密にしてきた切り札だということだ。
「(だとしても……)ネフィリム・フィスト、ラッシュモード!」
アインハルトが格闘技以外の択を選ぶことは無い。それだけははっきりしている。だったら、防御と反撃を両立したネフィリム・フィストが一番だ。
そう考え前に出る。だが。
「(アインハルトさんの反応速度が上がってる、あの鎧のせい? 攻めきれない……っ、連携のラッシュも効かなくなってきてる……!)」
元々、身体操作にはタイムロスが出てしまう。
判断から初動までの微妙な遅延。それは一瞬一瞬の判断が重要な近接戦では致命的だ。
「(だったら、マイストアーツの大技で……!)」
単純な連撃では勝ち目がないと、コロナは距離を取って飛び上がった。
「ネフィリム・フィスト、マイストアーム!!」
右手に瓦礫が集まり、ゴライアスの拳が生成される。
「(身体自動操作や頑丈な腕部武装。私にとってその対策は……)」
そのどちらも大昔の聖王、オリヴィエが使っていた技で、アインハルトの祖先である初代覇王が乗り越えられなかった壁だ。
「(ずっと前から取り組み続けていた課題だったんです!!)」
迫りくる岩石の壁。それは試合開始直後に不意打ちを受けたものと全く同じだ。
それに対して、拳を握る。
「流星螺旋拳!!」
本来は手首のマニュピレーターを高速回転させて放つ技。しかしこの世界では、魔力によって回転のエネルギーを生み出す。
岩石の拳は完全に力負けし、砕け散る。
「つ、ぅ……!」
その威力はマイストアームを破壊するだけに留まらず、コロナの腕にまで達した。
互角にはなっても自分がダメージを食らうとは全く思っていなかったコロナは、想定外の痛みに意識を奪われてしまう。
その隙を、アインハルトは見逃さない。
「次元覇王流、聖槍蹴り―――!!」
「か、は……ッ!?」
大きく飛び上がり、背中に落下速度をプラスした蹴りが突き刺さる。ヒットの瞬間に、青いプラフスキー粒子が飛び散った。
《一気にライフを削られてしまったコロナ選手! 各部位にクラッシュも発生しております!! しかし立っている! ダウンカウントは入りません!!》
歯を食いしばって拳を握るコロナだが、力を入れるほど痛みがひどくなる。
「(痛い、痛い痛い!! でもまだ行けるッ!! 左のリボルバーキャノンからスパイクのコンビネーション!)」
コロナに突撃の意志があると感じたアインハルトは、その場を動かず構えを取る。
「覇王流、鋼体の型。『牙山』」
《コロナ選手、防御の構えのアインハルト選手に突撃だ!!》
ネフィリム・フィストのプログラム通り、左手のリボルバーキャノンから入る。
攻撃が当たった場所から嫌な音が響いた。
それは攻撃を仕掛けたコロナの拳からだ。
「あ、ぁぁ……っ!!」
威力を殺さずに受け止める攻性防御だ。
攻撃したはずのコロナの拳に骨折のクラッシュが入る。しかし、怪我をしてもネフィリム・フィストは止まらない。瞬き1回分の瞬間に、魔法を中止することは出来ない。たとえそれが、針山に攻撃することになったとしても。
またもや嫌な音が響き、足にクラッシュの判定が入った。
無理に体を動かした反動と痛みで、自動操作が終わると一気に動きがにぶくなる。
「次元覇王流、聖拳突き―――!!」
胴体に真っすぐな正拳突きが叩き込まれる。
拳圧によってコロナの体がふわりと浮き上がり、10メートルも飛ばされてしまう。
これで攻守交代だ。
「(っ……! 攻撃が来るっ。自動反撃モード―――)」
自力で体勢を立て直す時間はない。ネフィリム・フィストに頼るしかない。
最短で距離を詰め、拳を繰り出してくる。間合いに入り、あと数瞬で当たる―――寸前で、アインハルトの拳が止まる。
「(しまっ―――)」
コロナはそう考えるので精一杯だ。すでに体は動き始めている、この一瞬で何かすることなど出来ない。
アインハルトは半歩引いている。
自動反撃は見事に空振りする。アッパーは伸び上がり、絶好の的だ。そこを叩き潰すように、拳が突き刺さった。
《カウンター!! 決まりました! 先ほどのお返しと言わんばかりの痛烈なカウンターです!! コロナ選手ダウン!!》
セコンドのノーヴェは歯を食いしばる。
あまりにも完璧なカウンターだったのだ。
間合いとタイミングを完全に読まれていた。それは同時に、ネフィリム・フィストの身体自動動作がこれ以上通用しないことを表していた。
「(さっきの攻性防御で手足がクラッシュしてる。心が折れてもおかしくない―――!)コロナ……!!」
その言葉に答えるように、コロナが起き上がる。
「大丈夫、です」
今まで以上に魔力が体を包みこむ。
まさか起き上がってくるとは思っていなかったアインハルトは、慌てて構える。
「
ダメージが嘘のようにしっかりと2本足で立つ。ダメージがなくなったわけではないのに、だ。
「ネフィリム・フィスト、フルコントロールモード……!!」
「外部からの、五体の完全操作……」
アインハルトの脳裏に、初代覇王の記憶がちらつく。
「やはりその技は危険を伴います。その前に、私が終わらせる!」
「まだまだ、終わらせません!!」
コロナのライフは残り20%といった具合だが、無理に攻め込むようなまねはしない。体の限界を無視して動ける自動操作からは、どんな反撃が飛んでくるのかわからないからだ。
「(五体の完全外部操作、この距離。おそらく、コロナさんの最大攻撃は……)」
「ガイストダイブ―――」
コロナの体がゆらりと動き、加速した。
それはアインハルトですら反応が難しい速度だったが、
「ッ!? (防がれた!?)」
「(やはり高速突撃! 読めなければまともに食らっていた!!)」
「だったら当たるまで……!!」
ブレーキをかける足にも激痛が走る。それも我慢して、突撃を敢行する。
「(骨が折れようと、手足が千切れようと戦える五体の完全外部操作。引き換えになるのは膨大な魔力リソースと、限界を超え酷使される体の損傷)」
せっかくの非殺傷設定も、自ら体を壊してしまえば意味がない。
「(平和な時代を生きる競技選手が使って良い技ではないんです……!)」
アインハルトの拳は、突撃と同じ速度で後ろに飛ばれることで避けられる。
ネフィリム・フィストを破られた今、まともな近接戦では敵わないと判断したからだ。
「はぁ、はぁ……(息が苦しい、手も足も、体中が痛いよ。最後の切り札も、決定打にはならない。魔力も残り少ない)」
今の攻防でわかってしまう。
ガイストダイブも惜しかったのは最初だけ。あとは無難に逸らされ、効果的な攻撃にならない。
「(やっぱり無理なのかな。私がどんなに頑張っても、アインハルトさんには……)」
心が折れそうなその時、リングの外から声を張り上げる人物がいた。
「コロナお嬢様!!」
「オットー……」
「まだです! まだ終わっていない!! 僕と一緒に練習したゴーレムマスターの戦い! 諦めないで見せて下さい!」
コロナは試合であることを忘れてオットーを見てしまうが、アインハルトも構えを解いている。
「秘密の切り札なんてなくたっていい!! そんなものが無くたって、コロナお嬢様は強いんです!!」
「ぁ……」
コロナの腕から力が抜けた。
「ごめんね。ありがとう、オットー」
今まで体を動かしていた魔力が霧散する。
「そうだよね。私は格闘技選手でもあるけどそれ以上に……」
「(自律操作を解いた? 魔法戦に切り替える?)ティオ、全力警戒です!!」
タクトモードに戻したブランセルを、アインハルトに向ける。
「ケイジング・スピアーズ」
リングを材料に岩石の折がアインハルトを包み込む。
「創主コロナと魔導器ブランセルの名のもとに……甦れ、巨神!!」
バラバラに散っていたパーツが再び1つに集まっていく。それはコロナ元来の切り札。
「叩いて砕け、ゴライアスッ!!」
「再構築だけあって早い!! でも破城槌なら一撃で……ッ!?」
目の前に出てきた大きな脅威であるゴライアスに気を取られていたせいで、回り込んでいたコロナへの反応が一瞬遅れてしまう。
右手には、回転する巨人の腕が装着されている。
「マイストアーム、スパイラルフィンガー!!」
「流星螺旋拳ッ!!」
2つの回転がぶつかり合い、相殺される。
コロナの脳裏によぎるのは、練習がつらくなったある日、ノーヴェにかけてもらった言葉だ。
―――――
「練習、やっぱりキツいか? なんでこんな思いをしてまで……って、思ったりするか?」
「まぁ、練習も組手も痛い思いをすることはあるけどよ、それもみんな最高の瞬間の溜めなんだよ」
「練習した技がきれいに決まった時。会心の一撃を撃ち込めた時。自分が前より強くなっていることを実感できた時。そんな瞬間を山ほど味わってほしいから、今は苦しい練習をさせることもある」
「乗り越えた先にある楽しさを、お前にも知ってほしいんだよ」
―――――
「そうだ―――」
先ほどまでなら前につめていたところだが、今のコロナは違う。
「コメットブラスト、シュート!!」
魔力弾と、先の尖った岩弾の混合弾だ。
視界を埋め尽くすほどに生成された弾丸で、アインハルトの足を止める。
それでもアインハルトは近寄ってこようとするが、手の届く間合いに近寄らせるほど、ゴライアスは甘くない。
この終盤で2対1だ。頑強な前衛のゴライアスはそう簡単には突破できない。
「ロックバインド!!」
「また―――!!」
岩石に足首を掴まれ、一瞬動きが遅れる。
ゴライアスがそこに狙いを定める。
《バインドからのゴーレムパンチ! これが決定打になるのか―――!!》
「蒼天紅蓮拳―――!!」
錐揉み回転を加えたアッパーカットが、バインドを引きちぎり、振り下ろされた拳をも粉砕した。青い粒子が風に乗り、吹き荒れる。
《なんという頑丈さか!! あの質量差でぶつかりあったにもかかわらず、ライフを残しています!!》
それはデバイスであるティオによるサポートが大きかった。ダメージ緩和と回復。補助に特化した性能のおかげだ。
それでも2人のライフは残り5%だ。
「ゴライアス、これで決めるよ……!!」
粉砕されていないもう片方の腕、それが高速回転し、
「パージブラスト……ドリルクラッシャーパンチッ!!」
高速で射出された。
迫りくるゴライアスの拳。それをアインハルトは、
「覇王流―――」
受け止め、
「―――旋衝破!!」
投げ返した。両手を失い棒立ちになっていたゴライアスの体に風穴が空く。
「これが本当に最後の攻撃ッ!!」
後ろに回り込んでいるコロナ。その足にはゴライアスの足が装着されている。
今度は反応したアインハルト、彼女も最強の技を使うために構えを取る。
「マイストアーツ、ギガントドロップッ!!」
「覇王流……―――覇王ッ!! 断空拳ッ!!」
2つの技。勝ったのはアインハルトだった。
アインハルトの必殺技は、コロナのライフを削りきり、勝敗を決めた。
《試合終了です!! 勝者は見事な戦技を見せてくれたアインハルト選手です!!》
試合が終了すると、すぐさま担架が運ばれてくる。
「コロナさん……! コロナさんッ!!」
「っ、ぁ……」
アインハルトに抱えられていることを理解して、試合がどうなったのか悟ったのだ。コロナは涙ぐむ。
「ありがとう、ございました」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました」
担架に乗せられて運ばれるコロナと一緒に、退場していく。
「もう、ズルいですよ。そんな鎧、見たことないですもん。何処で手に入れたんですか?」
「ぁ、と、翔さんに頂いたもので……」
とっさにうまいごまかし方を思いつかず、素直に話してしまう。
「ええ!? そうなんですか!? いいなぁ、私もいただけないかなぁ……」
「はへぇ!? そ、それは……!!」
ビルドバーニングのことを翔との愛の結晶だと考えているアインハルトは、変な声を出してしまう。
コロナも欲しいということは、つまりは翔とそういうことをするわけで。
コロナもそんなに本気で言っているわけではないのだが、アインハルトにとってはそうもいかない。
「(いやいや、いやいやいやいや!! それは流石に! 流石に無いですよね!?)」
「アインハルトさん?」
《同門対決は先輩の勝利で決着! しかし勝者と敗者双方に惜しみない拍手が送られます!!》
こうして、アインハルトとコロナの対決は終わりを告げたのだった。
――――――チャリン、チャリン
この作品のアインハルトは、翔との悶々のせいで、原作の大会時よりも弱くなっています。まあ、その分を補うのがビルドバーニングなんですけどね。