2人が汗を拭いながらセコンドの元へ移動する。
「いいぞ! ボディにいいのが入ってる! この後も潜り込んだらガンガン打ってけ!」
「はいっ!」
「しかし、ダメージ取れてるのはいいが、ヴィヴィオ相手にライフの大小は本当に意味がねぇな……」
「本当にそうです! 油断してるとすぐにカウンターが飛んできます!」
水分補給を済ませて立ち上がった。
「すっごく怖いですが……でも楽しいです! 勝てたらもっと楽しいです! だから次のラウンド、『抜剣』を試してみます!」
ヴィヴィオサイドでは。
「いやー! ミウラさんすごいよ! 動き早いし、何より攻撃が重い!」
「はいはい。分かってるわよ。外から見ても十分に伝わってくるわ。きれいに防いでるはずなのにライフが削られてるもの」
クロはヴィヴィオの手をマッサージしている。何度も何度も重い打撃を受けている腕だ。今はまだ大丈夫でも、積み重なれば動きが鈍る
異能の力を使ってのサポートは禁止されているが、この程度のサポートは許されているのだ。
「でも、その動きにも慣れてきた。クリスも頑張ってくれてる! ここからはもう削られないから!」
「……まあ、『抜剣』が来るとしたら、あれを使わざるを得ないけど、基本的にやることは同じよ」
「うんっ!」
「頑張るッス!」
観客席でも、1ラウンド目の戦いを振り返っていた。
はやてたちは2人の戦いぶりについて話していた。
「あの2人は、空戦に例えると高火力型と高機動型―――そやけど、2人とも一撃で試合を決める技がある」
ミウラには『抜剣』。ヴィヴィオには必殺のカウンターアッパー。片やライフを無理やりにでも削り取り、片やいくらライフが残っていようと地面に沈める攻撃だ。
「しかし、ヴィヴィオには悪いがミウラが勝つ」
「その通り!」
シグナムとアギトはミウラの勝利を確信していた。
ミウラは決して器用な子ではなかった。道場に来た始めの方は失敗ばかりで、鍛錬についていくことすらもやっとといった具合だった。
しかし、入門から数か月でみんなが気が付く。ミウラの中に眠っていた才能の原石に。
その原石を本物の宝石に変えるための努力を、鍛錬をすべて受け入れてきたのだ。
そうして辿り着いた境地が、上位選手すら捻じ伏せる鉄槌の拳と斬撃の蹴りである。
シグナムとアギトの自信は、その努力を間近で見てきたからこそだった。
「実際、ヴィヴィオちゃんは抜剣を出されるとかなりマズイ」
離れた場所にいるミカヤも難しい顔をしていた。
「ヴィヴィオちゃんの防御力はちょうど私と同じくらい。私の場合は抜剣に対して抜刀術で防御や迎撃が出来たけど……」
「ヴィヴィオさんにはそれがない」
小手先の技ごと相手を切り裂く『抜剣』。収束魔力の打撃を跳ね返せるだけの威力を出すことは不可能だった。
しかし、ヴィヴィオがこのまま終わるとも思っていない。
「さあ、ヴィヴィオちゃん。このピンチをどう乗り切る?」
2人がリングへ上がって、2ラウンドが開始された。
ゴングが鳴らされてすぐだった。
「いくよ、スターセイバーッ!!」
《ミウラ選手、収束打撃『抜剣』を発動! 華麗なステップを駆使するヴィヴィオ選手、避けきれるのか―――!?》
その姿はまるで、居合切りをする侍だ。腰を落とし、体のバネを限界まで縮める。
「行きますッ!」
「受けて立ちますッ!!」
ミウラの姿が霞んだ。
「抜剣―――飛燕ッ!!」
神速の踏み込みで、すでに目の前にいた。
「はああぁぁぁっ!!」
クロスした両手の防御ごと蹴り抜き、切り裂いく。
《抜剣・飛燕炸裂! ヴィヴィオ選手は大きく吹き飛ばされました、が……?》
抜剣を受けた体勢のまま、ヴィヴィオは立っていた。
「ぷはっ!!」
「……っ!?」
クラッシュどころか、ライフも10%しか減っていない。必堕の打撃を受けたにしては、この結果はあまりにも。
《ヴィヴィオ選手防ぎ切りました!! 抜剣はすでに攻略していたということなのでしょうか!》
「ナイスタイミングだったよ、クリス!」
ヴィヴィオは自分の相棒にお礼を言い、
「前見た時よりもだいぶ防御力が上がってるみたいだね」
「そうなんです! ヴィヴィオずっとこの技を練習してて」
「ずいぶんうまく待っていますね」
観客席は盛り上がっている。
「スゲーッス! まさかあの攻撃を防いじゃうなんて!」
「当たり前でしょ。私相手にずっと練習してたんだから」
セコンドのクロは鼻を鳴らした。
「相手の攻撃が命中するその瞬間、その一点に魔力を集中。防御魔法で防ぎつつ、攻撃魔法で跳ね返す」
格闘ゲームのジャストガードのようなものだ。タイミングさえ合ってしまえば大幅にダメージを軽減できる防御方法。
ただ少しでもズレれば、全く防御出来ないというリスクも背負っている。
ヴィヴィオの『相手の攻撃を見切る目』をもってしても避けきれない攻撃のために編み出された技だ。
「ヴィヴィオの『目』と防御特化のクリスだからこその瞬間の防御、『セイクリッド・ディフェンダー』」
ヴィヴィオが相手の攻撃を見切れているうちは、まともなダメージを通すのは難しい。
「……スターセイバー!!」
《おっと!? ミウラ選手、抜剣状態を解除!》
「あ、あれ? ミウラさん、抜剣は終わりですか!?」
「あ、いえ! その、上手に防がれちゃいましたから……!」
試合中にもかかわらず、まるで休憩時間のように会話をする2人。
「今はまだ抜くべき場面ではないと判断しました! まだまだ見せたい技はたくさんあります!」
「っ! 私もありますよ! まだ出していない技も魔法も!」
笑い合いながらお互い構え直す。
「どんとこいです! 何が来ても叩き斬ります!」
「はい! ぶつけさせていただきます!」
実は、抜剣状態は長時間維持出来ない。セイクリッド・ディフェンダーの性能も未知数の今、体力の有り余っているヴィヴィオを削りきるのは無理だと判断したのだ。
そして、これは収束系魔法全般に言えることだが、収束魔法は終盤にこそ力を発揮する。
その理由は2つあり、1つは魔法の仕組みだ。
飛び散った魔力を集めるという性質上、お互いに魔法をたくさん使った後の方が、威力が出る。
もう一つは気持ちの問題だ。最後の一撃に決意を込めて放つ抜剣の威力は、破壊力の桁が違う。
一度は防いだとしても、ヴィヴィオには相当のプレッシャーだ。
だがそれは同時に、強い相手と競い合えるという喜びにもなる。抜剣を防がれたミウラも同じだった。
「魔法戦も全力でいきますっ! ソニックシューター・ファントムシフトッ!!」
闘い方を切り替えて、2人の戦いは続いていく。
「ソニックシューター……ファイヤ!!」
ヴィヴィオの魔力光は珍しい虹色だ。よって形作られる魔力弾も虹色。
浮かんでいるだけなら綺麗なそれが、ミウラに向かって放たれた。
だがバカ正直に正面からの弾丸に当たるほど、甘くはない。
的確な打撃で逸らしていくが、その隙にヴィヴィオは後ろへ回り込み、本命の攻撃を叩きこんだ。
「ディバイン・バスターッ!!」
「ッ!?」
ダメージを受け、衝撃で吹き飛ばされつつも、前転することで効率よく体勢を立て直すミウラ。
「はああぁぁぁ―――っ!!」
お返しと言わんばかりに左掌に魔力を集め、弾丸を形成する。
「ブレイジング―――」
それを軽く放り投げ、
「コメットッ!!」
蹴り飛ばした。
だがその軌道は直接ヴィヴィオを狙うものではない。床に着弾し大爆発を起こす。
「(爆撃弾!?)く……っ!」
ダメージとともに、砂埃で物理的に視界が遮られる。
その砂埃を突っ切り、ミウラが現れた。
ヴィヴィオのボディに強烈な打撃が命中するが、一点防御でダメージを抑える。
しかし、ここはミウラの距離だ。何度も打撃を受け、ヴィヴィオのガードが外されていく。
「てえええッ!!」
「はああぁぁっ!!」
ミウラの蹴りに合わせて、カウンターの魔力弾を用意するヴィヴィオだったが、蹴りはミウラのブラフだった。
「はあッ!!」
「ッ!?」
手に保持していた魔力弾を跳ね返され、無防備になったところに、本命の蹴りがめり込んだ。
今までとは違う、重い音が響いた。
「~~~ッ!!」
完全にタイミングをずらされたせいで、セイクリッド・ディフェンダーが不発してしまう。
一点防御にかけていたため、防御魔法が展開できていなかったヴィヴィオ。一撃でライフの30%を削られる。
打撃の感触に今が好機と考えたミウラがさらに距離を詰めてくる。
「っちぃ!!」
今度はうまく作動した。
強襲を回避したヴィヴィオは距離を取り、魔力弾を放った。
「せいやっ!!」
初めは3つだったが、途中で分裂し、最終的には15発、逃げ場を埋めるように降り注いだ。
沢山の弾丸に隠れて、ヴィヴィオの意志で操作されているものが2つだけあった。
前方にガードを固めていたミウラの後頭部に命中。
「ファントム・スマッシュ!」
掛け声とともにヴィヴィオが腕を振り上げると、低空を飛んでいた弾丸が急上昇。ミウラの顎をしっかりと撃ち抜いた。
脳震盪のクラッシュが入り、足から力が抜ける―――が、何とか踏みとどまった。
それでも、歯を食いしばって立っているのが精一杯だ。
「(し、視界が揺れる……! ボクの足、ちゃんと地面についてる!?)」
そんな有利な状況でも、ヴィヴィオは追撃できない。
「(呼吸が苦しい! 今すぐ座り込んで休んじゃいたい……!)」
2人とも、確実もダメージが蓄積されてきたのだ。いくら負けん気があっても、いくら根性があっても、避けられないものだ。
「「(だけど、それでもッ!!)」」
息を整えた2人は、それでも笑顔だ。
「「まだ行けるッ!!」」
《両選手、再び突撃―――!!》
ダメージの分いくらか勢いが落ちたとはいえ、拳の鋭さは変わらない。
「(避けられたって良い。ガードが固くても関係ない! この手足が届くなら―――どんな守りでも打ち砕いて見せるッ!!)」
「(見切るんだ。どんなに強い攻撃でもッ!! 私がちゃんと反応すれば、クリスが絶対防いでくれる!! だから怖くない。前に! 前に出るんだ!!)」
お互いの得意を生かした打撃の応酬は、1ラウンドを思い出させた。
魔法戦も見ごたえがあったが、やはり、格闘戦技の方が盛り上がっていた。
そしてお互いギリギリで削りきれず、
《ここで2ラウンドが終了! このラウンドも壮絶な削り合いでした!》
セコンドの元へ戻っていく。
どちらも譲らない良い試合だが、ダメージの面ではヴィヴィオが不利だった。
体力がなくなれば得意のフットワークは殺される。新技のセイクリッド・ディフェンダーは完璧ではない。思わぬところでダメージを貰うことがある。
「だから打ち合いを嫌って下がってくれれば、こっちの思うツボなんだけどな。そうすりゃ遠間から抜剣で攻められる」
ヴィータの言葉にミウラは首を横に振る。
「下がりませんよ、ヴィヴィオさんは。きっと前に出てきてくれます!」
その考えは的中していた。
ヴィヴィオサイドでは、次が最後のラウンドになると考えたクロが、一生懸命手のマッサージしていた。
「もちろん前に出るよ! 最後の必殺技も、まだお披露目してないし!」
「わかってるから。しゃべらないで回復に集中して!」
時間が来た。2人がリングに登る。
「このラウンドで倒せるぞ! ガンガン攻めていけ!」
「はいっ!」
「焦らないで、しっかりとカウンターを重ねていきなさい!」
「うんっ!」
3ラウンドが開始された。
《う、打ち合い!! ここに来て! リング中央、激しい打撃戦です!!》
正面からの打ち合い。お互い、終わりが近いことを悟っているからこそ、少しでもこの瞬間を楽しもうとしている。
「(そう。結局はこれ!)」
「(ボク達は魔法戦競技選手ですが、それ以上に格闘戦技選手です!!)」
お互いのライフがある程度減れば、必殺技をぶつけ合うことになる。その時が来れば、この戦いは一気に終わりに傾いていくだろう。
しかしそれまでは、この『好敵手』とも言える相手との戦いを楽しんでいたい。
「「(ストライクアーツでのぶつかり合いが一番楽しくて―――一番お互いを高め合える!!)」」
試合が始まったときからずっと、2人の表情から笑顔は消えない。
どんなに苦しくなっても。どんなに痛い攻撃を受けても。笑顔だけは無くならなかった。
《双方譲らず! 互いを押し返す形になりましたっ!!》
ヴィヴィオのライフは残り10%。ミウラは少し多く15%。力のこもった一撃なら、今の2人なら、十分に削りきれる範囲だ。
さらに、
「3ラウンド、残り時間は1分半―――」
時間も丁度いい。
その時が来た。
「ここで決めるよ、スターセイバーッ!!」
抜剣である。
足のプロテクターが展開し、内部が露出する、だけではなかった。なんと両手のプロテクターも展開し、内部が露出する。
「『抜剣・四天星煌』―――!!」
ここが勝負の時だと悟ったミウラが切った切り札だ。
両手両足、どこからでも放てる全開の収束打撃。ヴィヴィオのセイクリッド・ディフェンダーごと蹴り砕くつもりだ。
「天破の型」
足元に魔法陣が生まれ、魔力収束が開始される。会場全体が揺れるほどの魔力だ。
《ミウラ選手、抜剣を発動!! 両手両足4つの剣が抜き放たれましたッ!!》
興奮する実況者とは違うアナウンスが入る。
《リング内、基準魔力値オーバー。リング外周保護フィールド、エマージェンシーレベルに強化します。セコンドおよびレフェリーは、衝撃余波に注意して下さい》
その警告ともとれるアナウンスに、会場の歓声はどよめきに変わる。
クロは声を張り上げた。
「ヴィヴィオッ!!」
「大丈夫!!」
ヴィヴィオはこの程度では動揺していなかった。まるで見たことがあるとでも言いたげに、自らの何倍もの魔力を練り上げるミウラを見据えている。
「セイクリッド・ディフェンダー・フルドライブッ!!」
ヴィヴィオには収束魔法の技術はない。残り少ない魔力を総動員して戦うだけだ。
「(どんな攻撃でも、反撃型の私に出来るのはただ1つ。『打たれずに打つ』。防いで、捌いて、潜り込んで―――)アクセルモード!!」
セイクリッド・ディフェンダーにすべての集中力を注ぐ。ここから先の攻撃は、すべて必殺だ。タイミングをずらされるわけにはいかない。
そうして耐え忍んだ先にある相手の隙に、
「―――意識を刈り取る一撃を打つ!!」
構えを取るのだった。