ミウラは踏み込むのではなく、その場で足を振りかぶった。
「抜剣、飛竜ッ!!」
それは足で放つ『飛ぶ斬撃』だ。衝撃波に収束魔力が乗せられている。
ヴィヴィオはしっかりと見切り、回転して避ける。
「ディバイン―――」
「ッ!!」
前に、前に出ていたミウラの回転蹴りが、チャージされていた魔力を発射前に霧散させた。
回転の勢いのままに繰り出すのは、収束拳打の拳である。クロスする腕に命中する。
しかし、
「(効いてない!?)」
ライフはあまり削れない。何度打ち込んでもガードを外せる気配がない。
これはヴィヴィオの技術だった。セイクリッド・ディフェンダーだけでなく、体を使ってうまく衝撃を逃がしている。
焦った攻撃を続けていれば、
「そこッ!!」
「ッ!? う、ぐ……!」
ヴィヴィオのカウンターが飛んでくる。攻撃ばかりで防御がおろそかになっていた顔面への膝蹴りだ。ギリギリまで耐えた分、ダメージも大きい。
「(しまった……! 焦りすぎだ! 一度離れて―――)」
ヴィヴィオのカウンターに逃げ腰になったミウラだが、後ろに下がる速度が遅すぎる。前に出るのとは勝手が違うのだ。
「アクセルスマッシュ!!」
ヴィヴィオの拳が顔面を捉えた。
《直撃! 直撃です!! ミウラ選手まともに喰らい―――ヴィヴィオ選手の連撃が止まらない! もはや立っているのがやっとなのか!!》
かろうじて防御はしているが、勢いがなくなってしまった。
「(開いた! これで……!)」
ガードを外し、顎まで一直線の道が出来る。
自分が絶対の信頼を置くアッパーカット。必殺の意志を持って放つ。
それが――――――ミウラに受け止められていた。しっかりと掴まれ、逃げることが出来ない。
「欲しかったのは、この距離です……!」
目が合った瞬間、ヴィヴィオの背中に冷たい汗が噴き出す。
今度誘い込まれたのはヴィヴィオの方だった。
ミウラの蹴りが、左腕ごと胴体を切り裂く。
「……ッ!!!」
《こ、これは強烈!! 相手のお株を奪うような強烈なカウンターだ!! ヴィヴィオ選手に深刻なクラッシュが発生しています!!》
左腕には亀裂骨折。肋骨は3本ほど折れてしまっている。
それに伴う痛みの再現も抜かりはない。シミュレートとはいえ、激痛が走っていた。
「(左手はほとんど動かない。泣きたいくらい痛いし、魔力も、もうほとんど空っぽ―――でも、最後の一撃分は残してある……ッ!!)」
感覚が鈍い左腕に魔力を通し、何とか動かす。唇を噛みしめて、構えを取る。続行の意思表示だ。
「行けるね、クリス。最後の必殺技! 右手に全部の魔力を集めて!」
その様子を見たミウラは、胸の高鳴りを抑えられなかった。
「(ヴィヴィオさんは本当にすごい。こんな強い人に勝てたら、僕はもっと……)」
「(ミウラさんの一撃にカウンターを―――『ブレイザー』を打ち込む!)」
これが本当に最後だ。
「(これで決めます!)」
「(撃ち抜いて見せる!)」
小細工はない。一直線に距離を詰める2人。
ぶつかり合い、そして――――――ミウラの蹴りが外れた。身をかがめたヴィヴィオの頭すれすれを空振りする。
「避けた!?」
「決まる!!」
両セコンドは思わず声を漏らしていた。
ヴィヴィオの残り魔力全てを集めた拳が、光り輝く。
「一閃必中ッ!! アクセル―――っ、ぅ!!」
拳とは腕だけで放つものではない。体全体を使うものだ。それが決め技ともなればなおさら。
折れた肋骨のシミュレートで、一瞬だけ体の動きが鈍ってしまう。力がうまく乗り切らない。踏み込みも甘い。
命中はするが、意識も、ライフも、どちらも持って行くには足りない。しかしヴィヴィオの体は、これ以上動いてくれそうにない。
「一閃ッ!! 必堕ッ!!」
試合の流れは決まった。
「天衝星煌刃!!!」
星の蹴打を食らったヴィヴィオは意識を手放し、その体はリングの壁に叩きつけられた。
《決着! 3ラウンド残り10秒! 格闘技対決はミウラ選手に軍配が上がりましたァ!!》
――――――チャリン、チャリン
会場が大歓声に包まれる。その熱量は、もはやトップ選手と比べても遜色ないものになっていた。
いや、事実ミウラはすでにトップ選手に片足を突っ込んでいる。1回戦の時点で、トップ選手だったミカヤを下しているのだ。
そのミウラと良い勝負をしたヴィヴィオも、もはや無視できる選手では―――
《……と? どうしたのでしょうか。セコンドとドクターが何か……》
試合内容の興奮のままにしゃべっていたセコンドは、リングの様子を見て口調を変える。
リングでは、倒れたまま立ち上がらないヴィヴィオに、クロたちだけでなく控えていたドクターたちも集まっていた。
ドクターが何やら指示を飛ばすと、奥から担架が運ばれてくる。
倒された選手が起き上がらないことはあったが、ここまで言い争うということは無かった。
つまり、何かがあったということだ。
《ヴィヴィオ選手の安否が気遣われます―――!》
盛りあがっていた会場だったが、一気にその温度が下がるのだった。
――――――――――――――――――
「心拍、脳波レベル正常。リンカーコアにも影響なし」
シャマルは自分のデバイスを操作しつつ続ける。
「ただし体の残存魔力は無し。脳震盪と体力と魔力の限界消費による一時的な昏睡……つまり、全力を出して疲れちゃったのね。治癒の魔法はかけたからもう大丈夫よ」
その言葉を聞いて、なのは達は胸を撫で下ろした。
あの後、ヴィヴィオは医務室に運ばれた。
観客席にいたなのは達は、全員で医務室に向かった。あわや病院に搬送するとかいうところで、シャマルが管理局員の手帳を提示。治癒に長けた彼女が診察を行ったのである。
「ありがとうございます、シャマル先生」
「いえいえ」
なのはとフェイトが頭を下げると、シャマルはやんわりと手を振った。
「あれ? それならどうして変身魔法は解除されないの?」
ベッドで横になるヴィヴィオはいまだに大人モードのまま、BJも解除していない。
「あ、それはね。クリスが非常防御モードのまま機能が停止しちゃってるの。ミウラちゃんの星煌刃を防ぐのに、機能維持のための予備魔力も使っちゃったんだと思う。そろそろ、復帰すると思うわよ」
その言葉通り、すぐにヴィヴィオの胸のあたりが光った。次の瞬間には、ヴィヴィオのいたるところは元の大きさに縮み、融合していたクリスが平らな胸の上でお座りしていた。
なのはがクリスをそっと抱きあげる。
「お疲れ様、クリス。ヴィヴィオを守ってくれてありがとうね」
優しい言葉に、しかしうさ耳は垂れ下がっている。全力を尽くしても守り切れなかったことを悔いているのだ。
「そんなに落ち込まないで。ヴィヴィオはすぐに元気になるから」
フェイトも頭を撫でた。
その様子を見たクロはもう大丈夫だと判断した。
「……それじゃ、みんなに伝えてくるから。ヴィヴィオもクリスも無事だって」
「大人やなぁ、クロちゃんは。あ、私も行くよ」
「私は係の人に伝えてくるね」
クロ、はやて、フェイトが部屋を出ていく。
「一応、近くの病院に精密検査の予約を入れてくるわね。なのはちゃんは、ついててあげてくれる?」
「はい、わかりました」
そう言ってシャマルは部屋を出ていった。
残ったのは、なのはだけだ。
椅子に腰かけ、眠るヴィヴィオに優しく語りかける。
「心配したけど、無事でよかった。立派だったよ、ヴィヴィオ」
「……」
「そんなところにいないで、部屋に入ってきたらどう?」
数秒ののち、控えめにドアがスライドした。
「応援に来てくれてたんだね、ヤミちゃん」
「……はい」
こっそりだが、ヤミはずっと応援に来ていた。ヴィヴィオの試合だけではなく、チームナカジマ全員の試合を、予選からずっと。
毎日練習に付き合っていれば、ヴィヴィオ以外の女の子も応援したいと思ってもおかしくない。
あのヤミがしっかりと応援に来ているのが何よりの証拠だ。
「ヴィヴィオ、頑張ったね」
「……そう、ですね」
練習を近くで見てきたヤミだったが、まだ戦闘を競技にするという感覚に慣れることが出来ないでいた。
そのせいであいまいな返しになる。
なのはもそれを理解しているのか、それ以上は何も言わない。
「ヴィヴィオ」
「っ!」
目を開けるヴィヴィオを、なのはは穏やかな声で迎える。ヤミは口から洩れかけた声を飲み込む。
「ママ……ヤミさんも……えへへ、負けちゃった……」
「うんうん。頑張ったね。立派だったよ」
「……はい。よく頑張りました」
ヴィヴィオは悔しいだろうに、それでもすべてを出し切った笑顔を浮かべている。
そこにもう1組、病室を訪ねてくる女の子達がいた。
「あ、あの……!」
「よう……」
俯き、目尻に涙を溜めたミウラと、その後ろで済まなそうな顔をしているヴィータだ。
「あっ! ミウラさん!」
その姿を見つけると、ヴィヴィオはベッドから飛び上がった。ミウラの手をみぎり、手をぶんぶんと振る。
「ありがとうございました! いい試合でしたね!」
「ぁ、ぇ?」
思った以上に元気だったヴィヴィオに、目を白黒させるミウラ。
「色々気にしてたんだが、大丈夫そうだな」
「だね」
ヴィータとなのはは頷き合う。
「ヤミさん! 行きましょう! みんなの試合が残ってます!」
「え、わ、私も一緒に行くんですか?」
「もちろん! ヤミさんも、ミウラさんも一緒ですよ! みんなで応援に行きましょう!」
元気を取り戻したヴィヴィオに引っ張られ、全員そろって試合会場に向かうのだった。
――――――――――――――――――
《次の試合に参りましょう。独特の魔法技術と格闘戦技『春光拳』の使い手。規格外のルーキーの揃うチームナカジマのメンバー、リオ・ウェズリー選手!!》
一方こちらは会場、リング。ヴィヴィオが担架で運ばれるという非常事態はあったが、それはそれ。その程度で大会の進行を止める訳にはいかない。
セコンドのディードと共に入場するリオだったが、その顔は暗い。
《迎え撃つは押しも押されぬトップファイター、
片手をあげて歓声にこたえるハリー。その顔は引き締まっているが、内心ではリオに対して複雑な感情を持っていた。
「仲間が意識不明……アイツ、気が気じゃねーだろうな……」
「誰にでも優しいのはリーダーの素敵なとこッスけど……」
「ダメですよ! 試合に集中しないと!」
いつもハリーを取り巻き、大会ではセコンドも務めている一昔前の暴走族風の少女に、気のゆるみを注意される。
「本戦では雷帝のお嬢様やジークさんが待ってるんですから!」
「分かってるよ!! 心配すんな! 手ェ抜いたりはしねぇからよ!」
2人はリングに登り、試合が始まる―――その直前、アナウンスが入る。
《試合開始前ですが、ここで皆様に朗報があります! 先ほどの試合で意識不明になってしまったヴィヴィオ選手ですが、健康上の問題は全くないとの事、間もなく目を覚ますそうです!》
その報告に、リオの表情が一気に明るくなる。
それを見て、ハリーもにやりと笑った。
試合の流れを止めるアナウンスは、ともすれば選手の集中を邪魔するものだ。だがこの2人にとっては、パフォーマンスを上げる大切なものだったようだ。
「ったくよ、一気に元気になりやがって」
ハリーは気合のハチマキを巻く。
「オレ様の砲撃ですぐに泣きっ面に変えてやるけどな! 覚悟しろよ、ちびっ子ォ!!」
「残念ながら泣きません! ヴィヴィオのためにも、チームのためにも! アタシ勝っちゃいますから!」
試合が始まった。
――――――――――――――――――――――――――
「うおおおぉぉぉっ!! 燃えとけえぇぇっ!!」
「はぁぁッ!!」
ハリーの炎熱砲撃『ガン・フレイム』と、リオの炎熱砲撃『紅蓮拳』がフィールドの中央でぶつかり合う。
強烈な熱波が風になってリング全体に吹きわたるが、防護フィールドに阻まれてそれより外には出ない。
《強力な砲撃のぶつかり合い! しかし威力は全くの互角です! 両者の砲撃は完全相殺!!》
1ラウンドが始まってから3分が経過していた。
ハリーは得意の射砲撃で攻め、リオはそれに付き合うように闘っている。
何発もの砲弾が飛び交っているにもかかわらず、2人はいまだにノーダメージだった。魔力消費も熱気も凄まじいはずだが、涼しい顔をしていた。
「ちぃ、やるじゃねぇかよ、ちびっ子ッ!!」
「はい! 頑張ってます!」
あの
それもそのはず、リオはストライクアーツ選手だが、春光拳の使い手でもある。
春光拳は射砲撃も武器戦闘もある『魔導武術』だ。
「雷光縄ッ!!」
「いいっ!?」
リオが右足をリングに叩きつけると、地面から無数のバインド縄がハリーの体に巻き、体を地面に縫い止める。
リオが仕掛けておいた電撃でできたバインドだ。拘束した相手を痺れさせる効果がある。
「あーもう!! ウチのリーダー、バインドかかり過ぎぃ!!」
「ううぅっ!! 素直すぎる性格が仇に……!!」
セコンドが騒いでいる。そんな取り巻き達に、ハリーが声を張り上げた。
「騒ぐな、おめーら!! この程度のバインド、なんてこたぁ……あ?」
強力なバインドは、第1試合でハリーが戦ったエルス・タスミンの方が怖かった。この程度なら数秒もあれば解除出来る。
だがそれよりも、重大なことが起きた。
リング全体が揺れた。
その原因は。
リオが拳をリングにめり込ませたからだ。
「よっ……こい……」
「おいおい、お前、それは……!」
あまりの光景に、ハリーはバインドから抜け出すことを忘れてしまう。
凄まじい握力によって指がリングへとめり込み、
「しょおーーー!!!」
一気に持ち上げた。
負荷に耐えられなかったリングに亀裂が入り、リオの手には、手ごろなサイズと言うには大きすぎる岩塊が出来上がる。
「チームのみんなで約束したんです! 負けちゃったチームメイトの夢は、残った人が叶えるんだって! だから番長にだって負けません!!」
「っ!!」
ハリーは息を飲んだ。次にされることが容易に想像出来たからだ。
「行きますっ!!」
リオの気合と共に岩塊がハリーを襲った。