《り、リオ選手、リングを破壊し巨大な岩塊に! しかもハリー選手はバインド状態! これは絶体絶命か―――!?》
「行きます! 龍王破山墜ッ!!」
「うおおおおおっ!!」
ハリーが雄叫びと共に全身に力を入れる。あれを喰らってしまえばひとたまりもない。全身に巻き付いた雷縄がブチブチと千切れ始めるが、
「どおおおっりゃああぁぁぁっ!!」
それよりもリオの投擲の方が速い。
迫りくる巨大な岩塊に向かって、
「パイルバンカーッ!!」
唯一脱出させた右腕を繰り出した。
只の拳ではありえない、硬い者同士がぶつかり合ったような音が響く。
「ブチ抜けぇぇッ!」
《砕いた! 単車砲撃で、巨大岩塊を粉砕!!》
一カ所が千切れてしまえば、縄を解くのはたやすい。まとわりついた縄を振り払うが、リオはすでに動いている。
「ちぃっ……!」
とっさにハリーが右手に用意した弾丸。それは踏み込んだリオによって腕ごと逸らされ、明後日の方向に飛んでいく。
「虎心掌ッ!!」
リオの掌底がハリーに炸裂する。サラシの中心を打ち据える一撃だが、ハリーは一歩も下がらず、リオの袖をつかむ。
「こ、の……!」
しかしここは反撃ではなく、一度後ろに下がるべきだった。
掌底だったリオの掌は、いつの間にか完全に開かれている。
「絶招―――」
その掌に魔力が集中し、
「紅蓮吼牙!」
発射された。
弾丸を撃ち込むつもりが逆に撃ち込まれていたハリーは、大きく吹き飛ばされる。だが、攻撃はそこで終わらない。
「
「ぐあああ!!」
リオが印を結ぶと、その魔力弾が炸裂した。
《ほ……砲撃!! 岩塊攻撃から格闘戦、そして近接砲! 変幻自在につながる技とあふれるパワー! これが春光拳の戦い方なのでしょうか!!》
リオの予想以上の健闘に、会場全体が盛り上がる。
《ハリー選手はダメージ甚大! 右腕にクラッシュも発生してます!》
今の攻防について、観客席にいるコロナはミカヤと話していた。
「ハリー選手って、上位選手の中では比較的、被弾やクラッシュが多いですよね」
「魔力を防御に回すくらいなら、それを弾丸に回しちゃうような娘だからね。それでも不思議とKOされないし、ライフも無くならない。不思議なタフネスの持ち主なんだよね」
つまりは桁外れに我慢強いタイプだということだ。
タイプでいえばミウラに近いものがある。
クラッシュしていた右肩をかばっていたハリーだったが、すぐに軽く回し、調子を確かめている。
実際にケガをしているわけではなく、あくまで痛みのシュミレートだ。可動自体には問題ないが、気にせず戦える人はなかなかいない。
「侮ってるつもりはなかったんだがな。心のどっかでルーキーだって、ちびっ子相手だって油断があったのかもしれねぇな」
ハリーは左腕に巻いていたチェーンを解く。
「悪かった。ここからは出し惜しみも様子見も無しだ」
チェーン全体に魔力が通され、熱によって赤く染まる。
「全力でぶっ潰すぜ!!」
「(
《リオ選手も剣を装備! ここから武器戦か―――!!》
意志を持っているかのように、鎖はハリーの手から伸びた。
「レッドホークッ!!」
リーチでは完全に負けているリオが迎え撃つ形だ。
「はあああぁぁぁっ!!」
刀身と鎖の先端の重りがぶつかり合い、甲高い金属音が響いた。拮抗することなく、鎖は逸れていくが、
「っ!?」
速度を落とさずに急旋回。もう一度襲い掛かってきた。
《高速で伸びるハリー選手のレッドホーク!! 赤熱の鎖が変幻自在の軌道を描き、リオ選手に襲い掛かります!!》
剣で弾いても、リングに激突しても、魔力弾を当てても、速度は落ちることなくリオに襲い掛かってくる。
しなる鎖はそのまま鞭に、先端の重しは打撃に。鎖全体が高熱を纏っているため、どの部位に触れても大ダメージだ。
いつの間にか鎖に囲まれ始めている。取り囲んだ鎖はそのままリオを閉じ込める檻になる。
「(鎖の攻撃も厳しいけど、それ以上に―――)」
リオはちらりと、鎖の大元であるハリーを見る。
攻撃を始めてから動くことなく、そこに立っているハリー。左手は鎖のコントロールに割かれているが、右手は完全にフリーだ。
「(こっちの動きが止まるのを狙ってる……!)」
足を止めれば、フルチャージされている右手の砲弾が飛んでくることになる。
しかし、いずれは鎖に取り囲まれ、逃げ場が無くなる。
「(なら、追いつめられる前に、まだハリー選手には見せてない雷攻撃でスタンさせる!!)」
《リオ選手突撃! ハリー選手、防御は……》
武器をしまい、電撃が付与された拳をスタンバイさせるリオ。
「へぇ―――」
静電気の様にバチバチと見える電撃に、ハリーは目を細め、頭を振りかぶる。
「雷光拳!!」
「ふんッ!!」
《頭突きだぁっ!!》
鈍い音が、リオの拳の方から聞こえた。
「う、ああ……!」
衝撃を無理やり返されたような感触に、拳を抑えて後退する。
《リオ選手、拳にダメージ! ハリー選手は軽微だ!!》
「炎と雷のダブル変換資質。うらやましいぜ。スゲェ才能だ。だが悪いな。今年の俺は電撃じゃ倒れねぇよ!!」
構えるリオだったが、
「遅えッ!!」
生半可な防御では、フルチャージの砲撃を防ぐことは出来ない。
右手に溜められていた魔力が解放され、極大の『ガン・ブレイズ』が放たれる。
「ぐっ……!」
それでも何とか直撃を避けることが出来たリオだったが、無意味に飛び上がってしまったせいで、レッドホークに狙い撃ちにされる。
「うああああっ!!」
みるみるうちにBJがボロボロになっていく。
攻撃だけでは終わらない。
リオの体中に鎖が巻き付き、体の自由を奪われる。そのまま遠心力を使って振り回され、リングに叩きつけられてしまった。
《ハリー選手の連続攻撃! これは強烈だ!! リオ選手はダウン、1ラッシュでライフは危険域!》
息を切らし、女の子座りになっているリオ。その体にはいまだ鎖が巻き付いている。
《しかも判定はバインディングダウン! このまま立てなければ試合終了。立ったとしてもバインド状態からの再開になります!!》
リオが優勢だった時も盛り上がっていたが、やはりトップ選手であるハリーが活躍するとまた別の盛り上がりになる。
その観客席の一角、
「ハリー選手、あんな技も……」
「あの子は自分の経験を力に変えるのがうまいんだ」
コロナのつぶやきにミカヤが応える。
「何度も戦っているエルス(エルス・タスミン)ちゃんの操鎖術、去年苦汁を舐めさせられたヴィクター(ヴィクトーリア・ダールグリュン)の電撃への対策」
いずれも苦汁を舐めさせられた相手の得意技、代名詞ともいえる特性だ。
「自分の受けた技を1年かけて分析して、組み立てて、自分のものにしていく。ああ見えてまじめな努力型なんだよ」
話していると、
《立ちました! リオ選手、カウント8で立ちました!》
「ち、そのまま座ってりゃいいものを」
「ありがとうございます。それ、『立ってほしくなかった』って意味に受け取ります」
リオの足元に魔法陣が浮かび上がる。自らを拘束している鎖をどうにかしようという訳ではないらしい。
「……因果なもんだよな。俺達はよ。ボロボロになっても、痛くても、動けんなら勝ちにいく。相手が誰でも、負けたくないってな」
ハリーの足元にも魔法陣が浮かんだ。
「オレも同じさ。負けて泣きたくねぇから必死だぜ」
右手に小型の太陽のような密度の魔力、砲撃魔力が顕現する。
「勝ちたいからずっと一生懸命です! 今だって、まだ勝てるって信じてます!」
リオの後ろには炎と雷の魔力、それが龍を模してハリーを威嚇していた。
お互いに最大魔力。リオはバインド状態のため、その場を満足に動けない。正面からの撃ち合いだ。
「ガンブレイズ・フルバーストッ!!」
「双破龍神翔ッ!!」
フィールドの中央で2人の砲撃がぶつかり合った。ミウラの『抜剣』とはまた違った魔力の波動が、リングに吹きわたる。
「ぐ……、うぎぎ……っ!!」
思った以上の威力に、ハリーが押し切れないでいる。
観客やセコンドは、
それは正しく、リオ自身もそう考えていた。その上で、
「行きますッ!」
リオは鎖をしっかりと握りしめ、そう宣言した。
「せえーのぉっ!!」
「っ!?」
左手に持ったレッドホークに強烈な力が加わったことに、ハリーはギョッとする。
「よいしょおーーー!!
「おおお!?」
何とリオは、自らを拘束している鎖を引っ張り、ハリーを引き寄せようというのだ。
リングを持ち上げるほどの怪力だ。少しでも気を抜けば、ハリーの体は持っていかれてしまうだろう。
さらに言えば、リオの双龍破は出してしまえば自動発射。龍の形になっているのは伊達ではなく、砲撃自ら相手に食らいつこうと動くのだ。
対するハリーの砲撃は、オーソドックスなモノだ。右手を砲身として維持し続けなければならない。
リオは両手で、ハリーは片手。砲撃と腕力の力比べだ。
「リオお嬢様! 引っこ抜いちゃってください!!」
「リーダー!! ド根性ーーっ!!」
セコンドからも激が飛ぶ。
「んんんん~~~~ッ!!」
「でええええぇぇぇっ!!」
2人の踏ん張りで、足元にヒビが入る。
両者一歩も譲らない力比べは、金属が砕ける音によって終わりを迎える。鎖が真ん中から千切れたのである。
「この野郎……っ!」
砲撃が避けられる。
鎖が千切れたということは、リオの拘束も無くなったということだ。砲撃を維持する必要がないリオは、その場を素早く動く。
爆炎を切り裂き、ハリーの目の前へ。
「これでフィニッシュですっ!!」
その両手には炎の魔力が集中している。
「絶招ッ!!
「う、お……っ!!」
ハリーは右手で庇うが、重度の熱傷のクラッシュが発生している。ライフも残り5%だ。
「(いけるっ! もう1発入れば―――!!)」
「どォらァッ!!!」
もう1発入る前に、右手の炎弾で足止めされる。しかしそれは、ほんのささやかな威力だった。今の攻撃で、もう右手は使い物にならないことを表していた。
ハリーはリオの襟をつかんで引き寄せる。
だが襟をつかんでいるのは右手だ。少し力を加えれば放してしまいそうなほど、弱い力しかない。
両手でつかみ、思いっきり力を込める。
だが、
「(外れない!?)」
「右手はいらねぇよ。その代わり―――」
鎖が巻き付いた左手を振りかぶり、
「―――こいつを喰らっとけッ!!!」
《ハリー選手、左ストレートォ!! さらに追撃だァ!!》
レッドホークは中距離用の武器だが、拳を守る防具にも打撃武器にもなる。
接近戦まで詰められたハリーの反撃技が、左手の―――利き手の拳打である。
今の連撃で、リオのライフも10%を切るが、
「(そんなの分かってる! 試合のビデオは何回も見たんだから!!)」
それを分かって、リオは前に出る。
「(だからって負けられない! ストライクアーツと春光拳の本領は打撃戦なんだ!!)」
お互い、ライフは残り少ない。近接戦ならこちらに分があると、果敢に前に出るリオ。
しかし、
「油断も加減もしねぇって言ったぜ!! テメェのスタイルにゃ付き合わねえ!!」
ハリーは後ろに後退する。
左の拳打はあくまでも近寄られたときの反撃用。
千切れた筈のレッドホークをリングの地面に突き刺す。
「ッ!?」
それは地面を突き進み、リオの真下から顔を出した。
「真ん中からブチ切れた程度じゃ、オレのレッドホークは死なねぇんだよ! 俺と同じでしぶとくってなぁ!!」
それはリオの雷光縄の使い方によく似ていた。体に巻き付き、動きを止める。
「(動けない!?)うああああぁぁぁッ!!!」
この土壇場での拘束。渾身の力を込め、何とか脱出しようともがく。鎖が悲鳴を上げ、1つ、また1つと音を立てて壊れてく。
「こいつで終わりだ!!」
ハリーの足元に、これまでで一番大きな魔法陣が描かれる。
「爆烈ッ!!」
拳を地面に叩きつける。
「ヴォルガニック・ブレイズッ!!」
「ッ!?」
リオの足元、直下から、とんでもない熱量が吹き上げ―――
《試合終了!! 1ラウンド残り2秒!! 文字通り、熱戦を制したのはハリー選手です!!》
会場から大歓声が巻き起こった。
正面からではなく、遠隔で砲撃を発射するハリーの新技だ。ジークリンデ・エミリアや、ヴィクトーリア・ダールグリュンと戦うための技だったが、本戦前でお披露目することになった。
試合は終わり、選手は退場するのだが、
《おっと、ハリー選手がリオ選手の所へ……?》
ディードに抱きかかえられるリオの近くで腰を落とす。
「よう、このチビ助め。オメーのせいで出し惜しみしとくはずの隠し玉を2つも使っちまったぜ。まったく、とんでもねぇチビだ」
「……っ」
試合が終わり、負けたという事実を認識したリオ。目頭が熱くなり、唇は嗚咽を漏らすまいと震える。
「な、なんだよ。そんな顔すんな! 泣かねぇんだろ?」
「うぅ……っ」
ぐしゃぐしゃと、乱暴に頭を撫でたハリーは立ち上がった。
「強かったよ、オメーは。また近いうちに、今日みたいなケンカをしようぜ」
背を向けて歩き出す。
「試合でも、どこでも、オレぁいつでも待ってるからよ」
振り返って、ニヤリと笑った。
「またな、リオ」
「はいっ! ありがとうございましたっ!!」
そんな2人の姿に、会場から惜しみない拍手が送られるのだった。
――――――チャリン、チャリン