今日の試合がすべて終了した。アナウンスが流れ、明日のためのリングの清掃作業が始まっていた。
お客さんもだんだんと減り始めている。でも、最後まで客席は満席だったな。ま、各予選ブロックのベスト8が出揃う試合なんだし、そのくらいの注目度があって当然か。
まあ、そういう理由もあって、入り口はごった返してるだろうな。聖天子様もいるし、そんな混雑してる場所には行きたくないな。
「そうですね。少し待っていましょうか」
雪菜に話すと、すぐに賛成してくれた。
余ってしまった時間には、やっぱり
「はぁ……終わってしまいましたね……初めて見ましたが、こんなに激しいものなんですね……」
「すごい試合もありましたね。競技選手でもあんなに強い人がいるなんて……」
「はい。やはりここまで来ると、皆様のレベルも高くなっているようですね」
聖天子様、雪菜、コッコロはそれぞれ、試合の感想を言っていた。
聞いた話によると、色々とスカウトの人が来てるっぽいしな。競技選手としてだけじゃなくて、どっかの軍隊だったり、要人だったりも。単純に強い人が集まるから、自分たちで面接試験を行わなくてもいいから楽ってわけだ。
流石にチームナカジマの面々には来ないと思うけど……期待の新星だとしても、いくら何でも小さすぎるし。ジムのお誘いくらいは来るか?
「そうなんですか?」
「色々と細かいルールは決まってるらしいですけどね。無制限に許したら無法地帯になっちゃうんで」
あくまでもこれはインターミドルの大会。実力のある人をスカウトするオークションではないのだ。
選手が健全に競うために、例えばお札で頬を叩くような行為は全面的に禁止になっている。
選手は選手で、スカウトを目的にしている人もいるかもしれないけどね。
「確かに、実力を見るならここ以上の場所は無いかもしれないですね」
「でも、試合で戦えるが実戦で戦えるとは限らないけどね」
雪菜の言葉に俺は軽く返す。
ヴィヴィオちゃんとか、試合だと強いかもしれないけど、ただ単に相手を傷つけるために戦えって言われたら、試合の力の半分も出ないだろうし。
アインハルトと戦ったチャンピオンなんかは全然どっちでも行けるタイプだろうし。
と、電話がかかってきた。クロからだ。
「はいはい? どうした?」
《あ、お兄ちゃん? まだ会場にいる?》
「いるぞー。そっちはもう外なのか?」
《んーんー、違うよ。まだ中。結構人数が増えちゃったからね》
人数が増えた?
増える人と言えば……八神家と今日試合をしたチャンピオンとかか? そりゃまあ、今出てったら大変だろうな。上位選手揃い踏みなんだから。
《そういうこと。それでね》
「んー?」
まだ続きがあったらしい。
《今からご飯に行くんだけど一緒にどうかって、八神さんが》
そういう事か。
――――――――――――――――――――
「稼いでますねぇ、八神部隊長は」
「なっはっはっ! なかなかええ眺めやろ~?」
案内されたのはホテルの上階にあるレストラン。高級店ではなく手ごろな価格でバイキングが楽しめる形式のお店だ。
そこを貸し切ってあった。
窓の外には中々の夜景が見える。いつもはたくさんの人にふるまわれているバイキング料理も、今夜は俺達が独占していた。
「あ、君も好きに食べてな? 多少人数は増えたけど、そこは融通してもらえてるから」
「多少?」
俺はちらりとメンバーを見る。これ多分、当初の想定の倍くらいになってるんじゃないのか?
ヴィヴィオちゃん達チームナカジマのメンバーだけではなく、八神道場の2人。それは序の口で、ハリーとその取り巻き、ハリーのライバルであるエルス、ヴィクトーリアにエレミア。
そこに俺たち一行だ。流石に聖天子様をそんなに遅い時間まで連れ回すわけにはいかなかったから、家に送り届けて俺達だけで来たんだけど。
ちょっと残念そうだったな。やっぱり聖天子様でも、目の前で見たスターには会いたいと思うみたいだ。
「ま、それはしょうがないなぁ」
俺と八神さんが話していると、コッコロが一歩前に出た。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。はやて様」
「あらあら、礼儀正しい娘やなぁ……夜月君、誰との娘?」
「誰との娘でもありません」
俺の年齢でこの年の娘がいるとかありえんだろ。
俺と初めて会う人たちが『マジで?』って顔してるじゃねーか。マジじゃないよ。
「でも先輩だったら、10年後とかに突然、子供を連れた女性が押しかけてきてもおかしくないですよね……」
「主様、ぜひとも節度あるお付き合いをして下さいませ。くれぐれも、で、ございますよ」
雪菜と、コッコロまでもがじっとりとした視線を向けてきた。
そして再び注がれる『マジで?』という視線。これについては……まあ、うん、明言は避けておこうかな。
「おいおい、主様、ってどういうことだ?」
「わ、分かりません。八神さんのお知り合いみたいですから、ああ見えてすっごい人なのかもれないです」
ハリーとエルスがこそこそと話していた。
ああ、そっちね。『主様』もたいがいおかしいよね!
「ミカ姉は知り合いなのか?」
「う~ん、私も知り合いではあるけど、実際どういう人物なのかは分からないな……だが、アインハルトちゃんと綺凛ちゃんが、という話もあったからな……」
「ん? なんだって?」
「……いや、もしもそこまでふしだらな人間なら、周りの大人が止めているだろう。今のは八神さんなりの軽いジョークだよ」
いや、俺は想像を超えるふしだらな人間だよ。
「……ここにいる人、何人が先輩の毒牙にかかるんでしょうね」
「毒牙……まあ、毒牙なんだろうけど……」
雪菜は冷たくそっぽを向いた。
そんなこんなでお食事が始まったが、初顔の人で、得体のしれない俺にわざわざ話しかけてくる人はいなかった。
それよりも久しぶりに会った旧友とお話していた。俺も無理に関わろうって気はない。ヴィヴィオちゃんの原作は比較的平和だし、俺が下手に関わらないほうがいいだろう。
そっちでも知らない事件が起こったら、俺パンクしちゃうよ。
そしてほどほどに時間が経った頃、八神さんが手を叩いた。
「さて、みんな~、食べながらでいいからちょっと聞いてなぁ」
よく通る声に、全員の視線が集中する。
「みんな知っての通り、今日の試合を戦った2人には少し因縁がある。ああ、2人って言うのはアインハルトとジークリンデや」
みんな知ってることなのかな? ま、詳しくは知らなくても、2人の人となりを知っていて、今日の試合の様子を見ていれば、何かあると思ってもおかしくは無いか。
「『黒のエレミア』の継承者、ジークリンデと、『覇王イングヴァルト』の末裔、アインハルト。そしてその2人を繋ぐ『聖王女オリヴィエ』。かつて戦乱の時代を一緒に生きた人の末裔が、今この時代にまた集まってる」
いきなり歴史の授業かとも思ったが、歴史の英雄の子孫が集まっていると言いたいんだろう。
「それにこの場には、『雷帝ダールグリュン』の血統、ヴィクトーリアがいるし、ここにはおれへんけど、もう1人、旧ベルカ王家直系の娘もいる」
名前を呼ばれたヴィクトーリアはスカートを摘まんで一礼する。年季の入った動作だ。幼い頃からの教育の成果だろう。
「これが偶然なのか、何かの縁や導きなのかは分かれへん。そやけど、これはあくまでも老婆心というか、大人側の心配としてなんやけど、これだけ濃密な旧ベルカの血統継承者たちが一堂に会するゆーんは、ちょっぴり気にかかるところなんや」
「……」
八神さんの声が少しマジのトーンになった気がした。
まさか、だよな。
この流れって原作にもあったことだし、それを踏襲しているだけだよな? 何かわけのわからない事件が起こる前振りってわけじゃないよな?
「インターミドルも終わりに近づいて、一番大変な時期や。みんなが事件に巻き込まれへんように私達も守っていきたい。やから、何かあったら相談して欲しいんよ」
八神さんの声色が穏やかなものに戻った。
「大会が終わったら、2人の過去について話し合う場所も作りたいと思うとる。同じ真正古代ベルカの継承者同士、行きたい場所や探したいものがあったら私も全力で協力するよ」
穏やかに笑いながら、そう言うのだった。
―――――――――――――――――――――
そうして再び談笑の時間に戻った。
みんなは集まってアインハルトの話に耳を傾けている。この中で一番昔の記憶を引き継いでいるのがアインハルトだからだ。
「先輩は聞かなくてもいいんですか?」
「雪菜とコッコロで聞いてきてくれないか?」
「えっと……それは構いませんが、主様はどうされるのですか?」
「俺はちょっと八神さんと話したいことがあって、や、変な事じゃないからね?」
「まだ何も言っていませんけど?」
「主様、信じておりますよ?」
雪菜とコッコロはそう言って話の輪の中に加わっていった。
俺は俺で八神さんの近くに行った。
「八神さんも優しいじゃないですか」
「子供を守るのは大人の役目やから。私も、子供のころは一杯助けてもらったし」
今度は自分の番って訳か。
俺も俺で聞きたいことがある。
「で、何か嫌な予感とかあるんですか?」
「ん……」
わざわざみんなを集めて注意するような真似、優しいのかもしれないけど回りくどい。何か心配事がありますと言っているようなものだ。
「というか、ずっと異常が起きてますよね? 8月に入ってから、ずっと」
そう、ずっと正体不明の怪物、『ヤミー』が島中に発生しているのだ。この島にいると不思議なことに慣れ過ぎて、怪物が発生しているのに普通の生活を送ってしまうが、異常事態である。
それについてどう思っているのだろうか。
「はぁ、君にはお見通しって事かぁ……そやね。それもある」
それも? じゃあ他にも何かあるってことか?
「(あの予言に出て来た『時空の魔王』……今調べている文献にはそんな記述は無かったとはいえ、『聖王』、『覇王』、『冥王』からの『魔王』やからな……文献には残っていない何者かがいて、それが古代ベルカ絡みってことも、無いとは言えんからなぁ。用心しておくに越したことはない、っと)」
「八神さん?」
黙り込んで、何か考えてるみたいだけど。
「ん、まあ色々とな。考えることがあるんよ。あの正体不明の怪物についてはこっちでも調べてる。特に何かを狙って暴れているって訳や無いみたい。でも……」
「でも?」
「管理局員や武偵が倒した怪物の強さや発生数のデータをまとめてみたら、どうもインターミドルの会場が中心になってるみたいなんよ」
「それは……このタイミングを考えると、やっぱり出場選手を狙ったものと考えるのが」
「普通やろ? そして、その対象になりそうなのはみんなって事」
みんな揃って、普通の出自ではない。どう活用するのかは分からないけど、狙われる理由にはなり得るな。
とは言え、俺の知ってるグリードは、こんなにヤミーを乱造したりしない。そもそもヴィヴィオちゃん達を狙う理由が無い。
とすれば、誰かがグリードを作り出していることになるけど……
「(『誰か』が作り出してるってことは、そいつは俺と同郷の奴だ。ティアーユ先生にビルドウォッチを渡した奴と同一人物かは分からないけどな)だったら、大会を止めればいいのでは?」
「それがなんとも。何か異常があった訳や無いから、大会を止める訳にもいかなくて」
「証拠がないってことですね」
「今は裏で何かあったらすぐに対応できるように待機してるって感じや」
ま、いつも通り後手に回っているってことか。
でも、アナザービルドと同じってことは、今回のヤミーもアナザーオーズが原因の可能性が高い。
そうなるといくら特務六課のメンバーでも解決することは出来ないだろう。
「何かあったら俺も呼んで下さいよ」
「や、今君は聖天子様の護衛任務中やろ?」
「それは、そうですけど……」
「まあまあ、お祝いの席、ってわけでもないけど、この場でそんな仕事の話はナシにしとこ?」
「いやっ! ……そうですね」
俺としてはアナザーオーズ(多分)の件について、もう少し詳しく聞いておきたかったところなんだけど、八神さんはそれ以上話してくれそうにない。
「で、全く話は変わるんやけど、2日後、空いてる?」
「空いてないですよ。聖天子様の護衛の仕事ですから、あと3日は。何かあるんですか?」
「みんなの試合も終わったことやし、プールに行くんやけど、良かったどうかと思って」
「まさかと思いますけど、ここにいるメンバー全員を誘うつもりは無いですよね?」
エレミアとかヴィクトーリアとか、その辺りも。
「残念ながら、みんなその日は試合やから、いつものメンバーになるなぁ」
その『いつものメンバー』でも、相当の人数になりそうだけどな。
「でも聞いてるよ。護衛の仕事と言い張って街を遊びまわってるって」
「まあ実はそうなんですよ。聖天子様を連れて行ってもいいなら、行けるんですけどね」
「別にいいよ? 許可が下りるんなら」
そもそもお出かけ自体、見逃されているものだからな。どこにも許可を取ってるわけじゃないし。
問題は聖天子様の意思だ。別に拒否はしないだろうな。
「じゃあその時は連絡してな」
「分かりました」
そう言って八神さんとの会話を終わる。
「先輩」
「主様っ」
戻ってきた雪菜とコッコロ。
「どうだった?」
「そうですね、要点をかいつまんで……」
2人に聞いたところ、俺の記憶にある話と、アインハルトの話に大きな違いは無かった。やっぱりその辺りは、変更されていないってことだな。
「それで大会が終わったら、無限書庫? という場所で、昔のことについて調べ物をすることになりました」
そこも変わらずか。俺も八神さんと話したことについて2人に報告する。
「私は別に構いませんよ」
「はい。聖天子様も賛成してくださるでしょう」
2人はプールに行くことに賛成してくれた。
こうして、今度の予定が決まるのだった。
活動報告に登場人物設定を載せました。興味があればどうぞ。
載せた情報以外で質問があれば追記していきます。