「おー! すごいな! モモ! 見たことない動物がいっぱいいる!」
「……行きたい場所って、動物園だったのね……はぁ」
ナナとモモの周りにはたくさんの子供連れがいる。
ここは確かに動物園だが、ただの動物園ではない。絶滅してしまった動物、絶滅の危機にある動物の遺伝子を複製し再び繁殖させようという実験室でもあるのだ。
環境的な目的とともに、動物の生態や機能を人の生活の役に立てようという目的もある。
強化ガラスの向こうには動物園の定番の動物から、野生ではもう見られなくなった動物までそろっていた。
その内、リアルジュラシックパークになる可能性も秘めている施設なのだ。
「はぁ……」
モモはため息を吐きつつ、髪の毛を弄っている。クセっ毛の髪先を指先に巻き付ける。モモの癖だ。
「何だよ、モモ。そんなにつまんないのか?」
「私はあなたと違うもの。まあ、興味深いとは思うけど」
少なくとも周りの、二桁の年齢にも満たない子供の様にはしゃぐことは無いのだ。
それにもう1つ、ナナには楽しめる理由があった。
「そっちだって植物と喋ってればいいだろ?」
「機械管理されて育った植物って、会話にならないのよ。単純なロボットと喋ってるみたいで」
「へー。大変だな~」
「あなたね……」
ナナにはデビルークの中でも特別な力、世間ではレアスキルと呼ばれる特殊能力を持っている。
それは、動物と意思疎通出来るという能力だ。そのおかげで小さい子供の様に動物に声をかけたとしても、それは本当に会話しているという事なのだ。
そのナナに対抗するように、モモは植物と会話するレアスキルを備えている。
ナナの能力に全く劣らないが、本人の言ったようにこの場ではあまり役に立たないものになっていた。
「別にいいわよ、私の事は。今日はあなたのお守りで来てるんだから」
「はーっ、はいはい。そーですかー」
双子だというのにいつもお姉さん顔してくるモモに、いつも通り適当な返事をする。
「(ったく、そもそも双子なんだから『どっちが上』なんてないだろー)……ん?」
ナナは気が付いた。
よくある光景だ。ガラスの向こうにいるライオン。手を伸ばせば届きそうな距離にいるそれに、しかし絶対に触れることは出来ない。
だがそんな簡単なことも、小さい子供には分からない。
壁の張り紙に、『ガラスを叩かないでね』とポップな字体で書かれていたとしても、子供には理解することが出来ないのだ。
だがナナには、ライオンの気持ちが分かる。少し疲れていて、休みたいと思っていることが分かった。
「まったく、しょうがないな……」
本来注意するべき子供の親は、近くに見当たらない。
ナナは注意してやろうと、その子供の方へ歩き始める。
「おいっ! そこの―――」
声をかける直前。
「君、ダメだよ」
「あ」
それよりも先に、施設スタッフの制服を着た少女に、子供は注意された。
「ガラス叩くと、ライオンさんびっくりしちゃうからね」
「う、うん」
「お父さんとお母さんは? 近くにいるの?」
「え? あ、あれ……?」
「―――やっと見つけた!!」
人込みをかき分けて1人の女性が走ってくる。子供の母親だ。
母親は何度も頭を下げて、子供を連れて行った。
「あなたの出番はなかったみたいね……ナナ? どうしたの?」
「あいつ……」
ナナの興味は子供から今注意した少女に向いていた。
「これで静かになったね。疲れたならもう少し奥に行ったほうがいいと思う。ん、それじゃあ」
一見、言葉の通じない動物に適当に声をかけているだけのようにも見える。
だが、ナナには分かった。同じ能力を持っているナナにははっきりと。
「お、おいっ! お前っ!」
「え? 何か?」
思わず声をかけていた。
「お前さ! もしかしてお前もっ、動物と話せるのか……!?」
「……お前も? じゃあ、あなたも?」
スタッフの服装の少女―――春日部 耀も、その短いやり取りですべてを理解した。
――――――――――――――――――――――
「へー、そうなのか」
「うん。私はこのペンダントが無いと動物とは話せない」
「これって何かの『れいそう』? なのか?」
「んー、私も詳しいことは知らないんだけど……」
同じ能力を持つ者同士、耀とナナはすぐに打ち解けた。希少な能力だったからこそ、今まで家族ともできなかったような話も出来たのだ。
この短時間で、お互い名前の呼び捨てをするほどの仲になっていた。
2人と1人、耀とナナが話し込んで、モモは完全に忘れられている。
この夏、耀はこの動物園の警護の任務に就いていた。貴重な動物が密猟者や企業スパイに盗まれないようにという護衛だ。
館内をくまなくパトロールして、異常があればそれに対応する。ナナはそれについて回っている。
「えと、春日部さん? お仕事のお邪魔でしたら……」
「大丈夫。人と話してるくらいなら、私の感覚は鈍らないから」
「はぁ……」
モモが、あまりにもグイグイと迫るナナを見かねて声を上げるが、耀は首を横に振る。
それらを活用すれば、ただ歩いているだけで周りの情報すべてを知ることが出来た。
「ずるいよなぁ。話せるだけじゃなくてそんなことも出来るなんてさぁ」
「えっへん」
「お仕事中なら、おしゃべりしているのはどうかと思いますけど」
モモの呟きも当然聞こえていたが、問題児の耀が気にすることは無かった。
しかし、そんな耀の探知をすり抜けてくる人物がいた。
「あれ? 耀ちゃん?」
「え? どうしてここに?」
「やだなぁ、そんなに警戒しなくてもいいでしょ? お姉ちゃんもいないし、今日は何かしようってわけじゃないんだから」
赤毛のおさげを揺らす少女、メアだ。
メアの言葉はウソではなかった。
武偵高校に通っているメアだったが、別に武偵になろうという訳ではない。多くの学生が受けている依頼も受けていなかったが、それが災いしてこの夏は暇を持て余していたのだ。
「お前の知り合いか?」
「え、う~ん……」
「もしかして、コイツも動物と話せるのか!?」
「動物と……?」
流石の耀も即答することが出来ない。メアはメアで、いきなりの単語に首を傾げていた。
翔から説明を受けていると言っても、耀は直接の被害を受けたわけではない。厳密にいえばアゼンダの件に関わっているので、まったくのゼロという訳ではないのだが。
だが、面と向かって話すのは初めてだ。
「あ~、ごめんな? 耀の知り合いだっていうから、てっきりお前も動物と話せるのかと思ってさ」
「う~ん? 全然気にしなくていいよ。でも、動物と話せるって?」
「おう! 実はそういう能力を持ってんだ! 例えば……」
ナナは手ごろな動物を指さす。
「アイツなんかはな、「お腹が減った」―――って! オイ! 何で先に言っちゃうんだよ、耀!」
「ごめん。ついとっさに」
「素敵! 2人共楽しそうだね!」
メアは無邪気に目を輝かせる。
「えへへ、まあな! ……そうだ! 良かったら一緒に回ろうぜ! っと、まだ名乗ってなかったな。あたしはナナ・アスタ・デビルーク。ナナって呼んでくれ!」
「ちょ、ちょっとナナ! 春日部さんの時も言ったけど、そんな簡単に名乗って……!」
デビルークと言えば、かなり有名な名前だ。尻尾は隠しているとはいえ、特徴的な双子であることには変わりない。
この人込みであまり大っぴらに名乗るのはよろしくない。
そう考えているモモの注意だが、
「もちろんいいよ! 私はメア。黒崎メア」
「メアか! よろしくな、メア!」
「うん! よろしくね、ナナちゃん!」
メアは特に意に介した様子は無く、周りの人は動物の方に夢中だ。
メアは珍しく難しい顔をしている耀を見る。
「春日部さんも仲良くしよ?」
「そうだね。あなたが何もしないなら」
向こうに戦う意思がないのなら、耀も戦う気はない。
「(ここには人も動物もいるし、そもそも私じゃ勝てるか分らないしね)」
ならば楽しむしかない。なんだかんだ言っても、動物の声がわかるナナと一緒に遊ぶというのは、いつもの悪戯とは違った面白さがあるのだ。
いや、そもそも仕事中の耀が遊ぶというのはいけないのだが……この問題児に何を言っても無駄である。
人数を増して、より楽しそうに歩き出す3人。
そしてただ1人、
「……もう、いいわ」
モモは疲れた声を出して、動物達を流し見た。
「(ま、ナナが楽しめてるならいっか)」
思いがけずできてしまった繋がりに、モモは心の中で独り言ちた。そしてお姉さんモードになった。ナナを見守るモードだ。
「でも……」
どうしても退屈だという気持ちを拭うことは出来ない。
「はぁ、うまくいかないものね」
姉のララは、少し外に出ただけで中々に刺激的な体験をしたようだが、お子様の多い動物園ではそれも望めない。
ため息を吐きながら、3人の後に続いて歩くのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
「あー……今頃部隊長はインターミドルの会場ですかねぇ」
「かもなぁ」
「高町さんとテスタロッサさんも一緒ですかねぇ」
「だろうなぁ」
「暇ですねぇ」
「それは良いことだなぁ」
ここは六課の事務所。特に出動要請は出ていないため暇な時間だ。つい最近まで妹達の処理で忙しすぎたのだが、それが終わって見ると、すっかりやることが無くなってしまった。
しかし管理局は一般企業ではない。
祝日や土日関係なく、事件に備えていなくてはならない。
特に警戒が厳重になっている今は、六課にお呼びがかかることも少ないのだが、今日は蛇倉が当番だった。
「どうなんでしょうね、謎の怪物騒ぎ」
「今の所大丈夫なんだろ。特に被害が出てるって話は聞かねぇからな」
「そうじゃなくて……なんか、噂では管理局に裏切り者がいるらしいじゃないですか。謎の、って聞くと疑っちゃいません? こっちに情報が来てないだけで……」
「やめとけよ。余計なことに首を突っ込むと寿命を縮めるぜ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ」
蛇倉と部下はお茶をすする。
「お茶のおかわりはいるかしら」
「ああ、ラムちゃん。よろしく~」
「俺にもよろしく」
急須を持って現れたラムに、部下は鼻の下を伸ばした。
双子のメイドはすっかり六課のアイドルになっていた。最初の内はまじめな局員が、公務機関にメイド服を着たガチメイドさんがいるのはいかがなものか、と言っていたが、今ではこの通りだ。
特に男性局員から(当たり前だが)支持を得て、今ではヤル気の向上に一役買っている。
「蛇倉さん、俺、この部隊に配属されてよかったです……!」
「だろ? だから最初から賛成してればよかったんだよ。まじめなだけじゃ息が詰まるぜ?」
「勉強になりました!」
休憩を終えた部下は仕事に戻っていく。
「どれ、俺も戻るかな」
「本当に暇してるのね」
「まあね。そっちも、今日は片割れの姿が見えないが?」
「レムはお休みよ。出社している人が少ないからお休みをって、部隊長が」
「(つーことは、今日の掃除は微妙ってことか……)」
「なに、何か言いたいことでも?」
「いや別に?」
メイドはどちらも人気だ。レム派とラム派が作られるくらいには大人気だ。しかし、メイドとしての腕も、すっかり知れ渡っている。
今や、六課の生活機能はレムがいなければ成り立たないほどになっていた。レムもレムで、自分の世界とは大きく違うこの世界に、しっかりと順応して結果を出していた。
よし行くかと立ち上がった蛇倉だったが、
「ん? んー」
「何処に行くのよ、仕事部屋はそっちじゃないでしょ」
「ん、茶ぁ飲んだら、トイレに行きたくなっただけだ」
蛇倉は軽く手を振って、休憩室を後にするのだった。
―――――――――――――――――――
学園島から遠く離れた無人島。うっそうと茂ったジャングルの中に、その場にあるはずのない建造物があった。
それは本来砂漠の国にあるはずのモノ―――黄金に輝くピラミッドだ。
その中にある巨大な空間。そこで生きている人間は2人しかいなかった。
「決行は最終日にしましょう」
「ふむ」
そのうちの1人、長い三つ編みの美女が、もう1人を見上げながら提案した。
ミラミッドの中に、ピラミッドがあるような構造。内部のピラミッドの頂点には、王が座るための椅子がある。
そこに座っているのは、ツンと高い鼻と切れ長の目の、おかっぱ頭の美人だ。
三つ編みの美女は、一番下から見上げている格好になっている。
その絵を見れば、この場でどちらが偉いのかは一目瞭然だった。おかっぱ頭の美人は玉座にふんぞり返りながら続きを促した。
「情報によると、これまでの動向を見て最終日だけ懇親パーティが開催されることに決まったらしいわ。その分、上と下で警備が分断される」
「むう、妾の力があれば、警備の数など物の数ではないのぢゃが」
「それでも、慢心はいけないわ。それに情報では夜月翔もそこに居る。彼は下の警備らしいけど、何かあれが必ず首を突っ込んでくるわ」
「例の異世界から来た男か? それほどの脅威なのかのう?」
おかっぱ美人は不満そうだが、自分で代案を出すつもりは無いようだ。
「あなたのスフィンクスは、強いけど無敵ではない。まず間違いなく各国の護衛は追って来ないとしても、夜月 翔は別よ。もしかすると奪還されるかもしれない。当日は私も行くわ。念のためにね」
「ま、すきにせい。妾は当日ここにおる。兵隊はいくらでも送りこんでやるからのう。なにせこの場にいれば、妾の魔力は無限ぢゃ」
おかっぱ美人の高らかな笑い声が、ピラミッド内部に響き渡るのだった。
これで会話は終了だと、三つ編み美女は耳に付いている通信機を指先で叩いた。その向こう側にいる人物は、何も答えず、通信を切るのだった。
ちょっと足りなかったので、メインの後に付け足しました。
活動報告に登場人物設定を載せました。興味があればどうぞ。
載せた情報以外で質問があれば追記していきます。