そして最後の日。パーティが開催された。
参加人数はあまり変わっていないみたいだ。せっかくの貴重な交流の時間だ。襲撃の可能性は島のどこにいたって同じだ。だったら出席しようという考えなのだろう。
まあ、集まってくる面子も、変わらずだったけど。
「聞いたわよ、聖天子。パーティが開かれていない期間、ずいぶんと楽しんでたみたいね。あの護衛の人も一緒に」
「あはは……」
ラ・フォリアがニコニコと俺達を見ながら言ってくる。聖天子様が返すのは苦笑いだ。俺達の外出は非公式だ。まじめな聖天子様にとって、ちょっとした弱みのようなものになっているんだろう。
「んん?」
でも顔がほんのりと赤く染まっている? 俺の方をチラチラと見ながら?
「先輩、何かしたんですか?」
「そんな覚えは無いけど」
「本当ですか?」
「う~ん……無いなぁ」
「先輩は本当にいやらしいんですから。無意識のうちにそういう行為をしているのかもしれませんよ? よく思い出してください。訴えられてからでは遅いんですから」
「無意識でやるようになったら、本当に病気だよ!」
俺と雪菜がこそこそと話していると、コッコロが一歩前へ出た。
「おはようございます、ラ・フォリア様。はい、わたくし達、あの後も連日お出かけしていました。とても有意義で、楽しい時間を過ごすことが出来ましたよ。最終日の昨日は、主様のお知り合いの皆様と一緒にプールにも―――」
「―――プール?」
聖天子様がサッと顔を伏せ、ラ・フォリアの目がキラリと光った。
そこに、
「おいっす~! 皆さん、元気にしてましたか~?」
相変わらず元気いっぱいのユースティアナ殿下。その後ろには護衛の騎士も一緒だ。
「いやはや、久しぶりだな、翔。ここ最近、暇すぎて死にそうだったよ」
気楽に手を上げて近寄ってくるのはライネス。当然銀色の体を持つメイド、トリムマウを引き連れている。
「お久しぶりです、皆さん。それで聖天子、昨日までのことについて詳しく」
「い、いや、詳しくと言われても、普通に遊んだだけで……」
「普通? 申し訳ないのだけど、私、プールで遊んだことが無くって。『普通にプールで遊ぶ』って、具体的に何をしたの?」
「ラ・フォリア、あなたね……」
ニコニコと楽しそうに笑うラ・フォリア。付き合いの長い聖天子様でなくてもわかる。あの笑みが何を表しているのかが、はっきりとわかる。
何か面白いことが無いのか、舌なめずりして探しているんだ。
それをこの、図ったようなタイミングで。
「昨日までの事? あっ、もしかして、聖天使ちゃん昨日どこかにお出かけしていたんですかっ!?」
「そしてそれには翔も一緒だったと。一緒に遊びまわっているのは知っていたが、それはそれは愉快なことがあったんだろうなぁ」
ラ・フォリアは、わざわざ詳しい説明をせずに話の先を求めることで、2人の興味を引いたんだ。
まあでも、そんな面白いことがあったのかって言われると、そうでもないんだけどね。
もちろん、聖天子様がスク水を着てきたのは面白いというよりも驚いたところなんだけど。それを言う必要ないよね。
ああ、そうか。聖天子様が言い淀んでいたのはそのことがあったからなのか。
「そうですね。広いプールで泳いだり、浮き輪で浮かんだり、流れるプールだとか、あとウォータースライダーに乗ったりですね」
「っ」
「……聖天子? どうかした?」
「い、いえ。なんでもありませんよ?」
何かを感じ取ったのか、聖天子様は息を呑んでいた。しかし慌てる理由は何もない。言ったことはすべて真実だからだ。
「(翔さんが気にしていないのなら、私もあの件に関しては忘れることにしましょう。はい)」
「そうですか……残念です。もっとハプニングが起こったのではないかと期待したのですが……」
「起こっていませんよ。はい」
聖天子様はしっかりとした笑顔で完全に否定してくれる。これで名誉は守られた。
「しかし、1日中外で遊んだにしては、聖天子は日焼けしてないようですね。日焼け止めを塗ってあげたのはあなたですか?」
「そんなことするわけないでしょ」
どうあっても、ラ・フォリアは『何かあった』ことにしたいらしい。
「プールですかぁ、毎日暑いですし、私も行ってみたかったです」
「ユースティアナ様は何をされていたのですか?」
コッコロの問いに、ユースティアナは自らの両頬に手を添えて答える。
「私は毎日食べ歩いてました! いや~。この島はいいですねぇ。世界各国の料理が食べられちゃうんですから。まさに、ご飯の宝島です!」
色々な味を堪能したんだろう。幸せそうに笑うユースティアナは、空白の時間をとても有意義に過ごしたみたいだ。
「はぁ……うらやましい限りだ、ユースティアナ陛下」
「あら? ライネスはあまり楽しく過ごさなかったのかしら?」
ライネスの深いため息にラ・フォリアが反応する。
「ああ。そもそも私がこの島に来たのは、パーティでこの男に会うためだったんだが、知っての通りパーティは中止。元々の予定はすべておじゃんだ。兄上には仕事の邪魔をするなと言われ会いに行くのを止められるし……」
ウェイバー、それは本当にナイスだ。
「ウェイバーさん、ありがとうございます……」
雪菜も目を閉じて感謝の祈りを捧げていた。
そうした、まさにパーティにふさわしい、なごやかな会話をしていると、
「「「「ッ!?」」」」
勢いよく扉が開け放たれた。おまけに窓もぶち破られる。そこからわらわらと怪物がなだれ込んでくる。
「また襲撃かよ……!」
でもヤミーではない。しかし人間でもなかった。
全身が真っ黒の体をしており、腰に茶色い布を巻きつけているだけの姿。手には先端が湾曲した刀を持っている。そして頭が犬だった。
犬男がいた。
「あらあら、そういう予感はしていたけど」
「また襲われちゃいました! やばいですね☆」
「ははっ、再開したとたんに襲撃とは! 呪われているな!」
ラ・フォリア、ユースティアナ、ライネス。お姫様方は呑気だが、パーティ会場はまたしても襲撃されてしまうのだった。
―――――――――――――――――――――――
場所は変わり、ここは最上階の会議室。パーティとは違い連日開催されていた会議も、今日で最後になっている。
いくら話しても尽きない話題のおかげで会議がダレることは無いが、疲労が積み重なるのは避けられない。
そんな人たちの退屈を吹き飛ばす存在が現れる。
凄まじい轟音と共に屋根が無くなる。そこから顔を覗かせるのは巨大なスフィンクスだ。
「ほー」
「あら……」
「んん?」
一般人ならすぐさま腰を抜かし、多少腕に覚えのある人物でも次元の違いに腰を抜かしているところだ。
明らかに異常な事態だが、各国の要人の反応はのんびりとしたものだった。いざとなれば自分の身は自分で守ることが出来る。その自信からの態度だ。
しかし、護衛としてこの場にいる人たちにとっては、そんなにのんびりしている訳にはいかなかった。全員が一瞬で防御態勢をとる。自分たちの護衛対象に指一本触れさせないという姿勢だ。
スフィンクスの狙いがどこに向くのか、それとも無差別な攻撃になるのか、一瞬の緊張の後―――狙いが定められた。
視線が向けられるのはイギリス代表が座っている席。
「キャーリサ様―――!!」
アリアは銃を抜いてキャーリサ様とスフィンクスの間に立つ。銃なんかで太刀打ちできないことは、特に分析しなくてもわかることだったが、アリアは銃口を向けた。
迷い無く引き金を引くが、スフィンクスの速度はちっとも変わらない。二丁拳銃から吐き出される鉛球がひしゃげて落ちていく。
「え―――?」
アリアは気が付いた。
スフィンクスがこちらを見ている。アリアと視線がぶつかったのだ。しっかりと目が合った。後ろにいるキャーリサでも、他の国の要人でもなく、アリアをまっすぐと見ていたのだ。
「(ま、まさか、こいつの狙いは―――!!)」
「―――!!!」
一気に加速するスフィンクス。前足が凄まじい速度で振るわれる。
「っ、ぁ……!!」
成すすべなくその前足に捕まるアリア。
目にも止まらない速度だったにもかかわらず、掠り傷一つなく、前足につかみ取られていた。繊細な力加減で、逃げられずしかし怪我も追わない程度に。
「(やっぱり私だ……!! それに殺すんじゃなくて捕まえるためのっ!!)」
ほんの10秒程度の出来事だった。
『神崎・H・アリアを捕獲する』という目的を達成したスフィンクスは、その場から飛び去って行く。
ずいぶんと風通しの良くなった会議室は、静寂を取り戻していた。天井が無くなったことで空調が無くなり、代わりに天然の風によって新鮮な風が入ってくるようになったが。
会議中、とある理由でひそかに注目されていたアリア。そのアリアがさらわれたという事実、そしてそれを行った下手人について、要人達は考えを巡らせる。
そうしていると、息を切らせて会議室に駆け込んでくる管理局員がいた。
「ま、また襲撃です! 今回は前回よりも激しく―――なっ……!」
飛び込んできた管理局員は空が見えるようになってしまった室内に絶句している。
「ああ。もう、遅かったようだぞ?」
連れ去られた自らの護衛の身を案じるでもなく、面白いことになりそうだと笑うキャーリサだった。
―――――――――――――
「何ですって!?」
無線からの報告に、楯無は声を張り上げて問いかける。
《上階までの通路に、エジプト式の使い魔が多数!! 今のところは要人に死傷者は出ていません!》
「その次!」
《最上階会議室に到着しましたが、下の階の使い魔よりも強力なスフィンクスが存在したようです!》
「『存在していた』!? 今はもういなくなってるってことッ!?」
窓から入ってきた砂の使い魔を薙ぎ払う。
《いえ! スフィンクスは護衛の1人を拉致したのち、すぐにその場からいなくなったようで……》
「(この状況で拉致……しかも護衛の1人をわざわざ……狙いはそっちか!) 攫われたのは誰ッ!?」
《神崎・H・アリア!! イギリスの護衛として雇われていた武偵です!!》
「何ですって……!?」
アリアが攫われるという事実、今戦っている相手の術式系統を元に、今どういう状況なのか、敵の本当の目的を推測する楯無。
すぐに1つの可能性に行き当たる。
「(今なら追いつけるか……?)分かったわ! あなた達はそのまま要人の警護、建物内に侵入した使い魔を殲滅して!」
《更識さんはどうするんですかっ!!》
「私はそのスフィンクスを追いかけるわ!!」
空を駆けるスフィンクスだが、ISを纏っている楯無なら追いつけるだろう。
しかし、管理局員には分からない。仲間を見捨てない姿勢は大切だが、襲撃を受けているこの状況で隊長である楯無が護衛1人の救助のためにこの場を離れる必要があるのか。
《しかし……!》
「詳しい事情は話せないけどっ、ここは任せるわ!」
楯無は通信を打ち切って窓の外に目を向けた。
―――――――――――――――――――
「雪霞狼ッ!!」
槍を持つ雪菜が軽快な足運びで犬男を薙ぎ倒す。プリンセスナイトの力で強化されていることもあって、もう無双状態だ。
でも、無双しているのは俺も同じだった。
俺はエクシアを身に纏い、2本のGNブレードを振り回していた。青を基調にした装甲にGNドライブの粒子を飛び散らせ、2体の犬男を切り捨てる。
倒された犬男はさらさらとした、砂漠にあるような色合いと感触の砂になる。
「主様っ!!」
「ああッ!!」
聖天子様を守ってくれていたコッコロに迫る犬男。そいつに向けて右手のGNブレードを投げつける。
「―――!!」
体に突き刺さるが、消滅には至らない。だが動きは止まった。
「はああぁぁっ!!」
一気に近づいて、GNソードで切り裂いた。
「翔さん!」
「聖天子様はコッコロの後ろに!」
「はいっ! 頑張ってください!」
「聖天子様はわたくしがお守りいたしますっ」
両手で槍を構えているコッコロ。その顔はヤル気に満ちている。
全体を見回すと、前回の襲撃の経験が生きているのか、混乱の中でもみんな善戦している。
プリンセスナイトの強化の効果もあるかもしれないけど、この無尽蔵に湧き出てくる敵相手に良く戦えている。
敵の中心で暴れまわっていた雪菜が戻ってきた。
「先輩っ! あぅ」
「ああ雪菜、あんまり背中と背中をくっつけると」
背中合わせになろうとすると、エクシアのGNドライブの出っ張り部分が雪菜をつんつんしてしまう。そう言えば、これはどういう構造になっているんだろう。胸から背中にかけて、俺の体を貫通してGNドライブがあるはずなんだけど?
どうでもいいことを考えていると、背中を押さえた雪菜がちらりとこちらを振り向いた。
「背中、出っ張ってるんですね……っ」
「ごめんごめん。や、それにしても……」
「手ごたえがありませんね。あのヤミーとは違うってことは、誰かが襲ってきているはずなのに……」
ヤミーについてはみんなに説明済みだ。
「中途半端過ぎるよな」
「そうですよね。いたずらにしては規模が大きすぎますし……だとすれば……」
「陽動か、足止めだな」
だとすれば、本当の狙いは何なのかってことになるが……俺の中では1つの予測が立っている。
「ん?」
前線で、雪菜と同じくらい暴れまわっていた楯無さんの手が止まっている。耳に手を当てて、何処かと通信しているのか?
「どうしたんですかっ! 楯無さん!」
何処かと通信していた楯無さん。それが終わると窓の外に目を向けていた。
「アリアさんが攫われたわ」
「ッ!?」
楯無さんの言葉に、俺は息を呑む。そして続けてしてもらった状況説明に、俺はある種の確信を得た。
原作とは全く状況が違うが、この砂で出来たアヌビスの様な敵、それをここまで無尽蔵に投入できる相手は限られている。
しかもアリアが攫われたとなれば、おそらく相手は『イ・ウー』のメンバー、砂礫の魔女『パトラ』だ。
「イ・ウーですか」
「あなたもそう思うのね」
「確信してますよ。いろいろと調べてますからね」
なら話が早いと楯無さんは、
「ここを任せてもいいかしら。私はアリアさんの救出に行ってくるわ」
「俺も行きます」
「気持ちは分かるけど、あなたまで来たらここの守りが薄くなるわ。あなたの力を信用して言ってるの」
力だけだろうと信用してくれると言ってくれるのはうれしいけど、こっちも引けない理由がある。
「俺も楯無さんのことは信用してますけど、何があるか分かりません。もしかしたら、伏兵がいるのかも」
おそらく、いる。この攻撃がパトラによるものだとすれば、間違いなく『カナ』がいる。アリアを攫って行ったのは巨大なスフィンクスという話だが、そこにカナが加われば、どうなるか分からない。
楯無さんでも苦戦、もしかすると負ける可能性もある。カナだってこの世界でそんな強化を受けているのか分からないのだ。
「ついてくるのはいいけど、私のISの速度についてこれるのかしら?」
「それはご心配なく。空を飛ぶ手段は自前で持ってますから」
そう言うと、楯無さんはあっさりと納得してくれた。同行を許してくれるらしい。断ってもついて行くつもりだったので、協力出来るのは都合がいい。
だが、ここを離れる前に言っておかないといけない。
「雪菜、コッコロ! ごめん、ここ頼む!」
「先輩!?」
「いったいどこに行かれるのですか!?」
「上にいるアリアが攫われた! 敵は飛んでる! これから楯無さんと一緒に取り返してくる!」
空を飛んでいる。その一言に、雪菜は悔しそうな顔をする。雪菜には空を飛んでいる相手と戦うための手段が無いのだ。
それはコッコロも同じだ。
「……わかりました。気を付けてください、先輩」
「聖天子様はお任せください。わたくし達がしっかりとお守りいたしますので」
「ごめん、任せた!」
俺は窓の傍に待っててくれる楯無さんに走っていく。
「夜月君、早く! ぐずぐずしていると、どんどん距離を離されるわ!!」
「はいっ!」
俺はGN粒子を、楯無さんは水しぶきを飛ばしながら、2人で空に飛び出した。