「始まったみたいだな」
遠くからビルの様子を眺めている男―――蛇倉がいた。
外からでは中がどれほどの騒ぎになっているのか分からない。だが、ビルの壁面を登る砂の使い魔を見れば、どうなっているのかは大体想像出来る。
しばらく観察していると、巨大なスフィンクスがビル最上階へと取り付く。あそこでは一番重要な会議が行われていると、蛇倉は記憶していた。そして、今回の目的の人物がいることも。
すぐにスフィンクスはビルから離れる。蛇倉の驚異的な視力が、スフィンクスの手に包まれているピンク色のツインテールを捕らえた。
「案外あっさりしてたな。こりゃ、俺の出番は無いか?」
呑気なことを言うが、その数分後、ビルから2つの影が飛び立っていくのが見えた。片方は今の同僚、更識楯無とミステリアス・レイディ。もう1つは見たことも無いパワードアーマーだ。
男―――蛇倉正太は口元を歪めて笑う。その歪みは体全体に及び、その姿を変える。胸元に三日月形の傷がある怪人、ジャグラス・ジャクラーへと。
「ならしょうがないなぁ。俺も、最後の仕事を始めるとしようかね」
手に持ったダークリングが怪しい光を放ち、ジャグラスの顔を照らした。
―――――――――――――――――――
陸路と違って道路のない空。行こうと思えばどの方向にでも行けるが、同時に障害物も無い。さらにスフィンクスはとてつもない魔力の塊だ。探知は全く難しくなかった。
俺達は迷いなく直進し、敵を見つけた。
「あれか……!!」
「目的は分かってるわね!」
「もちろんです!」
前足に包まれているアリアは気絶してしまっているみたいだ。
よほどアリアのことが大切なのか、前足2本を使ってしっかりとアリアを抱えている。
「このッ!!」
俺は牽制にGNソード・ライフルモードのビームを連射する。それはスフィンクスの大きな頭に命中するが、特にダメージがあったようには見えない。
だが、俺達のことを認識したようだ。
――――GYAAAAAAAAAAA!!!
咆哮が空気を揺らした。
しっかり俺達を敵と認識している。反転して向けられた顔は敵意に満ちていた。
逃亡ではなく攻撃を選んだらしい。
大きな口を開けて突っ込んでくるスフィンクス。
「ッ!!」
「おっと」
だが、アリアを抱えているからか、そこまでスピードは速くない。俺達は難なく回避する。
「時間はかけられないわよ」
「俺の『右手』を使います」
「右手……あの能力ね。分かったわ」
右手、という単語だけで、俺が何をしようとしているのか察してくれたみたいだ。
「私が隙を作るわ。そこに叩き込んで」
「了解です」
俺達はお互い別の方向に散開する。俺は何もせず、楯無さんはバルカン砲を連射することで、スフィンクスの気を引いている。
だが、相変わらずダメージは与えられていない。鬱陶しい豆鉄砲を潰したいのか、顔面に弾丸を食らいながらも、楯無さんを噛みちぎろうとしている。
傍から見ればギリギリの回避だけど、その顔には全然余裕がある。流石の飛行技術だ。
噛みつきによる攻撃も、
「はッ!!」
槍で受け流し、掠り傷一つ負わない。
「空中だとあんまり威力が出ないんだけどね」
気が付くとミステリアス・レイディの水のヴェールが薄くなっていた。
「あの技は……」
ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象物へ散布し、ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす。その衝撃や熱で相手を破壊する技。
「
スフィンクスの周りで爆発が起きる。
回避しながら、ナノマシンを散布していたんだ。
それにしても、
「ア、 アリアに当てないで下さいよ!」
「あら。お姉さん、そんなに下手じゃあないわよ」
確かに、スフィンクスが前足をかばっていることもあって、アリアには命中していない。例えアリアを立てにしていても、アリアを巻き込むことは無かったんだろうな。
「でもダメージは与えられてないわ。チャンスは今しかない! 突っ込んで!!」
「はいッ!!」
エクシアは一気に加速する。
スフィンクスはどんなに強くても、あくまでも魔力の塊。俺のこの『右手』には敵わない。
「うおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」
「――――――!!!」
パキンッ!! と、スフィンクスを構成する術式を破壊する感触がした。
触れた瞬間にスフィンクスは動きを止め、魔力が霧散し始める。その前足からするりとアリアが落ちたが、
「おっとっと」
下にいた楯無さんが難なくキャッチする。
「お疲れ様。相変わらず反則ね、その右手の能力。かなり強力な使い魔なのに、一発で消しちゃうなんて」
「そのせいで、この能力をオンにしている時は俺も能力が使えないんですけどね」
「でも、パワードスーツなら問題ないってことでしょ?」
その辺りは本当に反則だと思うよ。原作上条さんも、そのくらいの装備はしてもいいんじゃないかって思う。
「とりあえず戻りましょうか。向こうの戦いも終わって、が―――はっ……!?」
「え―――?」
楯無さんの体が不自然に捻じれた。遅れて聞こえてくる銃声。
ISが、その浮遊機能を無くしたのか、地面に向かって落下していく。それは、楯無さんが抱えていたアリアも一緒だ。
「ッ!! クソッ!!」
何が起きたのかは分からない。銃声が聞こえたが、拳銃程度に貫かれる防御ではないはず。
だが、考えるのは後だ。すぐさま助けに向かう。
落下を始めた楯無さんに向かって、一気に加速―――
「ッ!?」
GNシールドにすさまじい衝撃が伝わった。
先ほどと同じ銃声。だがそれは、俺を吹き飛ばすほどの威力を兼ね備えていた。
「く、っそ……!!」
真下に向かいたいのに、斜めに落下する。このままではアリアも楯無さんも地面に叩きつけられる。
視線だけが、2人の行方を確認している。
「え?」
あわや地面と激突の直前、すごいスピードで女性が割り込んできた。その女性が2人をキャッチしてくれた。
体勢を立て直し、その女性の前に着地する。
その女性が、空から降ってくる人を見て善意で助けてくれた奇特な人だったらどれほど良かったことか。
だが残念ながら、俺はその女性の事を良く知っていた。今一番登場する可能性が高く、そして会いたくなかった人物だ。
「カナ……!」
「あら、私のことを知ってるのね。流石、と言ったところかしら」
長い茶髪を三つ編みにした絶世の美女。この人が出て来たってことは、この襲撃がパトラによるものであることが、確定したようなものだ。
しかし、その格好には少し違和感を感じる。
ハットやネッカチーフを身に着け、腰にはこれ見よがしに獲物であろう銃をぶら下げている。何というか、俺の想像通りの『ガンマン』の恰好をしているのだ。
それでもしっかり似合っているのは流石はカナだ。
その足元にはアリアが転がっている。
俺の足元には楯無さんがうつ伏せに横たわっていた。ISの装甲部分が解除され、中のインナーだけになっている。
「っ!」
「ぅ、ぁ……」
体のラインがわかる水着のような、レオタードのようなデザインの上と、くるぶしから膝上までを覆うサポーターから構成されるISスーツ。
そのスーツの一部が変色していた。場所で言えば、丁度わき腹だ。じわりじわりと、そのシミが広がっていく。
シミの中心、ISスーツが丸く破れている。先ほど聞いた銃声、おそらくそれで―――
「すぐに病院に連れて行けば助かるわ」
カナが冷たく言う。
「でも、アリアを取り戻すために私と戦えば、間に合わなくなる」
「お前……っ!」
カナと睨み合う。カナは一歩前に出た。戦うつもりなら構わないと言いたげな態度だ。
「……」
無言で
「ッ!!」
「―――!!」
ガガガガッ!!
俺達の間で火花が散った。
「無駄よ。あなたのスタンドのことは分かっている。爪を弾丸のように飛ばすスタンド。でも実体があるから、スタンドじゃなくても迎撃できる。早打ちの技術は中々だったけどね」
「そうだよな……!」
カナの得意技は、俺も使える
俺も見えなかったぞ。何が来るのか分かっていたはずなのに。異常なスピードだ。
「分かるでしょう? 私が本気だったら、今頃どうなっていたのか」
楯無さんに止めを刺すことだってできた。そう言いたいんだろう。
「よる、つき君……っ」
「更識さん!!」
「あら」
足元の更識さんが弱々しい声を上げた。
「驚いたわね。確かに撃ち抜いたはずだったんだけど」
そう言って、腰のホルスターを揺らした。まさかあの拳銃で撃ちぬいたってのか? 見てくれは普通の拳銃なのに、ISの防御を抜いたってのか?
「ただの拳銃じゃないわ。これはこの英霊の獲物。この早撃ちの拳銃王の、ね」
英霊!? 早撃ちの拳銃王、だと……!? じゃあ、まさか……!
「
アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトローで、代表的な早撃ちの名手。まさか早撃ちと早撃ちの融合とは。ここまで相性のいい組み合わせで攻められるとは……!
だとすれば、俺達の探知能力をすり抜け、ISの防御を貫いたのは、ビリー・ザ・キッドの宝具だろう。
「アリアさんを、渡しちゃ、だめよ……」
「楯無さん……」
「絶対に、ダメ。ろくでもない、ことになるわ……っ」
口から血を吐きつつ、楯無さんは声を絞り出していた。
「でもそうすると、あなたは助からないわ」
「それが楯無の責務、よ。日本の、世界の平和を守る。そのため、なら……っ」
「……そう、立派ね。でも、どうするのか決めるのは夜月 翔よ。あなたじゃあない」
「っ、夜月君……!」
どちらかを諦めることなんて出来ない。何とか、手段は無いのか……!
「ではこの場は、私に任せてもらおうか」
さらに新しい人物が1人。
「お前、ウォズか……!」
数回しか会っていないのに強烈なキャラで記憶に残っていた人物、ウォズ。前もこうして出てきた気がするぞ。
「……あなたは何者かしら。夜月 翔の仲間、という訳でもなさそうだけど?」
「流石の慧眼だ。そう、私は我が魔王、夜月 翔の忠実な臣下。仲間などという括りに入れられるのは我慢ならないな」
「……」
カナが何なら言いたそうな視線を向けてくる。
友達は選んだほうがいいとでも言いたげだ。俺だってこいつのことはよく知らないけどな。突然現れて色々と言ってくる人だから。
「ウォズ、助けに来てくれたんなら本当にありがたいんだけど、今はマジで時間が無いんだよ。ふざけるんだったら引っ込んでてくれ」
カナの足元にはアリアが気を失っている。俺の後ろには、お腹を宝具で撃たれてしまった楯無さん。今すぐカナを倒してアリアを奪還、楯無さんを病院まで運ばなければならない。
それにビルに戻って雪菜達に加勢もしないと。
「我が魔王、それは無理だ」
「何ッ?」
「いくら我が王でも、今のあなたではそのタスクをこなすことは出来ない」
難しいのは分かってるけど、泣き言を言ってる場合じゃない。やらないといけないんだ。
「その考えは流石は我が魔王だが、それでも難しいことには変わりない」
「だから―――」
「何故なら」
ウォズは指を立てる。
「タスクはまだ増える」
その時、後ろで爆発音が聞こえた。驚いて振り向くと、島のあちこちから火の手が上がっている。
「まさか……!」
時間を稼ぐためにカナが何か仕掛けたのかと思ったが、
「私じゃないわね」
「犯人は君の知らない相手だ。今はまだ、ね。そいつが解き放った怪獣が、今、島で暴れまわっている」
ウォズの言葉に、わずかだがカナの表情が動いた。もしかして、俺の知らないイ・ウーのメンバーか?
しかし、ウォズはわざわざ『怪獣』と言った。つまり前に出たゼットンと関係がある……?
「さらにアナザーオーズ。そいつがインターミドルの会場に現れる。正確にはインターミドルの会場で育てられた欲望が、別の場所で開花させられ戻ってきたのだが……些細な違いか」
「アナザー、オーズ……」
ここ最近、島中にヤミーが出ていた理由、予想していなかった訳ではないが、やっぱりそうなのか。
アナザーライダー……前に倒したアナザービルドと同じ奴か。アイツは……
「そう、我が魔王の思っている通り、同じライダーの力を使わなければ倒せない。つまり、我が魔王にしか倒せない。いや……この本には、今の時期、この島には門矢 士がいると書かれている。彼がいればその限りではないかもしれないが……君の性格がそれを許すかな? インターミドルの会場には、君の知り合いがいるはずだが?」
確かにそうだ。今日はエレミアとヴィクトーリアの決勝戦。チームナカジマ、八神道場の面々が見に行っているはずだ。
それに決勝戦ってことは、観客席は満員だろう。そんなところで倒せない怪物が暴れたら、何人の犠牲者が出るか分からない。
「まさに島は地獄絵図。無数の怪獣とヤミーにあふれ、その片方は君でなければ対処できない。こんなところでぐずぐずしている場合ではないと言った意味が分かったかな?」
「……」
コイツの言っていることは事実だ。否定する材料が無い。
でも、ここでカナを見逃したら、アリアの居場所が分からなくなってしまう。
「だからこそ、ここは私が引き受けると言った」
《ビヨンドライバー》
「ベルト……!?」
俺の知らないベルトだ。まさか……!
《WOZ》
《ACTION!》
俺がジオウに変身する時に使うライドウォッチに似ているが、少し違う。それを起動させ、ベルトに装填した。すると待機音が流れ始める。
「変身」
《投影!》
《FUTURE TIME!》
《スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!!》
「祝え! 過去と未来を読み解き、正しき歴史を記す予言者。その名も仮面ライダーウォズ! 新たなる歴史が誕生した瞬間であるッ!!」
見たことも無い仮面ライダー。仮面ライダーウォズ……自分の名前がライダーの名前なのか。
というか、
「お前……自分の時もそれ言うのか……」
俺はぼそりと呟くのだった。