インターミドルの会場では、今まさに決勝戦が行われていた。
《ヴィクトーリア選手ッ!! エレミア選手のイレイザーを正面から迎え撃っています!!》
「はあああぁぁぁぁっ!!!」
「ち、いぃぃ――――っ!!」
『エレミアの神髄』状態にはなっていないが、エレミアはイレイザーの掌を振るっていた。触れたものすべてを削り飛ばすはずの一撃を、それ以上の魔力が込められた斧槍で受け止め、跳ね返している。
「(アカン、ウチのエンジンのかかり方が遅い……!)」
「その程度ですか、ジークッ!!」
侮れない相手だとは理解していた。直接戦うのは2年ぶりだが、その時とは比べ物にならないくらい強くなっていた。
それに加えて、エレミアは今回の大会、そこまで苦戦することなく勝ち上がってきてしまったことが仇になっていた。
ヴィクトーリアも快勝の試合は多かったが、一瞬ひやりとさせられた綺凛との試合、そして準決勝でぶつかったハリーとの激戦もあった。
ヴィクトーリアとハリーの試合は、これが決勝戦ではないかと錯覚するくらい、盛り上がる試合だった。
2人共長引く試合をしない選手だが、この試合はラウンドを全て使い、それでもお互いライフがゼロにならなかった。最後の最後、判定にまでもつれ込んだ試合だったのだ。
結果敗北してしまったハリーは滂沱の涙を流し、来年のリベンジを誓っていた。
その激戦を潜り抜けてきたヴィクトーリアは、体力や魔力が万全ではなくとも、万全以上の実力を発揮していた。
2人が再びぶつかり合う、その瞬間。
《ッ!? これ、は―――?》
「え?」
「誰ですか、あなたは!」
2人の間に、フードをかぶって顔を隠した人物が立っていた。体格から見て男性だ。2人の渾身の攻撃は、男に到達することなく空中で止まっている。
試合中に無関係の人間が乱入してきたのだ。
突然の乱入者に、観客もどよめいている。
「すまないな、試合中に。すぐに用件は済ませる」
軽く言った男は、その場に片膝をつき―――リングに腕を差し込んだ。
「「え?」」
リングは破壊されることなく、腕が沈み込んだ。泥の中を探すように、リングの中にある物を探し―――懐中時計のような『何か』を取り出した。
「(なんや、あれ……!!)」
「(どうしてあんなものがここに……っ)」
今までこんなに近くにあってどうして何とも思わなかったのか。エレミアとヴィクトーリアは男の手にある物体に冷や汗を流す。
魔力とは違う、何かヤバいエネルギーを限界まで貯めこんでいることが分かる。アレを使って一体何をするつもりなのか。
2人は知らず知らずのうちに構えをとっていた。
だが男は、
「すまないね、騒がせて。じゃあ試合、頑張ってくれ」
2人の試合には、2人程度には興味が無い。そう態度で示し、飛び去って行った。
―――――――――――――――――――――――
ところ変わって、ここは『動物園』。
初めて会ってから毎日、耀、ナナ、メアの3人は、この動物園で会っていた。そのおかげで1週間も経っていないというのに、すっかり仲良くなった。
残念ながらモモは初日以降来ていないので、その輪には入っていない。その代わり、毎晩ナナに、その日何があったのかを聞かされることになっているが。
「耀ちゃん、そっち行ったよ!!」
「任せて」
「はぁ、はぁ……! クソッ!! しつこいガキ共が……!」
警備と言っても、毎日動物園を歩き回るだけ……だったはずが、今日は少し様子が違っていた。
貴重な動物を密輸、もしくはDNAを採取して高く売りさばこうとする悪党が侵入したのだ。
DNAを入手するところまではうまくいった悪党も、動物相手にはそこまで警戒しない。まさか動物の言葉がわかる能力者がいるなんて夢にも思わなかったのだ。
散歩中に異常を知らされた耀達はすぐさま追跡を開始。今まさに捕物の真っ最中だった。
人込みを縫って逃げ回る悪党。お客さんはその様子に驚くが、その後からそれ以上のスピードで追跡してくる2人の女の子にさらに驚く。
「どけッ!! どけ、どけッ!!!」
大声を張り上げ、息を切らしながら逃げる悪党。出口まであと少し。明らかな不審者に、みんな何も言わずに道を開けている。まっすぐ進めば、建物の外。駐車場に行けば逃走用の車に仲間が待機している。
しかし、扉の前で仁王立ちしている人物がいた。
「おいッ!! そこの妙な服を着た女ッ!! そこを退けッ!!」
威嚇しても動こうとしない。
「退かないなら―――!!」
男は懐からナイフを取り出す。
「怪我すんぞォォォォッ!!!」
「やあっ!!」
「ごぱぁっ!?」
ナイフが届くよりも早く、尻尾から発射されたビームが悪党を捕らえた。一瞬で黒焦げになり、その場に倒れる。
「よし! お、2人共~!!」
「ナナちゃん、やったね!」
「おいしいところを持っていかれた」
追いついてきたメアと耀。ナナはVサインしている。
「多分外に仲間がいると思うけど」
「管理局に連絡したから大丈夫だと思う」
「私達はこいつを逃がさないようにしといたほうがいいよな」
全てが終わったと思っていた3人は誰も気が付くことが出来なかった。ナナどころか、メアも耀も反応出来なかった。
耀の後ろから忍び寄った人物が、
《OOO》
耀の背中に手を伸ばした。
「ッ!!??」
「耀!?」
「耀ちゃん!?」
ナナとメアも突然のことに叫び声をあげるが、すでに男が手に持っていた物体―――アナザーオーズウォッチは耀のナカに吸い込まれていた。
「ぅ、ぁ……!」
体の中に明らかな異物が押し込まれる感覚。しかし、その膨大な力に、抵抗は無意味だ。押し流されそうな意識を何とか保ち、その場にうずくまる耀。
「だっ、誰だよっ! お前っ!!」
「ナナちゃん、下がって」
今にも飛びかかりそうなナナをなだめ、メアが前に出る。今までの経験から、目の前にいる人物が自分達とは次元が違うことを直感したのだ。
「(この人……何なの? 何が目的? 今耀ちゃんに何をしたの? ううん、それよりも、この人、全然私達に敵意が無い……!)」
メアはかなりの殺気を出しているつもりだったが、目の前の人物は微動だにしない。
間違いなく、今足元に転がっている悪党の仲間ではない。
「黒崎メアにナナ・アスタ・デビルークか。そこまで気にする必要は無い。春日部 耀には少し暴れてもらうだけだ。すぐに夜月 翔がどうにかするさ。してもらわないと困る」
「夜月 翔……?」
「(何でここに翔君の名前が……? 翔君が何か関係してるの? でも耀ちゃんは翔君のオトモダチのはずだよね……)」
ナナもメアも、それぞれ違った理由で頭に疑問符を浮かべた。
「うっ! ぐ、ううぅぅぅ……っ!」
その思考は、耀の苦しそなうめき声で中断させられた。
「耀! 大丈夫か!? 気分が悪いのか? え、と、ど、どうしよう、メア!」
「……ナナちゃんは耀ちゃんを連れて下がって。ここの人に言って病院に連れて行って」
「賢明な判断だが、黒崎メア。お前はどうするつもりだ? ここに残るつもりか? 残ってどうするつもりだ?」
「そんなの決まってるでしょ? 私だって、一応武偵ってことになってるんだから」
この場で足止めして、到着する予定の管理局員に引き渡そうというのだ。
「別に、正義感とか、そういうやつじゃあないから。私のトモダチをこんな風にされたことに怒っただけ」
「……予言をするが。お前は俺に触れることすらできない。俺も今お前と戦うつもりはない。さらに助言をすると、春日部耀からは離れたほうがいいぞ。無駄な怪我をしたくないのならな」
ナナが離れたことで、全開の殺気をぶつける―――が、それでも、男から敵意が向けられることは無い。
「っ! あんまり―――」
メアは
「―――舐めないでッ!!」
斬りかかった。
「だから無駄だと言った」
刃は止まっていた。狙いは容赦なく男の首元。一撃で首を飛ばすつもりだった斬撃は、首元に届くことなく止まり、うんともすんとも言わない。
「(な、なんでこれ以上腕が進まないの……!?)」
腕を引くことは出来るが、それよりも先、首をぶった切ろうとするとそれ以上進まなかった。
壁に阻まれているという訳ではない。前に進んでいるはずなのに、刃が相手に到達することは無い。
「(これは予想以上にヤバい!! この人と戦うのはっ! 予想以上にっ!)」
「だから言ったはずだ。それに―――見てみろ」
「うう、ううううああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
次の瞬間、耀の体が数えきれないほどの『メダル』に包まれる。メダルは肉となり、見たことの無い生物へと変わっていく。
タカ、クジャク、コンドル、ライオン、トラ、チーター、クワガタ、カマキリ、バッタ、サイ、ゴリラ、ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、コブラ、カメ、ワニ、プテラノドン、トリケラトプス、ティラノザウルス―――ありとあらゆる生物が寄せ集められ、一つの形に、怪物になっていく。
さらにそれらは、耀の持つ
この世のありとあらゆる生物を寄せ集めたような見た目だった怪物に、この世に存在しない生物の特徴が付与されていく。
四足歩行だが、翼が7枚ある。尻尾が3本もあり、顔も複数あった。
「たっぷりと。たっっっぷりと蓄えた欲望がようやく解放されるぞ」
インターミドルに出場する選手達の勝ちたいという欲望。試合に勝てば次も勝ちたいという欲望が生まれ、負けても来年は勝つという欲望が生まれる。
選手だけではなく、観客やセコンドからも欲望は集められていた。応援する選手が勝ってほしいという欲望も、漠然とした、『良い試合を見たい』という気持ちからも欲望は集められていた。
はち切れんばかりに貯めこまれた欲望が、今、解放される。
「アナザーオーズだ」
――――GYAAAAAAAAAAA!!!
怪物が咆哮を上げると、展示用の強化ガラスが全て粉々になった。そればかりか、近くにいた動物が気絶している。
「耀が、怪物に……?」
「ッ!! ナナちゃん!」
「わっ!? メア!?」
超巨大なナニカに変貌した耀。変化はまだ途中段階だ。ドクン、ドクン、と体が脈動するごとに膨らんでいるのだ。
「ナナちゃん! 離れないと!」
「だ、だけど! だけど耀がっ!!」
メアがナナを抱えて離れようとするが、その腕の中でナナが暴れる。さっきまで一緒にいた耀が怪物になったのだ。その手段が無くても、何とかしようともがいている。友達だからだ。
謎の男はいつの間にか上空へ浮かび上がっていた。
「ふーん、そうか。自分の欲望の大本になった場所に向かいたい。そういう習性なのかな? 元になった欲望がそうだからか? まあいいか。手伝ってやろう」
男が指を振ると、アナザーオーズは浮かび上がった。
「耀ッ!!」
ナナの叫びは謎の男には届かない。
「何だよ……!」
ナナは茫然と呟いた。
「何が起こったんだよ……!!」
ナナが見上げる先、施設の天井には大きな穴が開いていた。
その場にいたはずの男とアナザーオーズは、影も形も無かった。
―――――――――――――――――――――――
そして再びインターミドルの会場。
謎の男がリングに現れたことで中断されていた試合は、まもなく再開されようとしていた。
「まったく、とんだ不届き者もいましたわ」
「いったい、何者でしょうかね」
ヴィクトーリアは憤慨し、エドガーは試合への気持ちが切れないように会話を繋いでいた。
「チャンピオン、大丈夫ですよ! ポイントはあんまり差は無いですよ! 再開しても落ち着いていきましょう!」
「ん、ありがとうな~」
エルスの励ましに笑顔で応えるエレミアだったが、心の中では先ほど試合を邪魔した人物について考えていた。
「(ウチも全然感知出来なかった……多分、ヴィクターも。目の前に来るまで反応出来へんなんて……)」
タダ者ではなかった。正直、リングから取り出した物体で何をするつもりなのか、呑気に試合を続けていてもいいのか不安になる。
しかし決勝戦を見に来ていた観客は、少しでも早く試合が再開されることを望んでいた。
「まだですかね、試合……」
「そうですね……」
ミウラとアインハルトは、ぽつりと呟いた。
ヴィヴィオに勝利したミウラだったが、力を使い果たしてしまったことで、次の試合で敗北してしまっていた。残念ながら本選までは進めなかったが、次の大会からの注目選手になったのは間違いない。
「ま、何かされたわけじゃないし、すぐに再開するさ。ゆっくり待とうぜ」
「でも、選手の方はたまったものじゃないな。本当に悪質な悪戯だよ」
大人のノーヴェとミカヤは落ち着いているが、その内心は試合に乱入した男に対しての怒りがあった。
「悪戯、ね……」
クロはどうしても引っかかる部分があった。
明らかな異常事態。これまでの経験上、何かの事件の前触れではないかという気持ちになってしまう。
そしてその予感は、残念ながら的中してしまう。
会場の天井を突き破り、とてつもない物体が落ちて来た。
「「「「―――ッ!!!??」」」」
それはありとあらゆる生物が掛け合わされたような見た目の怪物―――アナザーオーズだ。
「……」
それを会場に落とした男は、はるか上空でその成り行きを見守っている。別の方向へ目を向けると、スフィンクスがとりついているビルがあった。
「さて、うまくやってくれよ」
リングに乱入したのは男と同じだったが、男と怪物では訳が違う。会場は少しでも怪物から離れようとする観客で大混乱になっていた。
「まったく、ここまで成長していたとはな」
透明なオーロラから、マゼンタカラーのトイカメラを首から下げた男―――門矢 士が現れた。
ベルトを装着し、カードを装填する。
「変身」
《KAMEN RIDE DECADE》
マゼンタカラーとバーコードのような黒い縦線の入った仮面が特徴のライダー―――仮面ライダーディケイドに変身する。
「アイツはいないみたいだが―――いや、来たか」
ディケイドは上を、怪物が下りてくるときに天井に作られた、大きな穴を見上げた。
「変身ッ!!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
翔が変身したジオウが、リングに着地する。
「ディケイド……」
「どうやら、最悪の事態になったようだが……行けるな、ジオウ」
「当たり前だ……!」
大きく膨れ上がったアナザーオーズを前に、2人のライダーは構えを取るのだった。