「シグナム、あれ!」
「あれは……?」
インターミドルの会場に着く直前、フェイト達は会場の天井に開けられた穴から飛び出す影を見た。
赤いロボットのように見えたそれははるか上空で3人になり、散り散りになっていく。
「今の……」
「ああ。何者かは分からないが、今は人命救助が最優先だ」
2人はロボットと入れ替わるように、天井の穴から内部に侵入する。真下に見えるのはこの夏いくつもの激戦が繰り広げられたインターミドルのリング。
無残にもリングは破壊され、瓦礫の山が築かれている。観客席には逃げ遅れた人がまだたくさん残っている、皆天上に開けられた穴を、そこから降りてくる2人に視線を向けていた。
怪獣出現の通報があったにしては足りないものが2つあった。それは観客のパニックと、怪獣の本体だ。
「怪獣がいない? どうして……?」
「見ろ、テスタロッサ。あれが理由だろう」
破壊されたリングには、フェイトやシグナムも知っている人の顔があった。
試合の映像で見たトップ選手達だ。確かにあのメンバーなら、怪獣すら退けてしまっても不思議ではない。
そのトップ選手に交じって、1人だけ小さい娘がいる。ぐったりとした様子の娘を膝枕してフェイト達に手を振っていた。
「クロちゃん!」
「春日部は無事か?」
「耀は大丈夫。気を失ってるだけだから」
クロに言われフェイトも確認する。確かに問題は無かった。
その間にシグナムはクロに質問する。
「これは怪獣にやられたのか?」
「と、言うよりも、耀が怪獣にされてたって感じかな……原因は分からないけど」
「ふむ……とりあえず、出現した怪獣はお前達で倒したと考えていいんだな?」
「そうね、とりあえずは―――」
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
話に割り込んでくるのはヴィクトーリアだ。礼儀正しく一礼する。その横にはガチガチに緊張したエルス、2歩後ろにはエレミア、さらに後ろには腕を組んだハリーがいた。
全員そろって、今何が起きているのかを知りたがっている。
「わたくし、ヴィクトーリア・ダールグリュンと申します」
「管理局、特務六課所属のシグナムだ。怪獣が出現したとの通報を受けてここに来ましたが、怪獣はあなた達が?」
「いえ、協力はしましたが、最終的に倒したのは他の方です」
「他の……その人物はどこに?」
怪獣について詳しい話を聞かなければならない。そう考えるシグナムだったがヴィクトーリアは首を横に振る。
「分かりません。2人いましたが、どちらも立ち去ってしまって。1人は銀色のオーロラのようなモノで。もう1人は―――」
「仮面ライダーの人は天井に空いた穴から、どこかに飛んで行ってしまいました」
自らの主と同じようなイントネーションでしゃべるエレミアが、先のセリフを取った。
「仮面ライダーの人?」
「はい。2人共仮面をつけていて、天井に空いた穴から飛んで行った方の仮面には『ライダー』と書かれていました」
ヴィクトーリアの補足説明にシグナムは考え込んでいるが、
「顔にライダー……」
フェイトの記憶に引っかかるものがあった。ティアーユの研究所に乗り込んでピンチになった時、助けに来た翔が確かそんな姿ではなかったか?
「もしかして、翔が?」
フェイトは小声でクロに問いかける。するとクロも小さく頷いて答えた。
フェイトはすぐさまシグナムの肩を叩く。
「どうした、テスタロッサ」
「その仮面ライダーについては大丈夫。その人、翔だから」
「ショウ……夜月 翔か。六課に配属される」
シグナムはほとんどしゃべったことは無いが、色々と話は聞いていた。何やら、並々ならぬ秘密を抱えているということを。
しかし周りの人間の信頼を得ていることも知っていた。特にフェイトの話は、はやてから聞かされて興味のないシグナムも知っている事だった。
「(つまり、オーロラに消えた人物も、夜月 翔の知り合いという事か。ならば、この場は一時置いておくか……)」
シグナムはそう判断した。
「怪獣と直接戦ったあなた方には後ほど、詳しくお話を聞くことになると思うので。質問はその時に」
フェイトと共に、大会責任者の場所へと向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――
「ハアッ!!」
「やあッ!!」
ビルの屋上、ジャグラスとアスナは激しい剣戟を繰り広げていた。
その剣戟は互角。魔力を纏うアスナのレイピアと闇の波動を纏うジャグラスの刀が、火花と魔力を散らす。
「(この人、強い……!)」
「(まったく、こんなお嬢ちゃん1人、すぐにあやせないとなはッ!!)」
武偵高の短いスカートを翻し、アスナが果敢に攻める。すらりと伸びた足が地面を蹴り、胸の中で引き絞られていた右手が解放される。
閃光になったレイピアが、ジャグラスの体すれすれを通り過ぎた。
ジャグラスも軽口の1つでも言って茶化したい気分だが、余計なことをしゃべっていると舌を噛んでしまいそうだ。
始めのうちは峰打ちで済ませようと思っていたが、そんな余裕は無くなりつつある。
「ハァッ!!」
ジャグラスは死神の鎌のような闇の斬撃を飛ばす。
アスナは焦ることなくレイピアの側面で逸らし、反動を利用して回転。勢いを利用した刺突を繰り出す。
「やあッ!!」
「ッ!?」
ジャグラスはかろうじて後ろに飛ぶことで回避した。
アスナも無理して攻め込むような真似はしない。伸ばしきった体を戻し、再び構えをとる。ジャグラスも同じだ。
「(今はまだ互角に戦えてる。何が飛んでくるか分からないから、油断しないようにしないと……)」
「(マジでやるな……下手にケガさせて、夜月 翔の恨みを買いたくはないんだけどな)」
これは長引きそうだ。そう感じたジャグラスは逃げる算段を立て始める。このまま戦っていて、余計な援軍が来れば本当に手加減する余裕がなくなるのだ。
このままダラダラしていては、怪獣をすべて倒され、逃げることも出来なくなってしまう可能性が高い。
「(悪いなお嬢ちゃん。俺を見つけちまったことを不運だと呪いな)」
「(何かくる……!)」
ゆらりと、ジャグラスが一歩踏み出そうとしたその時、
「……っ!?」
突如横から襲ってきた衝撃に、ジャグラスの体は大きく吹き飛ばされた。秒速数十メートルの突風によって、隣のビルまで壁をブチ破って墜落する。
「痛ってぇな……どこのどいつだ……」
その人物はアスナのすぐ横に降り立った。
軽装の鎧を身に着け、手には
フィンに言われて怪獣の召喚士を探していたアイズが、2人の戦いを見つけて救援に駆け付けたのだ。
もちろんアイズにはどちらが悪者か分からないが、邪悪なものを感じ取り正解を引き当てていた。
「あなたは……」
「大丈夫?」
ちらりと後ろを見たアイズだったが、すぐさま前を見た。
「ッ!!」
襲ってきた闇色の斬撃を跳ね返す。
その攻撃を放ったのはもちろんジャグラスだ。
「っち、駆け付けてきた援軍が、まさかロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインとはな……逃げ切れるか?」
学園島でも有数の剣士、『剣姫』だ。剣の腕だけではなく強力な風の魔法の使い手。攻撃だけではなくスピードもある。それにジャグラスに匹敵する剣士が、この場にはもう1人いる。
「2対1で戦ったら、まず勝ち目は無いが……」
ジャグラスの手で、ダークリングが妖しい光を放つ。
「味方を呼び出せば話は別かな」
1枚のカードを取り出した。
「パンドンよッ!!」
《PANDON》
リングにカードを読み込ませると、カードは粒子となり、全く別のものを形作っていく。それは双頭の怪獣へと姿を変えた。
TVシリーズの『ウルトラセブン』、最後の敵である『パンドン』だ。
―――GYAAAAAAA!!!
双頭の四つの目が2人を睨み、叫び声を上げた。
「やっぱり……」
「あの人が召喚士で確定だね」
アスナは自分の予感が外れていなかったことを理解し、アイズは目的の人物を発見したことで、サーベルを握り直す。
パンドンに隠れて見えなくなっているジャグラス。
「(召喚士を確保したいけど……)」
それを妨害しようとしているパンドンを無視することも出来ない。
「あなたは下がって。あの怪獣は私が」
「大丈夫です。私も合わせますから」
「そう? 分かった」
2人の女剣士は、並んで剣を構えた。
―――――――――――――――――――――
「まったく、クローン実験の次は怪獣なんて、本当に退屈しない世界ですわね……ッ!!」
狂三は悪態をつきながらも必死で体を動かしていた。
狂三はこの夏、メイド喫茶で働くジャンヌの伝手で、その系統のお店で働いていた。ビルが雑多に立ち並ぶ地区、珍しいジャンク品があるとマニアに人気の場所だ。
そこに現れたのはロボット怪獣『ギャラクトロン』。目や胸部に備えられた武装から光線を発射しつつ、進軍していた。
元々そこまで火力のある精霊ではない狂三。その特殊能力で相手を翻弄する戦い方は、ギャラクトロンには効果が薄かった。
そのため狂三は、人命救助に全力を出している。
「く、くるみん……!」
「その呼び方はやめてくださいまし!」
この事態にすっかりおびえてしまった同僚を抱えて、疾駆する狂三。
降り注ぐ瓦礫を避けるために、短銃を自らのこめかみに押し付け、引き金を引く。
「
「(足止めに出した分身体はほとんどやられてしまったようですわね。いっそ、皆さんをわたくしの影の中に避難させた方が良いかもしれませんわね……)」
「苦戦しているようだな、狂三」
狂三の思考を断ち切るように、空から漆黒の斬撃と共に降下してきたのは、
「オルタさん!? どうしてここに……」
黒い聖剣の圧倒的な威力は、この状況を打開出来る最強の武装だ。
「翔もすでに動いている。あいつの相手は私が引き受けよう」
「そうは言ってられませんわ。わたくし達」
狂三の影から分身体が複数出てくる。その中の1人が狂三(本体)が抱えていた同僚を受け取り離れていく。
「ここを荒らした報いは受けていただきますわ……!」
「勝手にしろ」
完全に立ち上がったギャラクトロンを目の前に、2人は武器を構えるのだった。
――――――――――――――――――――――
そして怪獣の魔の手は、懇親パーティが開かれているビルにまで迫っていた。
相も変わらず砂で出来たアヌビスに襲われていたビルは、怪獣の対処にまで手が回らない。
三日月型の巨大な双角と鼻先の一本角、胴体前面の松かさ状の鱗、太く長大な尻尾が特徴。古代怪獣、ゴモラである。
何人かの管理局員は足止めのために外に出る。また違うビルの屋上から魔力弾を撃ち込むが、その強靭な肉体には傷をつけることが出来ない。
それどころか、攻撃をうっとおしく思ったゴモラの攻撃―――体を回転させての尻尾の一撃―――によって、轟音と共にビルのフロアが達磨落としの様にぶち抜かれる。
フロアが丸々一つなくなったビルは倒壊し、上に載っていた管理局員はなすすべなく墜落していった。
その様子を見ていた各国の要人達は、管理局員には任せておけないとビルからの脱出の機会を窺っていた。
それはアルディギアやランドソル王国も同じだった。
自国の、それも両国とも王女を護衛している立場だ。周りの国を見捨てることになったとしても、最悪の事態を避ける必要がある。
だが、
「ラ・フォリア殿下、いかがなさいますか?」
「わたくし達だけが逃げる訳にはいきません。ここに残り、最後まで戦います」
「そうですっ! みんな、同じ食卓を囲んだ仲間なんですから! 私だけ逃げるなんて出来ません!」
「ユースティアナ殿下……!」
ラ・フォリアとユースティアナがその場を動かなければどうしようもない。
「コッコロちゃん、まだいけますかっ!」
「はいっ!! 主様がお戻りになられる、その時まで!」
肩で息をする雪菜も、精霊の加護をかけ続けるコッコロも、この場での戦闘続行を叫んでいた。
砂を魔力によって動かしているこの使い魔は、雪菜の雪霞狼の敵ではなかった。構成される武器すらも砂が固められたものであるため、魔力を無効化する雪霞狼とは打ち合うことすら出来ない。
雪菜が処理したアヌビスは100体を超え、この奮戦によって前線を維持できていると言っても過言ではない。
コッコロは風の加護を与えることで、雪菜の動きのサポートに徹していた。
「2人共……ありがとうございます」
当然、聖天子にもみんなを見捨てるという選択肢は無い。
「やれやれ、お嬢様というのは、どうしてここまで強情なんだか」
ライネスはそう言いつつも、事の成り行きを見守っていた。
ライネスの場合、別に誰かが犠牲になるのが許せないとか、そんな殊勝なことを考えていたわけではない。
ただ、この夏を丸々費やした島での生活、その最後に起きた刺激的な出来事を、最後まで楽しんでいたいのだ。
女子供にそこまで言われてしまっては、護衛の騎士達が気張らないわけにはいかない。幸い、怪獣は空から降り注ぐ魔力弾に気を取られて動けないでいる。
窓の外で大怪獣が暴れている様子は非常に心臓に悪いが、この均衡が続き、各国の精鋭部隊が来てくれれば、状況が変わるかもしれない。
そう。それまで、この均衡が続けばだ。
ラ・フォリアはその女神とも見間違う美貌に微笑みを浮かべ、みんなを見る。
「大丈夫ですよ。いざとなれば私が何とかしますから」
「ラ・フォリア殿下! それは……!」
王家の義務として、最後には自分が責任を取ると言っているのだ。
いくらなんでも、ラ・フォリアを矢面に立たせるわけにはいかない。騎士が抗議するが、
「―――ですが、その心配はなかったようですね」
ラ・フォリアの視線の先にいるのは、上空から飛来した、マントをはためかせた赤いロボットだ。
その装備について何も知らないラ・フォリアだが、直感でそれが誰なのかを理解していた。
「おおっ! アレってもしかして!」
「ああ。あんな妙な形をした
ユースティアナはヒーローショーを見る子供の様に目を輝かせ、ライネスはその出来過ぎたタイミングに肩をすくめる。
そして、答えを知っている3人が同時に叫んだ。
「先輩!」
「主様!」
「翔さん!」
スーパーマンの様に、ゲッター1を纏った夜月 翔がそこにいた。