「ご苦労やったな、夜月君。聖天子様も、ご無事で何よりや」
「八神さん、いえ、それよりも……」
島中に解き放たれた怪獣を全滅させた俺達機動部隊は、六課に帰還していた。
俺の前にいるのはシグナムさんとヴィータさん。後ろには雪菜とコッコロ、聖天子様だ。なのはさんとフェイトさんも一緒だったんだけど、別の仕事があるらしい。
聖天子様も一時ここに避難してもらっている。ここ以上に安全な場所なんて、そうそう存在しないと思うしな。
他のお姫様は自分たちの国の護衛に守られ、ライネスはウェイバーと一緒にいるらしい。
程なくして俺達は部隊長室に通された。
八神さんが部屋の真ん中の椅子に座っているのは良い。その横には見慣れない男性がいる。名前は蛇倉さん。六課の事務方のトップらしい。そりゃまあそう言う人もいるだろうね。
それはそれとして、
「やあ、また会ったね、夜月 翔君」
「何故、ロキ・ファミリアのフィン・ディムナさんがここに?」
「そんなよそよそしくしなくてもいいじゃないか。ボクのことは気軽にフィンと呼んでくれ」
朗らかに笑っているのは、小柄な八神さんのさらに胸元までの身長しかない男性。以前聖王教会で会ったフィン・ディムナだ。
なんで特務六課にロキ・ファミリアがいるんだ。
「びっくりしました。先輩にウェイバーさん以外に男性の知り合いがいたなんて……」
「はい。ですが、やはり男女のバランスが悪いと思います……」
雪菜とコッコロは何か言っているが。
「ん? ああ、そっか……六課と聖王教会は仲良くしてるんよ。色々と情報を交換したりなぁ」
八神さんが補足してくれた。
「今回の事件もそうだ。僕達ロキ・ファミリアは君たちが戦っていた丁度反対側で戦闘をしていてね。その時の情報を共有するために少しお邪魔しているんだよ」
なるほど。そこの繋がりでか。
「八神部隊長、フィン団長、どういう状況になっていますか」
聖天子様は凛とした声で聞く。
「とりあえず今は落ち着いてます。確認された怪獣は全て討伐完了。ですが、この騒ぎを起こした張本人は捕まっていません」
「張本人……」
「ああ。間違いなくこの怪獣を召喚した召喚士がいたはずだ。アイズが接敵したらしいが、逃げられてしまってね」
俺の呟きにフィンが補足を入れてくれる。
「なに? ヴァレンシュタインが?」
それに対して俺よりも早く反応するのはシグナムさんだ。
「ええ。アイズに並ぶ剣士がもう1人いて、それでも逃げられてしまいました。並大抵の召喚士ではありませんね」
「問題は、それだけの召喚士がどうしてこんな騒ぎを起こしたのかって事や。やっぱりアリアちゃんかな」
八神さんは会議が襲撃されたことも知っていたらしい。
「うん。楯無から連絡があってね。もう目が覚めたって。命に別状はないみたいや」
「そうですか! 良かった……!」
「君が病院まで運んでくれたんやろ? ありがとうな」
楯無さんが無事だったことには一安心だが、まだまだ問題は山詰み。一番大きいのはアリアの行方だ。
「そうだね。召喚士に逃げられてしまったものはしょうがない。それよりも仲間の救出を優先しないと……と、言いたいんだけど」
フィンが申し訳なさそうに、
「僕たちは一度聖王教会に戻らなければならないんだ。その後も、島の警備が優先されることになる。それについては協力出来ないな」
それはしょうがない事だろう。なにせ島中で怪獣が暴れるという異常事態だ。砂で出来たアヌビスが大挙して襲って来るなんてかわいく見えてしまう。俺はその前にアナザーオーズとも戦ったわけなんだけどね。
たった数時間で島は大混乱だ。めぐるましく変わる状況に俺も大混乱だよ。
「八神さんは、特務六課はどうするんですか?」
「管理局は厳重警戒で待機だ」
「ああ。いったんは全滅させたとはいえ、またいつあの怪獣が出てくるか分かったもんじゃねぇからな」
八神さんの代わりに、シグナムさんとヴィータさんが答える。
「でも、仲間を助けるためになら、多少の命令違反はしょうがないなぁ」
「八神さん……!」
流石我らが部隊長! なんて男気溢れるセリフなんだ!
八神さんは頷いて、
「それで、攫われた神崎さんは、何処に連れていかれたの?」
「……え?」
「や、何処に連れていかれたのかって聞いたんやけど」
「ああ、えっと、ですね……」
「うん?」
歯切れの悪い俺に、八神さんが停止する。
「もしかして、全く見当がついてない感じ?」
「はい。その辺りも込みでお力をお借りできればと……」
流石の俺も、そこまで万能ではない。手がかりの無い状態だが、だからこそ力を借りたいのだ。
「うぅん……そう言われてもなぁ……」
八神さんは椅子に寄りかかった。
「流石に手掛かりゼロやと、探すのに時間がかかるなぁ……」
こめかみに手を置いて、難しそうに唸る。
「一応ウチらで探してみるな。夜月君は一回帰って、他のみんなとか、家の様子とか確認しておき。聖天子様のお迎えも、こっちで手配してるから」
その一言で、俺達はひとまず家路につくことになったのだった。
―――――――――――――――――――――――
八神さんに促され、六課を後にした俺達。
「アリア……」
八神さんに言われた通り、今から行方を探したとしてもすぐには見つかりっこないだろう。島の怪獣騒ぎは、パトラ達に逃げるための十分な時間を与えてしまった。
あの場面で信じるべきだったのは、ウォズじゃなくてディケイドの方だったのかもしれない。
実際、あの場面はディケイドだけでどうにかなっていた。奴が本当に本気を出せば余裕だったんだ。
雪菜とコッコロは心配そうな顔で励ましてくれる。
「元気出してください、先輩」
「主様が来て下さったおかげで、わたくし達は怪我をせずに済みました」
「ああ。ありがとう。もちろんそれは良かったと思う。でも……どうするか」
アリアを助けに行くのは確定事項として、一番の問題はやっぱり居場所だ。ぴたっと的中させるくらいの何かが無いと。
そして戦力。アリアを奪還するには間違いなく戦闘が起きる。場合によってはアナザーオーズと同等の戦闘が。
「とりあえず戦力については、みんなにお願いして……」
「主様、それが……」
「ん?」
コッコロが端末の画面を見せてくる。
「皆様、とてもお忙しいようで……」
「う~ん……」
みんな今回の騒ぎのせいで警備が強化され、時間延長されてしまったみたいだ。みんな揃って、今日は帰れないかもしれないと言っている。
この警戒は数日続くだろう。アリアの救出はすぐにでも行わなければいけない。みんなが動けるようになるまで待っているわけにはいかない。
「はい。それにイ・ウーに攫われたのなら、あのアリアさんがおとなしくしているとは思えませんし」
「何か酷いことをされているかもしれません。一刻も早く助けに行かなくてはなりませんね」
結局その結論になるのだが、残念ながらお話は一番最初に戻る。すべての手段が足りていないという話に。
「あ、あの、先輩」
「ん、どうした、雪菜?」
「雪菜様?」
立ち止まった雪菜は、遠慮がちに、顔を反らしながら俺に声をかけてくる。その不自然な様子にコッコロと俺は首を傾げた。
雪菜は何も言わずに俺を軽く手招きして、口元を手で覆った。俺は意図を察して耳を向ける。コッコロには聞かれたくない話なのか?
「その、この状況を打破する何かが欲しいんですよね? アリアさんの居場所と、奪還のための新しい能力が」
「まあ、最悪、アリアの居場所だけでも分かればと思ってるけど」
そんな簡単に能力が生まれてくれば……生まれるな。
「雪菜……」
「なんですか、その
つまり雪菜は、今回の事態を打破するためにセックスしようと言っているのだ。
「そ、そんなはっきり言わないで下さい! それしか方法が無いのなら仕方ないじゃないですか……!」
「や、そうなんだけど……」
俺の能力はガチャで追加される。つまり狙って都合の良い能力が出る訳ではない。それこそ、何回かかるのか分かんないぞ。
「それは……私も、頑張りますから……」
「お、おう……」
真っ赤になりながら、絞り出すように言う雪菜。
雪菜がそれで良いというのなら、この場ではそれに頼るしかないのか。雪菜から申し出てくれたことだ。向こうはすでに覚悟を決めている。
だったら俺も甘えるしかない。
「コッコロはどうする? 混ぜるのか?」
「そんな訳ないじゃないですかっ!! 何言ってるんですかっ!!」
「……もちろん冗談だよ。うん」
軽快なジョークを飛ばした俺は、会話を終えて離れる。これからのことを想像して、お互いに顔を赤くした状態で。
「主様? 雪菜様? いったいどうされたのですか?」
「や、何でもないんだ」
さて、雪菜はコッコロを混ぜることは絶対にないだろうから、何とかする方法を考えないと……
「おっ」
電話だ。
「ウェイバー? もしもし?」
《繋がったか。そちら無事か?》
「ああ。そっちも無事みたいだな」
《私は世界最高のVIPと一緒にいたんだ。島の誰よりも安全だったよ》
そう言えばそうだったな。
《島の騒ぎも収まったからな。ようやく解放されて、今自宅についたところだ。そっちはあのスフィンクスを追って、ずっと戦っていたんだろう? あの娘は取り戻せたのか?》
スフィンクスを追ったことはライネスから聞いたらしい。
「……無理だった。途中で邪魔が入ってな」
《そのまま追わなかったのか?》
「追えない事情があったんだ」
アナザーオーズは俺にしか倒せない相手だった。いや、ディケイドならいけたのかもしれないけど、放り投げることは出来なかった。
《なるほど。そして今は、攫われた娘を取り戻すために頭を捻っていると》
「なんだよ、俺のこと分かりすぎだろ」
《これでも伊達にロードエルメロイ2世とは言われていないからな》
「でもな、肝心の居場所が分からないんじゃな……」
やる気満々でも、何処を目指せばいいのかがわからなければ意味がない。
《ふむ……》
電話の先にいるウェイバーが、何やら考え込む気配がする。
そして、
《私の家に来てくれ。力になれるかもしれない》
そんなことを言ってきた。
―――――――――――――――――
「やあ、よく来たな……ん? どうした、雪菜。何やら不機嫌そうだが」
「……いえ、何でもありません」
「そうか? 私の目には、楽しみを無理やり取り上げられて拗ねているように見えるんだが? ものすごく興味があるなぁ」
「何でもありませんっ!!」
出迎えてくれたライネスと雪菜が言い合っている。
「主様、先ほどから雪菜様はどうされたのでしょうか?」
「嫌なことがあったんだよ」
雪菜が不機嫌になってしまった原因は俺に……あるわけでも無いけどな! だったら、突然電話をかけてきて、現状を打破する案がある的なことを言ってきたウェイバーが悪い。
「ふぅん? まあいいさ。兄上が待っているぞ」
そう言ってライネスは部屋の中へ手招きした。
「来たか」
「済まないな。何も手土産は持ってきてないんだけど」
明るいリビングでは、黒いスーツ姿のウェイバーがソファーに腰かけていた。その後ろにはグレイが控えている。
「気にするな。そこまで時間はかからない……座ってくれ」
俺達は促され、ウェイバーの体面に座る。ライネスはウェイバーの隣に座った。
「よっと、それで? 今日は兄上の『アレ』を見せてくれるのかな?」
「そのために、翔をここに呼んだんだ」
「『アレ』? それを使えば、アリアを見つけられるってことか?」
俺は食い気味に問いかける。
「見つけられるかどうかは分からない。しかし、確実に手掛かりは見つけられる」
「師匠」
後ろのグレイが、ウェイバーに何やら手渡す。テーブルに置かれたそれを観察すると……小さい箱のような機械、かなり古いタイプのカメラか?
それも、あの本体下部についている細長い溝。撮った写真をその場で吐き出すポラロイドカメラだ。
「この力は10年前、お前が帰ってから少ししてから使えるようになった。あの時は突然体調が悪くなって驚いたよ」
ウェイバーが右手を振り上げる。
その手に巻き付いているモノを見て、俺は驚愕した。
「お前、まさか―――!!」
「ああ、その通りだ。―――
紫色の茨が巻き付いた手刀がカメラを破壊した。
「「っ!?」」
あの茨が見えず、事情を理解していない雪菜とコッコロには、ウェイバーが突然、意味も無く自分のカメラを破壊したように見えただろう。
だが、実際はそうではない。
破壊されたカメラが駆動し、1枚の写真を吐き出す。
「まさかスタンド使いになっていたなんてな」
「誰にも言うなよ。私の数少ない武器なんだ」
ウェイバーが吐き出された写真を摘まみ上げる。
「お前が切嗣さんに渡した矢があっただろ? 実はあれで指をケガしてたんだ。すぐに影響が出なくて放置していたが、三カ月程経って私にも発現した」
「名前は自分で考えたのか?」
「名前は……これが正式な名前だと、誰かに言われたような気がしたんだ。私自身、妙にしっくりくるからそのまま使っている」
ふーん。まあ、名前については世界の修正力的な何かが働いたってことかな。
能力は念写で、ポラロイドカメラやTVなど映し出すものに触れることで遠くの場所を映し出すことが出来る。
一応茨を伸ばして相手を締めあげたり、ターザンロープのように使うことも出来るけど、もっぱら情報収集に使うスタンドだ。
もちろん、俺がこのことを知っていては不自然過ぎるので、ウェイバーの説明を黙って聞く。特に変わったところは無いみたいだな。
ウェイバーはカメラの破片を片付け、写真を置いた。
「連れ去られた娘は、ここにいる」
俺達は全員そろって写真を覗き込んだ。
そこに映っていたのは、
「島、だな」
「島ですね」
「島でございます」
上空、斜め上からの島の写真だ。そこまで大きな島ではないようだが、学園島の周辺にある島だろうか。
「もう一度やってみよう」
ウェイバーは再びスタンドを使う。
しかし、
「また島だな……」
撮られた角度こそ違うが、多分同じ島だ。
「先輩、流石にこれだけだと……」
雪菜が不安そうに言う。
そう言えば原作でディオを念写した時も、スタープラチナのおかげでエジプトにいるってことが分かったんだよな。スタンドの力を過信しすぎたか……?
「や、でもどこの島か分かれば行けるはずだ。写真があるわけだし、データベースから探せば」
この世界の技術があるんだ。こんな写真からでも特定できるかもしれない。
「そうでございますね。では、さっそくはやて様に連絡しましょう」
「いや、その必要は無いぜ」
突然現れた怪人に、全員が戦闘態勢になる。
その怪人はいつの間にか部屋の中に立っていた。胸の中央に、三日月形の傷がある、トゲトゲとした怪人だ。
何だコイツ、見たことが無いぞ……!
「おいおい、武器を下ろしてくれ。俺は別に、お前らの敵じゃあない。神崎・H・アリアを奪還するのを手伝ってやろうと思ったんだよ」
「何ィ……?」
このおどけたような所作、こいつは絶対に油断しちゃいけない奴だ。
「警戒するのは結構だけどな。その写真だけで見つけるにはちょいと時間がかかるぜ。それまで無事だといいけどな」
このトゲトゲ、いったい何をどこまで知っているんだ? いったいどこ所属の誰なんだ?
「八神はやてに連絡するのは構わないけどな。その時は、俺は手を引かせてもらうぜ」
つまり選べという事だ。間違いなく手遅れになるが確実な手段を取るのか、正体不明のコイツに背中を預けるのか。
「その戦いには俺もついて行こう」
部屋の中に突然現れた銀色のオーロラ。そこから出てくるのは何時の通りの様子の門矢 士だ。
「ここは私の家なんだが……」
「良かったじゃあないか、兄上。今日は客がたくさん来て」
呼んでもいないお客に、ウェイバーはげんなりとしていた。
「私も同行させてもらおうか」
「ウォズ……」
「いや、だから私の家……」
「諦めろ、兄上」
相変わらず神出鬼没な男、ウォズが不敵な笑みを浮かべて語り掛けてきた。
インターミドル会場で姿を消して、どこで何をしていたんだ、コイツは。
「今回、神崎・H・アリアを敵に連れ去られてしまったのは、私の実力不足が原因だ。その償いをするチャンスを与えて欲しいのだ、我が魔王よ」
恭しく礼するウォズ。
「先輩、どうしますか?」
「……アリアの救出に時間はかけられない。このメンバーでやるしかない」
ウォズもトゲトゲも得体が知れないが、この雰囲気は間違いなく実力者だ。ディケイドもいるし、今すぐ揃えられる戦力としては最強だろう。
「それで、そこのトゲトゲ怪人」
「……、……、ああ、俺か。なんだ?」
わざとらしく右左を見た怪人は、とぼけたように自らを指さす。
「名前は?」
「ああ?」
「これからずっと、トゲトゲって呼ばれたいのか?」
「そいつはご免被るな―――ジャグラス・ジャクラーだ」
「よろしく。お前が知ってること、色々喋ってもらうけどな」
「喋れることだったらな」
俺たち2人は握手する。
ウォズは本の内容を確認し、士はそんな俺達の様子を写真に収めている。
こうして、アリア救出のための即席チームが誕生したのだった。