俺達はジャグラスにとある場所まで連れていかれていた。港の倉庫。それも管理局の兵器庫だ。
そこにアリアが捕らえられている島までの移動手段があるらしい。メンバーは俺、雪菜、コッコロ、士、ウォズ、ジャグラスだ。
ウェイバーは流石に連れて来れなかった。相手が相手だったからな。その後起こりそうなことも考えると、ウェイバーの戦闘力で立ち向かうのは厳しい。
それでもそうそうたる面子だ。
目的の場所に向かう道中、ジャグラスは俺達の質問に色々と答えてくれていた。
「その写真に写っている島はな、イ・ウーが密かに使っている島だ。技や兵器の試し撃ちだったり、決闘だったりにな」
俺は軽く告げられた言葉に驚愕する。
「お前、イ・ウーを……!」
「ああ。俺もメンバーだからな」
「先輩……!」
ジャグラスに向けられる雪菜の視線も厳しいものになる。
「そのイ・ウーってのは?」
「この世界の犯罪組織のことだ。『教授』と呼ばれるリーダーが統括している」
流石の士も、イ・ウーのことまでは知らなかったらしい。その質問に答えてるのはウォズだけど、コイツも何でこんなにさらりと答えられるんだよ。
「犯罪組織か、違ぇねえな。今日の島の怪物騒ぎ、ありゃ、イ・ウーの仕業なんだからな」
「何だと!?」
つまり、ウルトラマンの怪獣も、アナザーオーズもイ・ウーの仕業だってのか!?
ゾンビがブラドと繋がっていたことを考えれば……アイツの使った道具がイ・ウーに流れてしまったのか?
「……さあ、何処までイ・ウーの仕業なのかは想像に任せるぜ」
「ですが、それならばなぜ、あなたは私達に協力して下さるのですか? 主様のお話では、今回の相手である『砂礫の魔女』は、イ・ウーのメンバーのはず」
「その辺りには色々と事情があるんだよ、お嬢ちゃん」
コッコロの疑問をはぐらかそうとするがそうはいかない。俺達の睨みに、ジャグラスは肩をすくめて答える。
「パトラはイ・ウーにとっても問題児なんだ。や……だった、と言ったほうがいいかもな」
「どういう意味ですか?」
何処までも含みのあるジャグラスの言い方に、雪菜も少しイラ立っている。
「パトラはイ・ウーを退学になったんだ。もともと結束のある集団じゃないんだが、パトラはその中でも特別だった。特別過ぎてはみ出しちまったんだよ。他人の下につく性格じゃないしな。教授とケンカして、最終的に出ていく事になった。神崎・H・アリアを攫ったことについても、うちのリーダーに対して何かしようって事らしいからな」
その辺りは確かに原作と大きく違っていないな。
「それほどなのですか……」
「ああ、パトラは強敵だ。もともとヤバかったが、イ・ウーで『クラスカード』を手に入れてからさらに手が付けられなくなった」
ん?
「何だって? クラスカード?」
「ああ。知ってるか? 聖杯戦争って儀式がもとになっているらしいがな。その礼装を使えば、過去の偉人の能力を一時的に自分に置換することが出来るって代物だ」
「……先輩」
「……そうだな」
雪菜と頷き合う。そこについてはもっとよく情報を集めておく必要があるな。
俺が情報を聞き出そうと口を開く……その前に目的の場所に到着したらしい。
「こいつに乗っていこう」
足を止めたジャグラスが指さすのは、
「主様、あれは何でしょうか……船には見えませんが」
「……さあ」
長さ2メートルほどの細長い筒状の物体。装飾の類は一切なく、黒一色だ。
「船で島にある程度まで近寄ったら、コイツに乗り換える」
「これは何なんだ?」
「魚雷を元にした強襲用輸送艇だ。魚雷と同じ要領で発射されて、相手に近寄ったら中の人間は脱出、本体はそのまま魚雷として相手に命中する。中の人間は魚雷で混乱している相手をぶっ飛ばすってわけだ」
軽く言ってくれるが、
「そういうのって、訓練とかいるんじゃないのか!? タイミングとか!」
「自分でどうにかしてくれ」
俺のツッコミを無視してジャグラスは魚雷の搭載された船に乗り込んでいく。
「どうしてこんなものを使う?」
士も不思議に思ったのか質問している。俺に比べて落ち着いているが。
「下手に島に近寄ると、撃墜されるからだ」
「パトラにか?」
「正確にはアイツの使役しているスフィンクスにだ」
アリアを攫って行ったあのスフィンクスか。
「ああ。俺としてはアイツをあっさり倒せてしまったことの方が驚きだが。あのスフィンクスは普通の使い魔じゃない。龍なんかと同じ幻想種だからな」
「主様、そんなものを倒してしまわれたのですか……!?」
「……まあ、ね」
どうやって倒したのかは企業秘密にしたいけど……状況が状況だ。しっかりと説明して作戦を立てる必要がある。
「そうしてくれるとありがたいな。詳しい説明は向かいながらにしようか」
「そうだな」
俺達は船に乗り込んだ。
時刻は深夜。島に到着するのは夜明けだ。俺の疲労も限界に近いし、少しくらいは休んで体力を回復させたいんだけどな。
――――――――――――――――――――――――
そしてその数時間後、目的の島付近に到着した。一応仮眠は取れたけど、まだまだ全快には程遠いな。
でも俺の回復を待っているわけにはいかない。俺よりも小さいコッコロが、眠い目を擦って作戦に参加しているのだ。
「作戦の確認は以上です。各自、よろしくお願いしますよ」
《分かりました》
《お任せ下さい、主様》
《了解》
《ああ》
《我が魔王の仰せのままに》
雪菜、コッコロ、ジャグラス、士、ウォズはそれぞれの返事を返してくる。
すでにあの魚雷の中。内部に備え付けられた通信機のテストも兼ねて作戦確認を済ませたところだ。
《それにしても、中々大胆な作戦を考え付くもんだな》
《我が魔王の采配は的確だ。2、3匹消し去れば、カナは確実に食いついてくるだろう》
《カナの方はそれで何とかなっても、パトラとまともに戦うのは無謀だからな。その後の流れも、ハマれば何とかってところだ》
何故か俺を全肯定のウォズ。ジャグラスはパトラとカナのコンビを俺達よりも知っているという観点からコメントしている。
《その辺りは俺がどうにかしてやるさ》
士は頼もしいことを言ってくれた。ディケイド、アンタはマジで信頼してるからな! ホント、頼みますよ!
《雪菜様、緊張なさらずに》
《大丈夫ですよ、コッコロちゃん》
「ごめん、雪菜。重要な役を押し付けちゃって」
《はぁ、先輩……》
雪菜は呆れたような声を出した。
《武偵憲章1条を忘れたんですか?》
「仲間を信じ、仲間を助けよ?」
《そうです。先輩だけが危険な目に合う必要なんてないんですよ。私のことも、もっと信じてください》
「……分かった。頼むぞ」
《はい!》
《見せつけてもらっているところ悪いが、そろそろ発射するぞ》
《は、はいっ! 分かりました!》
この通信機、顔は映らない仕様だけど、今頃雪菜が顔を赤くしているんだろうってのが手に取るようにわかるな。
俺も顔が熱いもん。
《主様、雪菜様だけではなく、わたくしのことも信頼してくださいまし》
「そ、それはもちろん!」
《うらやましいねぇ、子供にも好かれて》
ジャグラス、そのセリフに他意はないよな?
そんなことを言いながら発射された魚雷は、ジャグラスの狙い通り、特に妨害されること無く島の近くまで到達出来た。
こっそりと、魚雷に搭載された潜望鏡で島の様子をうかがう。
すると、とんでもない物が視界に飛び込んできた。
「おいおい……」
こんなところにあるとは思えない巨大な建造物。黄金色に輝く、巨大なピラミッドだ。その頂上には光り輝く船が停泊していた。当然のように、その船は空を飛んでいる。
空中には何匹ものスフィンクスが―――すべてこちらを見ていた。
「やっば……!!」
潜望鏡越しに目が合い、俺たち全員そろって息が止まる。
光り輝く船から、1人の美女が顔を出した。
全身を金銀財宝で飾り、胸や下半身には布を巻いただけの恰好。半裸と言っても過言ではない。服の防御力は皆無だが、その周りに侍るスフィンクスがいれば、心配する必要は無いのだろう。
その絶世の美女の名は、『砂礫の魔女』パトラだ。
「よく来たのう。下賤の者ども」
魔術を使っているのだろう。魚雷の中にいる俺達にまで、声がはっきりと聞こえてくる。
「何ゆえ、妾がお前達をここまで近づくことを許したのか分かるか?」
ピラミッドの頂点でふんぞり返りながら、パトラは得意げに言う。
「この戦いを見ているイ・ウーのメンバーに、妾の力を見せつける為ぢゃ。ブラドとシンタニコウヘイを倒したお前達を妾が倒せば、奴らも納得せざるをえんからのう」
じゃらりと装飾品を揺らし、パトラが足を組みかえる。
「小賢しくもスフィンクスの目を躱したと思っているかもしれんが、その気になればここに来る前に海の藻屑にすることも出来たのぢゃ!」
「……おい、ジャグラス」
《いや、責めないでくれよ。まさかそこまでとは思わねーよ》
この作戦、全然意味無かったんじゃねーか! こんな窮屈なところに押し込まれた意味よ!
「イ・ウーの次の王はアリアではない。妾ぢゃ!! 頑固者の『教授』も、妾がアリアの一味を倒し、さらにアリアの命を握って話せば、素直に王位を譲るに違いないじゃろう」
そんなパトラの演説を聞きながら、俺達は通信している。
「でも、しっかり出てきてくれて助かったよ。とりあえず、第一段階は成功だな」
《まあ、それがパトラの性格だからな。プライドが高くて目立ちたがり。それに見合うだけの力も備えているが》
「だが今回はその慢心を突く訳だ」
《ピラミッドに引きこもられちゃ、絶対に勝てないからな。自信はあったが、内心ドキドキだったぜ》
それは俺もだ。じゃなかったら尻尾を巻いて逃げ帰って、作戦を立て直さないといけなかった。
ジャグラスから告げられたパトラのクラスカードの力、それは聖杯戦争を経験した俺ですら、驚愕するものだった。
そもそもクレオパトラの生まれ変わりを名乗るパトラ。そんな彼女の持つクラスカードに収められている英霊は―――最強のファラオ、『オジマンディアス』の力だ。
……いや、言いたいことは分かる。俺も聞いた時は、なんでクレオパトラじゃねえんだよ! って思ったもん。そこは合わせろと思うよな。
でも実際に戦うとなると笑い事じゃない。
まず目の前にある巨大なピラミッド。これがもう宝具だ。
とにかくすんごいピラミッドと思ってくれて構わないんだけど、問題なのはピラミッドである点だ。
パトラは伊達にクレオパトラの生まれ変わりを名乗っているわけではない。彼女の持つ、特異なレアスキルが理由だ。
それが驚きの『ピラミッド型の建物が近くにある場合、魔力が無限になる』というモノ。言っててかなりバグってると思うが、その条件が
そのレアスキルのおかげで、莫大な魔力が必要なはずのオジマンディアスの宝具を無制限に使うことが出来るのだ。
「パトラ、油断するな」
スフィンクスの1体に跨っていた男が、パトラに近寄る。その男も、パトラに負けず劣らずの美形だ。
「アリアの一味は、あれで全員ではない。それにそれを撃退したとしても、今度は特務六課が相手になる可能性があるぞ」
「ならば! それも皆殺しにするのぢゃ! 祝いの席で全員の首を並べるのぢゃ!」
「『アリアには仕掛けても良いが、無用の殺しはするな』。俺が伝えた教授の言葉、忘れてはいないだろう? ルールを守らなければ、王にはなれないぞ」
「うぅ~~~っ!!」
その2人は敵の目の前だというのに、言い争いを始めていた。
《ど、どうしたんでしょうか。あの2人、味方なんじゃ……》
《はい。あれではどう見ても、駄々をこねる子供と、その親でございます》
《パトラにとって唯一頭が上がらないのが、アイツだからな。名前は『遠山 金一』。素直に強いぞ、気をつけろ》
《カナって女がいないな。どこかに隠れているのか?》
《ん? んん~、いや、気にしなくていいぞ。今は金一がいるからなぁ。夜月 翔も、カナの代わりに金一を相手にしてくれ》
士の疑問に、ジャグラスは笑いをこらえて返した。だが、その意味不明な返答に、みんなハテナマークを浮かべている。
余計なことを言って混乱させたくないんだろう。本当にことを言っても、バカにすんなって言われるだろうからな。
「それに……いるんだろう、ジャグラス。俺はお前の真意もはかりかねている」
《それはこっちのセリフだぜ、金一》
ジャグラスは笑いながら返した。
今まではじゃれ合うように金一と言い争っていたパトラだったが、ジャグラスの名前を聞いた途端、目を吊り上げた。
「ジャグラス? まさか、ジャグラス・ジャグラーか!! あの下郎、妾の邪魔をするか!」
「お前、ずいぶんと嫌われてるな」
《らしいな。泣けてくるぜ》
嘘つけ。
「キンイチ! アイツは殺すぞ! 良いな!」
「パトラ、落ち着け」
「男は嫌いぢゃ! 特にジャグラスのような粗暴な男は! 妾がイ・ウーの王になった暁には、側近はすべて美女で固めると決めておる! 今死ぬか、後で死ぬかの違いじゃ!」
金一はごく自然な動作でパトラとの距離をゼロにした。パトラの顎を右手で上げさせると、
「……!!」
《ひえっ!?》
いきなりキスをした。魚雷の中の女性の悲鳴が重なる。
《この世界の奴らは、男女でいちゃつかないと戦えないのか?》
士が呆れてる。
何も知らなかったらそう思うよな。うん。
実際にキスをされたパトラはもう大変だ。顔を真っ赤にして自らを抱き寄せる金一を押し返そうとするが……やがて眼を閉じて体の力を抜いた。
ドラマや映画ではない、他人のキスシーンを見せつけられるという時間はすぐに終わり、金一がゆっくりと唇を離す。すると、
「すまない。俺の一言で混乱させてしまったな」
金一の雰囲気が変わっていた。より一層手ごわい雰囲気に。
我に返ったパトラは自らの唇を手の甲で拭う。
「トオヤマ キンイチ……! 妾を使ったな……! 好いてもおらぬくせに……!」
「まさか。そんなことが出来るほど、俺は器用な男じゃない」
顔がイケメンなら笑ってもイケメンだな、金一は。
《わたくしたちは一体何を見せられているのでございましょうか……》
《……もしかすると、私達の周りの人はいつもこう思っているのかも……》
雪菜は何かに気付き始めている。
「頼むよ、パトラ」
「わ、わかった! なるべくは殺さんようにするっ!! だがここからは戦いだ! その結果殺すこともあるのぢゃぞ!」
「ああ。そうだな。その時はしょうがない」
緩みつつある緊張感の中、戦闘が始まろうとしていた。