翔と金一の戦いを背に、ウォズは無数のスフィンクスと向かい合う。金一は翔の実力を測ろうとしているが、パトラにとってはそんなもの知ったことではない。
砂浜に残った翔とウォズの所には、どんどん生み出されるスフィンクスの大軍が集結することになった。
「さてさて、ここから先は我が魔王の舞台だ。邪魔者はご退場願おうかな?」
近寄ってきたアヌビスを軽く振り払いながら、ウォズは不敵に笑う。
――――――――――――――――――――――――
俺の右手から、GNブレードが跳ね飛ばされる。くるくると回転して空中に飛び、落ちて地面に突き刺さった。
金一はわざとスコルピオを振りぬいた体勢で止まっている。俺の体勢が崩れているにもかかわらず、追撃を仕掛けてこない。
「ちいッ!!」
左腕に残ったGNブレードで斬りかかるも、
キンッ!!
回転したスコルピオの柄がGNブレードの刃に当たり、俺の手からどこかに飛んで行ってしまった。
「この程度かッ!! 夜月 翔!!」
「まだまだッ!!」
俺は背面に装備されているGNビームサーベルを引き抜く。
グリップから発生したビーム刃が、受け止めたスコルピオの表面を火花を散らしながら滑る。
「あの男、ウォズと言ったな。あいつはお前は教授すら倒しうると言っていたが……」
その目は言外に期待外れだと伝えてきていた。
「俺すら倒せないようでは、教授を倒すなど夢のまた夢だ」
「だろう―――な!!」
俺は言葉を言い終わると同時に、GNダガーを投げつける。だがそれを読んでいたのか、銃声が響く。
金一の
銃弾によって破壊されたサーベルのグリップが小さな爆炎を上げた。
その爆炎を突っ切り、突撃する。
「見え見えだぞ」
金一にはあっさりと避けられてしまう。俺の動きを全て先読みしているかのように。ビームサーベルを受け止めるのは危険と判断したのか、全て避けられる。
ピンクの光刃は光の軌跡を抱けを残し、全て空を切る。
「狙いも見え見えだ。右手を狙ってるな」
そうだ。クラスカードさえ剥がしてしまえば、金一の力は大きく削がれる。そしておそらくは、そこが金一の合格ラインだ。
それは上等。俺を認めさせてみろって言うなら、そうしてやる。奥の手を使ってでもな。
「―――トランザム」
「ッ!?」
機体が赤く染まる。胸部のGNドライブは回転率を上げ、高濃度のNG粒子を最大散布する。
トランザムとはオリジナルの太陽炉にのみ搭載されているシステム。
機体内部に蓄積されていた高濃度圧縮粒子を全面開放することで機体が赤く発光し、一定時間その出力を3倍にまで引き上げることが出来る制限時間付きのパワーアップだ。
内部に蓄積されている粒子をすべて使う関係上、この機を逃した場合、俺の勝利は無くなる。
新たに引き抜いたサーベルと合わせ、スコルピオをばらばらに切断する。
「急激なパワーアップ……なるほどな……!!」
近接武器を破壊された金一は、腰のホルスターに手を添えながら後ろに下がる。
「追撃しないとはな。そのスピードとパワーなら、あのまま俺を仕留めることも出来ただろうに」
「アンタが俺のことを殺す気が無いみたいだからな」
「フッ、この状況でそんなセリフを言えるとはな」
笑みを浮かべた金一だったが、すぐに目つきが鋭くなる。
「ならば、これを最後の攻撃にしよう。俺の宝具、破ってみろ」
俺はその言葉に、唇の端を吊り上げる。
「ああ、そうしようじゃないか」
俺は2本のサーベルを構えた。そのまま金一は動かない。どうやら先手は俺に譲ってくれるらしい。
「いくぞッ!!」
赤い残像を引きながら金一に突進する。
「見事なスピードだが、それよりも俺の早撃ちの方が速い。
ISの防御を貫通する弾丸だ。ガンダムだろうと当たればただでは済まないだろう。だが命中する、その直前。
「
「ッ!?」
俺の体がACT3が地面に作った回転に吸い込まれる。
「貴様の十八番か……!」
俺のスタンドのことを知っているから出たセリフなんだろう。この戦法は何度も使っているとはいえ、突然使われて対応できるものではない。
金一がうめくがもう遅い。
回転の穴から飛び出した俺の右手にはもう何も握られていない。あるのは握りこぶしだけだ。
クラスカードを排出させるだけなら、触れればOKだが、
「楯無さんの分もあるんだ。文句は無いよな?」
「ああ、もちろんだ」
砂浜に、鈍い音が響き渡った。赤い残像を引く右手が、金一の顔面を捉えたのだ。
「うぐ……っ」
「ふぅ……」
5メートルほど離れた場所に転がる金一。俺も息を吐いてエクシアの装甲を解除した。
「まったく、未知の能力とは恐ろしいものだな……」
「いつもそんなもんだよ」
ひらひらと落ちてくる一枚のカード。俺達の丁度真ん中に落ちた。俺も金一も、それを拾いに行こうとはしない。
俺達の戦いは終わったのだ。そして向こうの戦いも、もうそろそろ決着がつくはずだ。
そう思い、俺は上空に目を向けるのだった。
――――――――――――――――――――――――――
上空に舞い上がったグライダーは風に乗り、ゆっくりとピラミッドの近くに、パトラの乗る
だが、このままでは辿り着く前に撃墜されるのは目に見えていた。
ここからは、さらに作戦を進める必要がある。翔が足止めされたせいで若干早くなってしまったが、文句を言ってはいられない。
「コッコロさん、お願いします!!」
「はいっ、雪菜様! 風の精よ―――!!」
新緑色の精霊が雪菜の周りを飛び、加護を授ける。体が軽くなり、空中でも多少の自由がきくようになる加護だ。
「よーし、お嬢さん。後ろは俺達に任せて行ってきな」
「……はい」
雪菜の後ろを守るのは得体の知れない怪人とディケイドだ。
ディケイドを知らない雪菜にとっては、どちらも良く分からない人物。だが、翔が信用して作戦を立てた以上、ここは信じるしかない。
「行きますッ!!」
風の精が育てた葉っぱをトランポリン代わりにして、雪菜はパトラに向かって一直線に発射される。
「おほほッ! 愚かなり! 正面から突っ込んでくるとはのう!」
雪菜の行く手を阻むのは何体ものスフィンクスだ。いかにコッコロのサポートがあったとしても、この数のスフィンクスに狙われてはひとたまりもない。
すぐさま2匹のスフィンクスが雪菜に襲い掛かる。鋭い爪と強靭な顎が雪菜に向けられた。それが無くても、前足で地面にでも叩きつけられれば、それだけで終わりだ。
そうならないように、この2人がいるのだ。
「お二人とも、よろしくお願い致します!」
コッコロの声に、動いたのはディケイドだ。ジャグラスは腕を組んでその様子を観察している。
「お手並み拝見といこうか?」
「勝手にしてろ。そうだな……向こうがスフィンクスなら、こっちも出しておくか。たしか、龍やドラゴンはこの世界では幻想種って言うんだよな?」
「……へぇ?」
ディケイドの言葉に、ジャグラスは興味深そうに眉を動かした。
そんなジャグラスを無視して、ディケイドは2枚のカードを読み込ませる。
《ATTACK RIDE DRAGREDER》
《ATTACK RIDE WIZARDRAGON》
空中に出来た鏡からは『ドラグレッダー』が、魔法陣からは『ウィザードラゴン』が出現する。
ドラグレッダーは龍騎、ウィザードラゴンはウィザードのそれぞれ相棒と呼べる存在である。2人のライダーに力を与えているモンスターだ。
その龍とドラゴンは、雪菜に襲い掛かろうとしていたスフィンクスに食い掛る。
ドラグレッダーはスフィンクスの胴体に巻き付き、締めあげる。ウィザードラゴンは正面からぶつかる。
だがスフィンクスも負けてはいなかった。拘束を振りほどき、激しくぶつかり合う。スフィンクスの発射する光線や、ドラグレッターの吐き出す火球が、森を焼いた。
突然真横で始まった怪獣大戦に緊張しながらも、雪菜は前へと進む。
ジャグラスはパトラの次なる攻撃に備えてカードを取り出した。
「次は俺も出すか――――――ゼットンよッ!!」
《Z-TON》
その間に割り込むのはジャグラスが召喚したゼットンだ。雪菜の盾になり、熱線が命中する。
「なんぢゃとっ!?」
パトラは驚きに顔を歪めた。
圧倒的な威力の熱線だが、ゼットンの全方位バリアーを片手間で突破することは出来ない。それどころか、ゼットンは反撃の準備すら始めていた。
「くっ!!
パトラは急いでスフィンクスを呼び戻し、ゼットンを襲わせる。
スフィンクスの相手をし始めたゼットンはパトラへ攻撃は出来なくなるが―――雪菜はその隙にゼットンの横を突破する。
「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る」
雪霞狼を両手で、胸の前で持つ雪菜。目を閉じて祝詞を唱える。
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
オジマンディアスの力を得たパトラを直接倒すのは不可能。大切なのはクラスカードの
そうすればオジマンディアスの宝具が使えなくなり、パトラを支えていた無限の魔力もなくなる。
翔の
だが翔達にはもう1人、魔力に対して絶対的な力を持っている娘がいた。あらゆる魔力結界を切り裂き、吸血鬼の真祖すらも倒しうる破魔の槍を持った娘が。
練り上げられた魔力が雪霞狼の機能を最大にする。槍の先端に魔方陣が浮かび上がった。
「くっ―――こ、のっ!!」
目の前まで迫る雪菜に、パトラは焦って自らの魔術を行使する。砂を使ってアヌビスを作ったように、分厚い盾を作り出す。
だがそんなもの、雪菜の雪霞狼の前には、波にさらわれる砂の城よりも脆い障害だ。
「はあッ!!」
槍を一閃。それだけで、砂の盾は解けるように消え去った。
「ひっ……!!」
パトラは初めて情けない悲鳴を漏らす。もはや魔術は間に合わず、スフィンクスが助けに入るよりも雪菜の方が早い。
唯一回避する方法があるとすれば
パトラの薄皮を、雪霞狼の刃が撫でた。
その瞬間、パトラの体から1枚のカードが排出され、ピラミッドやスフィンクスが消え去る。
この戦いの勝敗が決した瞬間だった。
――――――――――――――――――――――――
金一との決着をつけた俺は、雪菜達と合流していた。ディケイドとジャグラス、そしてウォズの助力があったとはいえ、ずいぶんとあっさり片付いてくれたもんだ。
後は攫われていたアリアなんだけど、
「あそこだ」
金一が指さしたのは、先ほどまでピラミッドがあった場所だ。
そこには大きな棺がある。森の中にポツンと棺があるのはとてもシュールだな。
重い蓋を開けると、パトラと同じくビキニのような服装のアリアが横たわっていた。
「特に怪我はしていないはずだ。少なくとも、俺達は何もしていない」
その金一の言葉通り、アリアは寝ているだけで掠り傷1つなかった。
「そいつのことは信用していいぜ。何しろ『元』が付くとは言え、武偵庁特命武偵なんだからな」
「ええっ!?」
「何故、そのような方がイ・ウーに?」
「詳しく話すと長くなる。だが、イ・ウーを壊滅させるためには必要なことだったんだ」
ジャグラスが説明した予想外の肩書に驚く雪菜とコッコロ。何も知らなければそうなるよな。
てか、普通にそんな経歴の人でも組織の一員になれるってのはホント凄い。
「黒の組織みたいだな」
「黒の組織?」
「何でもない」
公安の『ゼロ』が忍び込んでるみたいな。FBIやCIAが潜入調査してるみたいな。向こうと違って、分かってて見逃されるんだろうけど。や、決してジンの兄貴が無能って言ってるわけじゃないんですよ!
話を戻して。
「どうすれば目が覚めるんだ?」
「その棺自体に呪いがかけられてる。眠りの呪いだ。蓋が開けば呪いは解けるはずだ……そうだな、パトラ」
「……」
呼びかけられたパトラはそっぽを向いているが、とりあえず呼び掛けてみるか。
「アリア、アリア!」
「……っ、んっ……?」
すぐに反応が返ってきた。
「翔? あれ、雪菜とコッコロも……? あたし、何して……」
眠気眼を擦りつつ、アリアが起き上がった。
「アリアさん、とりあえず……」
「え?」
「上に何か羽織りますか? いえ、そう言う服ですから、気にしないなら、それでもいいんですけど。先輩の目もありますし……」
雪菜がちらりと俺を見てきた。
「服? 何を言って―――」
アリアが自分の体を見下ろす。
するとすぐに、自分の服装に気が付くことになる。薄い布をそのまま巻き付けたような格好だ。それも胸や下半身しか隠れていない。
「バッ!? ちょっ! 見るな!!」
アリアは瞬時に真っ赤になり、体を手で隠す。さらに棺の淵でガードした。
アリアの命令に従い、俺はくるりと後ろを向いた。
「そこまで恥ずかしい服装なのでございますか?」
「民族衣装だからな。着慣れていないと恥ずかしいもんなんだよ」
コッコロはきょとんと首を傾げていた。この娘の常識がどうなっているのかは分からないけど、エルフ方向の常識だと、この服装は全然普通なのかもしれない。
「ちょっと! 私の服どこよ!!」
「それはそっちだな。武器もまとめておいてある」
「取ってくるよ」
金一の指さす方向に行こうとするが、
「いや、女性のほうがいいだろう。ここに来るまでに着ていた服、『全て』があるからな」
全て? ああ、うん。下着とかもあるって話ね。そりゃ、あの格好で今までつけてた下着のままだったら違和感バリバリだろうけどさ。
「先輩……アリアさん、そちらで着替えてきましょう」
「そうね。そうするわ」
雪菜とアリアが森の中に一緒に向かい、すぐに戻ってきた。アリアは見慣れた武偵高の制服になっている。
そのアリアは俺達の所に来ると、恥ずかしそうに言った。
「翔……その、今回はありがとう。ドジしたアタシを助けてくれて」
「当たり前だろ。仲間なんだから」
「はい。先輩の言う通りです」
「気にすることはございませんよ、アリア様」
「みんな……んんっ! この2人もイ・ウーのメンバーなのよね! これでまた、ママの刑期を短縮できるわ!!」
わざとらしい咳払いと共に、そう言うのだった。
その様子を見て、俺達はこっそりと笑う。
「よし、それじゃあ……」
無事アリアを救出できたことだし、そろそろ島を脱出することにしよう。
「おとなしくしてくださいね」
「うぅ~……!!」
クラスカードは回収された。ピラミッド型の建物が無い今、パトラはもはや普通の魔術師だ。それでも、十分な実力があるのは間違いないが。
しかし、霊視のある雪菜に睨まれていてはどうしようもない。パトラが魔術を発動させる前に、確実に意識を刈り取られることになる。
「キンイチ、何とかするのじゃ!」
「すまんな。流石の俺でも、こうも包囲されていては、脱出は無理だ」
嘘をつけ。逃げるくらいは出来るだろ。
でも、本当に逃げるつもりが無いんだろう。素直に俺達の指示に従ってくれる。ちなみに金一のクラスカードも武器も、俺達が預かっている。
金一の答えにパトラは地団太を踏むが、それでもどうしようもない。
歩いていると浜が見えた。そこには自動操縦で俺達を迎えに来ていた船がある。それに乗り込んで島を後にする。
波しぶきを上げながら、船はどんどん島から遠ざかっていく。
こうして俺達は島からのアリアの奪還に成功するのだった。