一番槍は俺だ。
「
雷と暴風を纏い、一直線に突撃する。
「シャーロック!!」
「君にはとても興味があったよ。さあ、君の実力を見せて欲しい」
「ああ、お望み通りな!!」
雷を纏っている俺と打撃を交わしているというのに、シャーロックの顔は涼しいものだ。
「
地面から飛び出した鎖が、シャーロックの胴体に巻き付いて動きを止める。
「
予め仕込んでおいた雷の槍を投げつけた。
だがそれは、ドーム状の砂の盾に防がれてしまった。
「
2種類の電撃魔法を放つが、地面から現れる砂の盾にすべて防がれてしまう。やっぱり砂と電撃では相性が悪いらしい。
鎖を破壊したシャーロックは1枚のカードを取り出した。
「
「クラスカードかッ!!」
「その通り。もっとも、どの英霊にもつながっていない出来損ないだけどね」
シャーロックの手に現れるのは、細長い、黒い靄。剣とは言っているが、こちらから見ると、黒い霧を振り回しているように見える。
「俺に任せな!!」
代わりに前に出てくれるジャグラスだったが、輪郭がぼやけているせいで、戦いにくそうにしている。
「ジャグラスさん、下がって下さい!! はあッ!!!」
雪菜の一閃が、黒い霧の剣を吹き払った。
「ふむ。あらゆる魔力を無効化する槍、雪霞狼か。パトラ君との戦いも見ていたけれど、相当に厄介な代物のようだね」
魔力で強化された物体では雪霞狼と打ち合うことは出来ない。シャーロックは次なる剣を取り出していた。
「実剣……!!」
「ああ、これは昔、女王陛下に下賜されたものだよ。銘はイクスカリヴァーンという」
「たいそうな名前だなぁ、教授!!」
そこにジャグラスも加わる。
「良いだろう。2人まとめて稽古をつけてあげよう」
シャーロックが二刀流で雪菜とジャグラスを相手にしている、ように見える。だが実際のところは、雪菜をイクスカリヴァーンで、ジャグラスを『剣』でそれぞれ相手にしていた。
実質、腕1本で1人の相手をしている。
「2人共避けろ!!」
俺は光輝く剣を空に掲げていた。
「
光線の斬撃を放った。
「ふむ」
シャーロックは砂の盾を出現させる。それも10枚も。
さらに、
「
黒い靄が、今度は平べったく立ちはだかる。
光の斬撃は砂の盾を次々切り裂いていく。そして最後の黒い霧の盾に当たり、
ピキッ!!
「推理通りだ」
盾にヒビが入るが、受け止められてしまった。
「まだです!!」
雪菜にはその結果が分かっていたんだろう。一息つかせる余裕を与えずに攻撃に入る。
シャーロックの目の前にはいまだ黒い盾があるが、そんなもの、雪菜にとっては障害ではない。盾を無視して槍を突き出した。
盾は簡単に貫通するが、
「まず……っ!?」
さらに雪菜はさらにその先を視た。
雪菜が作った槍の穴から、野球ボールほどの大きさの球体が転がり落ちた。それを見て、ジャグラスも顔を引きつらせる。
「グレネード……!!」
シャーロックが放ったグレネードは爆発する―――のではなく、煙を吹きだした。
「これは……!!」
「ちいッ!!」
急いで離れる2人だが、
「なんで……!!」
雪菜を取り巻く煙は離れる気配がない。それどころか、飛び散っていた煙も集まっている。
シャーロックが気流を操作しているんだ!!
「ならばわたくしが!!」
コッコロが風の精を操り、煙を吹き飛ばそうとしている。だがシャーロックの方が上手らしく全く効果が無い。
やがて雪菜は、
「あ……」
力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
「雪菜!!」
「心配しなくてもいいよ、夜月君。ただの筋弛緩剤だ。効き目が強い分、時間は短い。ああ、残念ながら、魔法の治療でどうにかなるモノではないよ」
それを聞き、コッコロの動きが止まる。
治療しようとしていた手を止め、槍を構えて雪菜の前に出る。
シャーロックの推理通り、俺達はコイツにダメージを与えられないまま、雪菜を戦闘不能にされてしまった。
流れていた音楽、『魔笛』の曲調が変わる。
「翔君、戦いの真っ最中だが、今から『緋色の研究』を講義を始めないといけない」
「緋色……だと……?」
シャーロックは静かに目を閉じた。
「「「!?」」」
雪菜達は目を見開いている。
シャーロックの体が緋色に光だしたのだ。
「それが……!」
「その通りだよ、ジャグラス君。僕がイ・ウーを統一出来たのはこの力があったからだ」
シャーロックはポケットから一発の銃弾を取り出す。
「これが緋弾だ」
弾頭は薔薇のような、炎のような、血のような、緋色をしている。見たことも無い金属だ。
「これは超常の力を人間に与える物質。『超常世界の核物質』なのだ」
「それが色金か……」
倒れていながらも、シャーロックの言葉を返す。
「おや、知っているのかい? それも異なる世界の知識なのかな?」
もはや隠していても仕方がない。
「ああ。日本では
「素晴らしい。そこまで知っているのかい」
シャーロックは本当に感心していた。
「アリア君」
シャーロックは右手の人差し指をアリアに向ける。
その瞬間、
「え……!?」
アリアの右手の人差し指が光だした。それだけではない。指先から波及するように、ぼんやりとした光は全身に広がっていく。
「な、なによ……これ……あたしの体、どうなって……!」
「アリアさん、失礼します! ……ッ!? 雪霞狼でも打ち消せない……!?」
魔力を打ち消す神格駆動の光でも、アリアが発生させる緋色の光は無くならない。
自分の体が発生させる未知のエネルギーに、流石のアリアも恐怖と驚愕の感情を浮かべていた。
「それは『
シャーロックは目を細めた。
「ふむ、僕が推理していた程の光の強さじゃないね」
シャーロックは左に銃を持ち。
「翔君、申し訳ないが―――」
銃口をこちらに向けて、
「―――トリガーになってほしい」
どんな弾丸が使われたのか分からない。
だが確かなのは、俺の額が撃ち抜かれたという事だ―――
―――――――――――――――――
翔が頭から血を流して倒れた。
「先輩ッ! 先輩ッ!」
「主様っ! そんな……」
「……ぁ……ぁぁ、そん、な……」
雪菜は目に涙を溜めながら、必死に頭から血を流す翔の体を揺らす。しかし、ぴくりとも動かない。コッコロは必死に治療を行う。アリアはその光景にショックを受け、何も出来ないでいた。
「いや、いや……っ」
アリアは後ろに下がり、
「いやああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
激しい感情に呼応して、アリアを包んでいたぼんやりとした光は、はっきりとした緋色に染まる。
その様子を見て、シャーロックは満足そうに微笑んだ。
「これで準備は整った。さぁ、指をこちらに。アリア君」
「ぁ、ぇ……?」
錯乱状態のアリアは、シャーロックの言う通りに右手の人差し指を向ける。それはシャーロックも同じだ。
お互いに向けられた人差し指から光が放たれ―――その2つの光はぶつかり、融合した。
「僕には、自分の死期が推理できた。どんなに引き伸ばしても、今日この日までしかもたないと」
二つの光は1つの球体になる。
「あれは……」
士は目を細める。その光が、単純なエネルギーの塊ではないことに気が付いたのだ。それはいくつもの次元を渡り歩く彼だからこそ理解出来る事柄だった。
「(時空が歪んでいる。他の世界か―――あるいは他の時間か)」
士の些細な思考にも、シャーロックは微笑みを返した。
「僕はその日までに緋弾を子孫の誰かに『継承』する必要があった」
雪菜とコッコロは翔を抱きながら聞く。
「だが緋弾の継承にはいくつか条件があった。ひとつは性格だ。情熱的でプライドが高く、どこか、子供っぽい性格をしていなくてはならない。僕は―――自分のことをそう思ってはいないけどね」
シャーロックは続ける。
「2つ目はアリア君が女性として心理的に成長する必要があったこと」
「心理的……」
雪菜はぽつりと、その言葉の意味を噛みしめた。
「3つ目、継承者は能力が覚醒されるまで、最低でも3年のあいだ緋弾と共にあり続ける必要があること」
球体だった光はレンズのような形に変わっていく。
「これが一番難しい条件だったよ。これを成立させるために、僕は今日までこの緋弾を持ち続けて、さらに3年前の君に渡されなければならなかったからね。そのために、今日、この瞬間が必要だった」
レンズに何かが映りだした。
「うそ……」
アリアはレンズを見て驚愕する。
「これが、日本の古文書にある『
レンズには1人の女の子が映っていた。
「アリアさん? あの人は一体……」
「あれ、アタシよ! 3年前のアタシ!」
「え!?」
雪菜は想定外の、しかしどこか予想していた答えを受け取る。
金糸のような亜麻色のツインテールを煌めかせている少女。目の色も赤紫色ではなく、サファイアのような紺碧の瞳をしている。髪どころか瞳の色も違うアリアだった。
「アリア君。君は13歳の時、母親の誕生日パーティーで狙撃されたことがあるね」
「……はい」
「撃ったのは僕だ」
「「「ッ!?」」」
全員が目を見開いた。
「いや、これから撃つのだ。これはどちらの表現も正しい」
シャーロックは左手に拳銃を持ち、構える。込める弾丸は『緋弾』―――あの金属だ。
「緋弾の力をもってすれば、過去への扉を開くことさえも出来る」
シャーロックは銃口をレンズに映ったアリアに向ける。
「僕は今から、3年前の君に『緋弾』を継承する」
「よけてッ!!」
雪菜は思わず、レンズに向かって叫んでいた。
レンズの中のアリアが雪菜の方を向き、背中はシャーロックのほうに―――
「―――!!」
銃弾はアリアの背中を貫いた。
レンズの中のアリアが倒れると、レンズも消滅した。
「……ッ!!」
アリアは自分の左胸を抑えていた。
この時の銃弾は心臓の近くで止まってしまい、手術でも取り出せない位置にあるのだ。今この胸の中にある弾丸が、今まで目の前にあった『緋弾』なのだ。
「緋弾には2つの副作用がある。1つは延命の作用。共にある者の肉体的な成長を遅らせる。アリア君の体格が、この頃からあまり変わらなくなったのはそれが原因だ」
シャーロックは続ける。
「もう一つは体の色が変わることだ。髪や瞳などが綺麗な緋色に近づいていく。今の君のようにね」
シャーロックは緋弾を失ったせいか、いきなり何歳か歳を取ったように見える。
「これで講義は終了だ」
一仕事終え、シャーロックは愛用のパイプを取り出した。
「そうか。話が長すぎて寝ちまうところだったぜ――――――ザケルガッ!!」
「「「ッ!?」」」
シャーロックに向かって一直線に伸びる電撃。
シャーロックもこのときは驚いただろう。それでもとっさに砂の盾を出して攻撃を防ぐが、
ピキッ!!
「……ふむ。先ほどよりも、貫通力が上がっているね。それにしても……」
「ラウザルクッ!!」
金色の光を纏った翔がシャーロックの目の前にまで接近していた。
「しっかり額を撃ちぬいたと思ったんだけどね。どういうトリックだい? それとも、そういう能力を持っているのかな?」
「さあな!! 得意の推理をしてみろよ!!」
それは復活した翔だった。
――――――――――――――――――――――――
ふわふわとした感覚から、急激に意識が浮上した。
その時にはすでに理解出来ていた。今回の死闘を経て、新しい呪文が本に書き記されたことを。それも一気に3つも。
「そうか。話が長すぎて寝ちまうところだったぜ――――――ザケルガッ!!」
まず使うのは第五の呪文、『ザケルガ』だ。
ザケルが電撃を放射する呪文なら、ザケルガはより光線に近づき、貫通力を高めた呪文になる。
だが、いかに新呪文とはいえ、シャーロックの防御を突破できるほどの威力は無い。
「ラウザルク!!」
立ち上がった俺は第六の呪文、『ラウザルク』を使う。
次の瞬間、俺に落雷が落ち、金色のオーラを纏い始めた。これは純粋に身体能力を強化する呪文だ。術式兵装が解けてしまったため、この呪文を使った。
「しっかり額を撃ちぬいたと思ったんだけどね。どういうトリックだい? それとも、そういう能力を持っているのかな?」
「さあな!! 得意の推理をしてみろよ!!」
俺にだって分かんないからな! あのふわふわしてる時のことは!
これが最後の攻撃だ。
「バオウ―――」
第4の呪文、そして、ガッシュの最大呪文であるこいつに……!!
「―――ザケルガァァァァァァッ!!!」
俺が放つのは単純な電撃ではない。バオオオオオオォォォォォッ!! と雄叫びを上げる金色の龍だ。大きく口を開けたバオウは、あらゆる敵を飲み込む最強の呪文だ。
「これは……」
格納庫が金色に照らされる。それほどまでに大きな龍が口を開け―――シャーロックを飲み込んだ。
凄まじい閃光と雷撃が室内を満たす。バオウが消えてもしばらくの間空気が帯電しているほどだ。
そんな攻撃を受けてなお、
「そん、な……」
「流石の僕も、少し焦ったよ。中々の魔法だったよ。僕も見たことが無い魔法だった。でも、私を倒すことは出来ない」
「く……っ」
シャーロックの手には3枚のクラスカードが握られていた。そのすべてが朽ちて消え去っていく。
一か八かの攻撃だった。このバオウ・ザケルガはさらに強化される。というよりも強化されるまでは、必殺技にもかかわらず威力不足が目立つ呪文だったのだ。
それでも今は雷の暴風よりも威力のある魔法だった。それでもダメだったのだ。
もう1発撃つほどの魔力はもう残っていない。
「これで万策尽きたのかな? ならそろそろ僕は―――」
「おい、ジオウ―――夜月 翔!!」
「え?」
士が声を張り上げている。
「受け取れ!!」
士が何かを俺に投げてきた―――