「バッドエンドの時間ですよ~」
理子と夾竹桃が扉を開けて部屋の中へ入ってくる。
俺とアリアは扉から離れたところに一塊になっていた。そもそも薬のせいでまともに動けないんだけどな。
俺のほうは夾竹桃が言った通り少量だったためか、何とか立てる程度には回復している。それでも2本足で立つのも苦労するが。
それでも、俺には自分が負けるというヴィジョンが見えなかった。相手を殺して終わらせるという終わらせ方は、法的にも心理的にも選べない。
殺しに来ている相手を、半身不随の状態で、生かして行動不能にする。
「一時はどうなるかと思ったけど、これで終わりだな。オルメス、夜月 翔」
「理子……っ! ……ねえ、あんた、大丈夫なの? 喉、貫通してたのよ?」
アリアは犬歯を見せて理子を威嚇しながら、俺を心配するという器用なことをやってくれる。
「大丈夫だ。傷口はもうないだろ?」
「……なんでふさがったのよ。おかしいんじゃないの? あんたの体」
ひどいことを言っているが、俺の心は穏やかだ。だってさっきまでは涙目で心配してくれてたからね。全然悲しくない。
俺は腕を動かし――
「動かないで」
夾竹桃が何かをした。俺の腕はそれ以上動かなくなる。
よく見ると、極細の糸が巻き付いている。
「TNK(ツインテッドナノケブラー)ワイヤーか」
「そうよ。防弾制服にも使われている特殊合成繊維。人の力じゃ、それを引きちぎるのは不可能よ」
確かに動かせない。体にも巻き付いているせいで俺は空間に固定されてしまっている状態だ。
「じゃあね、2人とも」
理子は引き金を引いた。
理子は勝利を確信していた。あれほど油断するなと言っていた夾竹桃も。
そしてアリアも何かを叫んでいる。
この状況から逆転できると思える奴はいない。
だからこそ見逃してしまったんだろう。
俺の爪が『回転』していることを。
キンッ!!!
銃弾がはじかれて、逸らされた。
俺が2番目に手に入れた能力の一つ、銃弾撃ち(ビリヤード)だ。
しかし、俺は今拳銃を握っていない。なら、弾丸はどこから出したのか。
「な、なんだ……?」
「……え?」
「何が……?」
目の前で起こったことが理解できないのか、3人は同じような反応をする。
確信していた勝利が手に入らず、覚悟していた敗北が訪れないなら、それも仕方がない。
夾竹桃の拘束は普通の人なら打つ手なしになる。だが俺は違う。指先さえ自由に動かせれば十分だ。
俺は、『爪』を飛ばしたから。
スタンド使いではない3人には見えないし、わからないんだろう。
俺にはしっかりとわかる。俺の背後に今手に入れたスタンドの像(ヴィジョン)がいることが。
何度撃っても理子の銃弾は同じように跳ね返される。
回転している爪で銃弾を不用意に切断してしまわないよう、爪の平らな部分を充てるように。
それを繰り返せば、理子は何が起こっているのか理解する。
「まさかお前……ッ、爪を飛ばしているのかッ!!」
「ああ、そうだ。だがこれはもう『爪』を超えた『牙』だ 。こいつの名前は『牙(タスク)』!」
スタンド 牙(タスク)
『ジョジョの奇妙な冒険』の第7部『スティール・ボール・ラン』主人公、ジョニィ・ジョースターのスタンド。
本体の爪を回転させ、物を切り裂いたり、弾丸のように射出したりすることができるようになる。
射出した際の射程は10メートルほど。
スタンドの像(ヴィジョン)は豚の妖精のような姿をしている。
俺の新しい力。俺を選んでくれたスタンドは牙(タスク)だった。
そう宣言すると、自分に当たらないようにワイヤーの拘束を爪で切り裂く。自由になった俺は両手を2人に向ける。
「これで形勢逆転だな。動くなよ、理子、夾竹桃。俺は今、10の銃口をお前らに向けている」
「あ、ありえない……そんな能力を隠してたなんて……っ!」
理子は後ずさる。知らなくても無理はない。この力は、今手に入れたからな。それにこの力があっても、単体では打ち合いをすることはできない。爪の切断力が高すぎて人体には直接当てられないから、キンジの銃技があればこそだ。
「2人ともおとなしく捕まれ。怪我したくなかったらな」
「ははは、翔君は優しいねぇ……それが命取りになるけど、ね」
理子のスカートの中から、黒塗りの缶のようなものが、カツンと音を立て床へと落ちた。瞬間、その缶がすさまじい光を発する。
フラッシュグレネードか!!
目をつぶされたせいで動けなくなってしまう。牙(タスク)も撃てない。飛行機の壁に切れ込みを作りたくないからな。
「じゃ~ね~」
理子と夾竹桃はその隙に逃げ出したようだ。真っ白になっていた視界が元に戻って時には2人の姿はそこになかった。
体の力は……十分元に戻ってる!!
「アリア! 待ってろ!」
「え!? ちょっと!?」
俺は立ち上がって2人を追いかけた。
―――――――――――――――――
理子と夾竹桃がいたのはアリアを助けたバーのような場所だった。夾竹桃は何かリュックを背負っている。あれは多分パラシュート。爆弾で壁に穴をあけてそこから飛び降りるつもりなんだ。
理子のほうは何も背負ってないが、確かあの改造制服はパラシュートにもなったはず。
俺は2人に向けて拳銃を構える。ここでは威力の高すぎる牙(タスク)よりは拳銃のほうがいいと思ったからだ。
俺の姿をとらえた理子の顔は、苦虫をかんだように歪んでいた。
「ホントになんなんだよ、お前は……ッ!!」
理子は憎しみのこもった声だ。
「お前のせいで、計画全部めちゃくちゃだよ」
「武偵殺しなんてするほうが悪いだろ」
「……お行儀よくしてたら、理子は一生自由なんて得られないんだよ……ッ!!」
絞り出すような声だ。
『お行儀よくしてたら、理子は一生自由なんて得られない』か。そうだな。だって理子は……
「ブラド、か……」
「「え?」」
思わず口から出てしまった言葉に2人が反応する。
「なぜその名前を知っているのかしら? 思い付きで口にできるものではないと思うけど?」
「……俺も、ただ受け身でいたわけじゃないってことだ」
夾竹桃の問いに目をそらす。
ブラド。
こいつも緋弾のアリアの登場人物であり、不死身の吸血鬼。そして、とある理由で理子を幼少期から監禁してきたヤツだ。
このまま過ごしていくのなら、必ず戦うことになる強敵だ。正直、この世界の影響でどうなっているのかがまるで想像できない。
各作品の吸血鬼の要素が混じりあって、間違いなく強くなっているってことだけはわかるけど。
理子はブラドから自由になるためにある約束をした。すなわち、アリアを倒して初代アルセーヌ・リュパンを超えたと証明すること。
だからこそ、理子はあんなにも必死になっていたのだ。
「だったらわかるだろ。わたしは諦めない。絶対にアリアを殺す。捕まって刑務所にぶち込まれても、絶対にあきらめない!!」
「ブラドを倒すって考えはないのか?」
「「は?」」
俺の言った事に2人は目を丸くする。
「アリアのお母さんの冤罪を晴らすにはイ・ウーのブラドと戦うことは避けられない。俺は貢物を送って頭を下げるつもりはない。あいつが力尽きて倒れている横で、きっちり勝利のVサインをするつもりだ」
「あ、あなたは、自分が何を言っているのかわかっているの? 単純な強さだけじゃない。この島で大きな権力を持っている存在に牙をむくってことなのよ!?」
「俺は一度『やる』って言ったんだ。二度、同じ事を言わせないでくれよ」
顔を合わせてから一番の大声を上げる夾竹桃。そんな彼女にまっすぐ言い返す。
スタンドの語源は『困難に立ち向かう(Stand up to)』。その力が目覚めたからには、俺も覚悟を決める必要がある。
前の覚悟はこの世界で出会った人を幸せにするという漠然としたもの。今度の覚悟は襲い来る敵と戦う覚悟だ。
「それで、どうする?」
「……どうするって?」
「お利口にしていても自由になれないってのは別にいい。でもなぁ、手を出す相手が違ってるんじゃあないのか? ブラドの言うとおりにアリアを殺したとして、それはブラドに監禁されているのと何が違う? 結局、ブラドに踊らされてるだけなんだよ」
言ってしまうと、ブラドは理子がアリアに勝ったとしても、自由にする気なんてこれっぽっちもない。ブラドにとって、下等生物の人間との約束なんて守るに値しないのだ。
「ブラドは俺が倒す。その結果、理子は自由になれるだろう。でも、それだけじゃあ、ただの『与えられた自由』だ。そうならないために、理子の意思が聞きたい。立ち向かう意思を」
「り、理子は……い……いやだよ……もう、いやだよ……!」
目から大粒の涙を流し、その場にへたり込む。
「……自由に、なりたいよ……!」
理子も、心のどこかでは気が付いていたんだろう。でも、目の前に吊るされているものが絶望だったとしても、縋るしかなかったんだ。
「あら、私はまだ捕まるつもりはないのだけれど?」
「空気、読んでくれません?」
「冗談よ。はぁ……あなたがここに来たってことはジャンヌも捕まってしまったんでしょうし、私一人であなたの相手が務まるとは思えないもの。おとなしくするわ」
夾竹桃は泣きじゃくる理子を支えながら、バーのカウンター席に腰かけた。
じゃねーや。アリアの回収に行かないと。
……この2人、もう逃げないよな? や、あれだけ偉そうなこと言った手前、逃げられるとスゲーダサいんだけど。
「おや、おや、どうやらわたくしの出番はなくなってしまったようですわね」
突然の第三者の声。
影の中から染み出すように現れたのは、
「狂三!? なんでここに!?」
俺はここに来ることを誰にも伝えていなかった。もちろん狂三にも。
「わたくしはわたくしで、今回のことについていろいろ調べていたんですのよ。特に理子さんのことを中心に。まあ、勘で調べ始めた上に、調べても特に気になる情報は出てきませんでしたけど」
「多分、ブラドが情報操作してるんだ。あいつこの島ではかなり力があるから、そういうことを隠蔽するのも簡単だろ」
「だったらなんで、夜月 翔は知っていたのかしら……?」
3人の視線が俺に突き刺さる。原作知識です、とはとても言えない。もう言ってしまったほうがいいんだろうか。
「そ、それで、狂三はこの飛行機に乗り込んだわけだ」
「露骨に話をそらさせましたが……そうですわ。完全に密航で、帰ってくる方法もないのでわたくしは分身体ですけれど」
「……刻々帝(ザフキエル)かぁ」
「ふふふ、そろそろ補給、お願いいたしますわ」
刻々帝(ザフキエル)の八の弾(ヘット)の能力『自身の過去の再現体を出現させる』の力を使ったんだな。
それにしても補給、補給か。考えておかなければ……。
「んじゃ、アリア回収してくるから」
それから俺たちは眠らされていた操縦士をたたき起こし、離陸したはずの空港に逆戻りした。
こうして事件は終わりを告げ―――――
「「何か言うことはありますか?」」
「いえ、特にありません」
――――――ませんでした。
ほうれんそう(報告・連絡・相談)を怠った罰として床に正座している。
ジョジョ風に終わらせたかった。最後はラノベのテンプレになるんですね。
激怒しているのは雪菜とアスナ。事件説明やなんやらでその日は帰れなかったから、この反応は当然だけどさ。家に帰るまで電話の一本も入れなかった俺も大概だ。
クロは怒っているというより、あきれている。
「お兄ちゃんもすごいよねぇ。一つの事件で女の子3人もひっかけてくるなんてさ」
「俺も予想外だったよ」
ジャンヌと夾竹桃がいたことが。
あのあと3人ともかなえさんの裁判で証言してくれることを約束してくれた。一気に3人も証人が増えたこともあって、アリアはしばらくそっちの方面で忙しくなるらしい。
クロのおかげでみんながくすくす笑い始める。俺が女の子をひっかけているって発言には誰も突っ込まないけどな。
そんな中、一人暗かったアリアが顔を上げた。
「あ、あの……翔。助けに来てくれたのはうれしかったけど、その……パートナーのことで翔と、みんなに謝らないと、いけなくて……」
ああ、かなえさんのことね。この話はその場にいなかった娘とも共有してある。
その時出た答えは一緒だった。
「や、パートナーでもそうじゃなくても助けるって決めてるから。気にしなくていい」
「そうですよ」
「そーそー」
「うん、そうだね」
「深く考える必要はありませんわ」
「ぁ……うん、ありがと……」
アリアは深呼吸。
「それより! あんたは独断専行しすぎ!! 今後は最低でもツーマンセル、チームで行動するようにしなさい!!」
「あ、はい」
アリアの剣幕に圧倒されつつも首を縦に振る。テンションの乱高下が激しいですよ? 疲れませんか?
「そのほうが、いざという時も安心ですものね」
「狂三、やめなさい」
いざってなんだ、いざって。
「それに、あれだよ。パートナーになってほしいってんなら、全然いいからさ」
「ぇ、ほ、ホント!?」
「ああ。もちろん」
「じゃ、じゃあ! パートナーとしても!」
「よろしくな」
こうして話がまとまりかけたところで、
「そういえば、理子さんと2人きりで個室で何をしていたんですの?」
なぜか狂三がさらに爆弾を投下してくる。つーか知ってたのかよ。理子の事を追いかけてたんでしたっけ?
「……個室?」
「……2人きり?」
「あ、あんた……っ!!」
おおっとぉ! 雪菜とアスナの目のハイライトが消えたぁ!! アリアは何を想像したんだ? 顔が真っ赤ですが。
そのあとの展開はみんな簡単に想像つくだろう。
こうして、本当に事件は幕を閉じたのだった。
次回から小休止を挟みつつ次の原作に入りたいと思います。
また今後はキャラが増えてきたため、FGOのイベントのように、登場するキャラクターを絞ってお話を作っていきたいと思います。
それでは、また次回。よろしくお願いします。