どこかでウォズが本をめくっていた。
「さあ、これにて長かった8月も終わりを迎える。イ・ウーのリーダーであるシャーロック・ホームズが消えたことで、世界各国には新たな混沌が生まれようとしていた」
ウォズは物語を読み上げる。
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時間は前後する。
シャーロックと翔との戦闘が行われている丁度その時、少し離れた場所でその戦いを観戦している女性がいた。
メイド服をモチーフにしたような服と、頭には機械で出来たうさ耳を装着した女性、篠ノ之束だ。
イ・ウーの内部に設置された監視カメラを使って、ポップコーンとコーラを用意して、まるで映画を鑑賞するように。
強力な電撃によってカメラがショートした時も、その次に放たれた炎によってカメラが吹き飛んだ時も、ポップコーンを摘まんでいない薬指と小指だけで、画面の映像を復旧させて見せる。
「にゃはは~、うんうん。確かにすごいパワーだねぇ。でも、どの計器でも判別は出来ない。分かるのはただ未知のエネルギーだってことかぁ、あー、面白いなぁ」
どこまでも楽しそうにその死闘を観戦する姿は、確かに『天災』と言われるに恥じないものだった。
「あのゾンビ君は研究する暇なく捕まっちゃったからねぇ。監獄結界に収容されちゃったから脱獄させるのも一苦労だし。その点、あの子ならうまくやってくれそうだよね~」
ポリポリと、口に入れたポップコーンを咀嚼する。
そうして見ていると、戦いの決着がついた。
「ふーん、やるじゃん」
束も翔がシャーロックに一矢報いることが出来るとは思っていなかったため、呑気な口調だが、素直な賞賛を述べていた。
束は画面を切り替える。
そこに映るのは空に昇っていくミサイルだ。中にはシャーロックが乗っている。どんな技術を使っているのか、超音速に到達したミサイルに追従してカメラが移動していた。
だがそれもここまでだ。
過ぎ去る時代に縋りつくような真似を、篠ノ之束がするわけがない。ミサイルを追っていたカメラが徐々に速度を落とし、画面のミサイルが小さくなり始める。
束は指を銃の形にして、画面に向ける。
「さようなら、シャーロック・ホームズ。今までこのつまらない世界を守ってくれてありがとう―――これからはこの束さんの時代だぜ♪」
撃ち抜く真似をするのだった。
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「今年の島は、いつにもまして騒がしかったですね」
「ええ、本当に。島の方には死者も出てしまったというお話で」
ラ・フォリアとポリフォニアが座っているのは、アルディギア王家御用達の空中艇の椅子だ。
怪獣騒ぎが集結し、すべての公務を終わらせたアルディギア外交団が、今まさに帰国しようとしているのだ。
すでに離陸の準備が整えられ、後は国に向けて帰還するだけになっている。
そんなひと夏の大仕事を終えた王女王妃の前に、1人の女性が進み出た。
「お話し中失礼します。『例の件』について、ご報告したいことが」
彼女の名前は『ユスティナ・カタヤ』。この夏、極秘裏にとある人物について調査を行っていた女騎士である。
「ああ、どうでしたか?」
「やはり情報には間違いないようです」
「まあ……」
「そうですか……」
王妃、王女は難しい顔をして唸った。できれば間違いであった欲しかった情報なのだ。だが、認められてしまったものはしょうがない。王族として、務めを果たすだけだ。
「どうされますか?」
「今は護衛をつける程度にして下さい」
「今回はお会いにならないという事ですか?」
「ええ。今は他の国の目もありますからね」
「まだ内密に。今後も、表立って公表するわけにはいきませんけれど」
ユスティナの疑問に、ラ・フォリアとポリフォニアは今後の対応を告げた。
全てを聞いたユスティナは一礼して去っていく―――前に、ラ・フォリアに呼び止められた。
「そうそう、もしも何かあれば、彼に助力を求めて下さい。これ以上なく力になってくれるはずです」
「はぁ、この方は……いえ、分かりました」
「ラ・フォリア?」
ユスティナは手渡された写真に首を傾げつつも、再度一礼して去っていく。
ポリフォニアもラ・フォリアの行動に首を傾げていた。
「大丈夫ですよ、お母様」
「―――そうですか。あなたがそう言うのならば、わたくしは何も言いません」
ポリフォニアは安心したように微笑んだ。よくできた娘のことを信頼しているのだ。
「それにしても、お父様にも困ったものです」
「そうですね。まさか本当に隠し子なんて。お婆様が知ったら大変なことになりますね」
何気なく交わされる言葉に、護衛の騎士たちが青くなる。ラ・フォリアの祖母であり、ポリフォニアの母は、やるときはやる女性だという事が知られているからだ。
「出来れば今回、事情を説明して国に迎えたかったのですが……」
「他の国の諜報機関の目がありますからね。スキャンダルの種を与える必要もないですから。ですが……」
ラフォリアは窓の外へ視線を向けた。
「すぐに戻ってくることになりそうですね。この島には」
笑いながら言うのだった。
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「つまり、断るって事か?」
「はい。申し訳ありませんが……」
アリアはキャーリサに頭を下げていた。護衛の最終日にパトラに攫われてしまったアリアは、結局雇い主のキャーリサへのあいさつが出来ていないままだった。
それを今日行っているのだ。
合わせて、イギリス行きの話の返答もした。答えはもちろん『NO』だ。
「そうかそうか。まあいいさ。今日までご苦労だったな」
「はい、失礼します」
アリアは退出する。
「やっぱり断られたか」
キャーリサの性格から言って、そこまで細かい理由は聞かない。普段の態度から、おそらく断られるだろうという事も分かっていた。
「イ・ウーの壊滅。アイツが戻ってきたってことは、神崎・H・アリアはイ・ウーのトップにはならず、緋弾の継承だけが済んだってことだろーな」
他の誰かに渡る前に緋弾を確保したかったという気持ちはあるが、こうなってしまってはしょうがない。
無理に刺激したところで、暴発してしまっては意味がない。強力な力だからこそ、適切なコントロール下に置かなければいけない。
『軍事』に強いキャーリサだからこその考えだった。
「それよりも、今のホームズのパートナー……何者だ? シャーロックから一本取るなんて、タダ者じゃー無いが、もしくはこれもあの探偵のシナリオ通りなのか。宝石翁の動きも気になるな」
イ・ウー関連の話が出て来たと思えば、狙いすました様に時計塔支部を作った宝石翁。魔術師が世界のバランスや緋弾に興味があるのかなど知ったことではないが、何かあると思ってしまう。
状況は大きく動いた。
「とりあえず、次の手を考えるとしよーか。我が祖国のために、な」
そう言って、キャーリサは獰猛に笑うのだった。
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「はー、今日でこの島ともお別れですかー、残念です」
そう言ってため息を吐くのはランドソルの王女、ユースティアナだ。世界各国のおいしいものが集うこの島はまさに楽園、国の料理も嫌いではないが、種類ではどうしても敵わないのだ。
そんな娘の様子をいとおしそうに眺めていたランドソル王だったが、一瞬で王の表情になり、ユースティアナに語り掛ける。
「ユースティアナ、少しいいかい?」
「はい? なんですか、お父様?」
めったに自分に向けない真剣な表情に、ユースティアナの背筋も伸びる。何か重要な話があると確信したのだ。
「国に戻ったら、武者修行の旅に出てもらうよ」
「武者修行、ですか?」
「そうだ。王族の伝統で、王位継承者には王位を継ぐ時に、武者修行、冒険をして見識を広めるというものがある。ユースティアナも、それをしなさい」
「ええっ!? お父様、もう引退しちゃうんですか!?」
「あなた、いくら何でも早いんじゃ……」
ユースティアナは突然の話に驚愕し、その母も唐突過ぎる話にストップをかけようとする。
「いや、なに、何も今日明日に引退するという意味ではないよ。ただ……」
「ただ?」
「うむ、ただ、妙な胸騒ぎがするのだ。出来る用意はしておかなければいけない」
今回の会議で、ランドソル王は何かを感じ取っていた。自らの知らない場所で、巨大な陰謀が動き出しているかのような、そんな嫌な予感を。
そして世界各国が、そのたくらみに対して一致団結できるとは、とても思えなかった。それどころか、他国を出し抜いて利益を出そうとする国すら現れるかもしれないとも。
自分に何かあってからでは遅い。そう考え、少し早いが準備を進めることにしたのだ。
「それって、真那さんもついてこないってことですか?」
「そうだ。自分の力で冒険し、見聞を広めてきなさい」
「……わかりました!! 私、頑張って冒険してきちゃいますね!!」
むんっ、とやる気を出すユースティアナの後ろで――――――真那の目が妖しく光っていた。
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各国が自国で用意した飛行機に乗り込んでいく中、滑走路では一際目立つデザインの乗り物があった。
黒を基調にした他とは違う機体は、デビルーク王国の特別機だ。世界でも進んだ科学力を持つデビルーク王国は、飛行機も特殊だった。
その中、他とは違う王専用の座席に座ったギドと、親衛隊隊長のザスティンが最後の調整の会話を行っていた。
「……んじゃあザスティン、話は通しておいてくれ。ララの奴は後でこっちに向かわせる」
「はっ、分かりました」
ザスティンは一礼して船を降りていく。今から帰国するというのに、数人の部下を引き連れて。
指示を出したギドの後ろから、双子の姉妹が顔を出した。
「ねー、父上、あの話って本当なの?」
「私も、詳しく聞きたいです」
ナナとモモだ。窓の外、機体から離れていくザスティンを見ると、この2人は黙っていれなかった。
こうして帰国当日になった今でも、親に聞かされた言葉を信じられないでいた。姉が大好きな2人にとって、姉が―――ララ・サタリン・デビルークが、デビルーク王国を離れ、留学するなどという話は。
「詳しい話も何もねぇよ。決まった話だからな」
ギドは面倒くさそうに頬杖を突く。
「まあ、アイツに言われちまったからな……」
ギドは一足先に帰国した自らの妻のことを思い出した。
一国の主であるギドだったが、自らの妻には頭が上がらないのだった。
前々からギドの強引なお見合いに良い感情を抱いていなかったこともあり、ララのあの日の出来事を聞いたことで、いつの間にかこんな流れになっていたのだ。
「良い相手を見つけるには冒険が必要、だとよ……ったく、自分のガキの頃に重ねてんじゃねぇよ」
ギドと妻の出会いも、ギドが武者修行に出ている時代、妻が暴漢に絡まれている場面だった。
「でもっ! でもさ! この島は危ないじゃん! あたしの友達も大変な目に遭ったし!」
「そうですね……あんな騒ぎがあった後ですし、留学するにしても別の場所にしたほうが……」
「この島以外に、そう簡単に王族を受け入れてくれるような場所が無いな」
ナナとモモの提案をあっさりと切り捨てるギド。
様々な要素が混じり合っているこの島。実際、危険も多いが懐も深かった。たった数日で、王族の留学を受け入れてくれるくらいには。
「とにかく、もう決まった話だ。文句はララか母さんに言え」
「「う……」」
姉妹はそろってひるんだ。どちらも一度言ったことをそう簡単に覆すような人物ではない。
「分かったら座れ。もう出発するぞ」
こう言われてしまえば、これ以上反論は出来なかった。2人はしぶしぶ自分の席に座る。
「なー、モモ。どうする?」
「どうすると言われても、これ以上我が儘を言ってもどうしようもないでしょう?」
「いっそのこと、あたし達もこっちに留学するとか?」
「あのね……それは姉さまだから許されたのよ? 何の理由もない私達に、許可が下りる訳ないじゃない」
「だよな~、姉さまと違って、あたしたちはお見合いとかしてなかったし……あ、でもあたしはこっちに友達がいるし」
「無理よ。いくらなんでも、友達じゃ」
ナナの幼稚な考えを、モモはあっさりと否定した。
「えー、友達と学校生活とかしてみたかったのに~」
「はぁ……今年は楽しめたみたいで何よりよ」
そんな会話をしていると、離陸の時間が近づいてくる。
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「お疲れ様です、真夜様」
恭しく礼をするのは執事服を着た老人だ。
70歳を超えるにも関わらず、背筋が伸び、口調もはっきりとしている。この常夏の島でも黒い執事服をしっかりと着こなし、汗一つ掻かない―――歴戦のバトラーだ。
そんな彼の目の前を主が通り過ぎる。四葉家の当主、四葉 真夜だ。
主が通り過ぎるのを待って、葉山はその背中について行く。
余計な護衛は存在しない。この2人だけだった。
「よろしかったのですか?」
「ええ。存在を確認できただけでも、今回は良しとしましょう。彼は逃げませんよ。むしろ、向こうからこちらに関わってくるでしょう」
「ははは、それは面白い」
そう言って葉山は自分の席に向かった。
「久々にわくわくしましたね、まるであの頃のようでしたね」
懐かしそうに目を細めるのだった。
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世界各国の要人が学園島から離れていく中、逆に学園等に向けて進んでいる船があった。
船の名前は『
東欧にある最古の夜の帝国、『戦王領域』から出発し、遠路はるばる学園島へ向かって舵を切っていた。
この船の主は、『戦王領域』の貴族、真祖に近い実力を兼ね備えていると言われている吸血鬼、ディミトリエ・ヴァトラーである。
吸血鬼であるため外見と年齢は一致しない。しかし、金髪碧眼の美しい容姿は、伝説の中の吸血鬼通りだ。
ヴァトラーは愛船の屋上デッキでのんびりと月光浴を楽しんでいた。サマーベッドに横たわり、のんびりと赤い液体が注がれたグラスを傾けている。
「こちらでしたか、ヴァトラー様」
「ああ、キラかい。どうだい、君も」
「いえ、ボクは」
キラ、と呼ばれた吸血鬼は、ヴァトラーから勧められたグラスを丁寧な所作で断る。
「ヴァトラー様、今回はどうして学園島に?」
今回の出立は、とても急なものだった。国の許可を事後承諾にしてまでのスピード出発だったのだ。
キラ含め、部下にも詳しい事情を話さずに出発した。振り回される部下に文句はなかったが、理由を知りたいと思う心があるのも事実だった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、ヴァトラーはあっさりと答えた。
「面白い情報が入ったからサ」
「それは……?」
「ああ。何でも、イ・ウーが壊滅したとか、ネ」
「それは……!」
裏世界でバランスを取っていたイ・ウーの壊滅、それは確かに大きな出来事だ。
「そして、それを成し遂げた人間が、学園島にいるとか」
ニヤニヤとヴァトラーは笑う。
「クズ鉄と魔法を使って作られた人工の大地。ずいぶんと面白いガラクタを作ったものだね。これだから人間は面白い。自然の摂理に逆らっているからこそ、面白い事件が絶えないのかもしれないけどサ」
けなしているとも褒めているともつかない態度を取るヴァトラー。
「あの島の先任大使だった、ブラド様は……」
「ああ、今は法を犯して監獄結界の中。あの人も力で負けて逮捕されたって言うんだから面白いヨ」
ヴァトラーは犬歯をむき出しにして、獰猛に笑う。それこそがヴァトラーの目的だった。
ヴァトラーは自他ともに認める
同属の吸血鬼すら喰ってしまうその姿は、同属喰らいの戦闘狂として恐れられている。
「ああァ、待ちきれないな。いったいどんな強敵が待っているんだろうねェ」
ヴァトラーの笑い声が、夜空に響き渡るのだった。