「せ、先輩! それよりも!!」
「お、おう? なんだ?」
このまま綺麗に終わると高をくくっていた俺は、雪菜の剣幕に圧倒される。
「あああ主様!! その頭……!?」
「アンタ……大丈夫なの?」
「え? ああ……おぅ」
意識したとたん、足元が怪しくなる。今までどぱどぱだったアドレナリンが切れたのか、積み重なった疲労を思い出したのか、それとも単純に血が足りないのかは分からないが。
そんな俺を慌てて支えてくれる雪菜。
「あ、ありがとう……」
「いえ、そんな……先輩、やっぱり……」
「結構疲れたかもな……」
そのまま地面に寝かせてもらう。
俺の額にはいまだに大量の血液が付着していた。シャーロックに撃たれた部分だ。
俺が奇跡的な復活を果たしたせいで忘れていたが、シャーロックに撃たれていた事実は本当なのだ。
俺を見てそれを思い出したのか、コッコロとアリアも涙ぐんでいた。
……でも、割と意識ははっきりとしているというか、や、朦朧とはしてるんだけど、死ぬような感じじゃないというか。
「当たり前だ。我々が防御したのだからな」
「アア。間一髪ダッタケドナ」
俺の横からにゅっ、っと出てくるレプリカ先生と
「そ、そうだったのか?」
「我々にはこれと言った指示を出していなかったからな」
「コッチデ勝手ニヤラセテモラッタッテワケダ」
「う……」
確かにシャーロックとの戦いで、この2人には特に何も言ってなかったけど。
でも助けてくれたって訳か。あの土壇場で。
「ああ。緋弾の一連の出来事に気を取られて銃弾すら防御出来ていなかったからな」
「れぷりかガ無理矢理後ロニ引ッ張ッテ、俺ガ何トカ盾ニナッタンダ」
「ギリギリだったが、防御することが出来た。幸運だったな、額の皮を切るだけで済んだ」
「ああ、それで……」
なんてことはない。俺は単純に仲間に助けられたってことだ。こうしてたくさん出血しているのは、どこかのBLEACHの一角さんが言ってたよな。額をケガするとたくさん血が出るって。
本当にギリギリのタイミングだったからこそ、俺が死んだと思わせることが出来たってわけだ。俺自身もそう思ったくらいだ。
や、あの名探偵にそんなものが通用するかは分からない。もしかすると全部分かっていてあんなセリフを吐いたのかもしれないな。
「傷自体は深くない。安静にしていれば命に別状はないだろう」
「アア。幸イ、ココニハ傷ヲ治セル嬢チャンモイルシナ」
「はいっ、お任せ下さい!」
コッコロが力強くうなずいた。
「じゃあ、とにかく今は横になってなさい。助けは私たちが呼んでおくから」
「コッコロさん、先輩をお願いしますね」
「お任せ下さい。お二人が戻るまで、主様には回復魔法をかけておきますね」
そう言って雪菜とアリアはどこかに向かっていった。
「それでは主様、失礼いたします」
「コ、コッコロ?」
2人を見送ったコッコロは、迷うことなく俺を膝枕した。もちろん俺は何も要求したりしてない。
「な、何をやっているんですかね?」
「はい。このような冷たい床に、いつまでも主様を寝かせているわけにはまいりません。せめて頭だけでも、と思いまして……その、ご迷惑でしたか?」
いや、まさか。
揃えた両足は俺の頭がはみ出してしまうほどの幅しかない。こんなか小さな女の子を、この戦場まで連れてきてしまっていたんだな……
「何をおっしゃいますか。常に主様と共に生き、寄り添うのがわたくしの役割でございます。それでは、そろそろ」
コッコロが風の精を呼び出し、回復魔法の体勢に入る。
「お願いな。よっと」
「あっ」
コッコロを金色の光が包む。俺が発動させたプリンセスナイトの力だ。
コッコロはため息をついた。
「まったく。主様? 主様は楽にしていてくださいませ」
「でも、コッコロも疲れてるだろ? こっちの方がコッコロの負担は軽くなるんだからさ」
「それは、そうでございますが……」
不服そうにしているコッコロだが、
「いえ、主様のお力を借りたからには、主様の治癒、完璧にこなして見せます……!」
決意に満ちた表情で宣言した。
周囲を飛んでいた風の精の数が3匹に増えた。その精霊たちが俺達の上を回っている。
「精霊よ、主様の傷を癒したまえ……オーロラっ!!」
精霊から発生していた魔力の黄緑のオーラが、まるでオーロラの様に様々な色に光り輝いた。
その光が俺に降り注ぐと額だけでなく、体中の傷が癒されていくのを感じる。
この魔法は『ユニオン・バースト』、ゲーム内では必殺技として扱われる技だ。
「ふぅ、ふぅ……主様、どうでしょうか?」
余程魔力を込めたのか、コッコロは息を切らし、額に球の汗をかいていた。
「ああ、ありがとう。もうほとんどよくなった、と思う」
失われた血液すら補充されるのか、朦朧としていた意識すらはっきりしていた。
「それは、本当に、良かった、です……」
とさ、という軽い音が聞こえた。
「コッコロ!?」
俺に膝を貸していたコッコロが、後ろに倒れていた。
「申し訳ありません、主様。わたくしも、少々疲れてしまって……」
「お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」
「はぃ。それでは、お言葉に甘えさせていただきます……すぅ、すぅ」
コッコロはすぐに寝息を立て始めた。
硬い床に寝せるのはかわいそうだと思い、先ほどとは逆に、今度は俺がコッコロを膝枕する。
「あとは待ちか……」
俺も目をつぶって力を抜く。
色々あったけど、流石にこれで終わりだな……や、こういうことは言わないほうがいいのか? フラグになっちゃうかな?
実はこの隙に、学園島が違う勢力に襲撃されて……そんなことになったら、本当に対処しきれないな。そうなったら本当に諦めよう。
「ようやく一人になったな、夜月 翔」
「ッ!? 士!?」
どこかに消えたと思ったら、突然出てくるな! でもまあ、言いたいことはあったし、再会できてよかった。
「ディケイドウォッチ、ありがとう」
「気にするな。可愛い後輩のためだ」
「後輩、か……」
つまりは、士は俺も仮面ライダーだと言っているのだ。その事実にちょっとニヤケそうになる。
「何をニヤニヤしている。気持ち悪いぞ」
「それは悪かったな……」
「まったく、そんな年の幼女を膝にのせてニヤニヤするなんてな」
「理由が違う!!」
「あんな何人も女を侍らせておいて、説得力が無いな」
どうやら士の中でも、俺のキャラがそっち方面で固まってきてしまったようだ。
「それで? わざわざ他の人がいなくなるまで待ってたってことは、他人に聞かれちゃまずい話なんだろ?」
「察しがいいな」
そう言いながら、士は俺達の写真を撮った。
おい、なんで写真を撮ってんだよ!
「だが、他人に聞かれたくないというよりは、あの男―――ウォズに聞かれたくない話だ」
「じゃあ話ってのは……」
「ああ、ウォズについてだ」
俺は話を聞いた。前に会ったという『ウォズ』の話を。
「クォーツァーねぇ……」
歴史の管理者、クォーツァー。その目的は平成という歴史を消滅させること。そしてウォズはそのクォーツァーの一員だということ。
さっぱり分からん。平成という歴史を消滅させるってなんだ!?
「というか、やっぱりアイツは敵なのか?」
色々と胡散臭い動きをしているアイツだが、確かに、ずっといいように操られているという感覚はあった。
「それは分からない。だが、俺の知っているアイツはそう言う存在だったというだけだ。世界が違えばそれは別人になるからな」
「そう、だな……」
胡散臭いと言えど、アイツの行動のおかげで助かった部分も大きい。
不確定な情報で無下にするのは申し訳ない気持ちもある。
「だが、仮に奴がクォーツァーだとすれば、この世界だけの問題じゃなくなる可能性がある」
「……そんなにか?」
「平成仮面ライダーの要素は、この世界で無視できないモノになっている。それがいきなり消えるようなことがあれば」
「何が起こるんだ?」
「正確には分からないが、ロクでもないことが起こるのは間違いないな」
例の3年後の問題に加えて、今度はウォズの問題も出てきたってことか。いや、もしかすると3年後の問題にウォズが関わっているのかもしれない。
「だから忠告だ。アイツには心を許しすぎるな。手懐ける自信があるなら話は別だがな」
考え込む俺に、士はそう言うのだった。
―――――――――――――――――――
言いたいことを言った士は、またすぐに姿を消してしまった。あの感じからして、もうこの世界にはいない。いざとなれば戻ってくるのかもしれないけど、なにぶん相手は通りすがりだ。変に期待するのはやめておこう。
そうしてしばらくすると、雪菜とアリアが戻ってきた。
海の真ん中だけあって手持ちの通信機は使えず、通信室にまで行っていたらしい。
そうして連絡を取った管理局、というか、俺が所属する予定になっている特務六課が迎えに来てくれることになった。知っての通り、怪獣騒ぎのせいで他の部隊は動けないからな。
甲板に出て空を見ていた俺は、近づいてくるヘリの音に立ち上がった。
《翔! 聞こえてる!?》
念話の有効範囲に入ったのか、フェイトさんの声が聞こえてきた。
「はい。ここにいますよ」
それに応えると、ヘリのドアが開いて人が飛び降りてきた。
「躊躇なく飛び降りるもんな……」
その光景を見て、俺はぼそりと呟いた。パラシュートをつけていたとしてもこの高さでは意味がないし、命綱を付けているわけでもない。
常識で考えれば、普通に大怪我するところだけど、その人は一直線にこちらに飛んでくる。
「翔! 大丈夫なの!? どこもケガしてない!?」
「は、はい。大丈夫ですよ。全然。みんな無事です」
フェイトさんのすごい剣幕に、若干驚きながらも応える。
「下にみんないます。アリアの奪還も出来たので―――」
「うん。その話は戻ってからね」
フェイトさんはニコリと笑った。
「覚悟しておいてね?」
―――――――――――――――――――――――
「それで? そのほかに言う事はないん?」
「い、いえ。以上になります……?」
俺は六課の部隊長室で気を付けしていた。
現在時刻は夜が明けて昼を過ぎた。またまたヘリの中で仮眠を取ったが、戦闘の疲労で限界が近い。怪我が治っても疲労までは取れなかった。
もう立ったままでも眠れそうな気分だ。でも、この場の緊張感がキツイ。胃がキリキリする。
部隊長室にいると言ったけど、いるのは八神さんだけではない。
机に座る八神さん、その両脇を固めるのはフェイトさんになのはさん。さらにその隣には2人よりも厳しい顔をしたシグナムさんとヴィータさんだ。
アリアはアリアでどこかに行ってしまった。まあ今回に関しては、アリアは被害者だ。後で取り調べを受けさせられるかもしれないけど、今日の内は特に何もないらしい。
雪菜とコッコロもそう。年下ってことで、今日は帰ってる。
つまりは俺一人で、この面々を正面から受け止めているという事だ。
唯一の救いはクローディアと蛇倉さんがニコニコ、にやにやしていることだな。この2人は特に怒っているという訳ではないらしい。
「そか……」
八神さんは椅子に深く寄りかかる。背もたれがギシっ、と音を立てた。
「君の上司として、知らない人にはついていかない、なんて小学生でも分かってることをわざわざ説教したくはないんやけど?」
「……まだ、六課に正式に所属したわけではないので。その辺りは何とか……」
「じゃあ自分、六課に所属したらこういうことはもうしないって約束できる?」
「そー、れは……」
まあ、無理だよな……その時が来れば、静止の声なんて無視して動いてしまう事だろう。
「はぁ……まあ、それが君のええとこではあるのかもしれないけどなぁ」
「今回のような行動を取るというのなら、注意せざるを得ない。それは分かるな、夜月 翔」
「……はい」
八神さんのため息に、シグナムさんが合わせた。
「まあでも、注意したからって治るもんでもないんやろ? なぁ、なのはちゃん?」
「にゃはは、なんで私を見るのかな~?」
なのはさんは苦笑いして頬をかいた。
「でも、そうだよ。本当にケガしてからじゃ遅いんだからね」
「そうだな。周りをうかうか、ヒヤヒヤさせんのは1人で十分だぜ」
「ヴィータちゃん? その理論だと夜月君の行動は認めちゃうことになるよね? まさかとは思うけど、私はその数に入ってないよね?」
「さあ? どーだかな?」
……もしかしてなのはさん、昔のヤンチャぶりでずっと弄られてるのか?
「まあまあ、みんな。それはもう昔のことだしね? ……もう危ないことされてドキドキするのは、ね……」
「フェイトちゃんまで……」
緩んでしまった空気を、シグナムさんが引き締める。
「んんっ! ……それで、もう一度聞くが、インターミドルの会場に出た怪人はお前が?」
「はい。その通りです(あれは怪人じゃなくて仮面ライダーなんですけどね……)」
そういえば、ヴィクトーリアやエレミアに説明するって話だったのに、完全に無視してたな。
ま、そうそう会うわけないしいっか。あの様子だと、ジオウが俺だってわかってないみたいだし。
「お前が倒したというのなら、それでいい。その場にいた2人はお前の仲間か?」
「仲間……敵ではないと思いますが」
士は通りすがっている人だし、ウォズは良く分からない人だ。
「その場で集まったのか?」
「そうですね」
それは間違いない。
「ふむ……カメラの映像によると、その2人は島の住民票には登録されていない不法滞在者だ。だが、特にピンク色の装甲を纏っていた人物は、その後も怪獣の殲滅に力を尽くしてくれていた」
「ピンクじゃなくてマゼンタですね」
「何?」
「いえ、何でも?」
思わず突っ込んでしまった。
「まあいい。できればその人物たちからも話を聞きたかったのだがな。知り合いではないのならしょうがない」
連絡先も知らないし、俺にもどうしようもないな。
そうして、なんとかこの場を切り抜けることが出来たのだった、