お見舞い
シャーロックとの決戦から2日が経った。
イ・ウー関連での進展は特にない。メンバーの誰かが襲撃しに来たりとか、そういうことは全くなかった。黒服の人たちが口止めには来たけどね。
ボストーク号の内部捜査も、シャーロックが集めていた美術品しか残ってなかったらしい。
「それで、そのジオウが問題なんでしょ?」
「そうですね……」
ベッドに横になっていた楯無さんがタブレット端末を俺に向けてくる。
今は病院に来ていた。今回の件で知り合いが何人か入院しちゃったからな。
その1人がこの人だ。
話を戻すと―――そう、ジオウも問題だった。というか、ジオウが一番の問題になりつつあった。
タブレットでは動画が流れている。
インターミドルで俺が戦っている動画だ。
「まったく現代人ってのは。勘弁してほしいですよ」
アナザーオーズとはインターミドルの会場で戦ったわけだけど、その時の戦いを撮影していた人がいたのだ。それも1人や2人ではない。
「決勝戦ってだけあって各国のテレビ局も入ってたし、世界的な有名人になっちゃったわねぇ」
「顔が出ていないのが救いでしたね」
ジオウへの反応は様々だった。
観客の危機に颯爽と現れたヒーローという意見もあれば、アナザーオーズからウォッチのパワーを受け取った部分を切り取って壮大なマッチポンプだと言う人もいる。一番酷いものだと、ウルトラ怪獣の騒ぎも俺(とディケイド)の仕業っていうものもあるな。
世間というのは勝手なものだ。勝手に盛り上がってくれるよ、ホントに。
「仮面ライダーって名前も定着しそうよね」
「そうなんですよね……」
仕切り直しになった決勝戦で、見事勝利を収めたのはエレミアだった。
俺を『仮面ライダー』と呼んでいたエレミアは、優勝会見であの時のことを質問され、『仮面ライダー』という言葉を使った。
それがすっかり定着してしまったよ。
おかげで俺のせいで、この島に『仮面ライダー』の都市伝説が出来上がりつつある。そのうち仮面ライダー部も出来るんじゃないの?
ちなみに、あの時の陸戦試合にいたメンバーには俺がジオウだってことはバレてしまっているが……はやてさんの判断で、部隊の外には漏らさないようになっている。
「ホントに助かりますよ。楯無さんもそれに賛成してくれたんですよね?」
「正体が知られると色々と面倒なことになるからよ」
世間的にも同じ管理局的にもな。
「そう言う事。だから翔君も不用意に人がいる場所で変身したりしないでね?」
「肝に銘じておきます……」
成り行きとは言え、正体を隠して行動する仮面ライダーっぽくなったわけだ。
まあ、目の前にアナザーライダーがいなければ大丈夫だと思うけど……多分、きっと。
「まあ、私も強いことは言えないけどね。今回はお姉さん、足引っ張っちゃったから」
「いえ、そんな。本当に無事でよかったですよ」
楯無さんは怪我を感じさせない軽快な笑みを浮かべている。
「もう怪我は大丈夫なんですか?」
「うん。私、更識家の当主だから」
これは自分が超人だから、という訳ではなく。
「更識家の当主はそう簡単には死なないのよ。『盾』としての役割は持っているけど、壊れていなければ何度でも治されるから」
つまりは今後も戦うために、高度な治療を受けることが出来るという事だ。
「そう言う事。そのおかげで……ほら。傷一つないでしょ?」
布団をまくり上げ、身に着けていた病院着までまくり上げた。
真っ白なお腹が惜しげもなく晒された。
本人が意識しているのか分からないが、非常に危険なまくり上げ方だ。あと少しめくれれば、胸のふくらみの南半球、俗にいう下乳と呼ばれる部分まで見えてしまう。
服と肌の境界線から意図的に目をずらす。
しっかりと引き締まった美しい体だ。楯無さんの言う通り、そのすべすべの肌には擦り傷一つない。
さらに楯無さんは、傷があったであろう場所を指でぐりぐりと弄った。それで回復をアピールしているらしい。
「ほらほら、どう? どう?」
「本当に良かったと思いますよ。嫁入り前の大切なお体に傷が残らなくて」
「なーんだ、つまらない反応。女の子のおへそなんて見慣れてるってことなの?」
「いえいえ、そんなことは」
あはは、と笑う俺。
「じゃあそろそろ」
「えー? もう行っちゃうの?」
「もう1人の方にも行かないといけませんからね」
俺は立ち上がり、病室を出る。
「それじゃあお大事に。来月、六課で会いましょう」
「は~い。今日はありがとね、翔君」
その言葉を背に、俺は病室を後にした。
―――――――――――――――――――――――
「―――ええ、そうですね」
翔が去った後の病室。楯無はとある場所に電話をかけていた。
「はい。今回の戦果を鑑みると……そうですね。彼が善人か悪人かは問題ではありません」
彼女が電話をしているのは日本の国防を担う防衛省。そのトップだ。翔がジオウであることは黙っているとは言ったが、翔について何も報告しないとは言っていない。
「問題は、事実上、イ・ウーを壊滅させてしまったのが彼だという事です。この情報はすぐに裏に広まります。今まではこの島に止めておけた彼の情報が、世界中に拡散されることになる。彼の特異性も合わせて」
翔はイ・ウーが、シャーロックがとっていた裏世界のバランスを崩してしまったのだ。大黒柱をいきなりへし折った衝撃が、今後世界に広がることになる。
その原因である翔は、世界中の注目の的になるのは間違いない。
「敵ではないにしても、多少の監視を付けるのはやむを得ないかと。何かの事故で、彼が敵対組織の手に渡るのは何としても阻止しなければいけません。早急に手配していただきたいです」
それだけ話して楯無は電話を切った。
「ごめんね、翔君。命を助けてもらったけど……これも私の仕事だから」
そう呟くのだった。
―――――――――――――――――――――――
「お前はすっかり元通りだな」
「私は検査入院だから。どこもケガしてないし」
次に訪れたのは耀の病室だ。楯無さんの部屋よりもグレードは下がっているようだが、それでも1人部屋だ。
まあ、今回怪物化したことを考えれば、隔離の目的もあるのかもしれないけど。
今回のアナザーオーズの件、耀が罪に問われることは無い。働いていた動物園の監視カメラに映っていたからな。謎の男が背後からウォッチを埋め込むところが。目撃者も多かった。
「それで、例の男についてなんだけど……」
「ごめん。全然分からない。後ろに近寄られたのに気配もなかったから。顔も見てないし」
「そうか……」
ウォッチを植え付ける謎の男。シャーロックにダブルウォッチを渡したのも、同じ人物だろう。
……おそらく、俺と同じ世界の出身の。
「3人目か……」
「敵かな?」
「やってることを見ればな……」
ライダーの力を悪用してあんなことをするなんて、少なくとも正義の行いではない。
耀を無理やりアナザーライダーにしたことも考えると、俺達のこともしっかりと理解している可能性が高い。ゾンビよりも厄介だな。
「ごめん、耀。変なことに巻き込んだ」
「別に大丈夫だよ。嫌じゃないから。でも、不満はある」
「不満とは?」
耀はわざとらしく腕を組んだ。
「今回は、私がヒロイン役だったと思わない?」
「まあ……」
「怪物になったか弱い女の子「か弱い?」そう、『か弱い』女の子。それが私だったよね?」
「まあ……」
登場人物の女の子が多いから、誰がヒロインとか考えるだけ無駄なような気がするけど。敵に攫われた女の子って言うなら、アリアだって当てはまるし。
か弱いかは……議論の余地があるとしても。
「それなのに、私を助けた後、小学生とチューしてそのままどこかに行っちゃうし。私のお見舞いもせずに、アリアを助けに行っちゃうし。何か言い訳はありますか?」
「何もないですね」
全部事実だからなぁ……
「どういう埋め合わせをお望みなんでしょうか?」
「それはもう、恋人にするような熱い口づけを」
「あはは、またまた御冗談を」
「別にいいよ? 私は嫌じゃないし。私へのお詫びと私からのお礼、どっちもそれでオッケーだけど?」
そんなことを話していると、病室の扉が開いた。
「耀ちゃん。元気? あ、翔君も来てたんだね」
入ってきたのはメアだった。
「うん。元気だよ」
「メア、結構お見舞いに来てくれてるんだって?」
「うん。耀ちゃんとは友達だからね……でも、お邪魔だったかな?」
何でだ。
「だって2人でいるし。何か始めるつもりだったのかなって」
「何も始めないよ!」
「そうそう」
俺と耀は2人で頷く。
「だって―――」
耀の手が俺の首に回される。
「ん?」
顔が近づき、唇が触れる。
「―――今回はこれくらいで許してあげるから」
「あ、お、おい……!」
「わー!」
耀の不意打ちに、メアが歓声を上げている。
俺も忘れていたな。耀が問題児だってことを。
――――――――――――――――――――
お見舞い帰り、病院の廊下を俺とメアは並んで歩いていた。
「そうそう翔君。わたし、耀ちゃんを怪物に変えたヒトと少しだけ戦ったよ」
「ああ。そうらしいな」
耀がメアと仲良くなったという話は聞いていた。というよりももう1人……ナナ・アスタ・デビルークと耀が仲良くなったところに、メアが偶然居合わせたのだとか。
メアとナナはどちらも同じ『Toloveる(ダークネス)』のキャラで、原作でも仲の良いペアでもある。
さらにナナと耀には同じく『動物と喋ることが出来る』というスキルが備わっている。
まあ妥当な組み合わせだろうと思う。比較的常識人のナナが大変そうだけどね。
そういう訳で、メアがその場にいたという情報は俺も耀から聞いていた。
や、『そういう訳で』ではないよな。ララがいたとは言え、ナナとも繋がりが出来てしまうとは。こうして見ると、ナナの双子であるモモとも、どこかで接点が出来てるんじゃないかと疑ってしまう。
当然そんな低すぎる確率は引き当てられなくて当然なんだけど、俺の場合はそう言う確率を超越した必然を引き当てそうだ。
話を戻す。
「戦ったって、そりゃ誇大報告だろ。一発も攻撃が当てられなかったって聞いてるぞ」
「あ~……確かにそうだけどねぇ」
あはは~、とメアは笑う。
「正確に言うと、当てられなかったんじゃなくて『止まった』の」
「止まった?」
「うん。攻撃を当てようとするとそれ以上手が前に進まなくなる。体を押さえつけられてるわけじゃないのにね」
止まる、ねぇ。
「それって、暗示の類じゃないのか? 無意識のうちに攻撃できないようになる暗示とか」
「かもしれないけど、だったらその人は世界最高クラスの暗示使いだね」
「もしくは……」
この世界にはない特殊な能力か。
「……もしくは?」
「……いや、ずいぶんと詳しく話してくれると思ってな」
「え? 何かおかしい? 友達がひどい目に遭ったから。協力するのは普通なんじゃないの?」
「いや、普通だよ」
出来れば、その普通の感覚をこのまま持ち続けて欲しいものだけど。
「うん?」
「いや……」
でも、今はまだそこまでではない。
マスターに『斬れ』と言われれば、耀でもナナでも迷わず斬ることになるだろう。
でも、それもこれからだな。友達が出来たって言うんなら、その友達がメアの心を育ててくれるんだろう。
「ま、これからも耀とは仲良くしてくれよ。それと、謎の男について何か分かったら俺にも教えてくれ」
「耀ちゃんと仲良くするのはモチロンだけど……アイツの情報については、ちょっとだけ条件があるかも」
「条件……?」
「どうせだったら言ってみようかと思って」
その言葉に警戒する俺。
「そんなに難しい事じゃないよ。ヤミお姉ちゃんに何かしてほしいとか、そう言うことじゃないから」
「じゃあ何だ?」
メアはにっこりと笑って。
「私とセックスしてほしいな?」
「は……!?」
こんなところで何を言ってるんだ、君は。周りに人がいなかったからよかったものの!
「え? 私変なこと言った?」
「言ったよ!」
少なくともこの場にそぐわない発言を!
「病院で何の話をしているのかしら?」
後ろから声をかけられ、心臓が飛び跳ねそうになる。
「み、御門先生!?」
振り返ると、ニヤニヤと笑う御門先生が経っていた。
「ふーん、また新しい女の子? すごいわね~」
「いやいや」
「違う女の子のお見舞いの後に、病院の中で?」
「いやいや! 違いますからね!! コイツが勝手に言ってるだけで!」
「ひどい! 私本気だったのに!」
「翔君?」
「適当なこと言ってんじゃあないぞ!!」
「えへ」
メアは舌を出しておどけていた。
御門先生も肩をすくめて後ろを向いた。
「ま、ほどほどにしなさいね。あんまり遊びすぎると、そのうち刺されることになるから」
そう言い残して、御門先生は去っていく。
「それで、どうするの?」
「今の流れで、よく話を続けるつもりになるな。NOだよ。NO!」
「えー!!」
メアは不満げに口を尖らせる。
「別にみんなにバレなければいいじゃん。翔君にも得しかないでしょ」
「や、得しかないって……」
「別に濁さなくてもいいよ。私、全部知ってるから。前に繋がった時に、ね」
「繋がった?」
滅茶苦茶不穏な単語だけど、この繋がるってのはメアの能力で繋がるってことのはずだ。俺は覚えてないんだけどな。
「よく知ってるね。そ、アタシのサイコダイブで繋がった時にね。アタシも翔君の事、色々知ってるよ。翔君がいろんな女の子とえっちぃ事してることも。翔君がおちんちんから白いのを出すと新しい能力を手に入れられることも―――翔君が他の世界から来たってことも」
「……そうか」
別に俺としては、バラされても問題は……風評被害は大変そうだけど、や、事実を話されるだけで大ダメージになるんだろうけど、死活問題という事も無い。
そもそも何人が信じるかって話もあるし、たとえ後ろ指を指されたとしても、やることは変わらない。
「別に脅そうって思ってるわけじゃないよ。脅しとか、アタシよくわからないし。そうじゃなくてね、翔君にも得しかないって話をしたいの」
「や、そうじゃなくてな……」
イマイチ話が噛み合っていないように感じてしまう。
「え? 何かおかしいかな? 性欲って生物としてごく自然な欲求でしょ? 私も体験してみたくって」
まさかそのセリフをここで聞くことになるなんてな。
「そうじゃなくてだな。なんで相手が俺なのかってことだよ」
メアほどの美少女、町で適当な学生に声をかければ相手には困らないだろう。
「そこはホラ、『ココロに決めた相手』っていうのが大切なんでしょ? アタシ、翔君を心に決めたから。それに翔君は経験豊富だし。初めては気持ちいい方がいいもん!」
「色々と間違ってる……!!」
なんかもう、色々と! 大体‼ほとんど間違っているよ!!
俺が快諾しないことで、メアも首を捻っている。
「う~ん、何がダメかな? 身体? 変身を使えば調整出来るけど。もっとおっぱいがおっきいほうがいい? あ、でもイッちゃう時は集中出来ないから、その時は萎んじゃうけど。それまでは頑張るよ!」
「だからね……」
もうもう色々と、この娘には教育を施したほうがいいんじゃないだろうか!
「そっか……ごめんね。分かったよ」
「分かったのか」
「翔君とするのは諦めるね。街に行って適当な人としてみるから」
そうじゃないから!
「……ふぅ、ちょっと来なさい」
「え、何処に?」
「良いから!」
俺はメアをひっぱって、自分の家に向かうのだった。