「それじゃあ、これからよろしくお願いします」
「「「「はいっ!!」」」」
俺たち、俺とアスナ、そしてエリオとキャロは八神部隊長から辞令を受け取った。
雪菜と退院した耀はすでに候補生としての書類を受け取っている。
「はい。これで形式ばった儀式はお終い」
八神部隊長は手を打って空気を変える。
武偵高から真っすぐ六課の隊舎に向かった俺達。真新しい管理局の制服に着替えたらすぐに部隊長室に通され、この儀式―――入隊式が30分ほど前から行われていた。
エリオとキャロだが、俺達と時期を合わせての入隊になったらしい。その方が色々とやりやすいのだとか。
だがそれもすぐに終わった。
手際が良いのかは分からないけど、部隊長室に行った時には六課の偉い人(なのはさんやフェイトさん)が集まっていた。
「まあ、もともとはやてはそう言うのは苦手だからね」
というのはフェイトさんの話。
という訳で面倒な手続きも済んだ。その後に待っているのは、
「よっし!! それじゃあ、今から新人歓迎会を始めまーす!!」
「「「「わーーーーあ!!!!」」」」
八神さんの音頭でグラスが打ち合わされる。
職務中だというのに普通に宴会になっていた。
形式ばった物はお終いだと言われ、そのまま食堂に通された。そこではすでに料理が並べられ、準備が万端になっていたのだ。
「まあはやてちゃん、楽しみにしてたから」
というのはなのはさんの話。
「なんというか、イメージと違いますね……」
「そだな」
雪菜はこの場のノリについていけていないのか、両手でジュースの注がれたグラスを持ちながら周りを見回していた。
多分、もっと軍隊的なものを想像していたんだろう。
「ま、うちの部隊長がそう言う性格だからな。慣れてくれや」
30代前半の男性が俺達のテーブルに座ってきた。
「よろしくな。事務方の部長、蛇倉だ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「……」
アスナは背筋を正して頭を下げる。
「……前にどこかで会ったこととかありませんか?」
「んー? いや、ないな。前にウチに来た時に見かけたとかじゃないか?」
「そうですかね?」
まあ、そうなのかな?
全員の前に立った八神部隊長はスクリーンを起動する。
「それじゃあ、このまま新人のためのレクリエーションをしよか~」
「ああ、そう言うのもあるのね」
てっきりずっとこのままなのかと思った。
「流石にそりゃマズいだろ? 勤務時間なわけだし。むしろ、形だけでもレクリエーションがあるから、このメシ代が全部経費で落ちるんだ」
「ちゃっかりしてますね」
「おいしいおいしい。もぐもぐ」
それにしても、耀には遠慮が無いのか。信じられない食欲でテーブル中の食料を食べつくしていく。それが問題児たる所以なのかもしれないけど。
そうしている間に、部隊長の説明が始まっていた。
「まず基本から。この特務六課について、まずは成り立ちから説明しよか」
特務六課は管理局の1部隊だ。もちろんこの島にはこの島で、しっかり管理局の支部が設置されている。それとは別に作られた部隊なのだ。なぜわざわざそんな措置が取られたのか。
「発端はとある予言や」
時空管理局少将、そして聖王教会の重鎮でもあるカリム・グラシアは未来を予言するレアスキルを持っていた。
だが、的中率は『よく当たる占い』程度。そのままでは管理局に新しい部隊を設立させるのはかなり難しい。
「でも、前例があった」
数年前に起きた事件。ジェイル・スカリエッティが首謀者のJS事件の時にも、同じように予言が行われ、それが的中した。
そうなってしまえば、『よく当たる占い』でも無視することは出来ないのだ。
「その予言に対抗するために作られたのが、この特務六課っちゅうわけやな」
表向きは複雑かつ多様な犯罪が多いこの島での警備の強化。元々ある支部よりも柔軟に事態に対応できるスペシャルチーム。
裏の目的はその予言に対抗、または未然に防ぐことだ。
「基本的に六課は、島で何かあれば無条件で手を出せるようになっとる。その分、仕事も多いんやけどね」
まあつまり、管理局の何でも屋ってことだ。
と、ここで、
「お疲れ様です、翔君」
「どう、翔君。楽しんでる?」
「仕事中に楽しんでるって言うのも、どうかと思いますけどね」
桜となのはさん、2人が並んでこちらに向かってきた。
桜の方とはこの島に帰ってきてからまともに話していなかったため、久しぶりな感じだ。
「お二人はお仕事だったんですか?」
アスナの問いに、なのはさんが頷く。
「そうだよ」
「違法取引の業者を少し。その後すぐに現地の管理局に引き渡しちゃいました」
2人とも軽い調子で言うなぁ。犯罪者を潰してきたとは思えないな。なのはさんはともかく、桜もずいぶんと慣れたもんだ。
「そうか、桜はもう配属されて数ヶ月は経つのか」
「そうだよ。今はもう六課の主力だからね」
「あはは、そんな、言いすぎですよ。スバルさんやティアナさんがいるのに」
そしてずいぶんと信頼されている。そりゃ優秀だもんな、桜は。陸戦試合の時もそれは感じていた。
「あ、それでですね。翔君」
「ん?」
「この歓迎会が終わったら、私に付き合ってもらえませんか?」
「何かあったのか?」
「それなら私達も」
「そうですね、先輩1人だと不安ですから」
話を聞きつけたアスナと雪菜はささっと寄ってくる。
「そ、れは……うーん……」
「私達がいると都合が悪いことがあるんですか?」
「アスナさんはいいんですけど、雪菜ちゃんはちょっとおっちょこちょいだからなぁ……」
「わ、私がおっちょこちょい……!?」
桜からの評価に、雪菜はショックを受けていた。
「私はいいの?」
「耀さんはその場をかき乱すので絶対にダメです」
そりゃそうだろ。
「そんで? 実際には何があるんだ?」
「連絡したと思うんですけど、この島に姉さんが来てるんです。その件で」
「ああ……」
遠坂 凛か……とうとう来たのか。
「それで、翔君に会いたいって言ってるんです。それと、冬木にいるみんなも。あっ、みんなは実際に来てるわけじゃないんですけど。ビデオ通話で」
「それは気になるなぁ」
話には聞いてたけど、実際に話しておきたいという気持ちはある。
「それじゃあ、私達はお邪魔かな?」
アスナは気を利かせてくれる。
「ああ。ゴメン。そのうち皆にも紹介するから。じゃあ桜、これが終わったらだな」
「はいっ、ありがとうございます! それじゃあ連絡してきますね」
端末を持ち離れていく。
それを見送りながら、思いついたことを口にする。
「そう言えば」
「うん?」
「や、今の六課には関係ない事なんですけどね。昔の六課はどんな感じだったのかなって」
「昔の?」
そうだ。この特務六課は、機動六課のメンバーを再び集めて作ったのだとか。
問題は実働部隊だ。エリオとキャロが年齢的な問題で機動六課には参加出来ていなかった。とすれば、原作と比べてメンバーが少ない訳だ。その穴埋めはどのように行われていたのだろうか。
「ああ~、そう言う事。確かに前のメンバーが全員再集合したわけじゃないんだよね。事務方もそうだけど。特に、翔君の言う通り実働部隊が」
「やっぱり、他にもメンバーは居たんですね」
「うん、前は武偵の人にも手伝ってもらってたから」
「聞いたら目ん玉飛び出るような人がいたんですよね、前は」
蛇倉さんも会話に混ざってきた。
「そんなに有名な方がいたんですか?」
雪菜も興味があるらしい。
「うん。知ってるかな、『空隙の魔女』って。結構有名な人なんだけど、聖王教会のツテで格安で雇ったんだって。六課が解散してからは学園島の武偵高の先生になったって聞いたよ」
聞いたことある。
ここに来る直前に話した。
「空隙の魔女……10数年前に欧州の魔族を虐殺して回ったって言う魔女ですよねぇ。そんなおっかない人がここにいたって聞くと震えてきますよ」
「にゃはは、でも実際に見たら、全然怖くないんですよ。むしろ可愛いくらいで」
「ううん? なるほど?」
なのはさんの言葉に、蛇倉さんが首を傾げていた。
確かに、空隙の魔女の正体がゴスロリ少女だって知っていれば、確かにかわいいって感想も出てくるのかもしれない。
「先輩、空隙の魔女って……」
「ああ、南宮先生だな」
「だよね……」
俺、雪菜、アスナの3人は揃って頷いた。
だから屋上で警告してくれたのか。だったら納得だ。あの人がいれば、戦力的にもエリオとキャロの穴を埋めて有り余るな。
「それとね」
「はい? あ、他にもいたんですね」
あの人1人でも十分だと思ったけど、この流れで行くと
「うん。むしろこっちの方が大変だったというかね……」
メンバー1人で?
「昨今の情勢にも関わってくることだったからね」
「ああ。今は、魔法優位が無くなりつつある時代って言われてるからな」
「魔法、優位?」
なんだそれは。もしかして魔法こそ至上。それ以外はクソ! 的な危険な思想か何かなのか?
「いやいや、そう言うのじゃなくてね」
「魔法が使えれば使えるだけ有利だって考えだ」
ふむ?
「翔君、学校で習ってない?」
「習ってないですね」
「先輩? 歴史の授業とかでは?」
「うーん……」
完全記憶能力があるし、忘れているわけがないんだけど。
「それって、単純に聞いていなかっただけでは? ……寝てたりして」
「あり得る」
聞いてなきゃせっかくの記憶力も意味がないよね。
「もう、授業はしっかり聞かないとダメだよ?」
「その文句は事件の方に言って下さい」
なのはさんの言葉に、俺は肩をすくめる。
事件は俺の都合を待っちゃくれないぜ。
「じゃあ私達は、無暗に事件に首を突っ込まないでって言っておくね?」
「ついでに、どこかしらから女の子を引っ張って来るのもやめて下さいね?」
アスナと雪菜はニコニコと言って来る。それも約束できませんね……
「話を戻そうか」
「痴話喧嘩は帰ってからやってくれ」
「はい」
話が戻される。
「それで、魔法優位が無くなってきてる、って話でしたけど」
「そう。魔法はかなり万能な異能力だよね」
それはそうだ。射撃、斬撃、打撃、防御、治療、移動……戦闘に限らず、たいていこのとは出来るようになっている。だからこそ、他作品の能力の多くが『魔法』のカテゴリに分類されているのだ。
そのくらい懐の広い能力ともいえる。使えれば使えるだけ有利になるのだ。
「その優位性がJS事件のせいで崩れかけたの」
「AMFですか?」
「今度は知ってるんだな」
原作知識だけどな。
AMFはAnti Magilink-Fieldの頭文字だ。魔力の結合を邪魔する魔法の一種。ある種、毒を以て毒を制すという感じの魔法だ。
で、JS事件ではそのAMFをガジェットドローンという雑魚敵が使ってきたのだ。そのせいで中堅以下の魔導士はまともに魔法を使うことが出来ず、戦力にならなかった。
ちなみになのはさん達のような高位の魔導士の場合、魔法を使うときにAMFに対抗するための工程を加えることである程度AMFの影響を無視出来る。
それは知っている。
「問題はガジェットドローンだったんだよ。そこに内蔵されたAMF発生装置がね」
「……なるほど」
話が見えてきた。
「JS事件の最終局面じゃ世界各地にガジェットドローンが出現した……最終的に首謀者は捕まったけど、その後には機能停止したドローンが世界のあちこちに放棄されたの」
その片づけは誰がやった? そりゃ色々な人がやるよな。当時の状況は知らないけど、管理局だけじゃなくて、武偵や警察、ボランティアもいたのかもしれない。
「スカリエッティ自身は、ドローンのことを使い捨ての駒にしてたんだけど、その技術は本当にすごかったの。これだけの精度のAMF発生装置を、これだけ小型化して、しかも量産できるなんて」
当時の最新技術を軽く上回るものだった。それが技術革新を起こしたのだ。
その危険性を理解していなかった訳じゃないだろう。だが、全てを公的な機関が管理するのは無理だった。
「世界各地に拡散した小型AMFの技術は、中堅魔導士のほとんどを『ただの人』にした」
アリアの武勇伝には99人の犯罪者を連続で、1度の強襲で捕まえたというものがある。
それは犯罪者もAMF発生装置を手軽に入手出来るため、魔法が従来のような効果を発揮しにくい環境になったことが大きかった。
なのはさん達の様に、AMFを無視できる魔導士はかなり限られている。おそらく全体の10%もいないだろう。そりゃ、環境が変わるのは想像できる。
「……それで? 話が逸れているような気がしますけど……」
六課のメンバーの話のはずが、世界情勢的な話になっている。JS事件の規模がデカかったことは分かったんだけど。
「焦らないで焦らないで。それで、それと同時期にとあるものが発表された」
「それは?」
「『IS』」
なのはさんは短く答えた。
「『IS』―――『インフィニット・ストラトス』。こっちはこっちで大変なことが起こっちゃってね」
インフィニット・ストラトス。原作では宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。この世界では特殊な魔法デバイスの一種だ。そして何より、あの篠ノ之 束が関わっている一品だ。
その辺りの事件が関わってくるのか?
「ISのコアがブラックボックスだってことは知ってる?」
「それはまあ」
コアは束博士しか作成できず、そのせいで各国が量産出来ないんだよな。
「そのコアに機能が追加されたんだよね、AMFジャマー機能が」
「うん!?」
AMF、ジャマー……? え、それって。
「そう。魔法を無効化するAMFを、逆に無効化しちゃう機能」
束さん天災すぎだろ。そしてそんな機能を付けたら、各国からの需要がより高まるはずだ。そう何度も何度も環境をぶち壊さないで欲しい。
「あはは、そうなんだよね~」
「あんときゃ、大変でしたよねぇ」
なのはさんと蛇倉さんは笑っている。
こうして世界はスカリエッティが作り出した小型AMF発生装置と、それすら無効化するISの脅威を同時に味わうことになったと。
束博士にとっては、JS事件はISの良い宣伝になったことだろう。もしかして、それも計算通りだったのか。はいはい、みんな計算通りにすごいこと出来ますね。シャーロックも束博士も。
「……それで? 結局はメンバーの事とは関係ないと思うんですけど……」
ISの原作との違いについて説明されたのはいいけど。
「いや、だからね?」
察しが悪いなぁ、と言いたげななのはさん。
「いたんだよ。当時の機動六課に。あの篠ノ之 束さんと、最初期のIS『白騎士』を纏う、織斑 千冬さんが」
「……マジですか」
俺は顎が外れるほど驚くことになった。