篠ノ之 束と織斑 千冬が、過去の六課のメンバーだった。
当時から影響力のあった篠ノ之 束は、どういう風の吹き回しか六課の専属のエンジニアになることを申し出たらしい。
この機会に束の技術を盗み取りたいと考えた上層部はそれを承諾。もちろん技術を盗み出すことなどできなかったが、事件の解決には大きく貢献した。
束の目的が何かと聞かれれば、やはりISの宣伝だったんだろう。AMFを物ともせずにガジェットを薙ぎ払う千冬の姿は、広く世界へ放映されることになった。
事件解決後、束はすぐに姿を消した。そしてその後、各国に向けてISのコアがばら撒かれた。
千冬はその場に残されたが、ISのコアのデータは何一つ持っていなかった。唯一持っていたのは、卓越したISの操作技術だけだった。現在はこの島のIS学園で教鞭を振るっているらしい。
一通り聞いた俺の感想としては、まさかそこで繋がってくるとはな、って感じだ。
遠い存在だと思っていた篠ノ之 束が存外近いところにあった。この六課にはいないとはいえ、用心はしたほうがいいな。
「翔君、大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
桜に声をかけられて現実に引き戻される。
今は六課での歓迎会を終え、次の会場に移動していた。
場所はよくあるファミレスだった。毎回のことだけど、集合場所が庶民的で助かる。
「翔君、緊張してます?」
「そりゃすこしは」
これから会う人がどんな人なのかは知ってるけど、初めて会う人もいるのだ。
店の中に入ると、相手はすぐに見つけることが出来た。
気候的に俺の中のイメージの服装では暑いからか、いつもとは違った服装だった。だがそれは赤いポロシャツにミニスカートという、上下のイメージはしっかりと守った出で立ちだ。
「ごめんなさい、姉さん。待った?」
「いいえ、今来たところよ―――それで、そっちの人が?」
「初めまして、夜月 翔です」
「こちらこそ初めまして、桜の姉の遠坂 凛です。ああ、名字が違うのは―――説明しなくてもいいのよね?」
「はい。ある程度の事情は知っているので」
そんなことを話しつつ、俺達は席に着いた。
凛とは向かい合って、桜は俺の隣に。
「ふーん」
凛はにやにやと俺たち2人を眺めている。それはもう楽しそうだ。桜は苦笑いでごまかしているが、恥ずかしさを隠しているのは見え見えだ。俺も恥ずかしい。
「それで?」
「え?」
「それで、お二人の関係は?」
「……桜?」
言ってなかったのか?
「ね、姉さん? 何言ってるの?」
桜も困惑していた。これは、
「いえいえ、彼のことは名前しか知らないわ。そうでしょ? 直接教えてくれないと、ね?」
カップの淵を指でなぞりながら凛が笑っていた。
分かってて言ってるんだな、これは。
「……桜さんとお付き合いしてる、夜月 翔です。よろしくお願いします遠坂さん」
「はい。よろしくね」
「ぅぅ……っ」
わざわざ言わせた凛は相変わらずくすくすと笑っていた。そして桜は顔を赤くしていた。それはもう、妹の幸せをからかうごく普通の姉妹だった。
俺もちょっと恥ずかしい。お相手の親族に向かって、堂々と彼女ですと宣言するのは。
「妹のこと、末永くよろしくね? この娘、自分のこと全然話さないでしょ? 貴方の力になるって、ずっと頑張ってたのよ?」
「は、はぁ……」
「ちょっと姉さん……!! 翔君困ってるから……!」
「そうなの? 夜月君?」
「いえ、別に……」
「そ、それじゃあ、自己紹介も済んだことですしっ」
桜が話を無理やり打ち切り、端末を取り出した。そのまま通話を開始した。するとすぐに大きくアップになった切嗣さんの顔が映し出された。
「あー、聞こえてますか?」
《お、繋がったかな?》
切嗣さんが後ろに下がっていく。すると、見覚えのある人が何人か見えた。
画面に映ったのは切嗣さん、舞弥さん、アイリさん。初めて見るのはアイリさんと瓜二つのイリヤちゃんと、男の子だ。
《あ、あれっ? これってもう繋がってるの? 翔君、聞こえてる~?》
画面の中のアイリさんが手を振ってきた。
「聞こえてますよ、アイリさん。お久しぶりです」
《久しぶりね~、あの時から全然変わってない》
「それはそっちもそうでしょう」
俺にとって聖杯戦争は数カ月前の出来事だけど、向こうからしてみれば10年前の出来事だ。
その証拠に、
「切嗣さんも舞弥さんも、お久しぶりですね」
2人はしっかりと年をとっていた。でも、正直言って当時よりも若々しく見える。
それはあらゆる事にくたびれていたという印象がなくなったからだろう。肌に色つやが出て、笑顔もずいぶんと柔らかくなっている。
《君も元気そうで良かったよ。話では戻ってからもずっと戦いっぱなしだとか》
「ええ、まあ。勝手に首を突っ込んでるだけなんですけど」
「小耳にはさんだんだけど、ちょっと前までこの島大変だったんでしょ? それにも?」
「ま、ちょっとは」
「……ちょっと、ですか?」
「ちょっとちょっと」
凛からの質問に、視線を逸らしながら答える。まだそこまで詳しく話していない桜からは、訝しげな視線を向けられた。
《桜ちゃんに聞いた話じゃ、要人警護の依頼を受けたんだって?》
「色々と聞いてるんですね」
でも依頼人が誰かまでは言ってないっぽいな。
《ニュースでも見たわよ。おっきな怪獣が暴れまわってるところ。各国要人を狙ったテロだって話だけど》
「ま、そうだったんじゃないですかね」
本当は緋弾関係だったんだけど、世間的には分かりやすくそう言う理由になっている。
《君のことだ。警護だけじゃなくて、実際に怪獣を倒して回ったんだろう?》
「あはは、お察しの通りで」
「ホントに? 映像は見たけど、ビルくらいの大きさの奴もいたわよね!?」
「そうですね。やっぱりおっきいですよ、怪獣は」
「いや、そうですねって……」
「姉さん、諦めて?」
切嗣さん達は落ち着いているな。ま、聖杯戦争で散々戦ったんだ。いまさらその程度ではってことかな。
《ふーん、みんなが言ってた事って嘘じゃなかったのね。ちょっと意外かも》
《はいっ、やっぱりヒーローです!》
2人の子供が話に入ってきた。
《イリヤ? ほら》
《わかってるわよ……初めまして、夜月さん。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。よろしくね》
アイリさんに促され、イリヤちゃんがあいさつする。
《拓哉も、ほら、挨拶して?》
《はいっ。衛宮 拓哉です。よろしくお願いします!》
拓哉君も舞弥さんに言われて。
「よろしく、2人共。イリヤちゃんは元気になったんですね」
《ああ。聞いてるとは思うけど、サーヴァントのおかげで城から簡単に連れ出せてね。エルメロイ家の伝手のおかげで普通の生活ができるようになったんだ》
《でも、イリヤちゃんって言うのはやめて。わたし、そこまで年下じゃないわ》
「それもそうか」
実際に生きている時間を考えれば、俺よりも年上なんだっけ。
俺は視線を横に映す。そこには黒髪の男の子が。
「それで、拓哉君?」
《はいっ》
「揉めなかったんですか? 大丈夫だったんですか?」
《ああ、それはね……》
《私は全然よ? 相手が舞弥だったんだから》
《はい、認めてくれたアイリには感謝しています》
じゃあ問題は無かった?
《騒いだのは私。びっくりするでしょ? 自分に突然弟が出来たら。しかも違うママの》
イリヤが挙手する。
自分のパパがいつの間にか浮気して子供を作ってたら、そりゃ驚くよな。
《別に今はなんてことないわよ》
《はいっ、イリヤお姉ちゃんとは仲良しです!》
それは良かった。幸せならオールオーケーです。
《そうね、こっちは何とかなったけど……翔君は気をつけないとよね? 桜ちゃんから聞いてるわよ》
《そうですね。その辺りは自己管理になるかと》
女性2人に釘を刺されてしまう。
《それよりも、夜月さん!》
「ん?」
拓哉君が食い気味に聞いてくる。
《僕、将来は正義の味方になりたいんです! アドバイスが欲しいんです!》
「……な、なんだって?」
画面内の切嗣さんと舞弥さんが苦笑いしていた。
《すまないね。当時のことを聞かせたらこう言って聞かないんだ》
「そんなにヒロイックな展開じゃなかったと思うんですけどね……」
一体どんな風に当時のことを伝えてるんだ?
「それは桜よ」
桜以外の全員の声がそろう。
「え、ええ!? で、でも! 嘘は言ってないですよね!?」
《言ってないわね。だから驚いてるのよ。そんな常識外れのお人好しがいるのかって。話を聞くと、ホントに都合のいい人なんだもの》
《はいっ、もっとお話聞きたいです!》
当時を知らない2人。態度は少し違うが、俺に興味があるらしい。そして凛も。
「そうね、私も聞きたいわ。私達の運命を変えた人のお話を」
「えー……そうだな……」
俺達は笑いながら談笑を続けるのだった。
――――――――――――――――――――――
「見られていますね」
「そうみたいだな」
ファミレスでの談笑も終わり、家まであと少しの俺と桜は、家の周りに妙な気配が張り付いていることに気が付いた。
おいおい、もしかして学校が始まったばっかりなのに、もうトラブルですか? スパンが短すぎる気がするんだけどね。
「このままだとここで戦闘か?」
「それは避けたほうがいいだろう。この辺りは人が多すぎる」
にゅっと出て来たレプリカ先生。桜も俺も、戦闘態勢になりつつある。だがレプリカの言う通り場所は街中だ。まともに戦闘するには拙い。
「最悪、戦闘になってもいいように、人払いの結界を……」
桜が最初の一手を打とうとした、そこに、
「お待ちしていました、夜月様」
強面の黒服が俺達の前に出て来た。戦意は感じない。っていうかこの人……
「何で……?」
その黒服には、見覚えのある尻尾が生えていた。
―――――――――――――――――――――
「おお、ようやく帰ったか」
黒服に急かされて急いで家に帰ると、
「何でアンタがここにいる……!?」
デビルーク王国親衛隊隊長―――ザスティンがさも当然と言いたげな顔で俺達の家のテーブルに座っていた。
お茶まで出されて歓待されているみたいだけど、みんな困惑している様子だ。
「ちょっとちょっとお兄ちゃん!」
帰宅した俺達の所にかけてくるのはクロだ。
「どういう事? また何かやったの? モードレッドの事まだ何にも解決してないのに!」
「や、マジで何もやってないが」
「そうですよね。翔君、今日の午後はずっと六課に居ましたからね」
まあ、それよりも前に会ったことはあったけど、アレはあの時限りの出会いだと思ってたんだけど。そんなに早くデビルークからのアクションがあるとは。
「あの人って、前に会った人ですよね。あの、ララさんと会った日に」
その時一緒にいた雪菜が会話に混ざってきた。
「そうだな。デビルーク王国の人だ」
「お姫様の護衛なんでしょ? つまりお姫様のことで何かお兄ちゃんに用があってきたって事よね?」
「……そうなりますね。先輩に、お姫様の護衛の人が、お話があると」
雪菜とクロが何やら頷き合っている。
だがこそこそ話していてもザスティンは帰ってくれないだろう。
間違いなくララ関係の何かだろうとは思うけど、ここは素直に聞いてとっととお帰り願うとしよう。
大方、ララがまた家出したとか、だから見つけた時には連絡してくれとかそんな感じなんだろう。
だって、深刻な事態だったら、まったりお茶飲んで俺の家で待ってる訳ないんだからな。
家出が深刻じゃないのかと言われると……そのくらい頻繁にしてると考えれば。
「夜分遅く済まないな。何分、こちらもバタバタしていてな」
「いえ、別に。今日はどういう御用で?」
俺は体面に座る。と、待ってましたとばかりにザスティンが話を切り出してきた。
みんなも、口を出さないが聞き耳を立てている。
「察しはついているだろう。ララ様のことだ」
「でしょうね」
そのララ様について、どういう御用件なのか聞きたいんだけど。
「ふぅ……ララ様の留学が決まった」
「はい?」
「場所はこの島。対象の学校は、貴様が通っている武偵高校だ。その2年に明日から」
「「「「「えっ!?」」」」」
え、何? 留学? 何処に? ここに? 俺が通っている学校に? 明日から?
「え゛ええぇぇぇ……」
「そう言いたくなる気持ちは分かるが、これはすでに正式に決定したことだ」
多分俺とザスティンの気持ちは違うと思う。色々と。
「諸々の手続きに手こずってしまったせいで初日には間に合わなかったが、明日からは正式に留学の形になっている」
「ど、どういった理由で?」
「……ララ様の希望だ」
「や、希望って……」
ララは一国のお姫様なんだから、そうやすやすと希望が通るわけないでしょうに。それにあのララが武偵に興味を持つとは思えない。
「まあ、それはそうだな。元々ララ様は、基本的な学問は全て修めている。いまさら学校に行って学ぶことなどないだろう」
武偵の教育が基本的かはともかく、まあそれは分かる。
「どちらかと言えばララ様のお母様の提案なのだが……」
「はい?」
「いや、何でもない。なので実際には生徒との交流がメインになるだろう」
授業には出るがな、とザスティンは付け加えた。
「交流ねぇ……」
「ああ。デビルーク王国は他国との交流があまりなく、独自の文化を築いている。だが時代に合わせて、その辺りもオープンにしていかなければならないのだ」
「その役割をララが? 言っちゃなんですけど、向いてないのでは?」
目の前のイケメンフェイスが苦虫を嚙み潰したように歪んだ。
「……それは我々も重々承知している。貴様の気にするところではない」
「さいですか」
ところで、
「俺には一体、何が望まれているんですか?」
今のところ、俺には全く関係のないお話だけど。や、もちろん何かあれば、力になるとはいえね。
「それについてだが……君にララ様の父上、デビルーク王直々のメッセージを持ってきた」
嫌な予感が膨れ上がった。
「いらないです」
「それでは再生するぞ。心して聴くように」
俺の話は聞いていないらしい。ザスティンは端末を取り出し、再生し始めた。
《よぉ、初めましてだな、夜月 翔》
端末から声が聞こえてくる。その声に、周りの何人かの女の子が息を呑むのが伝わってくる。
それもそうだ。何せ、これは一国の王様の言葉なのだ。
でも、その中身というか、実態を知ってる俺にとっては、そこまで身構えることは出来ない。王様の言葉を聞く、という部分では身構える必要は無い。
問題は何を言われるのかってことだ。
「録画ですよね?」
「もちろんだ」
《ザスティンからあらかたの説明は受けたな?》
そうしている間にも動画は進んでいく。
《そして今お前はこう思ってるはずだ。どうして自分にそんな話をするのかってな》
そりゃそうだ。
《それは関係あるからだ、大いに関係がある。というか、お前が原因なんだぜ? すこし前、お前がララを『保護』したことがあったな?》
保護……ああ、雪菜が勘違いして護衛をぶっ飛ばしちゃった時か。保護って形になってんのね。
《その夜、その時の話を聞いたんだが、セイテンシやらお前の周りにいる女が楽しそうだとか、その手の話をずっとされてな。しまいにゃあ、改めてお見合い婚はしねぇ、相手は自分で見つけるって宣言されちまった》
そんなに長い時間居たわけじゃないんだけど、楽しんでもらえたらよかった。結婚については当人の問題だから何とも言えないけど。
《そしたら、ハァ……セフィの奴が本気にしやがってな》
何を本気にしたって?
《おかげでお見合いは全部取り消し。永遠に再開の予定立たずだ。本当に恋愛婚させるつもりらしいぜ》
それは今までのツケだからな。
そう軽く構えていた俺は、
《つまり、分かったよな? こんなめんどくせぇ事になったのは、テメーにも責任があるってことが》
「何でだよ!? 違うだろ!?」
な、なんて無茶苦茶な……!! これが王か……!!
《つー訳で、ララの面倒はテメェが見ろ。何かあったら分かってんな》
「ちょ、ちょっと!!」
動画相手にいくら叫んでも意味がない。そのまま画面が暗くなってしまう。
ザスティンは端末をしまう。
「平時は当然我々が護衛に当たるが、学校の中までは厳しい。と、いうよりもララ様に拒否されてしまってな。ずっと護衛と一緒なんて、王宮にいるのと変わらない、と」
「それって、何かあれば俺のせいになるってことでしょうが!!」
「それは王が言っていた通りだ。諦めてくれ、決まったことだ」
き、決まったこと……
理不尽な命令を『決まったこと』の一言で納得させられる会社員の気持ちを味わうことが出来ましたよ。
大きな変化は、初日ではなく次の日に起こることになりそうだ。