そしてザスティンが家に来た次の日。
さっそく通常の授業が始まったこの日だったが、ずっとそわそわしていた。
学年が違うせいで実感がわかないが、昨日の話は全て冗談ではないのだ。今頃は2年生の教室は大騒ぎになっているだろう。
そしてその波は、1年生の教室にも伝わってきていた。
昼休み。
「なあなあ、聞いたかヨルやん? なんでも、2年に偉い別嬪さんが転校してきたって話だぜぃ!」
原作で上条 当麻を『カミやん』と呼んでいた名残からか、許可してもいないのにヨルやんと呼んでくる土御門。
クラスの雰囲気は浮ついているが、この男のテンションの上がり方は凄まじかった。
「なんでも、どっかの国の要人だって話だよな? なんでわざわざこの島に転校してきたんだろうなぁ」
矢瀬も話に加わってきた。こちらは逆に落ち着いている。
お前ら、どうせ知ってるくせに白々しいな。
「らしいなぁ」
「なんだよ2人共! テンション低いじゃねーか! もっともっとテンション上げていこうぜい!」
「つってもなぁ、この学校じゃ転校生なんて珍しくないだろ?」
「つーか、土御門。お前、妹一筋じゃねーのか?」
矢瀬と俺はあくまでも冷静だった。
「何故それを!? いや、それとこれとは別の問題。多少ストライクゾーンから外れていたとしても、可愛い女の子は目の保養になること間違いないんだぜぃ!」
「それはそうかもな……」
「いや、俺は上級生に彼女がいるからあんまり」
矢瀬はするりと身をかわしてきた。
「なんだと貴様ぁぁぁぁ!! 貴様、リア充側の人間だったのかぁぁぁ!!」
激高した土御門が矢瀬に掴みかかる。
「お、おいっ、やめろ!! それを言うなら、夜月だってそうだろうが! いっつも女子を侍らせてるって聞いてるぞ!!」
「ッッッ!!!」
グリンと、土御門の顔が俺を向く。それも今更だろうが! と言い返したい気分だが、残念ながら土御門は冷静ではない。
その顔は攻撃信号を発している。拳が飛んでくると思い構えるが、
「何を騒いでいる、馬鹿どもが」
その時、我らが担任教師の声が聞こえた。視線は俺達を捕らえている。
「おい、夜月 翔」
舌足らずな声でお呼びがかかる。
今日も今日とて黒のレースで飾られたゴスロリ服に身を包んだ那月先生が、俺をまっすぐ見ていた。
「さっそく来ちゃったのか……」
俺は抵抗せずに指示に従うのだった。
―――――――――――――――――――――――
俺達は職員室に向かいながら言葉を交わした。
「それで、何か私に言う事はあるか?」
「いえ、特には」
「図太い奴め」
俺のせいじゃないもん。
「昨日言っていたな、私には迷惑をかけないと」
「デビルークの人達に言って下さいよ。こっちも驚いたんですから」
聞くと、1週間前から準備は進められていたらしい。俺に知らされたのは昨日だっていうのに。もしかして、デビルーク王がわざとこうしたのかもしれない。一種の嫌がらせだ。
「ふぅ、まあ留学してきてしまったものは仕方がない。相手がいくら王女だったとしても、正当な理由なしには留学を断ることは出来んからな」
「それは大変そうですね」
「そうだろう? だから優秀な生徒である貴様に、少し手伝ってもらおうと思ってな」
「くっ……」
俺が黙っていると、那月先生は続ける。
「まあそこまで気負う必要は無いさ。たかだか王女の身の回りの世話だ」
「いやぁ、簡単なら那月先生がやってくれてもいいんじゃないですかねー?」
「学年が違うからな」
「俺も違うじゃん……」
エレベーターに乗り、上の階に。普段生徒の使用は禁止されてるから、俺も乗るのは初めてだ。
どんどん上に登っていく。職員室のある階も通り越して。
チンっ、という音とともに扉が開いたのは、学校の一番上の階。さらにその一番奥の部屋に連れていかれる。
「最上階に一番奥の部屋って、一番偉い人がいるところじゃないですか?」
「なら、私が一番偉いという事だろう?」
「ですね」
突っ込むだけ野暮か。
部屋の中に入った。そこには、
「あ、みんな」
「翔君!」
「ようやく来ましたのね」
アスナや狂三、理子やアリアと言った2年生メンバー。そしてそれに追加されて、
「あっ、ヤッホー! 翔、久しぶり~」
「……そうですね、久しぶりですね」
無邪気なララ王女が、武偵高の制服に身を包んで手をぶんぶん振っていた。背中では尻尾が揺れている。
「さて、夜月 翔も座れ。話を始めよう」
部屋の中央に置かれている黒の皮張りのソファーに腰かける。
「知っての通り、今日からララ王女殿下が今日から2年の教室に留学なされる。その警護―――もとい、お世話についてだな」
その一言で、部屋にぴりぴりした緊張感が走る。呑気なのはララだけだ。
「えー、別にいいよー? そんなに気を使わなくても」
「そういう訳にもいかないんだ、ララ王女殿下」
敬っているのか分からない口調で那月先生は言う。
「向こうの国からの要請では、夜月 翔にさせることが条件だった。だが、学年の関係で、常時というのは難しい」
「だから私達に声が?」
アスナの問いかけに那月先生が頷く。
「その通りだ。コイツの手が回らないところはお前らがサポートしろ」
「それはまた、ずいぶんと強引ですのね?」
「もちろん、これは『お願い』だ。強制する権利はこちらにはない」
「だから、翔君の関係者を集めたんですか?」
アスナの問いかけに那月先生は肘をつく。
「そうだな。少しでもコイツの負担を減らすために協力して欲しいとお願いしているんだ」
それ、お願いちゃうよ。
「さらに言ってしまえば、護衛という表現も正しくは無い。向こうからは、『ララ王女と一緒に過ごしてほしい』としか言われていないからな」
そんなわけがない。それは昨日ザスティンの話でよくわかってるんだ。
「わかりました。教室では友達として、仲良くさせてもらいたいと思います」
「そうですわね。あくまで良き友人として、これからよろしくお願いしますわ」
「いやー、ちょっと目を離した隙に王女様とお知り合いになるとか、翔君の運命力はとんでもないですなー」
「……ま、そうね」
4人共、それで納得してくれたみたいだ。
「4人とも友達になってくれるって事? うれしー! ありがとー!」
「ああ、それはいいことだな……どうでもいいが、お前たち、声が似ているな」
那月ちゃんがアスナとララを見て言った。
それは中の人が同じだからな。
「そうだよね! アスナがもっとはっちゃければ、そっくりになるんじゃない?」
「ぇ、え~……? そうかなぁ? そんなことないと思うんだけど」
自分じゃ自分の声は分からないからな。
「試しに、少し意識して喋ってみればいいのではありませんの?」
「面白そう! アスナ、やってみて!」
「え、えぇ~……」
狂三とララに言われて、アスナはしぶしぶ、
「いえーい!! 私は結城 アスナ! ララさん、これからよろしくね~!」
それに対しての反応は、
「ふむ、まあ、似てるな」
「そうですわね。思った以上に似てますわ」
「うん、普通にそっくりさんで行けると思うよ!」
だから、中の人が同じだからな!
「……なんで私、こんなことしたんだろう」
アスナは激しく微妙な顔をしているのだった。
―――――――――――――――――――――――
「という訳でこうなりました」
「こんにちわー!」
「君な……」
六課への出勤後、八神さんに事情を説明したら呆れられてしまった。横ではララが興味深そうにあたりをきょろきょろと見まわしている。
ララは別にこっちに来なくても良かったんだけど、興味があるという事で今日はこっちに来てくれた。
「所属2日目からそんなことになるかぁ? 普通?」
「普通はならないでしょうね。でも俺は普通ではないので……」
「そない中二あふれたセリフを、そない悲壮な顔で言わんとって」
もう全方位に迷惑をおかけしてしまって申し訳ない。
「そう言う事なら、こっちでも出来るだけフォローはするけど。そっちの女の子たちは大丈夫なん?」
「協力してくれることにはなりました」
「ホントに? 全員が?」
「全員、と言われると……何となく返事をもらえてない娘もいますけど」
「誰?」
「アリアです」
那月先生の部屋でも上の空って言うか、あんまり真剣に返事を返していなかった印象がある。
「それは確かに妙やな……あの娘、仕事でそんな手ぇ抜くようには見えへんのやけど」
心当たりはあるけどね。俺が勢いに任せて肉体の関係を結んでしまったからだ。
せっかくシャーロックから奪還してより仲良くなったと思ってたのに、俺の軽率な行動のせいですべてが台無しだ。
実際に話を聞いたわけじゃないんだけどね。そりゃ聞けないよ。向こうもこっちを避けてるし。
「一回話し合ったほうがええんちゃう? 多分、勘違いしとるよ? ……2人共」
「ですかね? ってか、最後何て?」
そう言う感じで、事情の説明を終えたのだった。
――――――――――――――――――――
「じゃあ、今日から訓練を本格的にスタートするんだけど」
新隊員である俺を含め、アスナ、エリオ、キャロ、候補生ではあるが雪菜、耀も加えた6人が、なのはさんの前に整列していた。
場所は六課の隊舎があるすぐ近く。平べったい、見渡す限り何もない鉄色の区画だ。
「今日は初回だから、個々のスキルを見ておきたいんだ。だから、1人ずつ、仮想敵相手に模擬戦をしてもらおうと思ってるの」
「あ、えと、全員1人で、ですか?」
キャロが不安そうに手を上げる。
キャロは後方支援型。自分が正面切って戦うのは少し苦手だ。どちらかというと他人を組んだ時のことを想定してのスキルを磨いてきた。
だが、そのくらいのことはなのはさんもわかっている。
「大丈夫だよ。その辺りはこっちで調整するから。他のみんなも、極端に自分と相性が悪いみたいな相手は出てこないから」
ふむ。あくまでも、自分たちの得意分野でのスキルを見たいって事らしい。
更に聞いた話によると、出てくる敵の強さもこっちのレベルに合わせて変化するらしい。
丁度視力検査みたいだ。視力検査は大きな輪っかと小さな輪っかを交互に見せることで、今の自分の視力を割り出していく。今回割り出すのは、自分の実力ということだ。
それをもとに、今後のポジションやら訓練内容やらを決めていくらしい。
ちなみに敵役は、スカリエッティのガジェットを改良したモノらしい。良いものは利用しようって考えらしい。まったく、スカリエッティさまさまだ。
「それじゃあ、さっそく始めよっか」
なのはさんが端末を操作した。
「うわぁ……」
「こんなことが……」
アスナと雪菜が驚愕している。俺もそうだけど。
何もなかった場所に高層ビルが立ち並んだのだ。
前に陸戦試合をした時にもここを利用したが、実際に立つのを見ると、それは圧巻の光景だった。
「よし、最初は―――」
なのはさんが順番を発表し、訓練が開始された。ちなみに俺は最後。何か期待されてるんですかね。
ってか、最後やだな。こう、誰かに見られながら、評価されるってのはやっぱり緊張する。できれば最初に終わらせて、のんびり観戦したかったんだけど。
ま、文句言っても仕方ないから、各々の戦績だけど。
まず不安がっていたキャロだけど、確かに配慮されていたおかげで極端に近くに寄ってくる相手はいなかった。
少し離れたところにいると相棒のドラゴン『ヴォルテール』が焼き払っていたため、最終的には近くに寄ろうという敵も増産されたが、ヴォルテールを突破することは出来なかった。
そしてその流れでエリオ。陸戦試合ではフェイトさんとタメを張っていたらしいが、それはもう強い強い。と言うか速い。一直線に加速して装甲を貫き、次の目標に向かっている。
まあ、常日頃からフェイトさんやシグナムさんに鍛えられていればな……いや、やはり天才か。
この2人に関しては、世界の修正の関係でStrikerS原作を経験していないはずだけど、また別の場面で成長していたらしい。
次は雪菜……と、アスナ。どちらも近接主体だけど、明確に違う部分があった。
雪菜は雪霞狼が武器という事もあり、魔力を使う相手にはめっぽう強い。でも逆に、物理的にある程度硬くなってしまうと、途端に攻め手がなくなってしまう。
実際には魔力を叩き込む格闘もあるので人相手ならもう少し戦えるんだろうけど。
アスナは多少敵が硬くなってもソードスキルで強引に突破していた。
その代わりアスナは、複数の敵に集中砲火されると逃げる以外の選択肢がなくなっていた。
雪菜は霊視で避けつつ攻撃出来ていたけど、アスナは某黒の剣士の様に弾丸を切り裂くことは出来ないのだ。1,2発なら出来るかもだけど。
2人についてはこんな感じで、最後に耀。
耀は派手さは無いが、全てにそつなく対応していた。
動物の感覚で隠れている敵も容易に見つけ出し、攻撃もブラドのスケアリーモンスターズでコピーした恐竜の力である程度こなせている。
流石、世界最高の問題児。
……さてと、最後は俺の番か。
――――――――――――――――――――――――
はやてとララは、一緒に訓練の様子を見学していた。
会ってそんなに経ってはいないが、2人ともすっかり打ち解けていた。
「へぇ~、ララちゃん、割とこういうのもいける口なんやねぇ」
「うんっ、暇なとき、私もザスティンたちの訓練に混ざったりしてたから! はやても好き?」
「う~ん、私は好きって言うよりも、仕事やからなぁ」
まるでスポーツ観戦でもしているように、2人は歓声を上げていた。
「はやて、お疲れ様~」
「ん、お疲れ、フェイトちゃん」
そこに外回り帰りのフェイトが現れた。
「そちらの人は?」
「デビルーク王国のお姫様」
「ララで~す、よろしくね!」
フェイトはララの顔を見て、もう一度はやての顔を見た。
「……え?」
「あははっ、そやね、そう言う反応になってまうわ。なのはちゃんもそうやったよ」
「もうっ、冗談はやめてよ!」
「いやいや、冗談やないけど?」
「……え?」
再び固まるフェイト。
「あ、あのはやて? それって、え? 本当に?」
「んー。おっ、次は夜月君やん。フェイトちゃん、一緒に見よ? あ、一緒に行ってたシグナムはどうしたん?」
「シグナムなら、新人の訓練を直接見に行くって……いや、だからね? それよりも、もっと説明を―――」
翔の模擬戦が始まる。
―――――――――――――――――――――――――
《翔君、準備はいい?》
「はい、いつでも」
俺はBJを纏って高層ビル群の間に立っていた。全く人の気配が無い町って言うのは不気味だな。
今頃みんな、自分の出番が終わったことで、リラックスして俺の戦闘を見ている事だろう。
《じゃあ、始め!》
なのはさんの声で、目の前に敵が現れるのだった。