俺の戦闘が終わったことで、初日の体を動かす訓練は終了になった。
なんでも今日の模擬戦の結果を元に明日からの訓練メニューを考えるとか。そのため今日はここまで。
とはいっても別にこのまま帰れるわけではない。管理局員になった俺達には、一応座学のお勉強もあるのだ。エリオとキャロは養成学校で一通りの勉強は済ませてきたため、この場にはいない。
そんな授業を担当するのは、
「事務方の蛇倉だ。よろしくな」
この男性局員だ。なんでも事務方のトップなのだとか。
「そんな偉い人が、どうしてわざわざ新人の授業を……?」
アスナの疑問は当然だ。
「単純に人がいないからだな。他の仕事は他のメンバーがやってる途中で、手が空いてるのが俺しかいなかったんだ。んじゃ、さっそく始めようか」
その返答に納得したらしいアスナは、姿勢を正してノートを開いた。それは雪菜も同じだ。基本、管理局に入ったのはまじめメンバーだったからな。
ただ、
「先生」
「何だ?」
「飲み物を飲んでも良いでしょうか」
「ああ。それは自由でいいぞ。おい、だからってマッ〇シェイクを取り出すな。そいつは飲み物じゃねぇだろ」
「私は飲み物派です」
「俺は違うんだよ」
問題児の耀は別だが。
そんな感じに授業は進んだ。
授業が始まって大体1時間半が経った頃。
「おいっす~、やってる~?」
軽いノリで八神さんが入ってきた。
それに加えて、
「「皆様、お疲れ様です」」
感情の籠ってない、事務的な声が投げかけられた。それも2人分。
その2人を見て、俺は息をのんだ。だが、同時に合点がいった。
「っ、ああ、そういえば……」
「ん、ああ、翔君は会ったことあったんやね」
「ええ、まあ」
目の前に現れたのはメイドさんだった。姿かたちはほとんど同じ。唯一違うところといえば、髪と瞳の色。それと目つきだろうか。
それもそもハズ、この2人は双子なのだ。『Re:ゼロから始める異世界生活』のキャラクター、双子のメイド、レムとラムだ。
前に会ったのはあのゾンビの家を捜索したときだった。それも会っただけだ。敵スタンドにいいようにやられていた俺たちのお世話、または監視をしていたのだ。
目立った会話もなく、捜査が終わった後は、六課に保護されていく女の子達と一緒にどこかに行ってしまった。
「誰かから聞いとるかもしれないけど、2人は六課専属のメイドさん」
あの家宅捜査の後どこに行ったのかと思っていたけど、そのまま六課で働くことになっていたんだな。
「そういうこと」
「ちなみに、他の娘達は?」
「今はまだ施設。今日明日には、って感じやないね」
「……そうですよね」
まだまだ、あのゾンビに負わされた心の傷って言うのは深いってわけだな。
「……」
俺は拳を握り締める。
そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、八神さんが少し口調を変えた。
「……ん。でも、この2人は、例のあの人とはあんま関わってへんかったみたいでな。だったらってことで、六課で働いでもらっとるんよ」
「そうなんですね」
寄る辺がなくなってしまった女の子たちにとって、六課の存在はありがたいものだったんだろう。
会話がひと段落したところで、蛇倉さんが、
「それで部隊長、何か御用で?」
「や、そろそろおやつの時間やん? 用意したからみんなもどうかなって」
「それは大変ですね。一刻も早く向かわなければ」
おやつの時間なんてものがあるとは驚きだ。そして、それに全く疑いを持っていない蛇倉さんも。もう慣れっこなんだろう。
俺達は促され、移動を開始する。八神さんを先頭に、一番後ろにメイド姉妹という順番だ。
食堂に向かう途中、
「……何か?」
後ろから視線を感じて振り返る。視線の大本はレムかラムのどちらかなのは間違いない。明らかに俺の方を見ていたと思うんだけど。
「……?」
「別に。なんでもないわ」
レムは首を傾げ、ラムが返答する。
「なんでもないってことは、無いと思うんだけどね……」
小声でぼやくが、それ以上答えてくれそうにない。
首を傾げながらも、食堂に向かうのだった。
―――――――――――――――――――――――
「このお菓子、何処から出てくるんですか? 全体的に手作りに見えるんですけど」
「その通り、なのはちゃんとフェイトちゃんの手作りや」
「マジか」
目の前に並べられたのはたくさんのクッキーと紅茶。いい感じのティータイムだ。
クッキーはきれいに焼けているが、綺麗過ぎないというか、お店で売っている様に均一にきれいではない。
まさに手作りクッキーの最高峰といった感じ。
先に席に座っていた蛇倉さんの隣に腰かける。
「訓練での高町さんしか知らないと信じられねぇよなぁ。あれで家では家庭的なお母さんだっていうんだから」
「あー、あれですか? ハンドル握ると人格が変わる、みたいな」
「それだな。デバイス持つと人格変わるんだよ、高町さんは」
「何言ってるのかなぁ、2人共?」
「いや~、うまいなぁ、このクッキー」
「そうですねぇ~」
追及されそうになったため、急いでとぼける。
実際、このクッキー、見た目だけじゃなくてうまい。もりもり食べれてしまう。
「どう、翔? おいしい?」
「あ、フェイトさん。おいしいですよ」
追加のクッキーを持ってきたフェイトさん。俺の肩越しにのぞき込んでくる。
「良かった~、最近作ってなかったから、うまく行ってるか不安だったんだよ~。どんどん食べてね」
「はい、どんどん食べます」
うまい! うまい!
「先輩が餌付けされてる……」
離れた席から、雪菜の呆れ声が聞こえてくる。
ち、違うし! 美味しいものを美味しいって言ってるだけだし!
「ふふ、こちらもどうぞ、翔」
「ああ、クローディア。クローディアも作って……え?」
クローディアもお皿を持って来ていた。そのお皿にも山盛りのクッキーが乗っていたのだが……半分ほどが真っ黒になっている。というか、黒いオーラを纏っているようにも見える。
でも、これは焦げているわけではないようだ。これは……
「私も手伝ったんだよ~」
「ララも?」
クローディアの更に後ろから、尻尾を振ったララが近づいてくる。
とたんに嫌な予感がしてくる。
「……クローディア、ララは何か入れたのか? このクッキーに」
「はい。何やら見慣れない調味料を」
「大丈夫だよ? デビルークではメジャーなヤツだから」
「「「……」」」
席に座っている俺達は、ララの言葉に黙りこくる。ララは満面の笑みで大丈夫だと言っているが、真っ黒なクッキーに進んで手を伸ばしたいとは思えない。
でも、王女様のおすすめ調味料入りをあえて避けて食べては、あまりにも心証が悪い。
「ならば行くしかあるまい……!!」
「お前……!!」
「先輩!?」
「翔君……っ」
「毒見よろしく」
横の蛇倉さん、雪菜とアスナも驚愕に目を見開いている。他の局員も、固唾を飲んで俺の行動を凝視している。ただし耀、テメェはダメだ。
「ふう……」
覚悟を決めた。
真っ黒なクッキーを摘まみ、齧る。
途端に広がる、クッキーの甘さ全てをかき消す意味不明のコク。
「コパッ!!??」
「「「ちょ!?」」」
椅子をひっくり返して倒れる俺。
―――――――――――――――――――――――――
「ちなみに王女様、何を入れたんです?」
「ダークマターっていうんだけど」
「ダークマター……デビルークで採れる珍味だな。体質的に、デビルーク人以外が食べると高確率でお腹を壊すとか」
「えー? じゃあみんなは食べないほうがいいのかなー?」
「そうでしょうねぇ」
―――――――――――――――――――――――――
倒れた俺に、そんな会話が聞こえてくるのだった。
その後、何とか復活した俺。
「もうほとんど残ってないのですが……」
「お前の犠牲は無駄にはならなかったぞ」
蛇倉さんが肩に手を置いてくる。
「よし、休憩も済んだことだし、授業再開するか」
「あ、その前にトイレに行きますね」
「ああ、先に戻ってるぞ」
「了解でーす」
俺は軽く手を振って、その場を離れるのだった。
――――――――――――――――――――――
「ふい~」
スッキリした俺は、トイレから出ようとする。と、そこに、
「わっ、と」
そこには、出口を塞ぐようにラムが立っていた。
腕組みをして、俺を値踏みするようにじろじろと見ていた。俺はトイレを指さして、
「ええっと? 掃除? ……な訳ないよな?」
「当たり前でしょ」
つまり俺がトイレに立ったのを見計らって、ここに来たってことだ。俺に何か話があるんだろう。
「あなた、アイツと同じ、なのよね?」
「アイツ? ゾンビの事か……そうだな、同じ世界出身だな」
まあ、正確にはこの世界の住人じゃないってだけで、俺とアイツが同じ世界から来た保証は無い訳だが。
むしろ別世界から来たって言われた方が、アイツとの価値観の違いに悩まなくて済む。
「あなたと一緒にいた女の子、貴方が召喚したのかしら」
「そうだな」
「うまくやってるのね。ずいぶんと仲が良さそうだったわ」
「だといいんだけど」
みんなとは、概ねいい関係を築けているとは思う。召喚した娘だけではなく、この世界にいる人とも。
「それはあなたの人柄よ。この世界で真面目に生きているからこそ、あなたは今、この立場にいる」
「……なんでそんなおべっか使ってるんだ?」
「気に入らないの?」
「キャラと違って違和感がすごい」
普段だったら絶対こんなこと言わないだろってセリフ、それも感情を殺したような無表情で言われればそれはね。
「そう。じゃあ普通に話すわ」
「そうしてくれ」
とたんに口調がぶっきらぼうになるラム。今までの声が半オクターブ上がっていたことがわかる。電話で話すときのような、作っている時の声だったようだ。
「でも、周りの娘達の様子で、あの男とは違うって言うのは分かるわ。じゃなきゃ、こんなに無防備にあなたの前に姿を見せたりしない」
「アイツにはひどい事を?」
「他の娘に比べれば大したことは無いわ」
「……」
つまり、なにかしらはされたってことか。
俺を見たラムはため息をついて、
「私達は1回しか会ったことは無いわ。この世界に召喚された日、アイツのスタンドで力を奪われた。そのくらいよ。他の女はいくらでもいたから、『その』相手にはされなかったわ」
食蜂に見せられたアイツの記憶にもあったな。召喚したその日に能力と抵抗の意思をDISCにして奪うシーンが。
レムとラムのものは見なかったが、同じようなシーンは編集で削除されたんだろう。
「それで、そろそろ本題に入ってもいいかしら?」
その1回でもいい記憶ではなかったらしい。話を打ち切ったラムが話を進めようとする。俺は首を縦に振った。
「ラムがしたいのは簡単なお願いよ。これから私達に何かあった時、手を貸してもらいたいの」
「ああ、わかった」
そんなことは、わざわざ言われるまでも無い。
「二つ返事で了承してくれるのは助かるわ。それで、それに対する対価だけど」
「や、別に」
対価とか無くても2人の力になるけど。
「違うわ。分かってないわね。ラムが、あなたを信用できないのよ。口約束だけじゃあね。でも、私達を庇護してくれる存在は多いに越したことはない。ラムもレムも、無責任にこの世界に召喚されたんだもの。こんな、訳の分からない世界に」
「まして、説明の必要なく事情を理解してくれる相手なんて、俺も俺以外に心当たりが無いからな」
「そういうことよ」
信用できなくても、話しておくに越したことはないってことか。
確かにレムとラムの原作世界とこの世界は全く違う。世界観だけ見れば正反対と言ってもいいくらいだ。知識だけでは不安があってもおかしくない。
それに何より、ラムは。
「何、その目は。気に入らないわね。言いたいことがあれば言えばいいじゃない」
「ラムには角の問題もあったからなって思っただけだ」
「……どうしてあなたがラムのプライベートを知っているのかについてはこの際目を瞑るとして、確かにその問題も大きいわ」
ラムとレムは一見普通の人間に見える。少なくともララのように、一目で見えるような特徴を外に出していないからな。
だがその正体は鬼の一族だ。だが原作のとある事件によって一族は滅ぼされた。ラムはその時に、鬼の力の源である角を折られてしまったのだ。
そのせいで、天才とまで言われていたラムの力の大半が失われるだけでなく、常日頃から倦怠感とマナ不足―――この世界ではおそらく魔力が不足する状態になってしまっている。
ストレートに言ってしまえば、ラムは身体に障害を持っているのだ。
「失礼な男ね。ろくに知りもしない相手のことをつらつらと」
「お前がはっきり言えって言ったんじゃねーか……それで、その症状は?」
「この世界の医療は優秀だったわ。魔力の補充は、専用の医療器具で何とかなってる」
「そっか」
「そんなラムが差し出せるものなんて、そんなにないわ」
「ふむ……」
だったら無理してメリット提示してくれなくても、と言いたいところだけど、本人が納得してくれないんだからしょうがない。
「さて、そんなラムが提示するメリットは何でしょうか?」
「ここで問題形式かよ。この後、授業があるんだけど」
「なら早く考えなさい」
ラムが提示するメリット。ちょっと考えるか。
でも、もう答えが出てる気がする。この世界に召喚されて、おそらく半年も経っていないだろうラム。金品と言ったものを提示するとは思えない。
だとすれば、ラムのメイドとしての働きか……それとももっと直接的に、ラム自身か。自分のことを好きにしていいから、その代わりの保護を求める。かなり追い詰められた思考だけどな。自分の『女』を使うやり方。言ってしまえばセフレだからな。
「何を考えているのかしら、いやらしいわね」
「何も言ってないよな? 口に出てないよな?」
確かに安直かつかなり品のない考えだったな。
「でも、それはあながち間違いじゃないわ」
「ふむ? つまり正解は?」
「ラムがあなたの獣欲の処理を手伝ってあげるわ。光栄に思いなさい」
「やっぱりか……」
普通に正解じゃねーか。
「何? 何か不満があるのかしら? あなたにはメリットしかないと思うわ。あなたはオスのものを出すことで新しい能力を手に入れることが出来るのでしょう? 便利に使える女はメリットしかない」
「まあ、そやね……」
なんだか、こんな説得をちょっと前にされた気がする。興味本位の向こうとは違って、こっちはこの世界での生活が懸かってるけど。
「反応が薄いわね。あなたが望むのなら、多少過激なことも許すわよ。あるんじゃないの? 相手との関係を気にして、口にできてないことが」
「……」
ま、まあ? 全くないとは言えないけれど、向こうが嫌がってるのにするつもりなんてない。そこまでの欲求じゃないぞ……たぶん。
「ただし1つだけ、条件を付けさせてもらうわ」
気だるげだったラムの雰囲気が変わる。
「要求は、全部ラムだけにしなさい。この事を盾にレムに何かしようとしたら―――」
「しないって、そんなことは」
ラムの目は本気だ。まともに戦えば俺相手に勝ち目がないのは分かっているはずだが、それでも俺の命を刈り取ろうとしてくるだろう。
だがそもそも、ラムにそんな要求をするつもりはない。だからお互い、無用な心配だ。
「何を黙っているのかしら。さっそく頭の中でラムを辱めているの?」
「ちげーよ!! はぁ、条件は分かった、それでいいから、そろそろ授業に戻っていいか?」
「そうね。あんまり待たせていると、変に勘繰られてしまいそうだもの」
そう言って、俺はラムと別れるのだった。
今年の投稿はこれが最後になります。
皆様良いお年を。