綺凛のトラブル 前編
ララが転校してきて1週間が経った。
騒がしい日常ではあるけど、ララが加わった新しい学校生活、そして六課での訓練にも結構慣れることが出来た。
何も事件も起きてないからだとは思うけど、あっという間に過ぎていったな。
今はこうして、アインハルトと綺凛の朝練に出ている。ちびっ子たちの訓練も再開されてるって聞くし、表面上の島は実に落ち着いている。
そして現在、大方の朝練メニューも終わり、最後の一休み、雑談の時間になっていた。
そこで俺は、ここまでの日常を振り返り、こんなことを呟いた。
「そろそろ何か起きそうな感じがするんだけどな」
「翔さん……」
「それは不謹慎ですよ、先輩」
すると、年下2人注意されてしまう。
そうかなぁ? 俺が気にし過ぎなんだろうか。六課に入っても、今のところは一度の出撃もしていない。訓練の日々だ。
ララは相変わらずトラブルを起こしているが、それはいつも通りだ。
むしろ那月ちゃんの処理と理解の速度が上がってきているので、後処理のために突然空間転移で俺を拉致するようになった。
一緒の教室にいるアスナ達の話では、ララは本当に楽しそうに授業を受けているらしい。
お勉強をしていたのは国にいた時と変わらないと思うけど、同年代の友達がいるというのはやはり違うらしい。
俺も、今のところ良き友人としてお付き合いさせていただいている。
問題はララの引き起こすトラブル……だが、それも一種のスパイスとして楽しみの1つになっているらしい。
実は、実際にウチに泊まりに来た時にも、
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「ふー、お風呂入ったよ~」
「あ、ララさん、上がったんだね。次はぶっ!?」
「アスナ? ちょララ、お前……!! 何でバスタオル一枚なんだよ!!」
「えー? 別にいいじゃん~。私は平気だよー?」
「お兄さん、あまり見ていると国際問題になりますよ?」
「そうですね……」
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なんてお決まりの展開があったりした。
「た、大変なんですね……先輩の家で、お泊り……」
「綺凛? お泊りしたいのか? 家で」
「へ!? い、いや、そんな、先輩もご迷惑でしょうし! 別にお泊りしなくても、こうして毎朝先輩にはお会いできていますし!」
綺凛がわたわたと手を振る。
次にアインハルトが質問してきた。
「ですが、翔さんは午後、六課に行ってるんですよね? ララ王女の面倒を見る時間は無いのでは?」
「ああ、まあそうなんだけどね」
すでにシフトが組まれ、お休みがあるとはいえ、平日の最低4日は六課に行っている。
だから実際に面倒を見ているのは狂三が多い。だからなのか、最近狂三が疲れている気がする。今後、何かしらの埋め合わせをしなければ。
「でも、六課に顔を出すこともあったんだ。訓練に混ざってる」
この前、部隊長室から出て来たザスティンを見たからな。話はもう通っているんだろう。
「ララ王女が訓練に……?」
「ああ。べらぼうに強いぞ」
デビルークの身体能力、恐るべしだ。俺だけでなくなのはさんにすら食らいつくその姿に、全員そろって目を丸くしたものだ。
ゲッターとまともに戦えるザスティンを軽く吹き飛ばす力を持っているんだ、そのくらいはやってくるだろう。
その姿を見たシグナムさんがうずうずしていたが、相手は一国の王女、何とか理性を働かせていた。
「そ、そんなに、ですか……? 王女様なのに……?」
陸戦試合でなのはさんの力を体感しただろうアインハルトは戦慄していた。ってか、王女様なのにって、アインハルトも覇王、王様の子孫じゃん。
「まあそんな感じで。楽しんでるらしいよ」
「へぇ~……」
「そうなんですね……」
2人ともあいまいに頷いていた。別世界の話に聞こえるよな。王女様のお話なんて。
「じゃあ、もしかすると、この朝練にも、そのうち来るかもしれないですよね」
「どうかなぁ。興味を持ったら来るんじゃない?」
「うう、そうですよね……!」
アインハルトはまじめに頷き、綺凛はまだ起こってもいないことに緊張している。
そんな会話をしつつ、朝練を終えるのだった。
そしてその様子を、
「……」
やはり誰かが覗いていた。
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訓練を終えて解散した3人。各々が帰宅し、登校の準備をしていた。
「よし、準備万端っ」
そう呟いた綺凛はバッグを持って立ち上がった。その荷物はいつもより多い。その中に入っているのは学校指定の水着と、替えの制服、それと濡れた服を入れるためのビニール袋だった。
「大丈夫だよね。うん。持ったよね……よし!」
不安になった綺凛はもう一度バッグの中を確認する。
今日は着衣訓練の日だった。実際にプールに服を着たまま入り、水中での体の動かし方を学ぶのだ。
授業は順調に進み、そして、とうとうその時間になった。
授業が終わると同時に、女子生徒が席を立ち始める。教室からプールに移動するためだ。ちなみに男子生徒の着衣訓練は、別日に行われる予定になっている。
女生徒の流れに従って、綺凛も移動を始めた。
だがある程度進んだところで、綺凛は首を傾げることになる。
「あれ? みんな、そっちに?」
「ん? どーしたの、綺凛ちゃん?」
「みんな、着替えないの?」
綺凛はとある扉を指さす。体育館やプールの近くに設置されている更衣室だ。
「あはは、何言ってんの~」
「ほらほら、行こ行こ!」
「え? え、え?」
後ろに回り込まれ、背中を押される。
止まることなく、プールサイドまで連れていかれてしまった。そこにはすでに先生が待機していた。そして授業開始のチャイムが鳴ってしまう。
そこには合同で訓練を行うアインハルトのクラスもいた。
「(え、あれ? ど、どういう事? みんな、下に水着着ないの!? もしかしてこのまま!? それとも、もう着てるの!?)」
「綺凛さん、どうかしましたか?」
「あ、アインハルトさん!」
綺凛は事情を説明した。
それを聞いたアインハルトは頭を抱えた。
「あの、綺凛さん……それはまずいですよ」
「それは―――」
「はいそこ! 無駄話はしない!」
先生に怒られたことで、背筋が伸びる2人。
「それではさっそく始めたいと思います―――」
先生の指示通り、次々とプールに飛び込んでいく女子生徒達。
水に濡れたことでシャツが透け、肌に張り付いていく。そうすることで、その中に身につけているモノがあらわになる。
「あは、冷た!」
「うわ! そんなの着けてんの!? 大胆だねぇ」
「ちょ! あんま見んなって!!」
赤、白、青、色とりどりのそれは、間違いなく下着だった。
「あわわわ」
「この訓練は限りなく実戦に近い環境で行うために、普段の服装のまま行うんです……!」
そう言ってアインハルトはプールに飛び込んでいった。
「せ、先生! ちょっといいですか!」
綺凛は急いで先生に声をかける。
「何ですか、綺凛さん」
「あ、あの! 下に水着を着てきてもいいでしょうかっ! 私、このままプールに入るって知らなくて!」
「何言ってるんですか! 事前のプリントで連絡していたでしょう! そもそも、有事に着替えている時間があると思いますか!? 早く行きなさい!」
「ひーん!!」
先生の声に背中を突き飛ばされ、綺凛はプールに飛び込むのだった。
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「うう……」
「大丈夫ですか、綺凛さん」
現在、着衣訓練を受けていた女子生徒は、全員更衣室で着替えを行っていた。
授業2時間分をぶっ通して行われていた着衣訓練は、ようやく終わりを告げた。これで午前の授業は終了になる。
制服を着たままプールに飛び込んだ綺凛はぐっしょりと濡れていた。着ていた制服はぴったりと体に張り付き、そのボディラインをくっきりと表していた。
「むむむ……」
「な、なんですか、アインハルトさん?」
「いえ、なんでも?」
「そ、そんなに見ながら言われても……」
その視線がどこに向けられているのかを理解して、綺凛は微妙な顔になる。それは、他のクラスメイトからも向けられていた視線だった。
その大きく膨らんだ双丘。それを包む白い下着もはっきり見えてしまっている。
もちろん、下着が見えてしまっているのはアインハルトも同じだったが、そのわずかな膨らみは多少シャツが張り付いた程度でははっきりとは見えなかった。
「はあ、補習になってしまいましたね……」
「そうですね……」
綺凛は憂鬱そうにため息を吐いた。
ただでさえ泳ぎが苦手な綺凛だが、翔との練習のおかげで何とか水に浮くことは出来るようになった。だがそれはしっかりと水着を着て、ゴーグルをしている時の話だ。
「服を着るとこんなに泳ぎにくいなんて……」
「そうですね、私も苦戦しました」
ノーヴェの訓練でも時折プールに行くが、流石に服を着たまま水に入った経験は無かった。
「アインハルトさんはいいじゃないですか。合格は出来たんですからっ」
合格できなかった綺凛は、明日再試験だ。
膨れながらバッグを開けた綺凛は、
「あ―――」
マヌケな声を出した。
そこに入っているのは今朝確認した通りの準備物だ。水着、濡れた衣服を入れるためのビニール袋、そして替えの制服。
問題は替えの制服だ。
そもそも水着の上にシャツとスカートを身に着けると思っていた綺凛は、『替えのシャツとスカートしか』持って来ていなかった。
その下に着けるべき、下着は持って来ていなかった。
「あああアインハルトさん! どどどうしましょう……!!」
「ど、どうしましたか!?」
綺凛が事情を説明すると、アインハルトもうろたえ始めた。
「おおおお落ち着きままましょう!! そそそうです。一度深呼吸して……!」
こういったトラブルに弱いのはアインハルトも同じだった。
「と、とりあえず、下に水着を着るというのはどうでしょうか……!」
「そ、そうですね! そうしてみます!」
小声で話していると、先に着替え終わったクラスメイトに声をかけられた。
「どーしたの綺凛ちゃん、とアインハルトさん? 着替えないの?」
「あ、さ、先に行っててください!」
「そ、そうですね! 私達は、ゆっくり着替えてから行くので!」
「そう? じゃあ行ってるね?」
友人が全員、さらにはクラスの人間が全員いなくなるのを確認してから綺凛は水着を取り出した。
学校指定の紺のスクール水着を身に着けていく。
「(むぅ……)」
アインハルトはその様子を見て唸っていた。
今さら大きいことを説明する必要などないが、それを水着の中に、零れないように押し込める姿が、この上ない敗北感を与えてくるのだ。
アインハルトが完全敗北している間に、綺凛は水着を着終わり、さらにその上にシャツとスカートを身に着ける。
「ど、どうでしょうか!?」
「そうですね……かなり、目立つかと……」
スカートから下は問題ないとしても、シャツの部分が大問題だった。見事に紺色の生地が透けてしまっている。
この姿で外に出れば、まず間違いなく注目を集めてしまうだろう。
「ど、どうすれば……」
先生に相談しようにも、下手な内容では『自分でどうにかしろ』と言われるのがオチだ。
2人して頭を抱えるが、妙案は浮かんでこない。
「最後の手段です。申し訳ないですが、お呼びしましょう」
アインハルトは自らのデバイス、ティオに呼びかけるのだった。
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「で、呼ばれたわけか……」
昼休み。
丁度お昼を食べ終わった俺は、雪菜に呼び出された。場所は何と中等部の女子更衣室。辿り着いた俺は、そこで繰り広げられる状況に顔を引きつらせている。
「ってかどんな場所に呼び出してるんだよ。びっくりしたわ」
「し、仕方ないじゃないですか!! 綺凛さんをここから動かすわけにはいかなかったんですから!!」
雪菜の反論はもっともだった。綺凛の状態を見ればな……
「着衣訓練があったのに、替えの服を忘れてしまったと」
「うう、申し訳ないです……」
上半身が不自然に紺色になっている綺凛が、申し訳なさそうに頭を下げていた。今は暫定的に中に水着を着ているらしい。
そんな状況を何とかするために、
「最初に雪菜を呼んだわけか」
選ばれたのは雪菜でした!
や、まあね、そりゃそうだよ。こういうトラブルが起きたら、普通は同姓に助けを求めるよね。それも一番近くにいて、なおかつしっかりしていそうな雪菜を。当然、耀は選ばれなかった。
だが悲しいかな。
「でも、特に何か出来たわけじゃなかったと」
「無理ですよ。そんな、普段から替えを持ってるわけないんですから」
「それもそうだ……まあ、それはそれとしてだ、雪菜さん? こちらの方々は?」
「いえ、ですから、私の友達の―――」
2回目の紹介。しかしそれは俺の耳を通り過ぎていく。
名前なんて紹介されなくても、そんなもの、見ればわかる。目の前にいるのは、いずれも見覚えのある顔だった。
そう。
「(まどマギのキャラじゃねーか……)」
全員そろってよく知る見滝原中学校の制服ではなく、この島の武偵中の制服を着ている。つまりここの生徒だってことだ。
いくら俺でも、みんなの交友関係をすべて把握しているわけではない。とはいえ、まさか雪菜の友人になっていたとは思わなかった。
その辺りのお話はどうなっているのだろうか。この世界には魔女という存在はいない、はずだけど。
それに何やら俺が睨まれている、とまではいわなくても観察されているように見える。それが、どうにも歓迎されているように見えない。雪菜は一体俺のことを何て話しているんだ?
ま、細かく考えるのは後にしよう。今の問題は綺凛のほうだ。
「とりあえず、下に着るものがあればいいんだよな?」
「先輩、何かアテがあるんですか? ……頼もしいですけど、それはそれで変態ですよね」
「そうだけど言うなよ。君の友達もいるでしょうが」
俺だって女性が下に身につけるものについて心当たりがあるって言われれば、『うわ、何だコイツ』って思うよ。
ため息は吐きつつ、俺は端末を取り出した。
「あ、もしもし、理子か?」
呼び出した人物はすぐに飛んできた。
「早いな」
「そりゃーもう! そんなエロゲみたいなイベントが起きてるって聞いたら!」
「ああ、なるほど……」
雪菜は納得がいったとばかりに頷いていた。
「理子さんになら安心して……それは難しいかもしれませんけど、綺凛さんのこと、よろしくお願いしますね
「おっけ~、まっかせて~!」
「先輩も、お願いしますね」
「ああ。それじゃあ、また後でな」
雪菜はその『友達』含めてその場を後にするのだった。